(10 / 32) ストロングワールド (10)

それからシキ達は言いたいことも言って満足したのか、モニカを残し温室から出ていった。
その際モニカに何か言っていたが、ガラスの向こうにいるアスカを心配していたナミの耳には届いておらず、ナミはモニカの『ええ!?いいんすか!?』というモニカの驚きの声で気付いた。
モニカ達の方へ振り返ればモニカは自分へ目線を送っており、驚きが隠せないモニカの様子にナミは首を傾げる。







「…………」


ボコボコと水から空気が漏れる音がナミの耳に届き、それを聞きながらナミはプールを泳いでいく。
海賊として、そして能力者回収者としてナミは泳ぎに自信があり、その自信の通り綺麗なフォームを描いていた。
ナミは水中で目を開けプールを見渡す。


(あった…!)


ぼやける視界の中、ナミが目に移したのは2つの給水口だった。
給水口を目に移したナミはそのまま折り返し水面から体を浮かせる。


「今日…」

「え…――きゃッ!!」

「っ!―――わっ!」


水面に体を浮かせながら天井を見つめていたナミの視界に突然モニカがドアップに映った。
突然のモニカのドアップに当然ナミは驚きの声を上げる。
ナミは驚きのあまりバランスを崩し水中へ沈んでしまい、暴れたように手足を動かした為派手に水が飛び散り、飛び散った水がモニカの顔へかかりモニカも驚きの声を上げてプールサイドに姿を現した。
能力者であるモニカは水を突然掛けられナミよりも驚愕は大きいだろう。
ナミは水面から顔を覗かせモニカの方へ振り返る。


「モニカ!」

「酷いっすよ!アタシ能力者っすよ!?あー、驚いた!」

「驚いたのはこっちよ!!突然目の前に来ないでっていつも言ってるじゃない!!」


モニカは普段霧となって温室に漂いナミを監視している。
たまに気配を消す為ナミはいるのかいないのか分からず一週間も脱出の行動を取れないでいた。
そんなナミの目の前によくモニカは気配を消したまま現れる事がある。
全身を戻したり、体の一部だけを戻したりと様々だが、今回はプールの真ん中にナミがいたからというのもあり、上半身だけが元に戻っているというホラーとなっていた。
顔にかかった水を必死に拭うモニカにナミは呆れたように溜息をつきモニカの下へ泳いで向かう。
水を飛ばしながら上がるナミにモニカは『ひぃ!』と小さな悲鳴を上げ1歩後ろに下がる。
能力者として水を怖がるモニカにナミは苦笑いを浮かべながらもここに連れてきた原因や動物達を実験台にしているのもあり、同情や情は浮かばない。
ハンモックにかけてあるタオルを手に取りながらナミは体の水を拭き取る。


「で、なに?」

「なにがっすか?」

「何か言いかけたでしょ」


ナミが歩いた後の水溜りを器用に避けながらモニカはナミに続く。
そんなモニカにナミは顔を拭いながら先程のモニカの用を聞き出そうと声をかける。
しかしモニカは先程言いかけた事を忘れたのか小首をかしげ、そんなモニカにナミは呆れたように横目でモニカを見つめた。
ナミの言葉にしてようやく思い出したのかモニカは『ああ』とポン、と手を叩き…


「今日、アタシいないんで電五郎の世話よろしくっす。――って言おうとしてたんすよ!」


――と伝えた。
『電五郎』とはナミを常に監視をしている電伝虫のことである。
常にいるため電伝虫の世話はモニカがしており、つい愛着が沸いたのか名前までつける始末。
ナミは最初名前を聞いた時電伝虫に同情したという。


「今日!?今日って…どういう…」

「いやー、ちょっと用事がありましてですね〜それで申し訳ないんすけど、電五郎を頼んでいいっすか?エサを与える前に行かなきゃいかないんすよ…」


黙って行ってしまっては電五郎がお腹空いて可哀相っしょ?、と頭をかいて申し訳なさそうに呟くモニカにナミは呆気に取られながらも頷いた。
頷いたナミにモニカは嬉しそうに笑みを浮かべ『じゃあよろしくっす!!』とナミへ手を振って温室から出て行く。
ナミは呑気な声を上げながら出て行ったモニカをただ唖然としながら手を振り返し見送った。


(チャンス…よね……でも…罠かしら?)


ここ一週間、モニカが電五郎と名付けてエサを与えているのは何度も見たことはある。
その間電五郎こと電伝虫はその役目を果たさないという事も、ナミは知っていた。
霧人間であるモニカがいるからそのエサに夢中で役目を果たしていない電五郎の隙を突き脱出など出来ずにいたのだ。
しかし今日、霧となり常にナミを監視していたモニカはいない。
余りにも上手く行き過ぎているため、ナミはモニカが出て行ったフリをして今も霧となり空中に漂っているのではないかと訝しんでしまう。
だが、もしもモニカの言っているのが本当ならば…―――ナミはチラリとプールへと目線を送った。


「………」

「クワ?」


静まり返るその温室には、モニカの気配もなく本当に1人だと思うほどだった。
ナミは罠でもいい、と荷物を纏める。
最初は電伝虫にエサを与えないつもりではいたが、それでは隙は出来ず何より何の罪の無い電伝虫を空腹にせるのも気が引けるためドサッと適当に草を与えた。
好物のエサを目の前に電伝虫は目を輝かせエサを夢中に口へと運んでいく。
それを見ながらナミは椅子に置いてあった荷物を背負い側で不思議そうに見つめる鳥をひと撫でした後、プールへ飛び込み見つけた給水口から脱出を試みる。
そんなナミに鳥も後を追いかける。

そして…温室から1人と1匹の姿が消えた。







所変り、ここはモニタールーム。
映像で映っているのは名のある海賊達の船長。
その数は数え切れないほどおり、船員の『船長たちが全員港に到着したようです』という報告にシキは満足気に頷く。


「よし、総会が終わり次第出立するぞ」

「いよいよ…今夜ですか…」


モニカもシキの後ろにおり、映像を笑みを浮かべながら見つめていた。
出立するという言葉を聞き船員が緊張が走ったように表情を強張らせる。
シキはその船員の問いに答えずただ『島の男を町へ戻しとけ』と呟き、そのシキの指示に船員は目を丸くさせる。


「えっ…解放していいので?」

「約束だからな」


背を向けながらシキは驚きが隠せない様子の船員に頷き、小さく笑う。


「絶望の前には希望を与えとくもんだ…より高いところから落ちるヤツの引きつった顔は格別だろう?」


横目で振り返るシキのその言葉と、薄く笑うその表情に船員は背筋に冷たい何かが走ったのを感じた。
歳をとっても変らない力とその恐怖に船員達は表情を青ざめ、その場の空気は凍りついたように冷たい。


「でもいいんすかねェ〜」


そんな船員など気にも留めず、そして強張っている空気をもろとももせず、呑気な声がその空気を突き破る。
その声の主、モニカにシキは振り返りながら『何がだ』とモニカに呟いた。
いつものおどけるシキとは違い、表情を険しくさせ緊迫した空気を放つシキにモニカは怯える素振りも見せず頭の後ろで手を組みまた呑気な声で答えた。


「いやー…あの航海士っすよ」

「ベイビーちゃんがどうした?」

「アタシが離れていいのかなァ〜って…」

「あ?」

「監視が電五郎だけでいいのかな〜って思って。」


電五郎=電伝虫だというのはシキも知っていた。
それに対してのツッコミは名前を聞いた時にしていたので既に突っ込む事もない。
シキはモニカの言葉に片眉を上げ肩をすくめる。


「あれだけ脅してりゃ逃げる気も失せるだろ…それにお前にもやってもらわなければならない仕事もある…いつまでも監視役として置けないからな…」

「うげ〜…忙しくなるっすねェ…」

「ああ、これから忙しくなるぞ……それも猫の手も借りたいほどにな…」


シキのやろうとしている事を思いモニカは隠す事なく嫌そうな顔を作る。
そんなモニカにシキはニヤリ、と笑みを浮かべた。
ニヤリ顔を浮べる船長にモニカは更に嫌そうな顔を浮かべ、あからさまに嫌がるモニカにシキは上機嫌に笑った。
するとインディゴの間抜けた足音がその場に響き、シキは笑うのを止めモニカの後ろへと目線を配らせ、モニカはシキの目線を伝って後ろへと振り返る。
その場にいた全員も音のする方へ振り返るとインディゴが姿を現し、またパントマイムを繰り出し始める。


「あ?」

「シキの親分!!」

「「「喋るんかいっ!!」」」



パントマイムの意味が分からなくて怪訝そうにするシキにインディゴは口を開き喋りはじめ、それには流石に全員で突っ込みを入れた。
しかしインディゴは慌てた様子で続ける。


「一大事でして!!あの娘が逃げ出しました!!」

「何!?」


インディゴの報告にシキは片眉を上げ、モニカは『あれま…やっぱり。』と焦りを見せずそう呟いた。
ナミはこの一週間待っているだけではなく逃げ出すチャンスと方法を模索しており、王宮のプールがそのまま海へ繋がっていると気付いていた。
あとは厄介なモニカさえいなくなれば行動に移すだけとなり、そして、今日…モニカはシキの指示によってナミの側を離れた。
今まで大人しくしていたため多少の気の緩みもあったのか、逃げ出すとは思ってもみなかったシキは内心舌打ちを打つ。


「迂闊な…得がたい能力を見す見す逃すとは…全ネットワークを駆使して必ず捜し出せ!!」

「はいっ!!」


シキの指示にインディゴはナミを探すためにその場から立ち去った。
インディゴを見送ったシキは次に『やるねェ〜』とナミへ呟くモニカへと見下ろす。


「モニカ。」

「え〜!…もォ〜!逃げたのシキたんのせいじゃ〜ん!!」


シキから何も言われずも言いたいことがすでに分かっているモニカは先程よりも嫌そうな表情を深める。
しかしもう一度『モニカ』と名を呼ばれれば行動に移すしかなく、モニカは『は〜い』と渋々返事を返し渋々身体を霧へと変え隙間から外へと出て行った。


「………」


ナミを探しに向かった部下達を見送ったシキは何も言わずその場から姿を消す。

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