(56 / 293) ラビットガール (56)

あれからアスカは一度ナミに捨てられた。
と、言ったら誤解を招くが、ナミはウサギを野生に返そうとしていた。
野に放とうとした際ナミはふわふわの毛並を撫でながら『もう自由だよ』と呟き、アスカはナミの表情が辛そうに見えた。
その後アスカは『じゃあね、もうあんな奴(ゾロ)に捕まるんじゃないよ』と言ってアスカから離れようとする。
しかし、アスカがナミを追いかけ、ナミはそれに気づきまた森へ帰そうとした。
だがアスカは負けじとナミの後を追い、結局ナミはアスカを連れて家に帰ることになった。
ナミの家らしいその場所はミカンのいい匂いがした。
周りはミカンの木に囲まれており、ウサギ化している今は人より嗅覚が優れており、その香りは強い。
しかし嫌な臭いではない。
アスカは家でもナミの後を追いかけていたためゲージに入れられてしまう。


(このまま人間に戻ったらどうなんだろう…)


動物を飼ったことがないこの家にはゲージはなく、近所からもう使わらなくなったゲージを貰い、ナミはウサギに扮したアスカをゲージに入れる。
ゲージに入れられ、にんじんやらキャベツやらを貰い、ウサギ化しているので美味しく頂きながらアスカは不意にこのまま人間に戻ったらどうなるのかを考えた。
物凄く暇なのだろう。
人間に戻ったらゲージが壊れるか、だが…一度もしたことがなため分からない。
しかし確実に言えることは人の体に耐えられなくなり壊れたゲージによってアスカの背中は傷を負うであろう事である。


(そういやルフィってもう来てんのかな…)


中々外に出る隙が無くて遠い目をしていると、その先にある窓から覗く麦わら帽子を見てアスカはルフィを思い出す。
あの窓の外には麦わら帽子をかぶったルフィ…ではなく、麦わら帽子をかぶった長身のウサギが待機している。
普通サイズの場合麦わら帽子はどうしても邪魔になるので、長身のウサギを出して代わりに被ってもらっているのである。
この帽子がある限り、ルフィは簡単には死なないと思えるのだ。
この帽子がある限り、ルフィは自分のところに帰ってきてくれると…そう思えるのである。
そう思うとあの帽子を見ていると不安が一気に吹き飛ぶ気がする。
アスカがルフィの事を思い出していた時、出かけていたナミが帰ってきた。
しかしナミは暴れに暴れ、家の中がグチャグチャになってしまった。


(あれま、荒れてら…)

「派手に荒らしてくれたねナミ。どうした?」

「べつに!ちょっと休みに来ただけ」

「ちょっと休みに来ただけでいちいちガラスや家具壊されたんじゃたまんないよ。何でもないのにあんたがその宝の地図を開く?あたしには何でも話すって約束だろ?」

「ちょっと頭に来ることがあっただけよ!!」


ナミの荒れようからして、アスカはすぐにルフィの事を脳裏に浮かべた。
そして、ナミの姉であるノジコがウソップに会っていたという話しを聞き、アスカは確信を持った。
ナミはウソップに会ったという姉の言葉にポツポツと呟くように何かあったのかを語る。
やはりアスカが予想していた通り、ナミはルフィ達と会ったらしい。
感情をさらけ出すというのは案外疲れるものである。
アスカはもうその疲れもとうの昔に忘れたが、ナミは怒りという感情をさらけ出し疲れて眠ってしまった。
ノジコはウサギが本当はその"仲間"だという真実を知らないため、誰もいないと思っているノジコはナミにとって"仲間"という言葉は一番辛いのだと呟いた。
その呟きにアスカはノジコからナミへと静かに視線を戻す。







「寝ちゃったか…ノジコ?…どこ行ったんだろ…」


目が覚めたナミは周りを見渡し、姉がいないことに気付き、外に出ようとアスカをゲージの柵の間から指でひと撫でし家を出た。
ゲージの中から見るナミは辛いとか、悲しいとかではなく、どこか疲れ果ててるような気がした。


(……しかし…本当にどうやって出ようか…)


そろそろ外に出て本来の姿に戻ってルフィ達と合流したいと思っているが、ノジコもナミもアスカを可愛がる余裕はないのか中々外に出しては貰えない。
どうしようかと思っていると、外が騒がしくなりアスカは外に繋がっている玄関へ目をやった。
建物が邪魔で全ては見えないが、何故かアーロンに支配されているはずの村に海軍達が現れた。
本来ならこの海軍は村を助けるために来たのだと思う。
アスカも一瞬だけだがそう思ったのだが、様子が可笑しい事に気づく。
どうも銃や武器を携帯していないのだ。
海賊に支配されている島で、のんびりと優雅に歩いていた。
耳を動かし外の様子をうかがっていると、海軍達はどうやらナミの盗品を回収しに来たらしい。
それもアーロンの許しを得て。
それを聞いた瞬間、そして銃声の音を聞いた瞬間、アスカは目の前が真っ赤になった。
ゲージの事など忘れそのままウサギ化を解除したアスカの体は少しずつ全身の毛が引いていき、素肌が現れる。
小柄なウサギが少女へ変わっていき、ゲージはその容量に耐えきれず壊れてしまった。
そのせいでアスカの背中には多くの傷がつき、血がどんどん流れていく。
背中から足を伝って流れる血で床が汚れようが今のアスカには関係なく、怒りをぶつけるようにそのまま窓を突き破って海兵達を指示していたネズミのような男に蹴りを当てた。


「なっ!…アスカ!!?」


ナミは窓のガラスを割り、ネズミのような男…海軍大佐を蹴って登場するアスカに目を丸くした。
アスカはナミの驚く声などよそに蹴り飛ばした男に向かって親指を下へと向けた。


「お前達此処から出てけ!!海軍の面汚しども!!」

「きっ!き、貴様…っ!!よくも私を足蹴りしてくれたな!!私が誰だか知ってるのか!?私は海軍大佐なんだぞ!!!」

「知るか!大佐がなんだ!!あんたみたいな奴がいるからお姉さま達海軍が馬鹿にされんのよ!!アホ!バカ!!!とっとと出てけ!!」

「ッ〜〜おい!!お前達!!こいつを捕らえろ!!!」

「は、はっ!!」


ガラスを破って登場したため、着地し男に近づけば地面に散らばるガラスがアスカの足に刺さって痛みが襲る。
だが、今は怒りで痛みが鈍っているのか赤い足跡を作っているというのにアスカは大佐を罵り続ける。
今、アスカは二つの怒りを感じている。
1つは、当然ナミの事。
ナミがどうしてお金をここに集めて隠しているかはまだアスカには分からないが、アスカはどうしてもナミが悪い人間だと思う事は出来なかった。
だから何か理由があるのだろうと思っていたし、一億ベリーもの大金を泥棒をしてでも集めるのはとても大変だっただろう。
ナミと一緒にいるとナミが泥棒に落ちたのが不思議なくらいアスカにとってナミはいいお姉さんであり友達だった。
そんなナミのお金や努力を簡単に奪おうとすることが許せなかった。
もう1つは、姉と慕うミコトと同じ海軍でありながらも海賊と手を組むこの男達がどうしても許せなかったのだ。
支部と本部の違いはアスカには分からないが、正義もなにもないこの男達のせいで一生懸命弱い人間を助けようとしている海兵や、努力して女だてらに海兵をしている姉の顔に泥を塗るようなこの大佐が死ぬほど許せなかった。
どちらも譲れない思いに襲い掛かる海兵達をアスカは力いっぱい振り払い、ネズミ顔の男をアスカは腕をウサギ化し思いっきり殴った。
その腕力に吹き飛んだ男を、アスカは長身の下僕ウサギを出して男を受け止めさせ、更に残った腕をもウサギ化し長身の下僕ウサギに男を固定させタコ殴りにする。
汚職しか能がない男は能力者であるアスカに抗う事は出来なかった。
アスカは本気で死ぬまで大佐を殴ろうと思っていたのだが……銃声が鳴り響き、アスカの腕は止まった。


「…ッ!」

「アスカ!!!」


一発の銃声が聞こえ、アスカの体に何かの衝撃を受けた。
その衝撃にアスカの腕は止まり、アスカの耳にナミの焦ったような声が届く。
アスカはその衝撃に我に返ると痛みが一気に体に走る。
足も背中も痛い中、脇腹も痛みが走っているのに気付き、アスカはゆっくりと下を見ようとした。
しかし、その瞬間、また銃声が鳴り、今度は三発の銃声が鳴り響いた。
後ろを向けばこちらに向かって海兵達が銃を構えており、アスカはそれを見て自分はあの海兵達に銃で撃たれたのだと気づいた。



「アスカ!!アスカ…ッ!!」

「…、ッ」

「私に逆らうからだ!…宝は押収した!行くぞ!」

「はッ!」



それでもアスカは今度は大佐ではなく銃を向ける海兵に標的を変えた。
アスカにとってミコトがいるから海兵は味方・見逃す存在ではない。
アスカの中ではミコトはミコト、海兵は海兵である。
4発撃たれたはずなのにこちらに向かってくるアスカに海兵達は動揺が広がり今度は両足に二発撃つ。
足を撃たれ流石に立っていられず膝をついた。
アスカが痛みで能力を解除したためウサギが消え解放されたアスカに顔をフルボッコされた男はふらつきながらもアスカに歩み寄り膝をつくアスカの傷だらけの背中を足で蹴りつけ、アスカは力なく地面に伏した。
倒れたアスカにナミやノジコ、村長のゲンが駆け寄り、そんな三人を尻目に大佐は部下が見つけた大金を持ってその場を去った。


「アスカ!!ねェ!アスカ!!返事して…っ!!」

「お、おい!君!!大丈夫か!?」


ナミとノジコの家に海兵達がわらわらと乗り込み、ナミの叫び声や銃声を聞き村人達も集まってきていた。
海兵達がどこかへ消えた後、ゲン達のもとへ駆けよれば、見知らぬ少女が血だらけになって倒れているのが見え、みんな慌てふためく。
ナミも血だらけで痛みに体を震わせて倒れるアスカの名を呼ぶが、ナミの声にまったく反応しないアスカに涙が溢れる。
すると騒めく村人たちを押しのけ、なんともまぁ…呑気な声がナミの耳に届く。


「おい、ナミ…どうした?なんか手伝うか?」

「―――っ!?…まだここにいたの?」


その呑気な声とは、ルフィだった。
ルフィは騒ぎが起き気になったのかナミに声を掛けたのだが、今のナミにルフィの姿は逆撫でする行為でしかなく、案の定ナミは涙を浮かべたその瞳をギロリと鋭くさせルフィを睨んだ。
ナミはそのままルフィが何か言う前に、ルフィの胸倉を掴んだ。


「あんたには関係ないっ!!! さっさと島から出てって!!!」


そう言うとナミはそのままどこかへ向かって走ってしまう。


「なんなんだ、あいつ…」

「ル、フィ…」

「!――アスカ!?どうしたその傷は…!?」

「……か、いぐんに…っ」

「た、大変だッ!!医者!医者は何処だ!?」

「私が医者を呼んで来る!ノジコ!部屋を貸してやれ!」

「う、うん!」


ナミを連れ戻す気でいたからナミばかり気になっていたが、アスカの存在に気づいたルフィは、アスカの血だらけな姿に目を丸くし絶句する。
今にも気絶しそうなアスカを抱き上げルフィは医者を探そうと走り出そうとしていた。
そんなルフィをゲンが引き留め、ノジコに部屋を貸してやれと伝えながら医者を呼びに向かった。
ノジコは血だらけのアスカを見て自分が怪我したかのように痛そうに顔を歪め、急いでベッドのある寝室へとルフィ達を案内した。

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