ドサ、とドフラミンゴはソファに座る。
腕の中にいたリサはその衝撃に『わっ』と声を零し、落ちないようにギュッとドフラミンゴの服を握る。
服を握らなくてもドフラミンゴは落とすつもりはないため握らなくてもいいのはリサも分かっているが、やはり反射的な事もあるのだろう。
「ローと何をしてたんだ?」
「んーっと、ローとはね、ただお話してただけだよ?」
「何を話てた?」
「別になにもー!何かお話する前にドフィが来たから何も話せなかった!」
革製のため、ドフラミンゴが体重を乗せると革の音が当たりに響く。
いつものようにリサに今日の出来事を聞くも、リサとローは何もしていないし、長く話していないため、リサは話すことはなくしつこく聞いてくるドフラミンゴに困ったように声を零した。
「…その割にはローに触れていたな、リサ。」
困り顔を見せるリサにドフラミンゴはそう漏らす。
声も低く、どこか怒っているような表情を浮かべていた。
その感情が『嫉妬』からくる感情だと言うのはローと違い大人であり色々経験してきているドフラミンゴは自覚している。
ドフラミンゴはローが嫌いなわけではない。
ローも、ベビー5も、バッファローも、まだ赤子のデリンジャーも、可愛い弟と妹に変わりない。
いずれ幹部となるであろう幼い彼らはドフラミンゴも可愛くて仕方ないのだ。
だが、リサは別である。
リサは愛する妹に瓜二つなのだ。
時折リサがアレシアだと勘違いすることもあるほど、リサは妹にそっくりなのだ。
だからドフラミンゴから見てもリサに恋心を抱いているローに嫉妬してしまうのだ。
しかし半分はローのあの復讐心や憎しみからの執着は認めているし、短命でなければ確実にローは自分の右腕にふさわしい男になるだろう。
そんなローならばリサを任せても安心できるとドフラミンゴも分かっている。
だが、何度も言うが、リサの事になると話は別なのだ。
不機嫌丸出しのドフラミンゴにリサはまた困ったような表情を深めた。
「ローね、苦しいんだって」
「苦しい?」
「うん、お胸が苦しいんだって。」
「だったらあのヤブ医者に見せねェとなァ…あいつはローを気に入ってるから大げさにするんじゃないか?」
ドフラミンゴはエイルマーの名を口にする事はあまりない。
基本『ヤブ医者』と呼ぶ。
ドフラミンゴは憎きエイルマーの顔を浮かべながら今は嫉妬を消し兄としてローを心配する。
エイルマーは友である自分の弟とは違い子供好きなのか、よくベビー5やバッファローと楽しげに話しているのを遠目で見た事がある。
その中でも最近のお気に入りはローだった。
あのエイルマーがドフラミンゴにローに医療を教えたいと言い出し頭を下げた光景を脳裏に浮かべる。
あの天敵ともいえるエイルマーが自分に頭を下げたことに驚きすぐには返事が返せなかったが、ドフラミンゴはローを想い承諾した。
それからローは毎日エイルマーの部屋に入り浸っているらしい。
そしてローの勉強が終わる事を見計らいよくリサが自分の目を掻い潜り消えるのだ。
思い出せば嫉妬が再び湧き上がるが、胸が苦しいというローの心配の方が勝っているのかあからさまな不機嫌さは見せていない。
そんなドフラミンゴをよそにリサは意外にも首をふった。
「ううん。お兄ちゃんにはもう見せたって。」
「へェ…で、あいつはなんて診断したんだ?」
「それがね、お兄ちゃん、ローに自分で気づけって言ったらしいの」
「へェ…」
リサの言葉にドフラミンゴはピンッ、と来た。
ローの病名を。
勿論、珀鉛病ではない。
しかしドフラミンゴはそれをローに教えてやるほど妹に関して出来た男ではない。
むすっとしているドフラミンゴにリサがお気に入りの絵本を読んでほしいとせがんだ。
可愛い妹のおねだりにドフラミンゴは不機嫌があっという間に消え失せ、棚からリサお気に入りの絵本を糸で取り開いて朗読する。
何度も何度も同じ内容を読んでやり、リサに絵を見せてやりながら次のページへ、また呼んでまた次のぺーしへと繰り返す。
リサもドフラミンゴの胸元に寄り添いドフラミンゴの声に乗って読まれる絵本を見ていた。
何度も飽きるほど読んでやっているとは言え、ドフラミンゴはこの時間が好きだった。
リサはドフラミンゴの腕の中、そしてドフラミンゴの鼓動と絵本を読む彼の声を聴いていると、うとうとと眠気が襲ってきた。
「リサ?」
「どふぃ…リサ、ねむたい…」
人の温もりは安心できるものである。
特にまだ幼いリサは人の温もりからの安堵さは大きいだろう。
うとうととしはじめるリサに気づきドフラミンゴはリサに声を掛ける。
眠たくて仕方ないリサはいつも以上に舌足らずな言葉を並べ、ドフラミンゴは目を擦るリサに目を細め、自分に体を委ねるリサの頭を撫で、本を閉じてテーブルに置いた。
「寝てもいいぞ…後でヤブ医者の所まで送ってってやる」
「うん…」
まだ夜までは時間がある。
ドフラミンゴの仕事はもう終わり、後はリサと2人で過ごすつもりだった。
だがリサはおねむで、ドフラミンゴは流石に眠たい子供を無理矢理起こすのは気が引き寝かしつけた。
「お休み、――リサ」
「…うん…おやすみなさい、"おにいさま"」
うとうととしているリサにドフラミンゴは耳元でポツリと呟いた。
その呟きにリサは返したが、それは反射に近く、そんなリサにドフラミンゴは笑みを浮かべる。
ドフラミンゴの撫でる手が気持ちいいのか、リサはドフラミンゴに擦り寄った後、すうすうと愛らしい寝息を立て、完全に夢の世界へと誘われた。
「…………」
すうすうと寝息を立てるリサを見下ろし、ドフラミンゴは愛しげに見下ろした。
この身を隠している島には今、自分とリサの他に、子供達、エイルマーに弟のコラソンだけ。
あとは皆それぞれの任務に就いている。
エイルマーの契約によってエイルマーとリサは海賊稼業には手を貸していない。
否、正確に言えば極力手を貸さない、と言った方が正しいだろう。
海賊とはいついかなる時に誰に命を狙われるか分からない。
だからエイルマーは必要な時は手を貸すし、どんなに非道な事でも目を瞑る事にしている。
人のいいエイルマーにとって心痛い決断だった。
だが、そうでもしないとリサと引き裂かれ、最悪殺されるため仕方なく見て見ぬふりを決めているのだ。
その代わりドフラミンゴはリサを手に入れたのだ。
エイルマーがリサの実権を握っているのも同然なため完全にリサを手に入れたというわけではないが、少しずつ気づかれないようにリサを内面から変えていこうとしていた。
最初こそ気づかれなかったが、ドフラミンゴは変わっていくリサを見てエイルマーは目ざとく気づいていると知っている。
だが抗議もなければこうして今もリサを引き離す気配もないためドフラミンゴは好きにやっているのだ。
ドフラミンゴはリサをいずれファミリーに迎え入れるつもりでいる。
今は仮に入っている状態で、本当の意味でファミリー入りするにはエイルマーをどうにか懐柔させなければならなかったが、ドフラミンゴもエイルマーが気に入らずどうしても機嫌取りなど癪に障ってしまう。
だからドフラミンゴはまだ幼いリサを味方につけるつもりでいる。
幼い頃から教え込めば自然とそれが当たり前となり、リサはいずれドンキホーテファミリーに溶け込むはずである。
リサの中で一番はエイルマーだが、いずれはその立ち位置が自分になるだおうと踏んでいた。
――リサの寝顔を見ながらドフラミンゴは妹を見る。
妹、アレシアはリサと同じくらいの歳で一生を終えた。
まだ幼く物事の分別がつく前に人間に殺された哀れな妹。
家族で最初に殺された妹。
その後母が亡くなり、そして父をこの手に掛けた。
残ったのは弟のコラソンだが、コラソンは長い間行方不明で最近になってふらっと戻って来たのだ。
言葉が話せなくなったのは正直ドフラミンゴに衝撃を与えたが、無事に戻て来ればそれでいいと自分を納得させてもいた。
リサはまだファミリーが今以上に不安定だった時に出会った女の子だった。
油断し、海兵の攻撃を受け、瀕死だった自分を見つけたのが、リサだった。
最初見たとき本当に妹のアレシアだと思った。
ドフラミンゴの前に現れたリサは死ぬ前のアレシアそのものだったのだ。
そして、ドフラミンゴはそのままリサと、渋々だがエイルマーをファミリーに引き入れた。
丁度船医がいなかったため丁度いいと思ったのも事実だった。
エイルマーは性格は置いといて腕は良かった。
更には能力者で、戦闘もそれなりに慣れはじめ腕っぷしもいい。
物思いに耽っていると投げ出している足に柔らかい何かが触れるのに気付く。
「よう、遅いナイトのお出ましだな?」
下を見ればそこには白くふわふわな普通のサイズのウサギがドフラミンゴの足元にちょこんと丸まってこちらを見上げていた。
このウサギこそ、エイルマーの能力である。
エイルマーは『ウサウサの実』を食べたウサギ人間となり、ウサギを操っている。
このウサギもエイルマーの能力で動き、主にリサのお守りだが、本来の役割はドフラミンゴの監視である。
リサに何かすればこのウサギ(名前があるようだが忘れた)を通してエイルマーに伝われり、妹の危機にエイルマーが駆けつける寸法らしい。
正直自分もエイルマーに妹馬鹿弟馬鹿だと散々いわれてきたが、ドフラミンゴはいつも『お前もな』と心の中で返す。
その能力を知った時はキャラになく爆笑したものだ、と思いながら今更追いついたウサギに鼻で笑うと、ウサギはブーブーと鼻を鳴らし不機嫌さを見せる。
見た目は愛らしいため怖くはないが、舐めていけないのをドフラミンゴは知っている。
…と、いうよりは、実体験で知っている。
可愛さの見た目に反して、エイルマーのウサギたちは凶悪そのものである。
ウサギの訴えなど気にもせず、ドフラミンゴはウサギからリサへ目線を戻す。
腕の中にいるリサはスヤスヤと気持ちよさげに眠っており、その姿はまさに妹そのものだった。
「お休み、アレシア……お休み…おれの可愛いリサ。」
ドフラミンゴは幸せそうに己の腕で眠るリサを見下ろし優しげな眼差しで見つめ、そして、額にキスを送る。
その姿をウサギは何も言わずただ見つめているだけだった。
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