はあ、はあ、と少女の息切れが森に響く。
鳥の声が所々に聞こえ、少女はその度に普通の人間には決して生えないはずの兎の長い耳をそちらに向ける。
耳を鳥の声がする方向へと向けても少女の足は決して止まらず真っ直ぐ前だけを歩き続けていた。
しかし少女の足は重く表情も疲れはてて顔色はあまりよくない。
生い茂る木々をゆっくりと抜け、大きい葉っぱを目の前から手で避けると視界が一気に開き、少女は森を抜けたと息をついた。
しかし先は崖となっておりどう見ても飛び降りたら死ぬしかない。
「ルフィーーー!!みんなーーっ!!!」
少女ことアスカは思いっきり息を吸い声を大にして仲間に呼びかける。
しかし、仲間からの返答はなくアスカの声は空しくも清清しい青空へと消えていった。
アスカは返事もなくただ自分の声が木霊するのを耳にしながら疲れたように溜息をつき腰に手を当てた。
「あれから色んな場所をさ迷い続けて一週間…みんな何処にいるんだろう…」
辺りを見渡すとそこには島、島、島の島だらけだった。
しかしそこには海はなかった。
否、海は確かにある。
しかし島と共に浮いており、アスカがいる島を含め周りにある島という島は全て宙に浮いていた。
その原理はアスカには分からない。
しかしアスカの脳裏にある人物が浮かび上がり眉間にシワを寄せる。
「あいつ…絶対許さないんだから…」
そうアスカが呟いたその瞬間、背後から巨大なサソリが姿を現す。
生い茂っていた木々を踏み倒しながら現れたサソリにアスカは更に不機嫌そうな表情を浮かべ慌てる事なくサソリへと振り返る。
「しつこい!!今あんたの相手してる暇なんてないの!!」
声をあげ自分を見下ろすサソリを睨みつけるアスカ。
そんなアスカを見下ろすそのサソリは誰が見ても異常な生態系を持っていた。
まず最初に驚くのはその大きさだろう。
生い茂る樹木には勝てないもののそのサソリは人間よりも数百倍の大きさを持っている。
さらに両手に付けられてるハサミ。
ずっとアスカを追いかけていたサソリのそのハサミは自分の手足よりも数倍太い樹木をいとも簡単に切断していたのだ。
それも切り口は綺麗なもので、到底サソリのハサミで切ったとは思えないほど鋭利なものである。
顔つきも恐ろしげで、サソリが鳴くかはアスカには分からないが、鳴き声も猛獣そのもの。
唯一サソリらしいモノと言えば色と姿形だけだろう。
サソリは怯える様子もないアスカをギロッと恐ろしい形相で睨みつけ、巨大な身体を持つサソリとは思えない程の素早い速さでアスカに向かってハサミを振り下ろした。
ドシン、と大きな音と共に砂煙が舞う。
しかしゆっくりとサソリがハサミを退かすもそこにはアスカの姿はない。
それを不思議に思っているとサソリはふと自分の顔に影が掛かったのを感じ何気なく顔を上げる。
「"ラビットファイト"!!」
サソリの大きな瞳が人影を捉えたと思った途端に頭頂に鈍い衝撃が襲い、サソリはそのまま何が何か分からないまま目の前が真っ黒になりそしてそのまま大きな音を立てながら倒れ気を失う。
その傍らにその衝撃の正体、アスカが軽やかに降り立った。
「ったく…頑丈だけが取り柄の男ってやーね。」
呆れたように溜息をつきながら目を白くし泡を吹いて意識がないサソリをギロリ、と睨むように横目で見つめるが、本当にこの伸びているサソリが雄なのか雌なのかは不明である。
アスカは『さて、と…』、とサソリから崖の下へと目線を落とした。
そこは相変わらず空が近く海が遠い。
海賊として海が恋しい半分、能力者として海がないは移動は楽だとアスカは思いながら大の男でも肝を冷やすほどの高さから平然と下を見つめていた。
「この島はあらかた見たから次行こうかな。」
そう呟いたと思ったその瞬間、アスカはまるでマットの上に飛び込むように戸惑いもなく崖から身を投げる。
そして、アスカはすぐに緑に覆われている森へと姿を消した。
森へ姿を消したアスカが仲間とバラバラとなり、そしてこの空中に浮かぶ不思議な島々を渡る事になったのは今から一週間前に遡る。
「
東の海でなんだって?」
新聞を見ていたナミの言葉にルフィは顔を上げる。
「『襲い掛かる脅威…突如消えゆく街の謎…』…――東の海で、一夜にして次々と街が滅びてるみたい…」
『今のところ私達の関係ある島は無事みたいだけど…それもいつまで続くか…』と不安気に呟きながらナミは見ていた新聞をルフィに渡し、ルフィはその新聞に目を通す。
隣にいたウソップもナミの説明を聞き怖々とした様子でルフィの横で新聞を覗き込んでいた。
アスカも"東の海"の出身だからか、気になり階段を降りてウソップとは反対から新聞を覗き込む。
「ルフィと、アスカと、ゾロと、ナミと、ウソップは、東の海の出身なんだ。」
「あ、そうでしたか…」
「あれ?サンジもだっけ?」
「ん?まぁ…生まれは
北の海だが…育ちは東だ…」
チョッパーはタバコを吹かすブルックにルフィ達が東の海の出身だと教えるが、ふとサンジもルフィ達と同じ出身だっただろうか、と頭に過ぎり、サンジに聞くがサンジからは曖昧な返事が返ってきた。
するとルフィと同じ記事を読んでいたウソップが何かに気付き怪訝そうに眉をひそめる。
「なんだこりゃ…隕石?」
ウソップ、ルフィ、アスカが目に映すそれは東の海で起こった事件の写真だった。
そこには白黒でハッキリしないが巨大な隕石のようなモノが落下した様子が描かれており、その周りにはチラホラと海兵が立って隕石のようなモノを調べている様子も見える。
ルフィも何も言わないまでもその写真に違和感を覚えているのかウソップと同じく怪訝そうに写真を見つめていた。
すると突然雲がかかった様に辺りが暗くなり、ルフィ達は辺りを見渡す。
「あ…!」
ルフィがふと顔を上げると目を丸くさせ声を零す。
それに釣られアスカ達も顔を空へと上げるとそこには巨大な島が自分達の頭上を飛んで越えようとしていた。
「な、なんりゃありゃああああ!!!」
「島が…!!」
「何で飛んでるんだ!?あの島!」
ルフィだけではなく、島が飛んでいるという理解不能な事が目の前で起こりアスカ達は驚愕していた。
島はサニー号の頭上を通り過ぎる。
サニー号にいた全員が口を開けて唖然と島を見上げていた。
ルフィが腕を伸ばし島を追うように船首へと向かったのを皮切りにアスカ達も慌てた様子でルフィの後を追う。
「帆があるわ…」
「船か?ありゃあ…」
「ドクロだ!!海賊船か?」
舵輪を握り舵を取るフランキーの横でロビンがポツリと呟く。
島に見えたソレは良く見ると帆があり、まるで海を漕いでいる様にオールが数え切れないほど並んでいた。
遅れてやって来たウソップが望遠鏡でその島を見ると風に揺られる黒い旗…海賊旗が揺らめいていた。
ウソップの言葉を耳にしながらサンジは『空飛ぶ島舟かよ…!』と信じられないように呟いたその時、後ろで皆と同じく唖然と見上げていたナミがふと何かに気付き空に浮かぶ島から顔を背け遠くの空を見つめる。
「この方向はまずいわルフィ!!もうじきサイクロンが来る…!!」
風でサイクロンがくると気付いたナミは慌てて船首にいるルフィへと声をかける。
ルフィはナミの勘とも言える言葉を信じ、そしてアスカ達も疑いもなく信じる。
アスカ達以外の人間からしたらこんな青空でなんでサイクロン?と思うだろうが、アスカ達が信じる訳は仲間だからというのもあるが、何より共に旅をしナミの予想が外れたことはなかったからである。
戦闘員としては下から数えた方が早いナミだが、航海士としては誰よりも群を抜いている。
そんなナミの言葉にルフィは無謀にも自分達の頭上を飛んでいく島舟に両手を大きく振り、声を張り上げた。
「おーい!!そっちはサイクロンが来るぞーー!!」
「お、おい!大丈夫か!?」
得たいの知れない海賊に何の考えもなく声をかけるルフィにビビリなら誰にも負けないウソップは慌てだす。
慌てだすウソップの隣では相変わらずな冷静さを持つアスカがお人よしの幼馴染に小さく溜息をついていた。
「…何か叫んでいるようですが……」
本当に何も考えていないルフィの行動にサニーよりもはるか上空を進む島舟の中にいる船員が気付いた。
モニターに映し出される自分達の船よりも小さな船に乗るルフィが手を降っているのを怪訝そうに見つめながら、船員は後ろを振り返る。
そこには王座に座る男がおり、その男は歌舞伎のように金髪の髪を長く伸ばし、頭には舵輪が刺さっていた。
足を見れば両足が切断され義足の代わりに剣が食い込んでいる。
その前横には一見も何も完全にピエロな男と、どう見ても派手な衣装を着ているゴリラだとしか思えない生き物と、2人に比べるとまるで子供のように小さくオタク丸出しの眼鏡に灰色の髪を綺麗にミツ編みにし前に垂らし、頬にはそばかすを散りばめ白衣をだらしなく着る少女が一緒になってコタツを囲み蜜柑を食べていた。
「海賊か?」
「そのようで…」
玉座に座る男の問いに船員はモニターにもう一度目線を戻した後男に振り返り頷く。
モニターには小さいがクッキリと海賊旗が映し出されていた。
「モニカ」
「はいはーい!」
船員の言葉に男は自分の前横でピエロとゴリラと共に美味しそうに蜜柑を食べる少女へと声をかける。
モニカと呼ばれた少女はピエロとゴリラと蜜柑のうんちくやら美味いやら不味いやらを話していた顔を上げ、男の前に素早く駆け寄り綺麗な敬礼を見せる。
「何の用か聞いて来い」
「えー!シキたんが聞けばいいじゃないっすか〜!!アタシ先輩達と蜜柑の食べ比べをしてるところなんすよ!大体トーンダイヤル使えばよくね?」
「使い方分からんだろ。」
『ほら!!これなんてすっぱくて美味しくないんすよ!!シキたん食べて!!』と蜜柑を男に投げる。
シキと呼ばれた男はモニカが投げた蜜柑をキャッチし、それを1つずつ食べながら肩をすくめた。
その際『うわっ…すっぱ!』と呟くのを忘れずに。
モニカはシキのその呟きに『でしょー?』と返しながら仕方ないと言わんばかりにシキに背を向け、目を閉じる。
すると…
「"フライング・ミスト"」
モニカの体が一瞬にして霧状となり、その霧状のモノが海面に浮いている海賊船へと向かっていった。
それを見送ったシキはまたひとつ蜜柑を口に含み「すっぱ!」と顔を歪めた。
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