(15 / 21) 頂上戦争 (15)

禁鞭を素手で掴む白ひげにミコトは驚きを隠せなかった。


「どうした?てめェの本気はこんなもんなのか?」

「…まあ…まあまあ!なんてことでしょう!禁鞭を能力を使わず素手で掴んだ方は初めてですわ!―――ですがそれがなんだというのです?」

「――――!!」


ミコトは素手で禁鞭を掴んだ人間を初めて見た。
それの驚きに満ちてはいたが、すぐに冷静になりバチッと音をさせた次の瞬間―――白ひげの体全身に強い電流が流れた。


「まずは100mA」


その威力は普通の人ならば心臓停止や火傷によって死亡するはずの電流。
すなわち、白ひげがバケモノでないかぎりは死亡は確実である。
禁鞭を通して流したその電流の強さに白ひげから煙が上がるほどだった。
誰もが白ひげの死亡は確実だと思ったその時―――ミコトは引っ張られてしまう。


「な―――ッ!!!?」


電流は50mA以上になれば死亡すると言われている。
だからミコトも倍の電流を流し白ひげが死んだと思っていた。
しかし、白ひげは生きていた。
生きて、掴んでいた禁鞭ごとミコトを引っ張り込んだのだ。
ミコトはまさか生きていられるとは思ってもみず驚きを通して呆気に取られていたが、白ひげが薙刀を傍に刺し引っ張り込んだミコトに向かって禁鞭を掴んでいる手とは逆の拳に能力を集め叩きこもうとしていた。
それに気づきミコトは傾世元禳の防御力をいつものレベルから更に高めた。
それは一瞬の出来事だった。
白ひげが能力を集めた拳をミコトに叩きこんだのも、ミコトが傾世元禳のレベルを高めたのも…ほぼ同時だった。
グググ、と押されているミコトはペチャンコになる前に禁鞭を消し、後ろへと下がる。


「グララララ!!!こりゃすげェ!!まさかおれの攻撃を受け止めて怪我一つ負ってねェ奴ァ初めて見るぞ!!!」

「わたくしも…まさか100mAを浴びても生きていられる人を見たのは初めてですわ…それに…ここまで傾世元禳を使わせる方も、初めてです…感服いたしました…」

「そりゃァいい!冥土の土産にいいもん聞かせてもらった!!だがおれの力をこれが限界だと思われるのは面白くもねェよなァ!!!」

「…!!」


お互い相手が無事である事に驚いていた。
しかし無事という事はまだこの勝負は終わっていないという事…今度は白ひげがけしかける。
傍に刺していた薙刀を手に取りミコトに向かって振り下ろす。
それを当然ミコトは傾世元禳で受け止めた。


「当然無駄か!」

「ええ、無駄でしたね」


分かっていた白ひげは悔し気にするでもなく、今度は地面に向かって薙刀を突き刺し能力を使い地割れを引き起こす。
それもジワジワとした地割れではなく、本当に一瞬に。
白ひげの地割れにミコトの体がぐらりと傾き隙間に落ちそうになりながらもミコトは宙に浮き回避した。
しかし―――


「そう出るよなァ!小娘!!」


白ひげも飛び上がり薙刀を構える。
薙刀の刃には能力を集めておりヴゥン、という低い音がミコトに届く。
斜め上から叩きつけるように振り下ろされミコトは…―――体が真っ二つに切れた。


「こ…!黒蝶さん!!!?」

「う、嘘だろ!?あの黒蝶さんが…!!負けた…ッ!?」


遠くからでも分かるほどミコトの体は真っ二つに切れていた。
しかし白ひげはそんなミコトを見て…


「チッ…やっぱ効かねェなァ…!」


舌打ちを打つだけの反応を見せる。
白ひげと真っ二つに斬られたミコトが地面に着地し落ちたのは同時だった。
ミコトの遺体が地面に落ちたその瞬間、その地面はぐにゃりと歪みを生み、白ひげの足を飲み込み始めた。
白ひげは焦ることはなくゆっくりと飲み込まれる自分の足を見下ろす。


「つまらねェ真似しやがって…てめェもおれがこんなのに大人しくやられるとは思ってねェんだろうが!!!」


そう叫びながら白ひげは拳に能力を集中させ思いっきり体を飲み込んでいく地面に向かって叩きつける。
その瞬間歪みを生んでいた地面はまるで固まったように粉々になって崩れ、白ひげは脱出する。
飛び上がって回避した白ひげが着地すればミコトが地面から現れくすくすとえみを零す。


「えっ…!?こ、黒蝶さん!?」

「やられたわけじゃないんだ…!よかった…!!」


避難している周りの海兵たちはミコトが死んだわけではないとホッとしており、ミコトは白ひげを見上げていた。


「まあまあまあ…流石と言いましょうか…ちょっと、手加減してくださってもよくなくって?」

「グラララ!!手加減して喜ぶタマかァ!?てめェは!!」


笑い声をあげる白ひげにミコトは『まあそうですわね』と肩をすくめてみせ、そして地面を蹴り白ひげに切りかかる。
トン、と地面を蹴り飛刀を思いっきり振り下ろしたミコトを白ひげは薙刀で受け止め弾き返す。
弾き返されたミコトは少し距離をあけて着地し…


「"ROOM"!」


ブン、という音と共に自分と白ひげの周りにドームを張る。
新たな能力に白ひげは目を細め、ミコトは飛刀を構えた。
そして、空を斬る。
勿論飛刀の範囲には白ひげはいない。
しかし白ひげが何かを察知し覇気入りの能力で跳ね返したその時…白ひげの後ろにあった瓦礫がまるでミコトに斬られたように崩れたのだ。


「また厄介な能力を出しやがって…」


そう呆れながら零す白ひげは薙刀を地面に突き立て腕をクロスさせた。
ミコトはそれを見て『まさか』と思ったその時―――白ひげは両脇の空間を殴りつけ大気にヒビを入れ、ミコトの能力を壊した。
パリン、という音と共にドームが崩れるのを見てミコトは白ひげの荒業に目を丸くし唖然とした。
白ひげはその隙を狙い距離を縮めミコトに向かって能力を集中させた拳を上から叩きつける。
ミコトはあっという間に距離を縮めた白ひげにハッと我に返り傾世元禳で防ぐ。
また傾世元禳で両者ともに無傷だと思っていた。
しかし…


「!?―――そんな…!!傾世元禳にヒビが…ッ!?」


ミコトに叩きつけている拳は先ほどよりも強く、そして凝縮しているのか、鉄壁の防御を誇っていた傾世元禳にヒビを入れた。
上から圧縮されるようにグググと押されミコトはまた傾世元禳のレベルを高くする。
すると白ひげも拳の震動を強くさせる。
二人の力に地面が耐えきれずミコトは割れた地面の隙間に落ちかけた。


「なんという力…!これが"世界最強の海賊"――――!!」


落ちる前に浮いて避難したミコトはあれだけの傷を負っていながらも傾世元禳にヒビを割るほどの力を残っていた白ひげに初めて恐怖した。
しかし白ひげは畳みかけるようにまた拳をミコトに向けミコトはそれをまた傾世元禳で受け止める。
目の前で傾世元禳のヒビがどんどん深くのを見て二度も同じ過ちを犯すものかとミコトは拳を振り下ろし隙だらけの懐へと飛び込んだ。


「あなたの能力!!使わせていただきます!!!」

「グ―――ッ!」


ミコトは覇気を纏い黒く染まった己の拳りに白ひげ同様震動を集中させ白ひげの腹に叩きつける。
大気が割れたのと同時に白ひげに強い衝撃が襲い、白ひげの口から血が吐き出される。


「オヤジ…!!!」


ミコトの能力の異常さは噂で知っているため驚きはしないが、白ひげと同じ能力を使い、白ひげに血を吐かせるミコトに周りにいた海賊達は足を止め白ひげを振り返る。
ミコトもやっと効いた一撃を当てれたと思ったのだが…


「…まさか…おれの能力を使われるとはなァ…グララ!」

「―――!」


白ひげはそうニヤリと笑い自ら懐に入ってきてくれたミコトの小さな体を、その大きな手で掴む。
ミコトは信じられないという目で白ひげを見た。
白ひげは涼しい顔ばかり見せるミコトの見せる初めての感情の表情に笑みを深めた。


「そんな…ッ効いてないの!?」

「馬鹿やろう!効いてるよ!いてェどころじゃねェなァ、こりゃァ……だが…こうでもしねェと小娘、てめェは捕まらんだろうが!」


ミコトは初めて人に対して恐怖を覚えた。
これほどまでに攻撃して平然と立っていられる者は初めて見たのだ。
しかしいくら最強の海賊と言われていても生身の人間…効いてないわけがない。
電流も自分の能力も、ちゃんと効いているが鍛えられた体と、そして息子たちへの想いである。
白ひげの策略にはまってしまった事にミコトは『くそ…!』と普段では絶対にしない舌打ちをし、白ひげを睨む。


「すまねェなァ…お前さんみたいな美女とはもっと遊んでやりてェんだが……守らなきゃならねェモンがある…――――もう眠っていな」

「ッ―――――!!!」


グッとミコトを掴んでいるその手に白ひげは震動を集中させた。
傾世元禳のない身で直に震動を受けたミコトは声にならない悲鳴を上げた。
しかしミコトはそれでも気を失うことなかった。
正確に言えば意識は朦朧としている。
しかししっかりと目線は白ひげを睨んでおり、その美しいと評された顔の口からも鼻からもどこからも血が垂れており空中の冷気を集め、クザンの"両棘矛"で白ひげに飛ばした。
しかしその技を白ひげは震動で崩し、まだ息のあるミコトを掴んだまま地面に叩きつけ、震動もとどめを刺す。
クレーターを作るほどの威力が完全に傾世元禳で守られていないミコトの全身に一気にふりかかり、流石のミコトもピクリとも動かなかった。
気を失ったと見た白ひげが海軍本部を壊滅に追い込もうとセンゴク達へと足を向けた。
しかし…ガラリと瓦礫が落ちる音に白ひげは足をとめ、振り返る。
そこにはボロボロの姿のミコトがいた。
流石に立っていられるほどの元気はないのか、膝をついていたが、しっかりと白ひげを睨みつけていた。
それを見て白ひげは大きく笑う。


「グラララ!!おいおい!!嘘だろ!おい!!!グララ…!!」


本気ではなかった。
だが、侮ってもいなかった。
エースの姉だからと同情もしたつもりはない。
それなのにミコトは起き上がったのだ。
その女が憧れるであろう美しく完璧な体全身に震動を二度も受けながらも、ミコトは起き上がったのだ。
流石にそれには白ひげも感服せざるを得ない。


「おれも化け物だの怪物だのと呼ばれてるが…!!てめェも相当なバケモノだぞ!!黒蝶ォ!!!」

「それは…ッ、光栄、の…至り…ですわね…」

「流石はその若さでただ大将の座にふんぞり返ってるってわけじゃァねェってことか!!…だがまァ……―――ここで終わりにしようや」


そう言って白ひげはまた拳に震動を集めた。
それも今までとは比べ物にならないほどの強さを。
ミコトもそれを見越してか傾世元禳をフルに使う。
初めて傾世元禳の防御を最高まで上げたミコトの体はグンッと重みが増した。
だがそれと同時に白ひげの拳がミコトの真横に叩きつけられた。
大気が大きく広範囲に割れるほどの衝撃をミコトは傾世元禳を使って堪える。
しかし…―――パリン、と傾世元禳が作り出した膜が割れ、そして…

ミコトは強い衝撃に本部まで叩きつけられてしまった。







ミコトは傾世元禳の纏わない体にもろに白ひげの能力を受け、吹き飛ばされてしまい本部に叩きつけられる。


「ミコト…!」

「あ、危ないです!元帥!」


ミコトが本部に叩きつけられ崩れた瓦礫が落ちっていき、その下にミコトがいるのを見てセンゴクはミコトのもとへ向かおうとしたが今だ崩壊しそうな本部に向かうのを止められてしまった。
止められたセンゴクは白ひげを睨みつける。


「エースに気づかう事もなくなった今…奴は本気でこのマリンフォードを海に沈めるつもりだ!!己の命と一緒にな………!」


ミコトを振り返りながらセンゴクは海兵達に歩み寄り次の指示へと移る。
ルフィに叩きつけられたガープはゆっくりと起き上がった。


「ガ−プ中将!ご…ご無事で!!」

「時代に…"ケリ"をか……!頃合いじゃねェか…」







「コテツ隊長!しっかり!!」

「がはっ……お、れに構うな…行け…」

「そんな!コテツ隊長までそんな事言わないで下さい!!」

「コテツ!お前も行くんだ!これは船長命令だ!!」


コテツは首ではなく腹を刺されたのか、大量に出血し、服が血で染まっていた。
出血は止まらず仲間が手で押さえてもその指から血が溢れ出てしまう。
コテツは自分の腹の傷にミコトの心情を想い浮かべ朦朧とする意識にの中、痛みやミコトの心情に堪えるように目を瞑る。
しかしすぐに瞳を開け、コテツは周りを見渡す。


「……ミコト様は…」

「え」

「ミコト様はどこだ……」

「ミコト様って……あ!黒蝶か?黒蝶ならオヤジに本部に叩きつけられて今は多分瓦礫の中だろ!」

「瓦礫の中…」

「もういいだろ!いくぞ!!」

「…………おれはいい…」


首を振るコテツに仲間達は『何言ってんだ』、と無理に立たせようとする。


「おれを置いて行け!!!」

「なんでだ!!!お前も…」

「おれはここで死ぬ!」

「!!?」

「おれはこの傷だと生きて帰れん…だからお前らは行け…」

「そんなの…そんなの船医に治させればいいでしょ!!!コテツ隊長はいつもそれ以上の傷受けても死なないじゃないですか!!!」


部下の言葉にコテツは苦笑いを浮かべ、血だらけの手で頭を撫でる。


「おれはここでオヤジと一緒に死ぬよ…正直もう長くないんだ……」

「隊長!!!」

「ニール…頼んだ」

「お前…!!……っ、…わかった…」


コテツの言葉に仲間は頷き、涙を流す部下を引っ張ってその場を立ち去った。
仲間達の姿が消えたのを見てコテツはゆっくりと本部へ歩く。

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