エース処刑が決まった。
ミコトは間に合わなかったのだ。
黒ひげと戦った島へ向かえばもうエースも黒ひげもおらず…エースの帽子だけが残されていた。
黒ひげに敗れたエースは捕まり大監獄に処刑までの間幽閉された。
黒ひげはエースの首を手に七武海となり、政府はエースを一週間後に処刑すると決めた。
それをミコトに知らせたのはセンゴクだった。
あの時三大将もいたがミコトはどうやって彼らと話し、どうやって船に帰ってきたのかは覚えていない。
一週間後にエースの処刑を控えた海軍は忙しい。
エースは四皇である"白ひげ海賊団"の"二番隊隊長"…船に乗るクルー達を息子と呼び愛する白ひげとの戦いは免れないのはセンゴクも知っている。
重々承知しているはずだからこそ、センゴクは打って出た。
その為四大将をはじめとする世界中の海軍から召集された名のある海兵を集めて準備をし、七武海にも強制招集を出した。
これを蹴れば七武海の名を剥奪するという脅しを付けてだが。
そのため、一週間の間みんなピリピリしていた。
ミコトはあの後帰ってからずっと船に閉じ篭もっていた。
先ほどからずっと私用の電伝虫が鳴っているがミコトは出る気は全くなく、ソファに項垂れていた。
ああ…、とミコトは出ない声を零す。
『嗚呼…あの子が死んでしまう』、と。
なんのために原作知識を持っているのか、と。
それでも駄目だった。
白ひげに忠告しようとしても無駄だった。
エースを説得しに島に向かっても無駄だった。
自分の行動すべてが無駄に終わったのだ。
頭を抱えるように項垂れるミコトは次の行動を考える。
どうやったらエースを死なせないで済むのか、を。
ミコトは原作を知っている。
しかし、全てではない。
ミコトはエースが処刑されそうになるのを知っているが、その先を読む前にこちらに来たためその先は分からなかった。
そのため、まだ海兵としての自分と、裏切ろうと思う自分の狭間で迷っていた。
「ミコトちゃん?」
あんなに裏切りも苦ではないと思っていたはずなのに実際その場になれば迷ってしまう。
同じ海兵として働く彼らが嫌いじゃなく、特に自分を可愛がってくれている彼らがいるから余計に。
祖父やセンゴク、クザンの顔を思い出していると、聞き慣れた声が聞こえミコトは顔を上げた。
それは可愛がってくれる彼らのうち一人の…青雉、クザンだった。
クザンは控えめなノックをした後ミコトに声をかける。
ミコトはその声に目線だけを扉へと送る。
あの奥にクザンがいる…そう思うと背をヒヤリと冷たい何かが走った気がした。
それは子供が親に怒られるような…恐怖だった。
「ミコトちゃん、大丈夫かい?センゴクさんとガープさんが電伝虫に出ないって心配してたが…」
「…………」
「食事も取ってないんだろ?ちょっと開けてくれないか?」
「…………」
クザンの言葉にミコトはクシャリと顔を歪ませる。
嫌だ、という言葉を出したいとミコトは切に思った。
船から出ていけ、とも。
今は誰にも優しくできる気がしなくて…ミコトは優しいクザンを傷つけたくなくて…傷つける汚い言葉を声にして出したくなくて…グッと口を噤む。
無言で返すミコトにクザンはしばらく待ったが、また控えめに声をかける。
「ミコトちゃん……開けてくれ…頼むから…―――じゃないと無理矢理こじ開ける」
ピキ、と何かが凍る音がミコトの耳に微かに届き、ドアノブや隙間を見ればうっすらと氷が張られており、ドアの隙間から少しずつ壁を伝って凍っていく。
扉の向こうからアルダやヘレンの声がするため彼女たちもいるのか、とミコトは他人事のように思った。
クザンは本気らしくピキピキと凍らせ、それを見てミコトは溜息をつき、指を鳴らす。
入ってくるのが分かりきっているからミコトは顔を合わせたくなくてソファから立ち上がり窓側へと移ってクザンに背を向けるように立つ。
するとカギが独りでに開き、ガチャリという音が響く。
それに気づいたクザンがドアノブを捻り氷を粉砕しながら扉を開く。
「やっと開けてくれた」
「………」
「ごめんね、無理矢理入って…でも心配だったから…」
「…………」
クザンは部屋へ入り、まず広い部屋の中、ミコトを探す。
ミコトは窓側に立ってクザンに背を向けていた。
無言を返し拒絶するかのように背を向けるミコトにクザンは溜息をつき、心配そうに部屋を覗き込むアルダに振り返る。
「この部屋に誰も近づけさせるな…いいな?」
「は、はい…!」
出来れば二人っきりで話したいとクザンは思った。
アルダ達ミコトの部下はミコトを心酔しているため心配なのだろうが、大将の命令には従うしか他になく頷き部屋の扉を閉め、部屋から離れ同じ命令を部下にも伝えに向かう。
アルダの足音が少しずつ聞こえなくなるのを聞きながらクザンはミコトと向き合う。
ミコトは相変わらずこちらを見ず閉め切っているカーテンの隙間から何も変化のない外へと目をやっていた。
「ミコトちゃん…アルダから聞いたよ…帰ってきてから何も食べてないんだってね…駄目だよ、食べなきゃ…―――一週間後にはポートガス・D・エースの処刑なんだから」
クザンがそう言った瞬間、クザンの心臓に剣が刺さった。
だが覇気もなにも纏っていないその剣はクザンの心臓を貫いてはいるが、血も出ず凍り付いていく。
その剣から『ギャー!凍るーー!!』と場違いな声が出てきたが双方には無視されていた。
クザンは能力で自分の体を貫く剣を凍らせながら、こちらを睨みつけるミコトを見下ろしていた。
「ミコトちゃんの悪い癖だよね〜、それ…熱くなるとすぐに手が出るの。」
「あなたは…ッ!!―――ッ、私とエースの関係を知っておきながらよくそのような口がきけますね…!!」
「だからだろ?お前とエースの関係を知っているからおれはあえてお前に言ったんだ…話を聞いてもらうためにな」
「…ッ」
クザンはミコトとエースがどんな関係か知っている。
あのモンキー・D・ルフィが実弟だということも知っているし、その一味であるアスカがエースと同じく契りを交わした義理の妹だといことも。
だからクザンはルフィに会いに行ったとき、アスカも見に行ったのだ。
あんなにもミコトが嬉しそうに報告する弟と妹がどういう人間なのか、を。
会ってみれば祖父ガープと同類の人間で、アスカはミコトには劣るものの中々の美少女だったことが判明した。
本来ならその関係を知っているのなら避ける話ではある。
だが、ミコトの様子からしてこちらの話を聞く耳持ってくれそうにないからクザンはあえてエースの処刑を切り出した。
クザンの読み通りミコトはカッとなる。
ミコトはクザンの言葉に言い返せず悔しそうに唇を噛み、クザンの心臓に刺さっている剣…長い年月を経て心を宿した剣、飛刀を抜く。
悔しまぎれに乱暴な抜き方をしても覇気を纏っていないその飛刀の傷は自然系の能力者であるクザンには無意味だった。
しかし怒っていることを示すことはできる。
ひゅっと振ってへばりついている氷を剥がしてやれば飛刀から苦情が来たがミコトは『知りませんわ』と切って捨てる。
そんなミコトを見てクザンは少し調子が戻ってきた事を内心ホッとさせいた。
何だかんだ言ってクザンはミコトが心配だったのだろう。
「ミコトちゃん…今のはおれが悪かったな、すまない…」
「…………」
飛刀を消さないのを見てまだ怒っているのを知りながらも、先ほどの事を謝る。
話を聞いてもらおうとしたとはいえ、クザンは今のミコトにどれだけ酷いことをしたのか謝りたかった。
その謝罪にミコトは無言で返す。
しかし向かい合っているのを見てちゃんと言葉は届いているのだと勝手に解釈する。
「センゴクさんとガープさんが心配していた…電伝虫に出ないってな…あまりあの二人に心配はかけさせてやるな…」
クザンの言葉にミコトは小さい声で『分かっています』と零し、そっぽを向く。
その仕草は子供のようでクザンは苦笑いを浮かべた。
するとタイミング良く電伝虫が鳴りだす。
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