(6 / 32) ストロングワールド (6)

「サイクロン…?」


シキは戻ってきたモニカの報告に怪訝そうに眉を顰めモニカを見下ろす。
強面に入るであろうシキに見下ろされ一般人ならば恐怖に体を震わせるのだが、モニカは平然とシキの前に立ち『はいっす!』と笑顔で答えた。
そんなモニカの返答を耳にシキはモニカからゆっくりと航海士達へと目線をやる。


「航海士チーム。」

「い、いえいえ!そのような兆候は全くありません!」

「水銀計も正常値です!」


お抱えの航海士へ目線を送れば航海士達は慌てて水銀計やモニターにある数値などを見直す。
しかし全て正常で、サイクロンなど来る予定は一切無い。
そんな航海士達をシキは何も言わず黙って見つめていると、海を映すモニターを見ていた船員がサニー号が9時の方向へと素早い動きで移動している事をシキに報告する。
それにふとシキが前方へ目を映すと青々としていた空が突然黒い雲に覆われはじめる。


「え!?パーマ!?」

「「雨雲だろ!どう見ても!!」」


何故か黒い雲をパーマと間違えるシキにシキの前にいたモニカと、モニカの報告にコタツから離れシキの隣へと移ったピエロが同時に突っ込みを入れ、ピエロが遠慮なく船長であるシキの頭を叩いて突っ込んだ。


「嘘だろ…!?―――シキ様ァ!!すぐに9時の方角へ舵を!!馬鹿でかいサイクロンです!!」

「――!」


航海士の言葉にシキは目を見張った。
今まで青々と平和な青空だったのが瞬く間に黒い雲に覆われ当たりは真っ暗に包まれる。
緩やかだった風は雨風へと変り、開けていた正面の門から遠慮なく襲ってくる雨と風にシキ達の目の前は紙や物が次々と飛び交う。
シキは他よりもはるかに大きな黒く分厚い雲を肉眼で捉え素早く両腕を前に出しまるで扉を閉めるかのような動作をする。
それに合わせて正面の門が独りでに閉まり始めまだ外にいた船員を残し固く閉じていく。
シキの名を呼ぶ船員の声が門が閉められたのと同時に聞こえなくなったのを見てもモニカはニコニコといつもの変らない笑顔を浮べていた。
サニー号と島舟は素早くサイクロンから逃げ出すようにスピードを上げて9時の方向へと進む。
『ちょっと濡れた〜』、と入って来た雨風に服が少し濡れたモニカは笑顔から不快そうな表情を浮かべ、濡れた場所を汚れを落とすかのように叩く。
するとモニカの耳に拳銃の高い音が届き、ふとシキへと顔を上げる。
そこにはモニカへと拳銃を向けるシキがいた。


「二度と予報は外すな」

「は、はい…っ!!」


否、シキはモニカではなくモニカの後ろにいた航海士の1人に拳銃を撃ったのだ。
シキの拳銃により命を落とした人間だったモノをモニカは『あれま〜』と呑気な声を零し焦る様子も見せず見下ろしていた。


「にしても…選りすぐりのコイツらをしのぐ気象センスを持つ女とは…」

「可愛かったっすよ?」


シキの呟きに遺体に興味をなくしたモニカがシキへと視線を戻し、シキ達の下へと続く階段を上りながらニッコリと笑いながらナミへの印象を語る。
モニカのその言葉に興味を持ったのか、はたまた気象センスを持っているのに興味を持ったのか、シキは『特徴を教えろ』とモニカを横目で見つめながら呟く。
そんなシキの言葉にモニカは『はいっす!』と笑みを深めた。







漢字ふりがなサイクロンも抜け、慌しかったサニー号も落ち着きを取り戻し始める。
慌しく動いていたルフィ達は疲れたように息をついていたのだが、ふと何かがこちらに向かって来る気配を感じ、一同顔を上げた。
サンジは『モニカちゃん!?』と目を輝かせながら顔を上げたが、空中にいた人物を見てあからさまに残念そうな表情を浮かべ舌打ちも隠す事なくその人物から顔を背ける。


「今…どうやって降りてきたんだ!?」

「さ、さァ…」


その人物こそ、サンジが口説いていたモニカの船長であり、上に浮いている島舟の船長でもあるシキだった。
サンジは女ではなく男が降りてきて心底興味なさそうにタバコを吹かす。
しかしシキはモニカのように霧となってサニー号へと降りてはおらず、生身の体のままゆっくりと島舟からサニー号へと降下してきたのだ。
サンジ以外の面々は何も掴まらず、使わず降りてきたシキに目を丸くさせていた。


「俺は金色のシキ!海賊だ!―――で、モニカにサイクロンの事を教えたのは誰だ?」

「私…だけど…」


モニカから特徴を教えてもらったが何分モニカの説明は説明にならず、理解不能だった。
とりあえず可愛い、としか言っていない。
シキはルフィ達を見渡し、可愛いに属するであろう人物を特定する。
まず、ルフィやウソップなどの男達はどう見ても可愛いには属さない。
しかしあの部下のことだから性別は関係ないかもしれないと思いつつもシキも男なため男に可愛いと思うことなど微塵も感じない。
そのため、必然的に男性陣達は抜かされていく。
そして残ったのはチョッパー、ブルック、ナミ、アスカ、ロビンだった。
ブルックはどう見ても生きてる人間ではないが、どう見ても男で、どう見ても可愛いとは思わない。
なのでシキの脳裏に一瞬浮かび、一瞬で消えた。
次に可愛いという言葉だけで生きているとしか言いようがないチョッパーを見つめる。
しかしモニカは確かに可愛いモノ好きだが、あの表情はこのペットを思い浮かんでいるようには見えなかった。
その為チョッパーもシキの脳裏から消えた。
あとは女性陣であるナミ、アスカ、ロビンだが、ロビンは可愛いよりは美人な方だろう。
そのため残ったのはアスカとナミだった。
どちらかが航海士だろうと踏んだシキはアスカとナミへ目線を配らせながら確定できないためルフィ達に問う。
嫌に目と目が合うシキに男のその目線の意味には敏感なアスカは意味ありげに笑うシキに不快そうに顔を歪める。
そして、手を上げたのはナミだった。


「ほう…ベイビーちゃんだ………礼を言う。」

「い、いえ…」


怖ず怖ずと手を上げるナミにシキは目を細め、ナミは感極まったように呟くシキに軽く引いているのか1歩後ろに下がる。
そんなナミにシキは小さく笑みを深めるもルフィに声を掛けられナミから視線を外す。
ナミはシキの視線がはずれホッと胸を撫で下ろしていた。


「なァ!おっさん!!なんでアレ浮いてんだ!?」

「ん?……ああ、アレか…『フワフワの実』の能力だ。」

「フワフワの実?」


ナミから視線を外しシキは自分を見上げるルフィの問いに答える。
指差されている自分の船を見上げながらシキは自分の能力を戸惑いもなく同業者である海賊に教え、シキの答えにルフィ達は首を傾げる。
首を傾げるルフィ達にシキは『ああ』と続けた。


「おれは触れた物を重力に関係なく自在にコントロールできる」


そう説明しながらシキは側にあったゾロのダンベルへと歩み寄り触れる。
『見てろ』と興味津々に近づいてくるルフィ達にそう呟きながらシキは人差し指をクイッと上げるとそれに合わせてダンベルが宙に浮く。
ダンベルに糸など吊るしてはいない。
ただシキが触れただけなのだ。
何もなく、重さも感じられないように軽々と浮いたダンベルにナミ達は目を丸くさせ、ルフィは相変わらず目を輝かせていた。
ダンベルはルフィとウソップの顔の高さまで上がると一気にサニー号の見張り台まで上がっていき、突然重力が戻ったかのように落下していく。
重さもあり上がった時以上に落下してきくダンベルを、ゾロは表情ひとつ浮べず受け取った。


「すっげーー!!おっさん!!おれもフワフワしてくれ…!!」

「おれも!おれも!!」

「ジハハハ!残念!おれ以外の人間や動物、生きてるモンは浮かせられねェ。」


ゾロが落下したダンベルを顔色1つ変えず受け取ったのを見送ったシキにルフィとチョッパーが自分も浮かせろとリクエストしだす。
しかしシキから帰ってきた答えはNOだった。
自分以外の生きているモノを浮かせられないのだと言うシキにルフィ、ウソップ、チョッパーからはブーイングが巻き起こるが、そんな3人を無視しシキはフォアマストのベンチに腰掛ける。


「ところで…お前達をおれのアジトへもてなしたい…ほんの礼の印だ…来てくれるな?」


ナミの忠告がなければあのままサイクロンに巻き込まれ最悪死んでいたかもしれない。
能力者にとって海は最大の敵であり、一般の人間よりも死ぬ確立は高い。
特に海に遠くて空に近いシキの船は嵐の被害が一番に受けやすいのだ。
だから航海士を選りすぐり最新の機械も導入していた。
それなのに今回は最高な環境で働く航海士よりも機械も何もないナミが気付いてくれたからシキの命も部下達の命も助かったのだ。
礼をしたいと思うのは当然だろう。


「いやァ…いいよ。」


しかし礼をしたいと言うシキの言葉にルフィは考える間もなく首を振った。
シキはナミ達を見ていた視線を隣にいるルフィへと向ける。
ルフィは帽子を被り直しシキへと振り向いた。


「おれ達…これから東の海へ行かなくちゃいけねェんだ。」

「ええ!?」

「ルフィ〜!?」


ルフィの言葉にナミ達は目を丸くし、ロビンは微笑を深め、アスカは肩をすくめ、ゾロは微動にしない。
それぞれ仲間の反応をよそにルフィは二カッと歯を見せて笑い、シキは『東の海』という言葉に反応させピクリと片眉を上げた。
反応を見せたシキに気付かずウソップは首に下げていた笛を思いっきり吹きルフィに詰め寄る。


「おま…!おま…っ!冒険はどーすんだよ!!」

「そんなもん!いくらでもやり直せばいい!」

「はあ!?」

「故郷のヤツらのピンチにお前はじっとしてられんのか?」

「…!」


ウソップは今まで進んできた道を戻ると言い出すルフィに慌てるが、次に出てきた言葉には口を閉ざすしかなかった。
ウソップも冒険は楽しくて好きだが、故郷に残してきた仲間達も大切なのだ。
じっとしてられるのか、と問われウソップは『えっと…それは…』と歯切れの悪い言葉しか出ない。


「モニカちゃんともう会えないと思うと眠れないが………まあ、しょうがねェ…決まりだな」

「ちょっと…本気!?」

「みたいだね。」

「ふふっ」

「あー!もう!」


女性大好きサンジは先程会ったばかりのモニカに会えないのは寂しいと呟くも、東の海には世話になった者達がいるため背に腹は変えられないと呟く。
しかしサンジならゼフ達よりも目の前の…世界の女性達を本気で取りそうで怖い。
行く気満々のルフィ、そして仲間達にナミは唖然とする。
ナミの驚きの言葉にアスカが頷き、ロビンが微笑みを深める。
アスカはフーシャ村が気になっているのかいつもならルフィの突拍子も無い提案に呆れ顔を見せるのだが今日はサンジ達同様反論はないようである。
ナミも義姉であるノジコやゲンゾウ、そして村の人達は心配でならない。
だからこそ本気で反対せず諦めたように肩を落としたのだ。


「そういう訳だからよ、礼はいいよ。」


反論はあっても本気で反対しない仲間を見渡し、ルフィは満足気に笑う。
仲間を見渡したルフィはそのままシキへと顔を向け改めてシキの申し出を断った。
シキは俯き表情は窺えなかったのだが…


「ますます気に入ったァ!!…そうか…東の海はお前達の故郷か……それはさぞかし心配だろう!――よし!分かった!!おれの能力で連れて行ってやる!!」

「!――本当か!?ありがとう!!おっさんイイ奴だな!!」

「当然だ。」


故郷を見捨てず礼を言いたいという者の申し出を断るルフィ達にシキは俯いていた顔を上げる。
その表情は怒りではなく笑顔だった。
ルフィ達を気に入ったというシキは自分の能力で連れて行くと再度提案し、ルフィは目を輝かせお礼を言った。
そんなルフィの言葉にシキは横目で見ながらニヤリと笑みを浮かべる。


「よーし!!野郎共!戦闘準備だァーー!!」

「「おおー!!」」

「気が早いっての!!」


既に心は東の海にいるルフィ達にナミの突っ込みは届かなかった。
バタバタと落ち着きの無い様子で男部屋へと入っていく冒険大好きトリオにナミは深く重い溜息をつく。


「ま、気軽にいこうよ、ナミ。」

「私達も着替えましょ?誰が何のために、そしてどうやって東の海を襲ったのか分からない今…東の海についてすぐに襲われるかもしれないしね」

「アスカ…ロビン……」


ルフィ達よりは大人なサンジ達も遅れてだが男部屋へと消えて行き、反対はないもののまだ反論しきれていないナミは複雑な表情を浮かべていた。
そんなナミにアスカとロビンが歩み寄り、慰めのような声をかける。
2人の気遣いにナミは泣きそうになりながらも冒険好きの男共を止めるすべはないと知っているため渋々女部屋へと姿を消した。


「…………」


女部屋へと消えるナミを見送ったシキは目を細め静かに笑みを深める。

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