(19 / 21) 頂上戦争 (19)

「………、…」


ミコトは深い眠りからふと目を覚ます。


「起きたか?ミコト」


夢を見ないほど深く眠っていたミコトは髪を撫でられる手に目を覚ました。
声の方へ顔を傾ければ、そこには白ひげと同じ四皇のシャンクスがいた。
シャンクスはベットの脇に座り目を覚ましたミコトを覗き込んでいた。


「…………」

「おれが分かるか?」

「………変態です…」

「ハハ…当たりだ」


まだ寝ぼけているのかぼうっとしているミコトにシャンクスは意識がはっきりしているのかを見るため自分の名前を呼ばせることにしたのだが、いつものミコトの回答にシャンクスは苦笑いを浮かべる。
しかしその苦笑いのなかには安堵もあった。


「ここはどこです」

「ここはおれの船だ」

「…なぜわたくしはあなたの船に…戦争はどうしたんです?ルフィとアスカは今どこに…」


シャンクスの顔から目線をずらし部屋を見渡せば見慣れた部屋だった。
聞けばやはりシャンクスの寝室で、ここは赤髪の船、レッド・フォース号であるらしい。
記憶している中でこの目の前の男がマリンフォードにいたという認識はなく、疑問に感じる。
それを口にして質問攻めにすればシャンクスは困ったように笑った。


「待て待て、順番に聞いてくれ……そうだな…まず、戦争は終わったよ」

「…どちらの勝利で」

「海軍だ」

「………」


戦争は終わったと聞き、まず思ったのがどちらが勝ち、どちらが負けたのかということ。
シャンクスの言葉にミコトは『そう』と息を吐くように小さく零す。
海軍が勝ち、どんな感情か読み取れないミコトにシャンクスは気にすることなく続ける。


「お前がここにいるのは、おれがあの後マリンフォードにいたから」

「なぜあなたがマリンフォードに…」

「戦争を終わらせに」


シャンクスの言葉にミコトは納得する。
何となく、あの戦場の惨状を想像出来た。
士気が上がれば上がるほど冷ますのは難しい。
ミコトは海兵となり大将なってそれを知った。
あの生ぬるい平和ボケした国では決して味わえない恐怖と……そして興奮。
戦争を終えた今でも思い出せば興奮にゾクリとさせる。


「ではルフィとアスカは…」

「同じルーキーが助けに来てな…そのルーキーの潜水艦で逃げた……黄猿と青雉の追い撃ちにあっていたが……おそらくは無事だろう」

「そう…なら、いいです……あの子たちが無事であれば、なんでも…」


海兵として生きる道を選び弟を見捨てる覚悟をしていても…やはり心の底から弟達の事を見捨てることはできない。
ガープでさえルフィを相手に本気が出せず倒されてしまったのだから、人の感情というものは厄介なものである。
しかし無事であればそれでいい、とミコトは安堵した。
ルフィとアスカを思い浮かべていると、エースを思い出す。


「それで…エースは…」

「…………」

「エースも…助かりましたよね…」

「…………」

「あの子は生きているんでしょ?」

「…………」


あの時、まだミコトが白ひげに海軍本部に叩きこまれ気を失う時…まだエースは生きていた。
ちゃんとルフィとアスカの傍にいた姿を覚えていた。
そのあとの事は気を失っていて知らないミコトはシャンクスにエースの事を聞く。
否…縋った。
ミコトはシャンクスの反応で全てが分かったのだ。
――エースが死んだのだと。
口を閉ざし目を瞑って顔を背けるシャンクスにミコトは起き上がって彼の腕に縋りつく。
その瞳には涙が溜まっていた。
何も言わず、シャンクスは言葉ではなく…首を振って答えた。
その答えにミコトはシャンクスの胸元に項垂れるように顔を寄せた。


「……そう…ですか………そう…あの子は…死んでしまったのですね…」

「…白ひげを"敗北者"と呼んだ奴が許せなくてな…それで…」

「……エースらしい…白ひげには…本当…感謝をしてもしきれないほどの恩が出来てしまいました…白ひげは…あの子を愛してくれたのですね…」


シャンクスからエースの最期を聞きミコトは笑みを浮かべた。
瞳から涙が溢れながも笑みを浮かべるミコトにシャンクスはミコトを抱き寄せるしかできなかった。
シャンクスはあえて『白ひげを敗北者と呼んだ人物』を伏せたが、ミコトには誰だか分かった。
白ひげに向かって『敗北者』と罵れる人物…そしてエースを殺すことができるほどの実力者…―――赤犬・サカズキ。
あの海賊を誰よりも憎んでいるような彼の激情を思えば納得する。
しかしミコトはサカズキを憎むことはなかった。
彼は彼の正義を全うしたまで。
そしてその正義をミコトもまた背負っているのだ。
海兵として生きる道を選んだ時点でミコトはサカズキと同類である。
恨む資格など元からありはしない。


「この戦争で得たものは大きいです…おそらく、両方の意味で…」

「ああ」


海軍が勝利し、恐らくは多くの人は喜んだだろう。
しかし白ひげの名で守られて来た者たちは絶望を味わうことになる。
海軍はその人達まで守ることはない。
また粗暴な海賊に恐怖で支配されるしかないのだ。
それを思えば海軍の失ったものというのは大きい。
しかし逆に得たものも大きい。
海賊最強と言われた男を殺したという事実は、海軍の強さを表すものでもある。


(情勢は大きく変わる…)


白ひげという巨大な勢力を亡くした後の世界がどうなるかなど…ミコトには分からない。
だけど海軍も変わらざるを得ないのだという事は分かっていた。
この戦争はそれほど大きなものであった。
ミコトはシャンクスの腕に中、目を瞑る。


「色々…失いました……海兵達…海賊達……白ひげに…エース………そして…唯一の腹心の部下…」


目を瞑ると色々失ったものを思い浮かべる。
多くの海兵達に海賊達。
白ひげという強大な海賊に、弟のエース。
そして、腹心の部下。
ミコトは多くの者を失った。


「…腹心の部下?」

「コテツを覚えていますか」

「ああ…0番隊の隊長だろ?」

「…あの子はわたくしの部下です」

「…!」


ミコトの言葉にシャンクスは首を傾げた。
腹心の部下と言えば自分に敵意丸出しのアルダやミーナの面々。
だが、シャンクスが来たときアルダもミーナも生きていた。
そう思い怪訝とさせるとミコトの言葉に目を見張る。
コテツ…と言えば、白ひげ海賊団、0番隊隊長という要の地位にいる若い男。
若いが腕は確かで、シャンクスの覇王色の覇気にも耐えれるほどの男。
部下たちに慕われ、仲間達…とくにマルコと仲が良かったな…とシャンクスは頭の端でそう思う。


「…シャンクス……」

「ん?」

「コテツに会わせてください」


悲しげな表情でミコトにシャンクスは…


「…………ああ…」


頷くしか、なかった。

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