その頃、マルコはコテツの遺体が安置しているシャンクスの船にいた。
「…………」
棺に入っているコテツは青白い顔色をしていて生きていないのが一目で分かる。
しかし、その表情はとても柔らかく幸せそうだった。
「お前は馬鹿やろうだよい…なんで海兵を庇いやがったんだ…」
コテツとは白ひげ海賊団の中で一番仲がいいと断言できるほど親友ともいえる仲だった。
だからコテツが最後に黒蝶を庇って死んだのを見て、マルコは信じられずにいた。
マルコから見てもコテツは海兵を…特に黒蝶を憎んでいるように見えたから。
グッと涙を呑みコテツにぼやいていると…
「マルコ」
「!」
マルコの背後にシャンクスが声をかけてきた。
シャンクスの声にハッとさせ振り替えると、シャンクスの後ろにいる人物に目を丸くする。
「こ、黒蝶!?なんでお前がここに…!!」
シャンクスの後ろにいたのは、フードを被ったミコトだった。
敵であるミコトがここにいるのも驚きだが、何よりミコトは頭を撃たれて死んだはずだとマルコは驚く。
驚くマルコにシャンクスは『おれが助けたんだ』と説明してやり、マルコはまだ混乱している中で無理矢理自分を納得させる。
「それで…どういうつもりで連れて来た」
「マルコ…ミコトは今、敵じゃない…殺気を抑えてくれないか」
「……今は敵じゃなくともこいつは海兵だよい…それも大将だ」
「今は違う。今はただのミコトだ…」
「…………」
マルコからしたらほんの数時間前まで敵として命の奪い合いをした相手が目の前におり、平然としていられる方がおかしい。
そんな言い訳が聞けるか、と睨むマルコにシャンクスはミコトがエースの姉という事を明かす。
マルコは比較的冷静でいられる男と踏んだシャンクスの読みは当たり、ミコトがエースの姉という言葉にマルコは白ひげの船に来た行動も納得した。
「それで…エースの姉がなんでコテツに会いにきたんだよい」
「コテツはわたくしの部下でした」
「!?」
「コテツが白ひげに入る事は計画の一部だったのです」
「…スパイ、ってことかよい」
計画、というのが引っかかるが、仲間がまさかスパイだったとは思っていなかったマルコは親友のように仲が良かったというのもあってショックが隠せないでいた。
そんなマルコにミコトは首を振る。
「コテツはスパイではありません」
「?、だが今あんたはそう言ったじゃないのか」
「…正確に言えば、コテツはエースを止めるために送っただけ…海軍とは全く関わりはありません」
「――エースを?」
ミコトの言葉にマルコは怪訝とさせた。
スパイではないと言うが、大将であるミコトの部下だというのならばそれはスパイであるはずなのだ。
しかしそれをミコトが否定する。
しかもコテツが白ひげ海賊団に入ったのは今は亡きエースのためだという。
マルコはミコトの言っている意味を、『海賊になるのを止める姉の言葉』として受け止めた。
しかし、続いたミコトの言葉はマルコには信じられないものだった。
「わたくしは…分かってました………エースが黒ひげと戦い、捕まり……あの戦争が起こることを」
「な…ッ!?」
「だからわたくしはコテツを白ひげに紛れ込ませ内部からもエースを止めるよう説得させようとしていたのです」
「ちょ、っと…待て…!ちょっと待てよい!!!あんたの…その言い分じゃァ…エースがうちに入る前から分かってたってことだよな!?」
コテツが海賊団に入ったのはエースが来る前の事。
傷だらけで遭難していたコテツを拾ったのは誰でもない…マルコだった。
海兵だったというのはコテツから聞いていたし、傷だらけの理由も聞いていた。
だからマルコは全く信じきれなかった。
今ミコトが言っているのは、未来予知もいいとこである。
自分の言葉に頷くミコトにマルコは頭を抱え、シャンクスは目を丸くしながらも静かにミコトを見つめていた。
「こんな時に冗談はよしてくれよい!!そんなの信じられるわけがねェだろうが!!」
「別にあなたに信じてもらえなくても構いません…事実は事実ですし」
「じゃあなんでエースは死んだ!!なんでオヤジやコテツが死んだ…!!あんた未来が見えてたんなら!!なんで…ッ!!―――ッなんで海軍を裏切ってまで弟を守ろうとしなかったんだよ!!!あんたあいつの…エースの姉じゃねェのか!!!」
「―――マルコ!!」
未来予知を信じるにせよ、疑うにせよ…そこまで読んでいたのならなぜミコトは海兵のままにいたのか…マルコは感情が高ぶり思わずミコトにぶつけた。
マルコの責める言葉にシャンクスが声を上げたが、ミコトに止められてしまう。
手で遮られたシャンクスはミコトを見下ろすと、ミコトは涙するマルコを真っすぐ、目を逸らさず見つめ、彼の言葉を全て受け止める。
「恐らく…わたくしが海軍を裏切りあなた方に加勢しても…結果は変わらなったでしょう」
「なんでだ!!だってお前は大将なんだろう!?あれだけ最強だのなんだの言われておきながら…!!なんで…どうしてエースを見捨てた!!なぜコテツを見捨てた!!」
「わたくしが裏切ってあの子を救えたのなら……あの子は今…死んでいない…」
「…!」
「わたくしがあの子を救おうと手を回しても…この結果…」
「だから弟を捨てたってことかよ!部下も見殺しにして…!あんたは地位を守ったってことかよ!あんたはエースを救える力を持ってたっていうのに!!」
「では、なぜエースは死んだのです」
「!?」
「わたくしは確かに強いです…ですが白ひげは海賊最強とも言われた男…その男が味方にいながらなぜエースは死んだのです……あれだけ強者達がいながらも…なぜ…白ひげは…コテツは死んだのです…」
「それが運命だからってわけかよい…だからあんたは運命に逆らわなかったってことか」
「……わたくしは…エースが捕まり戦争が起こるのを知っていた…ですが…その結果は分からなった」
「結果が分からなかった?あんた戦争が起こるのを知ってるんだろ?じゃあ結果も見えただろうが」
「…結果は知りません…もうこの先の事も…分からない………だから私は賭けたんです」
「賭けた?」
「―――ルフィに…すべてを賭けました」
「…!」
「結果は負けてしまいましたが……あの子は海賊になったことをきっと後悔はしていませんでしょう…死んだとしても……自分の決めた道をあの子は恥じてはいない…だから私も海兵としての道に後悔などしないと決めたのです…あの子の敵になろうとも…あの子をこの手で殺そうとも…私は海兵になったことを誇りに思うようにと……そう決めました…」
マルコの言葉は正論だ。
姉のミコトが海軍を裏切ればあの戦争はもしかしたら海賊が勝っていたのかもしれない。
だからマルコは激情に任せてミコトを責めた。
ルフィやアスカがエースを守るために死ぬかもしれない戦争にわざわざ身を置いたのに…その彼らを守るべき姉であるミコトは海兵として平気な顔で弟のエースを奪おうとする海賊達を殺して阻んでいく…エースから姉がいるのも聞いており、彼がどれだけ姉を愛し弟や妹を愛していたかも知っていたマルコはどうしてもミコトが許せなかった。
ミコトには救う力があった。
しかしミコトはその力をエースの命を奪うことに使ったのだ。
仲間としてどうしても許せるものではない。
しかし、ミコトの言葉はどうであれ行動は冷静になれば理解できるものだった。
姉であれ弟であれ、ミコトは海軍大将という役柄を持ちいくら弟とはいえ簡単に裏切ることはできない位置にいた。
だがミコトの最後の言葉にマルコはハッとさせる。
ガープもそうだった。
エースを救おうとマルコが能力を使って助け出そうとしたとき、ガープは殴って止め、孫をも止めようとした。
あの時ガープはルフィを止める事が出来なかった。
恐らくルフィよりも強いであろうマルコを簡単に止めれたのに。
マルコはそれを思い出しミコトを見る。
ミコトは涙を流していないし、悲しんだ表情を浮かべているでもない…だけどマルコはどれだけ弟と敵対することが彼女にとって辛い選択だったのかを察した。
エースが海賊となった道を選びそれを誇りに思い後悔をしていないのなら…そのエースの姉であるミコトもまた海兵としての道を誇りに思い後悔はしていない。
恐らく、白ひげの海賊達を足止めしようとすればミコトにはできたはず。
しかしそれをせずコテツと戦うことが…ミコトなりの運命への抗いなのだろう。
「………」
マルコはこれ以上ミコトを責めるのをやめた。
まだミコトを許してはいないが、ミコトの心情に気付けばこれ以上責めることはできなかった。
コテツに会いに来たというミコトにマルコはミコトに場所を譲る。
ミコトが棺桶を覗けばコテツが眠るように死んでいるのが見えた。
そっとコテツの頬へ手を伸ばせば、すでにコテツの肌はひんやりと冷たくなっており生きていないのだな、とミコトは思う。
ミコトは能力でナイフを取り出し、髪を一つにまとめ…
「!?」
「ミコト!?何して…ッ!?」
ミコトはその髪をザックリと切った。
腰まであった髪が肩につくかつかない程度までしかなくなり、突然髪を切り出したミコトにマルコもシャンクスも目を丸くす。
そんな二人をよそにミコトは束ねた髪をコテツの棺に入れる。
「コテツがわたくしと共に眠りたいと言われましたので…」
以前、"コテツがコテツになる前"に髪が綺麗だと言われたのを思い出し、ミコトは共に眠りたいというコテツに己の髪を入れ共に埋葬することを選んだ。
ミコトの言葉にマルコは複雑そうな表情を浮かべ、眠るように死んでいる友人を見る。
「……あんた…エースの葬儀には出席するかい?」
「…………」
コテツを見つめながらマルコは戸惑いながら問う。
あの時は感情的になってミコトを責めてしまったが、エースの仲間である自分たちよりも、自らの意思とはいえ海兵である道を選んだミコトや孫のように愛したガープ、そして目の前でエースを失ったルフィやアスカの方が辛いに決まっている。
マルコの言葉にミコトは意外にも首を振り、苦笑いを浮かべた。
「わたくしが出れば白ひげの方々の気分を害しましょう…それにわたくしはエースに会いにいく資格はございませんもの」
「…おれは会いに行っても別にいいと思うけどね…あんたは……エースの姉なんだし」
マルコの言葉にミコトはキョトンとした顔を見せる。
目を瞬かせこちらを見てくるミコトにマルコは気まずげに顔を逸らし頬をかいた。
「…あの時は…責めたりして悪かった」
ミコトを責めてはいたが、思い出せば一度スクアードの行動を読んで白ひげを助けようとマルコに忠告したことを思い出す。
あの時はマルコが間に合わなかったが、もし間に合っていれば少しだけ状況も変わった気もした。
すぎたことを言っても無駄だしあの後は白ひげのおかげで持ち直したためマルコが間に合おうが何だろうが関係なかったのかもしれないが。
マルコの謝罪にミコトは目を細め『まあ』と笑った。
そして、ミコトはパチンと指を鳴らし、手に『ある物』を取り出す。
「それは…」
『隊長さん』、と呼ばれマルコはまだ恥ずかしいがミコトへ振り向けば、手元にある物に目を丸くする。
それはエースの帽子だった。
目を丸くして驚くマルコにミコトはそっと差し出した。
「エースと黒ひげが戦った場所で拾いました…もうわたくしがついた頃にはあの子も黒ひげもおらずこの帽子しか残っていなかったので拾っておいたのです……これを…あの子のお墓に置いてください」
「…いいのか?形見として取っておいてもいいが…あんたはエースの姉なんだからねい」
差し出されたその帽子を受け取るのは少し戸惑った。
いくら敵に回ったとしてもミコトはエースの姉。
エースの形見であるこの帽子を受け取る資格は十分にある。
だがミコトは静かに首を振るだけだった。
マルコはミコトの意思も汲み取り差し出されたその帽子を受け取った。
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