(9 / 32) ストロングワールド (9)

ナミは待った。


逃げ出す事が出来ない今ではルフィ達が助けに来てくれるのを。
一週間、ずっと…
幸いシキ達は自分を仲間に加えたいと思っているため食事は与えてくれる。
寝るところだって温室なままなのと見張りがいるのを除けば申し分ない。
温室にはプールがあるため、気晴らしにナミはそのプールで1人泳ぐ事が多い。
そして、今日もナミは水着に着替えプールに思いっきり飛び込んだ。
着替える途中、女性だからとシキや船員達も見ることが出来る監視用の電伝虫は目を瞑ってくれる配慮はある。
しかしその代わり同じ女性のモニカが監視の目を光らせているのだ。
だからナミはこの着替え中でも逃げ出すことはできない。
だが、この温室にモニカの気配はすれど姿はなく霧となって監視していた。
いくら同性だからとは言え、敵でずっと自分の行動を見張られれば気持ち悪い。
モニカの目線から逃れようとナミはプールに飛び込んだ。
暫くしてナミはプールから上がりハンモックに置いてあるタオルへと手を伸ばす。
その瞬間…


「…!!」


静まり返っていた温室の中に音楽が鳴り響きナミはびくりと肩を揺らす。
出入り口の方へ弾けたように振り返れば、そこには白い布が幕のように下げられていた。
3人の影が映るその白い幕にナミは上へと目線を上げると、そこにはモニカがいた。
モニカは能力の霧となり身体をバラバラにさせたように白い幕の両端にはモニカの手がしっかりと握られ、その真ん中にはいつものニコニコ顔を浮べているモニカの上半身があった。
それだけ見れば既にホラーなのだが、ナミはもうこの一週間で見慣れているため驚くこともなく逆に呆れたように半目で白い幕を持つモニカとその白い幕の後ろにいる3人を見やる。
モニカが白い幕を放せばそこには自分を攫い閉じ込めたシキと、その左右にはピエロにしか見えないDr.インディゴと派手な衣装を着ている赤ゴリラのスカーレット隊長がいた。
3人は音楽に合わせ完璧な振り付けで踊り、ナミのもとへとゆっくりと歩み寄る。
音楽が終わるのと同時にこれまた完璧な踊りでフィニッシュを決めた。


「…フン」


しかしかっこよく決めたシキ達にナミは鼻を鳴らすだけで不機嫌そうな顔を隠さずシキ達に見せる。
ただ、温室にはモニカの拍手の音だけが虚しく響いていた。
そんなナミにシキも慣れたのか冷たい眼差しなど気にも留めず剣の音を立てながらナミに歩み寄る。


「決心はついたかい?ベイビーちゃん?」


この一週間、最初に会えば必ず言われる言葉にナミは聞き飽きたと顔を歪めながら顔を背け濡れている髪をタオルで拭く。


「早くここから出して。」

「ジハハハハ!気の強ェ娘だ!そういう女は嫌いじゃねェ…」

「…………」


聞き飽きたシキの言葉に、ナミも言い飽きた言葉を投げつける。
何度も聞いたナミのその言葉にシキは機嫌を悪くするでもなく上機嫌に笑って見せる。
その後ろにはシキがいたインディゴとスカーレットの間に霧となっていたモニカが静かに降り立ち『わ〜シキたんってばセクハラオヤジみた〜い!』と零していた。
その呟きは当然シキには届いていたが、モニカの天然を装っている毒舌など日常茶飯事なのでシキは相手にしない事にしている。
しかしモニカの隣にいるインディゴとスカーレットはモニカの呟きにうんうん、と頷き賛同していたが幸いにもナミの方を向いていたシキに気付かれることはなかった。


「!」


頷いていたインディゴだったが、何かを思い出したのかポン、と手を叩きシキの方へと近づいていこうと足を1歩前へ踏み出す。
その瞬間インディゴが歩くたびにまるでオナラのような間抜けな音が鳴り、その音を聞きながらモニカは分かっていてもその間抜けな音を聞くとなんだか力が抜けていくような気がして肩の力を抜けていく。


「〜〜ッてめェの足音はどうにかなんねェのか!Dr.インディゴ!!」


シキも長年連れ添っている科学者の足音につい声を荒げてしまうが、まあ…それはいつものことなのでインディゴは気にもしない。
インディゴは喋れないのかパントマイムで何かを伝えようとしていたのだが…


「あ?…何が言いたい。」


シキには伝わらなかった。
否、シキだけではない。
インディゴのパントマイムはシキだけではなくモニカにもスカーレットにも他の船員にも誰にも伝わらない。
ではどうやって伝えたい事を伝えるのか…それは――…



「そう言えばお見せしたいモノが…」

喋るんかい!!



普通に、喋って伝えるのだ。
いつものようにパントマイムの後に喋りだしたインディゴに、いつものようにシキはツッコミを入れる。
その2人のやり取りを見てスカーレットは手を叩いて爆笑していた。


「ハッハッハッハ!!」

「!!―――お母さん!!?」

「ゴリラだろ!どう見ても!!」


爆笑するスカーレットを見てシキはボケ、そのシキのボケをモニカが容赦なく叩いてツッコミを入れる。
そして、4人で『ハイッ!』、とナミに向かってポーズを決める。
モニカは中央に位置するシキの前にてしゃがみ両腕を高く上げていた。
そんな4人を見てナミは…


「こっち見ないで。」


そう冷たく言い放つ。
目線だけではなく言葉さえも冷たいナミにシキは『氷のようだぜベイビーちゃん…』とどこか嬉しそうにつぶやいた。
冷たい態度を見せても怒るどころか嬉しそうにするシキにモニカは『うわっ…シキたんキモイ…』と本気で引く。




「シキ様!新しい進化の形が出現しました!ご覧下さい!」




モニカが本気で上司に引いていると先程出て行ったインディゴが戻ってきた。
ナミが振り返ればインディゴは大きな鳥籠を持ち上げており、その中にはアヒルのような黄色く大きな鳥が入っている。


「え!?ギター!?」

「「鳥だろ!どう見ても!!」」


シキはその鳥籠の中にいる鳥を見てギターと見間違えるボケをかまし、そのボケにインディゴとモニカが左右から同時に突っ込みを入れた。
そしてお約束の『ハイッ!』とまたポーズを決めてナミに見せる。
ナミもお約束の如く呆れた溜息をつこうとした。
だが、後ろに置かれた鳥籠の中にいる鳥がツン、とくちばしで突っつけばカギが掛けられていないのか簡単に扉が開き、その鳥は恨みなのか何なのかは不明だがポーズを取るシキの頭に乗り思いっきり電撃を放つ。
ただモニカだけは察したのか素早く霧となり逃げていた。
側近2人が黒こげになり倒れている中、シキは丸焦げとなっているものの立っており震える手で鳥の顔を掴み、そして…


「こんちくしょーがーー!!」

「クワーー!」

「!――ちょっと…!!」


力一杯鳥を床に投げつけたのだ。
力が強すぎたのか固い床でバウンドする鳥にナミは慌てて駆け寄り、痛がり身体を震わせる鳥を庇うように背に隠す。
霧となったモニカはシキの傍に上半身だけ元に戻しながら『シキたんゴメンヌ!カギ掛け忘れちった!』と語尾に星マークがつくようなテンションで謝った。
そんな呑気なモニカに多少の苛立ちを覚えながらシキは倒れているインディゴへと振り返る。


「進化って今のか!?」

「はい…電撃技が特化したタイプでして…」

「はいは〜い!!アタシとインディゴ先輩とで作りました〜!!」


インディゴはシキの問いに震えながらも答え、シキの後ろにいるモニカもそれに続けて手を上げる。
『褒めて!』と言わんばかりのモニカにシキは先程の電撃を食らわしたのもあり、素直にモニカを褒めることが出来なかったという。


「なによ…進化って…」


シキ達の会話を聞いていたナミは鳥を庇いながらも怪訝そうにシキを見つめ、ナミの問いにシキは話していない事に気付く。


「ん?そうか…仲間になってくれと頼んでいるんだからな。」

「………」


進化という言葉に正直聞きたいとは思うが、シキの言い方が気に入らないのかナミはムッと眉間にシワをよせる。
そんなナミをよそにシキは説明をし出す。


「この島には元々、見たことのねェ進化を遂げた動物達がウヨウヨ住み着いてたんだ…その原因はIQという植物。こいつは動物達の脳に作用し状況に応じた進化を促す!」


この島を訪れたのは偶然だった。
シキは長年の世界を制服するという夢に大きく近づくとその島を本拠地とした。
その島にあるIQを牛耳り、その植物からインディゴが薬を作り、島中の動物に投与する。
するとそのIQを投与された動物は凶暴性を増し、その薬を投与すればするほど凶暴性も強くなるのをシキ達は気付く。
次々と動物達に投与していき、ついには動物達は信じられないほど力を付けていったという。
動物を…命あるモノをただの実験台にしか思っていないシキ達にナミは嫌悪感を感じ眉間のシワを深める。


「酷い事を…何の為にそんな…」

「おれの目的は直に分かるさ…仲間になればな…」

「!…だから!!そんなこと絶対…」

「なる!!」

「…!!」


シキの非道さに眉を顰めていたナミだったが、ナミの呟きにシキは目を細め答えた。
仲間になれば、としつこいまでに言うシキにナミははっきりと断ろうとしたが、ナミの言葉をシキが声を張り上げ遮った。
遮るシキの声の大きさにナミはビクリと肩を揺らし、そんなナミの反応にシキは愉快そうに目を細め笑みを深める。


「おめェはどうしたって自分からおれの仲間になりてェと懇願するようになるんだ…もう少しおめェの気持ちが落ち着いたら全てを話してやるさ…仲間なら聞いてやれる頼みっていうものがあるだろ?」

「……っ」


シキのその自信満々の言葉にナミは怪訝そうにシキを見つめる。
どう転んだってシキ達の仲間になるはずがない…ナミは心の中でそう呟いた。
その呟きが覆されることになるとは知らずに…
ナミがシキを睨みつけていると突然スカーレットが胸を叩き始める。


「え?『この女をおれにくれ』って…?」

「ウホッ!」

「話し外れすぎだよ!!このエロゴリラ!!」

「――驚いた!お婆ちゃんかと思った!!」

「どんだけゴリラ顔だよ!!てめェの血統は!!」


突然胸を叩きだすスカーレットにスカーレット語が分かるインディゴは突っ込みを入れる。
美女なら誰でもいいゴリラの胸の叩く音にシキがハッとさせ何故かお婆ちゃんと間違え、そのボケに傍にいたモニカが突っ込みを入れた。
そして『ハイッ』、と三度目になるコントを見つめ、ナミは無表情に返しシキ達に背を向ける。


(あいつらがまだ来ないのは…その動物達のせいってわけね…)


ガラス張りの温室からは冬島なのか雪が降り、雪で真っ白となっている地面しか見えない。
一週間も助けに来ないルフィ達の今の状況をナミは理解し心配そうに外とは違い冷たさもないガラスへ手を伸ばす。
…が、ナミが心配しているのはアスカのみであり、ルフィ達は死んでも死なないと分かっている為心配など元からしていない。
攫われ軟禁状態なナミだが、やはりナミはナミだった。(意味分からん)

9 / 32
| top | back |
しおりを挟む