(53 / 293) ラビットガール (53)

誰もがナミの行動に驚いた。
ゾロもウソップも宝を奪われ、そして船も奪われ、ナミの肩書通りの泥棒の腕前に後悔もだが呆れもきていた。
特にゾロは泥棒だと聞いておりルフィが警戒心が乏しいためそれを補うように人一倍警戒心が高いためか内心警戒はしていたようだった。
だが、アスカと仲が良く大人しかったというのもあり油断していたため、自分の緩んだ気持ちに苛立ってもいた。
アスカはゾロとウソップが騒ぐ中、宝や船が奪われた呆れや恨みよりもあっという間に奪っていった手際の良さに多少関心していた。
慌てる中、ルフィが海を目を凝らして見ているとまだ船が見えるのに気付く。
『まだ船が見えるぞ!』と零すルフィの隣でアスカも目を凝らして海を見る。
ルフィの言葉通り小さいメリー号が見える。
追いかけたがっているルフィだったがゾロが『放っておけよ、あんな泥棒女』とナミを追いかける気はないようで、そんなゾロにウソップが『でも船は大事だろ!』と反論する。
そんな二人の言い合いを聞きながら海を見つめていたアスカは、隣にいるルフィを横目で見る。


「で、どうすんのルフィ。」

「…おれは、あいつが航海士じゃないといやだ!!」


確認するようにルフィに問えば、ルフィは航海士はナミが航海士でないと嫌だと言い出し、ゾロとウソップは動きを止め、アスカはルフィの言葉に肩を竦めて見せる。


「わかったよ……世話のやける船長だぜ…おいウソップ!行くぞ!!」

「お、おう!」


話している間にジョニーとヨサクが小船の準備をしてくれて、その準備が出来たという言葉にゾロはアスカとウソップを連れて船に乗り込もうとした。
船長の命令だから仕方ないと言わんばかりに溜息をついて船へ向かうゾロにウソップも慌てて続く。
アスカはルフィと残るつもりでいたが、ルフィに『アスカ、お前も行け』と言われてしまい、アスカはゾロ達を見送っていた顔をルフィに向けた。


「…いいの?」

「ああ…おれ達の中でナミと一番仲良かったの、お前だもんな…気になるんだろ?」

「………ルフィは」

「おれも気になる…だけどおれはだめだ…まだこのレストランで何のケリもつけてねェからな…」

「…………」

「大丈夫、おれは絶対あきらめねェし、絶対死なねェ」

「……うん…」


ルフィはアスカがナミの事を気にしている事に気づいていた。
航海中、ナミと一番仲が良かったのはアスカだった。
それは同性という理由が一番近いのだろうが、ナミはどうもアスカをまだ子供と思っている節があり、放っておけなかったのだろう。
あれこれ世話をし、アスカもナミに懐き始めていたのだ。
それがこの結果になり、仲が良かったナミをアスカが気にならないはずがないのだ。
アスカもルフィも、正直お互い離れ離れになるのが嫌ではある。
嫌、というよりは不安があるのだ。
何度も言うが、ルフィは幼い頃のアスカを見て守る存在だと刷り込まれており、アスカは心のどこかでサボのようにルフィも死ぬかもしれないという恐怖があった。
ずっと同じ人間に奴隷として扱われ続けたアスカにとって、信頼し心を委ねられるのは今この時では、ルフィしかいない。
ゾロ達は大切な仲間だし信頼も信用もある。
だが、まだルフィのように心から何もかも委ねられるほどの信頼も信用もない。
それはまだゾロ達との出会いが短いからというのもある。
だからアスカはルフィと離れる事に強い不安感があったのだろう。
それも察してかルフィは命よりも大切なアスカの父親から預かった麦わら帽子を不安そうに見つめるアスカの頭に被せた。


「ルフィ…?」

「これ、お前に預けるよ…おれはこの帽子を返してもらわねェといけねェから、簡単には死ねねェ……そうだろ?」

「………」


アスカに帽子を被せたのは、それを理由に生き残らなければならないとアスカに植え付けるためだった。
そして、アスカが安心できるようにするためでもある。
アスカはルフィが父、シャンクスから預かった時も、また再会するという男と男の約束をした時も、その場にいた。
だからルフィの言葉が嘘ではないと信じられた。
だから、アスカは帽子のツバを握って頷いた。


「ルフィ…気を付けて…こっちの事態も尋常じゃないんだから…」

「分かった。」


頷いたルフィにほっとし、アスカは既に乗り込んだウソップと待っていてくれているゾロのもとへと向かおうとルフィに背を向けかけた…だが、その時―――



「あいつだぁ!!!!」



その声に誰もがその声の主へと振り返った。
声の主はクリークの部下で、部下はどこかへ向かって指を差していた。
その指を指している方へと目を向ければそこには小さなの船が悠々と崩壊している船の残骸の中、進んでいた。


「首領クリーク!!あの男です!!我々の艦隊を潰した男…!!」


その小さな船には一人の男だけが乗っており、中央に置かれている椅子に堂々と座っていた。
その姿を見てコック達は唖然としている。


「あいつが…一人で50隻の船を沈めたってのか…!?」

「じゃあ…たった今クリークの船を破壊したのも!?」

「普通の人間と変わらねェぞ…特別な武器を持ってるわけでもなさそうだ…」


ギンの言っていた通りなら、あの小船の男が、あんな大きな船や多くの船を一人で斬って海賊団を潰したという事になる。
それが信じられずにいるコック達にゼフが否定した。


「武器なら背中にしょってるじゃねェか!」

「そんな…!まさか!!」

「じゃああの剣一本で大帆船をぶった斬ったとでも!?」

「そうさ…"鷹の目の男"とは大剣豪の名…奴は世界中の剣士の頂点に立つ男だ」


ゼフは元々海賊だった。
いろいろあり金髪の男と共にレストランを経営しているが、当然海賊だったゼフは"鷹の目"を知っている。
会ったこともそれほど親しいわけではないが、名前や噂なら聞いていたりはした。
ゼフの言葉に誰もが信じきれないと言わんばかりに絶句していたが、海賊達の怯えようを見てしまえば疑う余地もなかった。


「畜生ォ!てめェ…!何の恨みがあっておれ達を狙うんだ!!」


クリークの部下が執拗にも狙ってくる理由を聞こうと叫ぶ。
鷹の目はそのクリークの部下の質問に一瞬だけ考えるそぶりを見せ、そして…


「ヒマつぶし」


たった一言で片づけた。
ただのヒマつぶしのためだけに壊滅状態まで追い込まれ、仲間も餓死していったのを見てるしかできなかった海賊にとって、鷹の目のその言葉はどうしても許すことはできなかった。
世間では海賊は悪だとか言われ、クリーク達の行いを考えれば自業自得ではあるが…それでも仲間を暇つぶしで殺され海賊団も崩壊寸前にされれば我慢ならないものがある。
鷹の目のその言葉を聞いた瞬間、クリークの部下は手に持っていた銃を鷹の目に向けて放った。
…だが、銃弾はハズれてしまう。


「え…!?ハ、ハズれたぞ…!?」

「いや、"外した"のさ…何発撃ち込んでも同じだ…切っ先でそっと弾道を変えたんだ」

「…!!」


真っ直ぐに鷹の目に向かって放たれ確実に鷹の目に当たるはずの弾だったのに…ハズれたことに仲間たちは目を丸くさせた。
しかし、海賊の銃は本来なら当たっていたはずだった。
だがその銃弾の道を鷹の目が剣先で変えたのだと、ゾロは見た。
それはきっと同じ剣士だからこそ分かったのだろう。
ゾロは鷹の目の登場に目をギラリとさせ、ウソップ達から離れ鷹の目の一番近く…海賊のもとへと歩み寄る。
鷹の目はゾロが長年探し求めた男。
その男に会えたことにゾロは気持ちが高ぶっていた。
ゾロは"世界最強の剣士"という名を背負う男に挑んだ。
それは最強を欲するためと、それを約束した親友のためである。


(コレが世界最強…)


男はゾロが挑んだ戦いを受け入れた。
しかし、それもまた男にとっての暇つぶしである。
ゾロは三本の刀を抜いたのだが、それに対して鷹の目はナイフ一本のみ。
それでも鷹の目は押されることなく、逆にゾロを押していた。
ナイフ一本で刀三本を相手にする鷹の目の力が素人のアスカでも目に見えて分かる。

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