「モニカ」
モニカは廊下を歩いているとシキに呼び止れ、振り返る。
そこには確かにシキがいた。
しかし隣にはナミが立っており、モニカは微かに目を見張る。
「ああ、見つかったんすか」
しかしその反応は本当に僅かで、シキも気付かずモニカはすぐに表情を戻す。
淡々とどうでもいいように呟くモニカにもナミは表情を変えずシキの隣に立ち、シキはモニカの淡々とした呟きに『ああ』と返しながら葉巻を咥え直した。
「衣裳部屋へ連れて行け…総会に参加させる。着替えたら連れて来い」
計画を実行する時が近づいているのかシキはボケることもなく表情を険しくさせながらそうモニカに指示を出す。
シキのその指示にモニカは『あいあいさ〜』といつもの呑気な声で返事を返し、引き返すシキを見送った。
「……………」
「……………」
衣裳部屋へと連れて行く最中でも、部屋に付きナミの服を選んでいる最中でも、2人に会話はない。
服の衣擦れだけが響いていた。
「なんで逃げなかったんすか」
「…………」
衣装を選んでいるモニカをナミはただ立ったまま見つめているだけだった。
しかし背を向けたままのモニカがそう問うとナミは指をピクリと微かに動かし、僅かな反応を見せる。
だが表情は相変わらずの無表情だった。
モニカは見なくても分かるナミの反応と表情に逆に分かりやすい、と内心笑みを零しながらナミに合う服を探していく。
「せっかくアタシが逃がしてあげたのに……シキたんの事だから仲間を人質にあんたを脅したんでしょーねェ…」
「…………」
「だから無駄だって言ったじゃないっすか。」
「…っ」
「仲間のために犠牲に、って今時の子供だって思わないっすよ」
「――ッあんたなんかに!!……っ」
「………」
冷たいモニカの言葉はナミの心に突き刺さる。
じっと我慢をして聞いていたナミだが、それも限界となったのか声を荒げた。
だが、それもすぐに我に返ったのかグッと拳を握ることで言いたい言葉を飲み込み顔を俯かせ、涙で濡れた瞳をモニカから隠す。
そんなナミなど気にも留めずモニカは選んだ服を手に俯くナミへと振り返った。
「あのままアタシの言うことを聞いてれば、仲間も傷つかず逃げ出せたのに。」
「…!」
「あのまま大人しくしていればいずれ……」
「モニカ…?」
「唯一のチャンスをあんたは無駄にしたんすよ」
ナミはモニカの言葉にハッと顔を上げた。
モニカの表情はいつもの笑顔ではなく、その明るい笑みが消え先程のナミのように無表情を浮べていた。
常にテンションの高いモニカが無表情を浮べているのに目を見張るナミだったが、更にモニカから呟かれた言葉に目を丸くさせる。
まるで何もしないまま全てが終わっていると…それもシキが東の海を破壊し世界を制覇するという意味とは正反対だと思われる言葉にナミは怪訝そうにモニカを見つめる。
しかしモニカはすぐにいつもの笑顔へと戻り『はいっす!』とナミの為に選らんだドレスを渡した。
ドレスを着たナミを連れてモニカはシキの元へと連れて行く。
その間にも会話は一切無い。
しかし先程の言葉が妙に胸に突っかかっているナミはシキの元へ行く間、チラチラと前を歩く自分より背の小さいモニカの背中へと目線を送っていた。
目線に気付かないモニカではないが、あえてナミの何か言いたげな目線を無視し歩き続けていた。
「たっだいま〜!」
会話の無い痛いほど静けさを保っていたモニカはシキの部屋へと入るや否やいつもの呑気すぎる声をこぼし陽気な笑みを浮かべた。
衣裳部屋の時に見せた真剣な表情、会話のない先程の雰囲気、そして今のモニカ…ナミは今までモニカはただ煩いシキの手下だと思っていた…いや、思い込んでいた。
しかし連れ戻されてから見せる違うモニカにナミは表情を崩すさず内心戸惑いを見せる。
モニカが帰ってきたのを横目で見つめ、シキはただ『ああ、来たか』と呟き葉巻を吹かす。
そんなシキに慣れているのか相手にされていないのをどうでもいいようにモニカはコタツに座るインディゴを発見し『あ!先輩ずるい!!』と蜜柑を取られまいとナミから離れコタツへと掛けていった。
後ろから現れたナミに気付いたシキはそのナミの格好に目を細め『ジハハ、見れば見るほどいい女だぜ』と呟きナミを足の先から頭の天辺までじっくりと目線を送る。
「見ろよ……お前はいい判断をした…故郷がこうならずに済むという幸せを噛み締めるがいい。」
これまで1人で航海していく内に感じるようになっていた男の目線にもナミは表情1つ崩さずにいた。
しかし内心は嫌で嫌で仕方なく、気を張っていないと露骨な表情が浮かびそうになる。
見ろと言われナミはゆっくりと顔を上げる。
「―――っ!!」
顔を上げれば目の前には巨大なライオンがこちらに向かって雄叫びを上げていた。
それを見た瞬間ナミはビクッと肩を揺らし目を丸くする。
ナミの目の前には村を襲う動物たちの姿があった。
「うわー、超こえェー」
唖然とするナミをよそに同じく送られている映像を見上げていたモニカからは感情が篭もっていない声が零れ、モニカは興味を無くしたかのように映像から目線をそらしインディゴから死守した蜜柑を口に含みはじめる。
≪うおー!すげェ!!怪物どもが村を飲みこんでいやがる!!さすがシキの親分!やることがえげつねェぜ!≫
「ほんの余興だ…村のダフトグリーンを撤去しただけのこと…」
島舟でその光景を見下ろしている海賊達の興奮した声がシキ達の部屋にも届いていた。
そんな海賊達の笑い声を聞きながらシキは葉巻を吹かせながら興が醒めたかのように淡々と呟く。
「興味ないわ…部屋に戻ってる。」
ただ、ナミは村が襲われ逃げ惑う姿の村人や怪獣達を見ても何も思わないように表情を変えずそう呟き部屋へと帰っていく。
「…なんだ、もっと逆上するかと思ったぜ……」
シキはこの光景を見てナミが泣き叫ぶとでも思ったらしく、つまらなさそうに肩をすくめる。
そんなシキにモニカが『そーっすね』とどうでもいいように返した。
(……まさか…)
ナミを目で追って見送ったモニカは次の果物に手を伸ばしながら何か嫌な予感が過ぎる。
(変な事、考えなきゃいいっすけどね……)
シキやインディゴ達にばれないように小さく溜息をつき、モニカはバナナを口にする。
14 / 32
← | top | back | →
しおりを挟む