(55 / 293) ラビットガール (55)

島流しと信じた魚人達が縄に繋がれたままのゾロと、そのペットと思っているウサギ化したアスカを連れて、アーロンのもとへと連行した。


「だから女を一人探してるっつってんだろ!!!半魚野郎!!!」


ゾロはどこに行ってもゾロである。
ゾロは目の前に経ち並ぶ数多くの強面の魚人達を目の前にしながらも、挑発めいた事ばかり言い、アスカは予想通りのゾロに、ゾロの膝に乗りながらため息をつく。
魚人は人を恨んでいる。
それはアスカがあの天竜人の傍にいた時に一番肌に感じていた事だった。
天竜人の奴隷の中には人が多かったが、その中は多種多様な種族がいた。
人、巨人族、手長族、足長族……そして、魚人と、人魚。
あの場所では天竜人以外が動物にしかすぎず、人も、巨人族も…誰もが天竜人を憎み、恐れていた。
だが、一番その感情が強いと思った種族は、天竜人の隣で一番のペットの立場だったアスカから見て魚人だと感じていた。
あの彼らが天竜人を見る恨みを籠った目が今も忘れられない。


「そのバカみたいな持論は聞き飽きたわ、アーロン」

「!?―――な…ッ!」


人がどれだけ劣等な生き物なのか…アーロンが語っている時、ある人物が奥から現れた。
その人物とは、仲間のナミだった。
ナミの姿にゾロは驚き、アスカもウサギの真ん丸の目を更に丸くさせナミを見上げていた。
アーロンは睨むように見つめるナミにクツクツと笑って見せた。


「そう恐ェカオすんな!お前は別さナミ!!我らがアーロン一味の誇る有能な"測量士"だ!実に正確ないい海図を作ってくれる!!」

「あんた達とは脳ミソの出来が違うの…当然よ」


口の悪いナミにアーロン達は気分を害するでもなく笑って流す。
アスカは船にいた時のナミとは真逆の雰囲気を持つ彼女に少し戸惑い、近づくナミを見上げていた。
ナミはアスカの能力の事は聞いていて知っているが、ゾロ同様直に見たことはないためゾロの膝の上にいるのがアスカだと気づかない。
アスカの存在に気付かずナミはゾロに近づき自分がアーロン達の仲間だと断言した。


「宝を騙し盗ることなんざわけもねェこった!ましてバックにゃおれ達がいる」

「なるほどね…まぁおれはもともとコイツを信用してたわけじゃねェ。たとえ殺人鬼だろうと別に驚きゃしねェよ…おれは最初っからてめェがこういうロクでもねェ女だと見切ってた」


ナミを信用していないというのは本当なのだろう。
ただアスカと話しているナミの姿を見て少しだけ警戒を解いてしまったのだ。
だからゾロはナミがアーロンと手を組んでいたことに最初は驚いていたが、すぐに納得した。
そんなゾロをナミは見おろし鼻で笑った。


「フン…だったら話が早いわ。ダマされてたと理解できたら宝も航海術もあきらめて消えてくれる?目障りだから!!」


ナミのその言葉に、ゾロは何を考えているのか突然自ら海に飛び込んだ。
その際能力者のアスカを巻き込まれないように足で払い落して。
ポトリと落ちたアスカは慌ててゾロの落ちた海へ駆け寄ろうとしたが、その横を誰かが駆け、ボトンと音をさせながら海へ飛び込んだ。
その飛び込んだ人物はナミだった。
アーロン達は自ら死を選び飛び込んだゾロを追いかけるように飛び込むナミに驚いていた。
アスカは心配なのかきゅーきゅー鳴きながら水面を見つめる。
海が怖くて助け出せない焦りもあり2人が上がってくる時間が長く感じた。
暫くするとナミが縄で繋がれて泳げないゾロを連れて上がってきた。


「何のつもりよ…」

「てめェこそ、何のつもりだ……人一人も見殺しにできねェような小物が…粋がってんじゃねェぞ!!さっさと助けやがれバカ。死ぬかと思ったぜ…」

「ッ―――フザけんなっ!!!」


息を上げながらナミは突然海に身を投げ出したゾロを睨みながら問う。
その問いにゾロはニヤリと笑って見せ、その言葉にナミはカッと頭に血を上らせゾロの腹を蹴る。
まだ傷が癒えていないゾロはその蹴りに声を上げ、そんなゾロを気にもせず首を掴みギロリと睨んだ。


「これ以上私に関わると死ぬわよ!!」

「どうだか…」

「……たいそうな包帯ね」

「服の替えがなくてよ…かわりだ」


またゾロの言葉が癪に障ったのか包帯を巻いている怪我をしているであろうところをナミは思いっきり力を入れて拳を入れる。
その痛みは流石にゾロでも悶えるほどで、遠目だが見ていたアスカも痛そうに顔を歪めるほどである。
結局ゾロはそのまま牢に入れられてしまい、アスカは一人敵陣に取り残されてしまった。


「きゅー…」

「あ?なんだこのウサギ」

「きゅー!」


アスカはゾロが連れてかれるのを見ながらそっとナミの足元に移動する。
そしてナミに擦り寄り、持ち前のジャンプ力でナミの胸へダイブする。
ナミは反射的に受け止めウサギを見下ろすと、そのウサギは小柄だが綺麗な真っ白なフワフワした毛を持っていた。


「ウサギ…?」

「きゅ!」

「こいつナミに懐いたのか?」

「?」

「剣士と一緒にいたウサギだ。多分不甲斐無いご主人様に愛想尽かしたんだろ」

「…………」


魚人は人間には慈悲というものを持ち合わせていない。
だが普通の動物は違うらしい。
可愛がるというわけではないが、興味もない様で、そのウサギが実はゾロの仲間で同じくナミを連れ戻しに来ていた事に気づかずにいた。
アスカはこれでもかと苦手な猫かぶりをしウルウルと目を潤ませてナミを見上げる。
その姿はさながら某CMのようで、『私を見捨てないで』と言わんばかりだった。
ナミは疎ましそうに、しかし困ったようにウサギを見てしまい、結局、ナミはウサギに負けた。

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