鳴りだす電伝虫にクザンが『お、噂をすればなんとやらだな』と零しながら全く出る気配のないミコトに変わって受話器を取る。
「はいはーい」
≪むっ…なんじゃい!青二才か!!≫
「お、その声はガープさんじゃありませんか」
≪なんでお前が出るんじゃ!!≫
「なんでもなにも…ここミコトちゃんのお部屋だし…」
≪ぬわにィ〜〜!!?おい!!センゴク!!!ミコトの部屋に害虫が発生しておるぞ!!!バスターコールの出番じゃ!!!≫
「ち、ちょっとちょっと!!!なに言っちゃってんのあんた!?っていうかセンゴクさんいるの!?」
≪ちょっと待ってろ!今ゴールデン電伝虫を…≫
「わー!!わーーっ!!!ちょっと待って!ちょっと、ほんと、待って!!なんでミコトちゃんの部屋に入ったらバスターコール発動しなきゃならないんすか!!」
≪何馬鹿なことを!!決まっておるじゃろ!!≫
≪ミコトにつく虫は害する前に即殺するのが常識だろうが!≫
「ミコトちゃんに会いに行くのも殺される覚悟でいかなきゃならないんすか!?あんたらどんだけ過保護!?」
出たのはガープだった。
心配性の二人だからどちらかだろうとは思ったが、どうやら二人ともいるらしい。
と、いうことは今まで交互に電伝虫をかけていたという事になる。
それすら想像できるくらいクザンは二人の過保護さにあきれ返ってしまう。
相手にしている疲れるためクザンは状況を説明し納得してもらおうとした。
「ミコトちゃんはおれが見てますんで、安心してください」
≪≪いや、お前だから安心できんのだが≫≫
「…………そういうわけなんで、切りますよ」
≪…クザン≫
ミコトに関したら孫馬鹿な二人にクザンはもう面倒臭くなって電伝虫を切ろうとした。
そんなクザンにガープが名を呼び、電伝虫の背に受話器を戻そうとしたクザンは手を止め受話器を口元に持っていき、『はい』と返事をした。
クザンの返事にガープは…
≪……ミコトの事、頼むぞ…≫
そう零す。
クザンはガープの声色が若干震えているのを聞こえないふりをしてやりながら、頷く。
電伝虫を切ってミコトへ向き直す。
ミコトはそのまま動いてはいないが、複雑な表情を浮かべ電伝虫を通した祖父やセンゴクを見ていた。
「…ミコトちゃん、これで分かったろ?ミコトちゃんを心配してるのはおれだけじゃなくてセンゴクさんやガープさんもだって」
「…分かっています…今は放っておいてください」
ミコトの心情を考えればこのままミコトの望む通り放っておきたいとはクザンも思う。
クザンも冷たい言い方をしてもミコトの事を妹として可愛がっているのだから、守ってやりたい。
だが、ミコトの立場上、それは許されない。
まだ駄々を捏ねるミコトにクザンはわざとらしくため息をついた。
「あのさ…そうやって殻に閉じこもって何が変わるわけよ」
「………」
「そりゃ何かしら結論はつくだろうけど…一人で考えたって碌な結論はでないだろ」
「…だからってあなたに相談できるとでも?海兵に、海賊の事を…相談しろと?それこそ碌なことになりませんでしょう?」
「だから一人で考えるってか?……尚の事できねェだろ」
「―――私が裏切るからですか?」
「そうだ」
「………」
また無言で返されるかと思ったが、今度は言葉が返ってきた。
それに安堵しながらも挑発めいた言葉を投げつけるミコトにクザンもそれに答え…ハッキリと頷いた。
ミコトはクザンがはっきり答えると思っていなかったのか驚いた表情を浮かべることはなかったが、口を閉じてしまう。
「…おれの本音は…そうだ……お前に裏切られることを恐れている…それはお前が一番分かっているだろ?なぜ、おれがお前が裏切るのを恐れているのか、を」
クザンの本音にミコトは頷く。
ミコトは最強ではない。
だが、それに近い力を有している。
切り札とはいかないまでも四大将として頼りにはされているのだ。
その頼りにされている最高戦力が1人欠けるだけで戦力は大分減る。
それと同時に士気も。
大将は最高戦力と共に海兵の安心感のためにも存在しているのだ。
そこにいるだけで戦力も士気も大分違うのだ。
それをミコトも理解しているから頷いた。
ちゃんとそこは頭に残してくれていることに安堵しながらクザンは続ける。
「出来る事なら強制はしたくはない…おれだってお前を妹として可愛がっているんだ…傷心してるところを塩を塗るようなことなんて誰が好き好んでするものか……だけどな…ミコト…お前は"大将"なんだ…分かるだろ?若くして大将という責任を背負っているお前なら…」
「………」
大将という存在はお飾りのためにいるわけではない。
それはミコトも分かっている。
上に行けば行くほど実力重視の世界にミコトは少女だった時からいるのだ。
周りはコネで手に入れたとか金で手に入れたとか好き勝手言ってくれるが…ミコトが大将という座についているのは実力を認められたから。
戦力になると期待されているから…ミコトは大将という地位にいる。
分かっていたが…ミコトは初めてその言葉を『重い』と思った。
弟の危機にして、ミコトは初めて、理解した。
目を瞑りその重さに耐えるミコトを見つめながらクザンは…
「それが嫌ならやめちまえ。」
そう続けた。
その言葉にミコトは瞑っていた目を開きクザンを見た。
クザンは真剣な表情を浮かべており本気だというのが分かる。
先ほどは裏切るなと言いながら、今度は嫌ならやめろというクザンのアベコベの言葉にミコトは困惑する。
「弟を見殺しにしたくないというのなら今すぐおれ達を裏切ればいい…―――お前が慕っている祖父や元帥を殺せる覚悟があるなら…ここから出ていけ」
「―――ッ!」
「覚悟がないヤツが戦場に出るな」
「…ッ」
クザンの言葉にミコトは息を呑む。
真剣な表情で話すクザンのその言葉の重みにミコトは言葉を失った。
戦場では迷いがあれば即命がない場所である。
弱ければそれだけの話。
だけどミコトには力がある。
力がある者が覚悟がないまま戦場に立てば周りの部下たちが死ぬ。
戦場は確かに殺し合いだが、死ななくていい部下を迷っている人間のせいで殺させるほどクザンも甘くはない。
そう、言いたいのだろう。
ミコトはクザンの言葉に目を伏せ俯き、グッと拳を握る。
「…すみません……出て行ってもらえませんか…」
「………」
「今すぐ…出て行って……お願いだから…」
やっと出た言葉は震えていた。
クザンは何も言わずその場に立っていたが、絞り出すような声色を吐き出すミコトに…静かに部屋を出て行った。
「…………」
クザンが出て行ったのを扉が閉まる音で確認し、ミコトは足をふらつかせながらソファの背に手を置き、ゆっくりと息を吐き出す。
「………」
クザンの言葉が何度も何度も繰り返し脳内で流れる。
分かってはいた。
理解はしていた。
その言葉は便利だが、ミコトは本当は分かっていなかったし、理解もしていなかった。
生まれ変わる前の国があまりにも平和ボケした国だったから…そして原作が残酷な描写を描くようなジャンルではなかったから……ミコトは勘違いしていたのだ。
戦争になっても何もかもが上手くいく、と。
(黒蝶と…大将と…最高戦力と…もてはやされた結果なだけ…わたくしが甘かっただけ…わたくしが……現実を見ようとしていなかっただけ…あの人は何も悪くはない…)
だけど、いくら原作が少年へ向けた漫画だとしても…今、この時、この瞬間…ミコトが立っている場所は紛れもない現実。
人が村を作り街を作り王国を作りそこで暮らすのも現実。
人が人を殺すのも、現実。
戦争も、また…現実。
平和ボケした国で生まれ育ったミコトにとって…目の前で人が死のうが全てを奪われようが夢物語にしか見えなかったのだ。
それがクザンの言葉で現実だとやっと理解した。
ソファに手を置いている自分の手は…震えていた。
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