(51 / 293) ラビットガール (51)

船長がバイトをすることになった。
否、正確に言えば雑用である。
あの後、アスカ達は海上レストランに着くことが出来た。
しかしその手前で海軍と鉢合わせてしまう。
その海軍の船、軍艦に乗っているのは休暇だというフルボディという海軍大尉だった。
そのフルボディにヨサクとジョニーがやられ、更には去り際に船から放たれた砲弾をルフィが能力を使って跳ね返したのだが…なぜかその砲弾はフルボディの軍艦ではなく、海上レストランに跳ね返してしまい、船を一部壊してしまう。
そのためルフィは謝るために向かい、責任を持ち一年雑用をする羽目となったというわけである。
中々帰ってこないルフィの様子を見がてら昼食に怪我を負って動けないジョニーとヨサクを置いてそのレストランへと入っていった。
レストランへ入ると評判がいいのか、結構人が入っておりアスカ達は待たされるかもしれないと思ったのだが、丁度席が空いていたためその席に案内され、アスカ達はちょっと遅めの昼食にありつけた。
出された料理は名が知られるだけあってとても美味しかった。
アスカは今まで高級料理を食べたことがないから分からないが、評判がいいのに納得するくらいは分かる。


「げっ!!お前ら!!」


食べた後のんびりしていると、雑用のルフィがアスカ達に気づく。


「よっ、雑用!」

「一年も働くんだってなァ」

「船の旗描き直していいか?」

「考えなしに行動するからこうなんのよ、いい経験になったわね」


明らかに冷やかし目的で来たのが見え見えのアスカ達にルフィも流石に嫌な顔を見せる。
しかしルフィはどこまでもルフィで、冷やかしに来たことは確かに嫌であるが…何よりも自分を差し置いて昼食をありつこうとするのが腹が立ったのか『お前らおれをさしおいてこんなうまいもん食うとはひでェじゃねェか!!』と目くじらを立て始めた。
しかしそれは『それ、あんたの自業自得でしょ』という幼馴染の冷たい言葉によって斬られてしまい、手も足も出ないが口にも負けてしまう。
腹いせなのか…近くにいたゾロの水の中に、ほじくった鼻クソを入れてやる。
ゾロがウソップに話しかけ顔もウソップへと向けていたため、ゾロ以外が気づいており、ゾロ以外の三人はこれから起こるであろう悲劇に笑いを必死に抑えていた。
アスカもナミやウソップほどではないが、口を手で隠して笑うのを耐える。
だが、結局ルフィの腹いせはゾロにばれており、その鼻くそ入りの水をルフィはゾロによって飲まされてしまった。
それにウソップ達が爆笑していると、金髪のウェーターらしき人物がなぜか目をハートにして近づいてきた。


「ああッ!海よ…!今日という日の出逢いをありがとう!ああ恋よ!この苦しみにたえきれぬ僕を笑うがいい!僕は君達となら海賊にでも悪魔にでも成り下がれる覚悟ができた!しかしなんという悲劇か!!僕らにはあまりに大きな障害が!!」

「障害ってのァおれのことだろうサンジ」

「うっ!クソジジイ!!」


その金髪の男性はナミとアスカに向けて手を広げ、ハートを2人に注ぎ込む。
突然の乱入者にナミもアスカも首を傾げていたが、ポエマーのような事を言い出す金髪の男の言葉を遮り、髭を三つ編みにしている変な男が入り、何故か2人は言い合いを始める。


「いい機会だ海賊になっちまえ、お前はもうこの店には要らねェよ」

「!――おれはここの副料理長だぞ…おれがこの店に要らねェとはどういうこった!!」

「客とはすぐ面倒起こす、女とみりゃすぐに鼻の穴ふくらましやがる…ろくな料理も作れやしねェし、てめェはこの店にとってお荷物なんだとそう言ったんだ」


初めてこのレストランに来たアスカから見て、2人の言い合いは興味はない。
だが三つ編みの男の言葉によれば、この金髪の男は結構問題児らしい。
それでも副料理長をしているのは、その男の腕が確かだからだろう。
結局、このもめ事は掴みかかった金髪の男が三つ編みの男に投げ飛ばされて終わった。
その際投げ飛ばされた場所はアスカ達が食事をしていたテーブルの上で、男の体と衝撃に耐えられずテーブルは倒れて壊れてしまった。
乗っていた皿を咄嗟にアスカ達が持って避難させたため、ガラスが飛び散ることはなかったが、騒動にざわめきが強くなる。
しかしここでは騒ぎは日常茶飯事なのかすぐに優雅な雰囲気へと戻っていった。


「さき程は失礼を…おわびにフルーツのマチェドニアを召し上がれ。そちらのお姫様には食後酒にグラン・マニエを、そして貴女にはレモネードをどうぞ、お姫様方」

「わあっ!ありがとう!優しいのね」

「どうも」


騒動は何事もなかったように終え、新しい机を用意してもらったアスカ達の前にまた金髪の男が現れた。
その男の手にはビンとデザートが二つずつ握られており、グラス型の器をナミとアスカの前"だけ"に置き、お酒らしきビンの中身をナミのワイングラスに、そしてアスカは子供に見えたのかお酒ではなくレモネードを出された。
まァ、ナミのようにお酒は飲めないので当たりと言えば当たりだが…栄養失調と長い間のストレスからの影響とは言え子供に見られるのは少々腹立たしいところはあるのだが…エースとミコトの子ども扱いで慣れてしまったアスカは何も言う気にもならなかった。
それにジュースが美味しかった、というのが最大の理由だろう。


「おい!おれ達には何のわびもなしか!!男女差別だ!訴えるぞこのラブコック!」

「てめェらにゃ粗茶出してやっただろうが!礼でも言え!タコ野郎!!」

「お!?やんのかコラ!!手加減はしねェぞ!やっちまえ!ゾロ!!」

「いや、てめェでやれよ…」


ナミとアスカにはデザートと飲み物を出しておいて男連中にはお茶一個だけという扱いの差にウソップが抗議した…が、やはりビビリはビビリなのか、喧嘩は他人頼りであった。
三つ編みの男の言う通り、この金髪の男は女に弱い性格らしく、ナミとアスカにメロメロだった。
アスカはなにもしていないが、ただお礼をしただけでメロメロなところを見ると、生粋の女好きなのだろう。


「アスカ」

「なに」

「やるわよ。」

「え、なにを?」


さっぱりした中でもはちみつなどの甘さもあり、子供の舌を持つアスカでも美味しく頂けた。
やっぱりアスカも女の子なのか甘いものは別腹というのを持ち、お腹いっぱいだったはずのアスカはデザートを食べていた。
すると隣にいたナミがこそりと耳打ちしたのだが、ただ『やる』と言われただけのアスカには何のことか分からず首を傾げる。
しかしナミはそんなアスカをお構いなしにウソップと睨み合っていた金髪の男に向かって『やめてっ!私のために争わないで!』と猫かぶりを始める。
ウソップはナミの猫かぶりを見破っていたが、女に弱い金髪の男はコロッと騙されてしまった。


「ところで、ねェ…コックさん…」

「はいっ!」

「ここのお料理私達には少し高いみたい…」

「勿論無料で!!」

「うれしいっ!ありがとう!!」


ナミは金髪の男の両頬に手を当て、上目遣いをしながら甘い声を出す。
それを見てナミがしたい事を察したアスカだったが、自分は参加する気ゼロであるようで、中断していたデザートに手を伸ばす。


「なーなー、それ美味そうだな!」

「うん、美味しいよ。食べる?」

「おう!食べる!!」



女を武器にするナミにアスカは『すごいなー』、と感心しながらデザートを食べていると、横からルフィが物欲しそうに声を掛けてきた。
本当に美味しくてこのデザートはアスカのお気に入りとなった。
ルフィにあげるのに抵抗はないが、ルフィに器ごと渡すと全部食べられてしまうため、食べさせてあげることにした。
所謂『はい、あーん(ハート)』である。
幼馴染として、そして山賊のもとエースと共に暮らし鍛えられてきた野生児とも言える人生の中、食べさせ合いをするのはルフィもアスカもお互い抵抗はない。
そのジュースも欲しい、と言い出したルフィにアスカは器を置いてジュースが入っているグラスに手を伸ばす。
その瞬間、


「―――っていうかてめェは何を寛いでんだ!雑用!!しかも可愛いお嬢さまに『あーん(ハート)』してもらいやがって!!クソ羨ましい…!!」


雑用をサボっているルフィの頭に金髪の男の踵落としが落とされ、この場はお開きとなった。
アスカはルフィにあげるために持ったばかりのレモネードをそのまま自分の口に入れる。
美味しいレモネードをストローで飲みながら、金髪の男に引きずられながら去っていく幼馴染に手を振って見送った。

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