(54 / 293) ラビットガール (54)

ゾロは鷹の目に負けた。
しかしその背に傷はなく、ゾロは鷹の目に戦いの中で認められ、敗北を味わい船長であり未来の海賊王にもう負けないという約束をみんなの前で交わした。


「つ…着きましたっ!!」

「………」

「きゅー」

「あそこに本当にナミがいんのかァ!?」


ナミの行き先を知ったジョニーとヨサクは二手に別れた。
ヨサクはルフィ達に知らせるために海上レストランへ戻っており今この船に乗っているのは手負いのゾロと、ウソップと、ジョニーと…そして、ゾロの膝の上に乗っている一匹の美しい白いウサギ。
敵陣だと思うだけで何気ない風景が一変し威圧感も感じられるようになるのがまた不思議なところである。
ウソップとジョニーがビクビクと怯える中、ゾロとウサギだけは堂々としていた。


「着きましたが…問題はこれからっす…!まずナミの姉貴がどこに船をつけたかを…」

「斬り込むか?」

「な、何でそうなるんですか!!」

「アホかてめェ!!まだ何の手掛かりもつかんでねェんだぞ!!!」

「きゅー!きゅー!!」


ゾロとゾロの膝の上にいるウサギ以外が船の影から覗き込むようにしながらどうすべきか考えていると、ゾロが刀を持って物騒な提案を上げた。
あからさまに失敗して死亡リスクが高い提案にウソップもジョニーも止め、そしてゾロの膝に乗っているウサギからも後ろ足で蹴るという物理抗議が来た。


「〜〜いッ!!お、おい!!アスカ!おま…傷口を蹴んな!!治すっつったのお前だろ!!」

「きゅー!」

「いだだだ!!やめろ!!本気でやめろ!!痛いどころじゃねェ!!傷が悪化するだろうが!!!」


ゾロは後ろ足で蹴って抗議するウサギを"アスカ"と呼んだ。
アスカと呼ばれたウサギはやめるどころか『うるさい!少しは懲りろ!!』と言わんばかりに蹴り続ける。
ウサギが蹴っている場所は丁度傷口に当たっていた。
ウサギはそれでも容赦なく傷口を後ろ足で蹴り、ついには我慢できなくなったゾロに耳を握られてしまい、抵抗するように足をじたばたさせた。
ウサギの耳を掴む乱暴な持ち方をするゾロにウソップとジョニーはぎょっとさせ慌ててやめさせようとする。


「お、おい!ゾロ!やめろって!!そいつはアスカなんだぞ!?後でどうなっても知らねェからな!!」

「そうっすよ!!アスカの姉貴に復讐されても知らないっすよ!?」

「きゅーーーー!!!」

「あだっ!てめェ……!」


動物虐待するゾロを止める二人だが少し遅かった。
アスカと呼ばれた白ウサギはじたばたとさせる足の勢いをそのままにゾロの顔を一発蹴りを入れる。
それでも手を放さないゾロにもう一発反対の足で蹴りを入れた。
それを何発か入れるウサギは足の力を強め、ついにはゾロの手が離れ、軽やかに着地したウサギは畳みかけるように飛び上がり思いっきり回し蹴りをゾロにプレゼントした。
その威力はウサギの可愛らしい見た目に反し痛いらしく、ゾロさえ涙目になる程だった。
ぐはっ、と倒れるゾロを見てウソップもジョニーも『あーあ…だから言わんこっちゃない…』と声をそろえ、自業自得とはいえゾロを憐れんだ。

――さて、皆さんお分かりのようにこの白ウサギはアスカである。
何故ウサギになったかは少し前に遡る。







「ほんっと馬鹿なんだから!」


ナミを追うため乗った船に少女の怒鳴り声が響く。
ゾロは少女であるアスカの何回目かの小言に疎ましそうに耳に指を突っ込んでいた。


「うっせーな…悪かったって言ってんだろ」

「言うだけでしょ、どうせ」

「あー…まァ…」

「……………」


最強の男を探していたゾロにとって、鷹の目との出会いはチャンスであり幸運でもあった。
剣士ではないアスカにとって鷹の目は強い事は強いが見た目はオシャレなおっさんである。
アスカ自身鷹の目には勝てないし手も足も出ない事はあの戦いを見て知ったが、それでも無茶をするゾロだけは許せなかった。
別に命を軽く見たり無駄にするなとか、無謀な事をするなとか、勝ち目がないのが分かってて立ち向かうなとかは言わないし思わない。
命の価値が人によってそれぞれなのはアスカが一番良く知っているし、経験済みである。
それに男のプライドや負けようが戦わなければならない時があるのも知っている。
だから鷹の目に挑んだことも、大怪我をしたのも、負けたこともアスカは怒っていない。
では、何に怒っているのか…それは多分アスカにも分からないだろう。
ただ、分かっているのは心配したという事だけ。
ただそれだけで、アスカはゾロに怒っていた。
プリプリ怒る自分に申し訳なさを微塵も感じさせないどころか満足げのゾロを見てアスカは深い溜息をつき、アスカは突然ゾロの前に立って服を脱ぎ始めた。
突然ストリップを始める少女に男三人はぎょっとさせた。


「お、お前何してんだ!!!」

「何で脱ぐ!!」

「ちょ、アスカの姉貴!?」

「治療するのよ」

「「「治療ォ!?」」」


理由もなく脱ぎ始めるアスカに男共は顔を赤くしながら止めに入った。
特に気にし、顔を赤くしているのは思春期のウソップと、普通の感覚を持つジョニーであった。
ゾロは怪訝とさせながらも何故か脱ぎ始めるアスカにあわあわと慌てだし私痴漢してませんポーズをする。


「ちょっとあんた達前行ってよ。後ろに立たないで」

「へ、へい!」

「あ、あぁ…!」


止めに入るウソップとジョニーが後ろにいるのに気付き、アスカは後ろに立つなと文句を言う。
何とも傲慢なアスカだが、男達は逆らえずウソップとジョニーはゾロの両脇に移った。
後ろに誰もいなくなったのを確認したアスカは脱ぎかけた上を完全に脱ぐ。
アスカの能力の性質上、服を脱がなければならない。
だが後ろに回れれば脱ぐ時に必ず背中を見られてしまう。
そう…天竜人の奴隷の証がウソップとジョニーに見られてしまうのをアスカは恐れたのだ。
だが、それならば脱がなければいいと思うだろう。
アスカがしようとしているのは、ゾロの傷を少しでも治すための"ラビットセラピー"を行うためなのだから、ウサギ化は長身ウサギではなく、普通サイズの見た目は可愛いウサギなのだ。
しかし、アスカはウサギになった時体が縮み服の中を潜って出なければいない事が面倒で嫌いなのだ。
あれは出口が見つからない迷路だと以前アスカはそう零していた。
能力が能力なためアスカは基本下着を付けない。
最初こそ違和感あったが慣れとは恐ろしいもので、気にも留めなくなったし違和感も服が肌に直接あたる気持ち悪さもなくなった。
ぱっぱと脱ぎ終わったアスカは早速"ラビットセラピー"で完全なウサギになる。


「きゅー!」

「なっ…ウサギ!?」

「どうなってんだ!?」

「はぁ!?」


子供だった体が少しずつ変化し始め、完全にウサギになったアスカに三人は目を丸くした。
そんな三人を無視し、アスカはさっさとゾロの膝の上に乗り丸まった。
それを見てゾロはアスカの能力だと察し、恐る恐るアスカに声をかける。


「もしかして悪魔の実か?」

「きゅ!」

「ああ、この姿じゃ喋れないのか…で、治療なのか?これが?」

「きゅー」

「そうか……あぁ、だからあの時服着てなかったのか」

「きゅー」


ゾロはまだアスカが能力を発動したところは見たことはない。
ウソップもゾロもジャンゴとアスカが戦っていた時、見ているはずなのだがそれどころではなかったため気づいていなかったのだろう。
アスカは普通のウサギの時は喋れず鳴くだけしか返事が出来ない。
それをすぐに察し質問を続け、アスカは全てに頷いて見せた。
あの時、とはバギーと戦った時の事だろう。
しかし、きっとゾロがウサギに話しかける姿なんてわら……なんとも不思議な光景だろう。
その証拠にジョニーが顔を背けている上にウソップが笑いをこらえていた。


そして、今に至るのだ。

ゾロは乗り込んでいく勢いだったが、ついには二人に押さえつけられ縄で縛られてしまった。
アスカは治療していると言っても"ラビットセラピー"の能力は自動式のためゾロの膝の上いるだけのお仕事である。
そのため暇で暇で仕方なく、ゾロの膝の上で呑気にもお昼寝していた。
進んでいくと地図にある"ココヤシ村"という村とは少し離れた場所にメリー号が停泊しているのを発見した。
魚人達のアジトではない事を知ったウソップが強気になりそのままメリー号のところへ向かおうとしたのだが…その途中に魚人と出会ってしまい、ウソップとジョニーはそのまま止まらずメリー号の前を素通りする。
それにはゾロもアスカも『は?』と口を開けて呆気に取られる。


「何通り過ぎてんだよ!!」

「しーーーっ!!今見たか!?魚人がいたぞ!!アーロン一味だ見たろ!?恐ェんだよ!悪ィかよコラ!!」

「お前がキレんな」

「きゅ」


ゾロやルフィのように強く自分の力に自信がある者ならともかく、ウソップは2人は別の生き物だと思っているため通り過ぎる事に対して文句を言うゾロに逆切れしていた。


「駄目だ…この辺一帯マジでアーロンに支配されてるようっす…どうします?ウソップのアニキ」

よし、ナミは連れ戻せなかったということで…

「おれの縄ほどけよ!バカ!!」


ウソップ達は魚人とは、会ったことはないが恐ろしい力の持ち主だと聞いていた。
アスカは天竜人の奴隷だった時に見た事があるだけで、本当の魚人の姿など見たことはなかった。
とりあえずジョニーはウソップに聞くも、ウソップは逃げる事しか考えておず、ゾロは縄をほどけと叫ぶ。
縄さえほどけば魚人など切り捨てれると思っているのだろう。
だが、魚人は怪しい船を見て見逃すどころか追ってきた。
泳いで追ってきた魚人にジョニーもウソップもゾロとアスカを置いて海に飛び込んで逃げてしまう。


「あいつら後で覚えておけよ…!ぜってェ楽には死なせねェ…!!!」

「きゅ!!」


2人を見捨てて逃げたことはまあこの際いいだろう。
彼らの性格からして逃げ出すことは分かっていたことでもある。
だがせめて縄だけはほどいてほしかった。
アスカもゾロの呟きに賛同した泣き声を零しているとついに魚人に追いついてしまい、2人の魚人が船に上がる。


「へへへっ追いついたぜ…何だコイツ一人か…?さてはどっかから島流しにでもあったな?」

「……あァまァな…」

「きゅ…」

「あ?なんだこのウサギは」


縄に縛られているというのを見て島流しにされたと勘違いしているのだろう。
ゾロは都合がいいと逃げ出した2人に対しブチ切れ寸前ではあるが否定はしなかった。
すると魚人はアスカの存在に気づき、ゾロの膝にいるアスカの耳を掴み顔を近づける。
『ぎょじん』という文字は、魚に人、と書いて魚人と読む。
その名の通り海に住むため、彼らの体は生臭い。
ものすごく生臭い。
ウサギになると嗅覚が人より何十倍も優れるため、アスカには耐えられなかった。


「そいつはおれのペットだ。触んな」

「あ?ペットだ?―――ぐはッ!!」


アスカは耐えられないと遠慮なく自分の耳を掴む魚人の顔を遠慮なく足蹴りする。
先程ゾロの顔を蹴った力の倍力を入れたため、その威力は強く、痛いのか蹴られた魚人はしばらく悶えていた。
魚人が手を放した瞬間アスカは素早くゾロの膝の上に戻る。
人間に戻らないのは、下手に出ていれば魚人に隙が出来るだろうと思ったからだろう。


「お前…ウサギになっても容赦ねェな…」

「きゅ。」


言葉なく痛みに悶える魚人を見て、ゾロは顔を引き攣らせながら自分の膝に戻るアスカを見下ろした。
ゾロの言葉にアスカは得意げにひと鳴きした。

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