(14 / 20) 過去 (14)

「ちょっと待って!ロー!待ってってばっ!」


リサの手を引き、ローは走った。
自分より年下のリサの足の幅の差など気にもせず無我夢中に走っていたためリサはたまらず声を上げた。
リサの声にハッとし我に返ったローは立ち止まり、リサに振り返る。
リサはゼーゼーと息を荒くしており、喋れる状態ではない。
無我夢中だったとは言えリサを配慮できなかった事に申し訳なさを感じ、ローは肩で息をするリサの背を擦ってやる。
暫くすると落ち着いたのか、リサは背を擦ってくれたローに『ありがとう』と弱弱しいが笑いながらお礼を零した。
リサの笑みにローは顔が赤くなるのを感じ、そっぽを向いて誤魔化す。


「急にどうして走ったの?」

「………」


そっぽを向くローにリサは問う。
あの時なぜローが突然手を取って走り出したかリサはまだ幼いために分からないのだろう。
もしかしたらロー自身も分からないのかもしれない。
ローは答えられず、しかし言いたくないのもあり、無言を返すしかなかった。
ニ三度質問をするがやはり全て無言を貫くローにリサは内心溜息をつき、ローの前に立つ。
そっぽを向いていたローは自分の前にリサが立ち首を傾げながら横目で見る。
決して顔を戻さないローにリサはムッとさせまだ幼いリサより年上のローの少し上にある両頬を小さな紅葉のような手で包み込むように当て、無理矢理こちらを向けさせる。
その際グキっと言ったような気がするのは多分自分の気の…せいだといいとローは思う。


「っ、なにするんだよ!」

「だってロー、ずっとそっぽ向いてるから面白くないんだもん!!お兄ちゃん言ってたよ!人と話す時はちゃんとその人の顔を見なさいって!!ロー、リサと話してるのにリサの顔見てないじゃん!」

「そ、それは…」

「せっかくドフィの目を盗んで来たのに!ロー、ずっと機嫌悪い!!リサ何かした!?」

「してない…」

「じゃあちゃんとリサを見る!」

「は、はい!すみません!!」


ローは反射的にリサに怒られ謝るが、なぜおれは謝っているのだろうか…と思う。
だが惚れた弱みから無意識にリサに逆らえなかった。
今度はちゃんと目と目を合わせて話すローに満足したのか、リサはムスッとした表情からにっこりと笑顔を見せる。
その笑みにローはまた顔が熱くなるのを感じた。


(何なんだ…一体……)


最近、こうなのだ。
リサといると心臓が激しく動く。
苦しいというわけではなく、どこか心地よさも感じている。
何かの病気かと思いローは船医であるエイルマーに相談をしたが、相談した途端にニヤニヤと笑いだし『いや、病は病だけどね!でもこれは自分で気づかないとね!!頑張れ!ロー!!』と言いだす。
医師が病だというのなら、病なのだろうとローは子供心に素直に信じた。
まだ10歳のローは思春期はまだまだあり、そして生い立ちから恋など気づいていない。
ぎゅ、と胸の服を握るローにリサは気づき、心配そうに見つめる。


「最近、ロー、お胸ばっか触ってる……お胸、痛いの?」

「えっ…あ、いや…痛いんじゃないんだ…ちょっと、苦しくて…」

「苦しいの!?それって病気じゃないの!?大変だ!お兄ちゃんに言わなきゃ!」

「いや、もう相談してあるんだ…だけど自分で気づかないと意味がないって言われて…多分エイルマーがそういうんだから大したことないんだと思う。」


ローは無意識に胸元の服をギュッと握っていた。
それに薄々気づいていたリサはローに問い、ローの言葉に目を真ん丸にする。
苦しいというローの手を繋ぎ直し兄のいる場所へと戻ろうとしたが、それをロー本人が引き止めてしまう。
兄にすでに言ってあるようで、リサは安堵はしたが、兄の『自分で気づけ』という言葉に首を傾げた。
少なくともリサが見てきた中でエイルマーがそんな事を言って患者を見捨てた事など見た事がなかったからだろう。
瀕死だったドフラミンゴを拾い、自分を殺そうとしたドフラミンゴに誘拐じみた事をされても怪我をすれば治してやる心優しい兄の事だから、ローの苦しさを聞けば治してやるとばかり思っていた。
ローは『きっとこれも勉強なんだと思う』と呟き、その言葉にリサは『そういうもんなのかー』と他人事のように思った。
兄が慌てず治療しない、という事は…ローの言う通り大したことはないのだろう。
しかしリサはそれでも不安や心配はぬぐえず、眉を下げそっと胸元を握るローの手に触れる。


「でも…お胸、苦しいんだよね?ロー、苦しいんだよね?」

「ああ…でも…嫌な苦しみじゃないんだ…」


リサの手が自分の手に触れた瞬間、苦しさがパッと消えたような気がした。
どうしてかは分からないが、ローは苦しさが消えホッと安堵する。
リサの言葉にローは首を振り、リサは首を傾げた。


「嫌じゃないの?リサ、苦しいの、嫌だよ?」

「なんていうか…苦しいのはおれも嫌なんだけど、この苦しみが続いてほしいとか思ってないんだけど…説明しにくいけどさ…おれ、この苦しみ、嫌じゃないんだ…」

「ふーん…ローって変。」

「そうかもな。」


苦しいのに、嫌じゃない、と言うローにリサは素直な感想を零した。
子供は良くも悪くも素直である。
ローは素直に零すリサに否定せず笑った。
ローが笑い、リサも釣られたように笑みを浮かべ、そこはほんわかな空気が流れていた。
ローはそんな空気を感じながら心地よさも感じ、ずっとこんな時間が流れ、増えればいいのにと思う。
最近、どうもリサといる時だけは復讐を忘れることが多かった。
かと言って完全に復讐心が消えたわけではない。
まだローの心の中ではどす黒い感情が生きている。
今だってリサがいなければ復讐の事ばかり考えていただろう。


「リサ」


するとふと背後から声が届いた。
その声は聞き慣れていて、振り返らずとも誰かなど簡単にあてることができる。


「ドフィ!」


その声の主を見たリサはぱっとローと笑い合っていた笑みより更に笑みを浮かべ、触れていたローの手から離れ声の主であるドフラミンゴの元に駆け寄っていく。
簡単に自分の前から消えたリサに寂しさと何か黒い何かを感じながらローは渋々と言った具合に振り返る。
振り返った先は予想通りドフラミンゴに抱き上げられているリサがいた。


「ロー、リサと遊んでくれてたのか?ありがとうな」

「…いや」

「リサ、戻るぞ。」

「えー…まだリサ、ローと遊んでない!」

「だーめだ。そういう約束だろ?」

「ぶー!」


リサはいつもドフラミンゴの隙をついて抜け出している。
最近ドフラミンゴからの拘束が酷くなってきているからだろう。
それはエイルマーだけではなく、リサ自身も気づいている事だった。
一度それに両者が抗議したが、ドフラミンゴは聞く耳持たず、リサはドフラミンゴの目を盗みローの所に行くことが多くなった。
そしてリサを見つけたドフラミンゴがそのままリサを回収し、遊びは終了。
リサとドフラミンゴはそういう約束をしているらしいことをローはリサから聞いた。
それが面白くなくて、ぷくーっ、と頬を膨らませるリサの頬をツンツンと突っつくドフラミンゴをローは無意識に睨む。
ローの睨みなど当の本人は気づいているだろうが、子供相手だからと無視を決め込んでいるのだろう。


「じゃあな、ロー。あんま根を詰めるなよ?お前が倒れたらリサが泣き出すからな」

「ドフィ!リサ泣かないよ!心配はするけど、リサ、大人だから泣かないもん!」

「へーへーそーですかー」

「信じてないでしょー!もー!!」


子供は大人に憧れ、大人を真似するところがある。
リサもその1人で、棒読みに返し信じていないドフラミンゴにリサはぽかぽかと小さな手で殴るが、子供ではドフラミンゴに痛みなんて与えられず逆に肩たたきに丁度良い力である。
当然痛くも痒くもないリサの攻撃にドフラミンゴは特徴のある笑い声を零す。
ドフラミンゴはファミリーの一員となった者には…懐に入った者には甘い。
家族同然に接し、傷つけられればドフラミンゴは自分の事のように怒る。
だから幹部たちはドフラミンゴを慕いついて来ているのだろう。
当然、ファミリー入りしたローもその対象である。
だが、それを上回る存在が、リサと、コラソンである。
家族同然に接しているが、やはりドフラミンゴも本当の身内には甘く、リサは溺愛していた妹に瓜二つなため拍車がかかっているのだろう。
頷いたローの頭を撫でた後ドフラミンゴはリサを連れローに背を向ける。


「………」


その後姿をローは見送った。
何故か分からないがただただ悔しかった。
どうしてか分からないが、ただただ、腹立たしかった。
ジッとリサとドフラミンゴを見送っていると、ふとドフラミンゴ越しにリサと目と目が合った。
リサはローに手を振り、手を振られたローは驚きながらもリサに手を振り返した。


「……………」


2人のやり取りをドフラミンゴは見て見ぬふりをしてやるが、どこか少し機嫌を損ねたように眉間にしわを寄せた。

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