(18 / 20) 過去 (18)

ローが連れていかれたと兄のエイルマーに伝えれば『大丈夫だよ』と返ってきた。
リサもコラソンの優しさを知っているが、その反面、子供嫌いなのも知っている。
子供が嫌いだから平気で子供を殴れるし、二階だろうが三階だろうが子供を窓から投げ捨てることだって平然とやってのける。
自分はコラソンやドフラミンゴの妹に似ているからその被害はないが、ローだって何度も殴られ投げ捨てられてきたのだ。
リサが心配するのも無理はなかった。
コラソンの事を兄であるドフラミンゴよりも知っているエイルマーはコラソンが子供嫌いだというのが嘘だという事も、連れ出したローを傷つけることはないことも知っているためリサのように慌てることはなかった。
だが、リサがあまりにも不安そうにしたため、エイルマーはリサを安心させるよう笑みを浮かべ、ローとコラソンを探しに行くことにした。


「いいかい?絶対ここから出てはだめだよ?」

「なんで?」

「いいから…約束できるね?」

「……うん…」


出ていく前にエイルマーはリサに約束を交わす。
それは部屋を出てはいけないという約束だった。
リサはいつもなら言われない言葉に首を傾げたが、エイルマーはその理由を言わず、再三兄に言われ渋々頷いたリサに笑みを深め『いい子』と頭を撫でた後、ローとコラソンを探しに部屋を出ていった。

その後姿を見送るリサは何となく、嫌な予感がよぎったが…結局兄を引き留めることはできなかった。







エイルマーはコラソンの行動を不審に思った。
彼の事を分かっているエイルマーは妹の手前笑っていたが、本当は怪訝な表情を浮かべていたし、妹のように不安でもあった。


(何かあったのだろうか…)


コラソンが子供嫌いだというのは、周りが勝手に勘違いしただけである。
声を失ったのだって周りが勝手にそう思っているだけで、実際彼は自分と喋っている。
コラソンは今でこそドフラミンゴの弟として海賊となっているが、本来の彼は海兵と言う肩書である。
彼は兄が恐ろしくなり逃げ出し、1人でいたところを海軍大将のセンゴクに拾われそのまま海兵として育てられた。
兄がドフラミンゴだという事は隠しきれるものではないため気づいている者も多いが、幸いなことに友人達には恵まれ、コラソンは…否、ロシナンテは恩返しとして危険な侵入捜査を行っていた。
兄がドフラミンゴのため、兄は再会した弟に浮かれ弟が海兵だと気づかないままコラソンという地位を弟に与えた。
子供嫌いだと言われるのだって、ファミリーに入ってくる子供をどうにか抜けさせようとして乱暴だが痛めつけて追い返したためにされた勘違いだった。
それでもベビー5、バッファロー、ローはどんなに痛めつけられようと逃げ出すことはなく、ファミリーに入ってしまったが。
彼の本来の姿はとても優しく穏やかな青年である。
そんな彼がどういう理由でローを連れ出したのかがエイルマーには引っかかっていた。


「コラソン!!」


ウサギを使っても根城周辺にはいなかったため、エイルマーは捜索を街へと変えた。
街は相変わらずゴミ処理場とは真逆の風景で、しかしそんな事今のエイルマーが嫌悪するでもなく二人を探す。
ウサギを放ちながら自分も探していると、ようやく探し人を見つけた。
しかしそこにはコラソンしかおらず、ローはいなかった。
エイルマーは周りを見渡してローを探しながらコラソンへと駆け寄る。


「よかった…リサがローが君に連れていかれたと慌てていたよ…一体どうしたんだい?あとローはどこに…」

「………」


コラソンへ駆け寄りながらローを探し、リサが心配していた事を伝えれば、コラソンはエイルマーの腕を掴み路地裏へと連れ出す。
それに首を傾げながらエイルマーは驚きつつも従う。
コラソンは周りに誰もいないのを確認した後、コラソンの『ナギナギの実』の能力で自分とエイルマーの周りの音全てを消した。


「コラソン?」

「……エイルマー…お前、"D"の話、覚えているか?」


音を消すこと自体それほど驚きはない。
エイルマーはコラソンの能力も知っているし、過去も、どうして海兵となり海賊に戻ったのかも知っている。
しかし話すにしても部屋に戻らず話そうとするコラソンにエイルマーは怪訝としてしまう。
エイルマーはコラソンらしくない行動に不審とまでいかないが、彼から理由を聞こうとしたとき、黙っていたコラソンが口を開いた。
コラソンの言葉にエイルマーは記憶の奥へしまい込んでいた情報を取り出し、『一応』と頷く。
頷いたエイルマーにコラソンは『そうか』とだけ呟いた。


「確か"D"は天竜人…君達兄弟にとって天敵でもあるんだろう?その"D"がどうしたんだい?」

「……ローが、"D"の名を持っていた。」

「…!!」



エイルマーはドフラミンゴとコラソンが天竜人だという事を知っている。
勿論、これもコラソンから聞いた話だが、エイルマー自身天竜人はあまりいい印象はないとはいえコラソンとこれまで付き合っていたこともあってコラソンが元だが天竜人だった事に関しては驚きはしたが嫌悪はなかった。
コラソンはコラソンであり、彼が実際天竜人のような態度や人を傷つけたことなどなかったからエイルマーは彼を信用していた。
コラソンの言葉にエイルマーは目を丸くした。
天竜人の事は誰が説明しなくても大人ならば誰でも知っている。
だが、"D一族"の事は誰も知らないだろう。
実際エイルマーはコラソンから話を聞いていてなんとなく知っている程度である。
そのドフラミンゴやコラソンの天敵である"D一族"がローだと聞かされ、エイルマーは目を丸くさせ驚く。


「きっとこの事がドフィに知られればローは確実に殺されちまう…!おれはあいつを連れて海に出る!!」

「!――本気かい!?」


ローが"D"の一族だと知ったのも驚きだが、コラソンの決断にも驚かされた。
コラソン実の兄を化け物と呼び、兄を止めに死を覚悟にスパイとして兄の海賊に入った。
そのため全て慎重に動いていたはずなのだが、ローが"D一族"だと知りコラソンは見捨てることも出来ず、兄から逃げ出すことを決めた。
今、ローが"D一族"だと知っているのはコラソンとエイルマーのみのためすぐにドフラミンゴにバレる事はないだろう。
ローも親から決して言わないようにと言われているようだが、子供の彼がDという名前の意味を知っているようには見えないし、さきほどリサにも教えていたのを見ていずれはバレるのは明白だった。


「じゃあ…ぼくも逃げる!!」

「なっ…!?」

「もう荷物はまとめてあるし明後日には出る予定だったんだ…ただ一日二日早まっただけで、元々ドンキホーテファミリーになんて未練もない!!」

「…だが、おれはお前達まで守りきれるか…」

「いや、いいんだ…別々に逃げよう…大人数で逃げるより二手に別れて逃げた方がいいと思う…それに…ぼくはきっと足手まといだから…ぼくもアスカしか守れないだろうし…」

「エイルマー…」


コラソンが逃げると聞き、エイルマーも逃げると言い出した。
コラソンはまるで予定をその日に決めるように早い決断に目を見張った。
そんなコラソンを他所にエイルマーは目を伏せ悲しげに呟く。
コラソンも、エイルマーも正直ドフラミンゴに比べればその辺の雑魚でしかないだろう。
特にエイルマーは元々一般人で、性格上争い事を嫌うため戦闘には向いていないというのもありコラソンよりは弱い。
コラソンも海兵だったから鍛えてはいるが、ドフラミンゴには勝てないだろう。
守れてもきっとローがギリギリだと分かっているコラソンは逃げ出すというエイルマーに告げるもそれはエイルマーも同じだった。
エイルマーもコラソンも、ローやリサは大切なのは変わらない。
しかし現実と理想は大きく違い、どちらもどちらかの子供しか守る事は出来ないだろう。
むしろ、ドフラミンゴ達を相手に守りきれるかも分からない。
だが、死を決意してもローやリサを守ると2人は決めていた。


「もしかしたら今世の別れかもしれない…でも、生きていればきっとぼくたちは会える…!!君はローを、ぼくはアスカを…!!彼らは絶対ドフラミンゴになんかに渡さない!!」


コラソンにも固い決意がある。
そしてそれはエイルマーにも。
2人の理由はそれぞれ違うが、ローやリサを守り逃がすというのは同じだった。
もしかしたら、エイルマーの言う通りここで別れれば一生再会できないかもしれないとコラソンも思った。
そうなればリサに恋をしているローには辛い決断である。
だが、そうこうしているうちにローの生は消えていき、ローが"D一族"なのがドフラミンゴに知られ殺されてしまうかもしれない…そう思うとのんびりとしていられなかった。
エイルマーの言葉に強く頷き、2人はもう会えないかもしれないと思いながらコツンと拳を合わせた後お互い背を向け、コラソンはローの元へ、エイルマーはリサの元へと向かった。

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