(16 / 32) ストロングワールド (16)

アスカとロビンは能力で、フランキーは持ち前の馬鹿力で、ブルックは健気にも手で…ルフィ達を一人一人掘り起こし床に寝かせた。
全員気が付きフランキー達は酒場で集めた情報をルフィ達に教える。


「シキが東の海の事件を起こした張本人!?」


怪我はチョッパーに治して貰い、ルフィはロビンから全てを聞き疲れたように岩に座り俯いていた顔を上げ、月夜に照らされるロビンを見上げる。
ルフィの驚きの声にロビンは『ええ』と神妙な面持ちで頷いた。


「あの怪物どもを使って故郷をめちゃくちゃにしようって訳か……くそ野郎が…人をコケにしやがって…!」

「…………」


ロビンの説明に岩を背もたれにしていたサンジは不快そうに顔を歪める。
サンジの言葉にルフィの隣に立っていたアスカは故郷にいるマキノや村長を思っているのか悲しげに瞳を揺らし目を伏せ顔を俯かせた。


「ナミは…故郷を守るため1人シキについて行っちまった……おれ達はナミに救われたんだ…」


ウソップはルフィ達よりも遅く気を失いナミがシキの仲間になるのを見ていたから、ナミのした行動の意味を理解できていた。
そんなウソップの呟きに誰もが口を閉ざす。


「…………」


アスカは沈黙が耐えられないかのように静かにしゃがみ、岩の上に座って俯かせていたルフィの手に自分の手を重ねた。
それはまるでナミが離れた事で自分達も離れ離れになるのを怖がっているかのように…
このままナミを置いて海に出るなど考えもしないが、例え自分達を助ける為にと1人欠けただけでもアスカの心の余裕は失われていく。
以前ウソップが抜けたときルフィに『死ななければどこにいたって構わない』と言っていたのを思い出し、アスカはナミがいなくなった事の恐怖に震える体と、過去の自分の言葉との違いに心の中で自分をあざ笑ってしまう。
アスカの怖い気持ちを察したのか自分の手の上に置かれたアスカの手をルフィはグッと力強く握りしめ、アスカはルフィの手を握り返す。
するとウソップの怪我の治療をしていたチョッパーがふと背後に気配を感じ、後ろへと振り返った。


「シャオ!無事だったのか!」


振り返ればそこにはチョッパー達を匿ってくれていたシャオ達の姿があり、チョッパーは嬉しそうに笑みを浮かべる。
その笑みを見てシャオ達は泣き出しそうに眉を顰めていた。
チョッパーの声に気付いたアスカはシャオ達へ振り返りルフィに『だれ?』と小声で問いかける。
アスカの問いにルフィは短く説明し、ルフィ達が世話になったというシャオを改めて見つめる。
シャオ達は自分達の無事を喜ぶチョッパーから視線を外し怖ず怖ずと口を開く。


「…地下壕に隠れてたから………それより…今の話……東の海ってのはあんた達の故郷なのかい?」

「………」

「あの子も…そこが故郷なのかい…?」


ルフィ達の話が聞こえていたシャオ達はルフィに問いかけた。
シャオの母親の問いにルフィは戸惑いもなく頷き『ああ、そうだ』と答える。
そのルフィの答えにシャオの母親は目を見張った後涙を浮かべ顔を歪めた。


「私はなんてことを…ッ!あの子の前で『シキが早く東の海へ行ってしまえばいい』だなんて…!なんて酷いことを口にしてしまったんだ…ッ!!」

「私も喜んじゃった…っ」


しゃがみ込んでシキが来る前に言った言葉を後悔しシャオの母は泣き崩れる。
自分の母親をおんぶしいたためしゃがむしかないが母が泣いているのに釣られたかのようにシャオも自分もシキが東の海へ行くことを喜んだと泣きじゃくる。


「シャオ…それどうした?」


腕で涙を拭っていたシャオの小さな手に握られているモノを見つけ、ルフィは泣いているシャオに声をかけた。
ルフィに声を掛けられ泣いて流している涙をそのままに鼻を啜りながらシャオは落ちていたから拾ったと答える。


「ルフィ…あれって…」

「ああ…多分トーンダイヤルだ…」


アスカもシャオの手にあるモノに気付き、シャオからルフィへ目線を送る。
前にモニカというシキの仲間が来た時に出た言葉からも『トーンダイヤル』という言葉が出ていたのを思い出し、ルフィは何か言いたげなアスカの問いに頷き立ち上がる。
アスカはルフィを追わずその場でルフィを見送っていた。
シャオは歩み寄ってきたルフィにその手にある物を見せてくれと言われ、頷きながらルフィにその手にある物を渡す。


「おめェらスゲーな…シャオ。」

「え…?」


シャオの手の物を受け取りながらルフィはポツリと呟く。
そのルフィの呟きにシャオは小首を傾げた。


「自分達の村がめちゃめちゃになってるってのにナミのこと気づかってくれてよ…こんなに心の優しい奴ら見たことねえよ!ちっとも酷い奴なんかじゃねェ!ひでェのはシキの奴だ!おれがあいつをぶっ飛ばしてきてやるからよ!元気出せ!!なっ!」


ルフィの言葉にシャオ達は目を見張る。
ルフィ達の故郷へ追いやろうとしていた自分達をルフィはなんの文句も罵倒もなく、慰めるように励ましてくれた。
笑顔まで見せてくれたルフィの後ろを見上げるとそこにはアスカ達が側に集まっており、誰一人自分達を責めている視線はない。
シャオ達は責める事なく許してくれるルフィ達にまた涙を浮かべる。
泣き出しそうに顔を歪めるシャオにルフィは乱暴に頭を撫でてやり、集まっていた仲間の下へと向かう。
アスカ達もルフィへ歩み寄り、ルフィの手の中に納まっている物を見下ろす。


「なんだ…トーンダイアル?」

「ああ、多分モニカってやつが言ってたヤツだ…」


空島へ行った事がないヤツならば使い方は全く分からず、その中に入っている音を聞けないだろう。
しかしルフィ達は空島に行った事があり、そしてそこでも冒険をしてきた。
いつもの如く巻き込まれた、と言っても良いほどだが…ルフィにとったらどんな大事件も面白い冒険にしか感じられない為一生巻き込まれたとは思わないだろう。
カチッ、とルフィはスイッチを押す。
すると中に入っていた伝言が再生しはじめる。


≪みんなの前から……黙って立ち去ることを許してください…≫

「!、ナミの声だ!!」


トーンダイヤルを再生し聞こえるナミの声にチョッパーは嬉しそうに声を弾ませる。
しかしその内容はとても笑顔で聞けるようなものではなかった。


≪私はシキの一味で航海士をすることにしました……シキは…例えルフィ達が逆らっても絶対に敵わない伝説の海賊…みんなが私を追ってきてくれても命を落とす結果となる…―――これだけ言っておきます……≫


ナミが残してくれた伝言…それは別れの言葉だった。
ルフィ達の命を盾にと分かっていてもアスカはナミが『助けに来てくれ』と言うのを期待していた。
しかし伝言の内容はアスカが想像したモノとは真逆の言葉だった。
誰もがナミの残した言葉に息を呑んだその時――…



「なんだコリャアアアアアーーー!!!!」



怒りを爆発させるようにルフィは声を張り上げる。
近くで大音量で叫ばれ、ウソップは固まり、人より耳がいいチョッパーは耳を塞いで耐える。
アスカも食べた実のお陰で人よりは身体能力はいい方だが、それよりもナミの残した言葉がショックなのか耳を塞ぐのを忘れ、怒りで震えるルフィの手の中にあるトーンダイヤルを凝視していた。


「なんだあいつ!!こんな言葉残しやがって!!」

「お…!落ちつけって!」

「おれ達が絶対敵わねェだと!!?勝手なことしといて何言ってやがんだッ!!」

「現におめェら全員まとめてシキにやられちまったんだろ?」

「なんだと!?これはッ!別にッ!俺はッ…!やられた…っ!」

「落ちつけって!もうやめろよ!!」


ナミの言葉を聞きワナワナと怒りがこみ上げてきたルフィはトーンダイヤルを壊すんじゃないかと思うほど力を入れ、ここにいないナミに怒りの声を上げる。
そんなルフィにフランキーが不用意にも呟いた為、ルフィは目を吊り上げフランキーを睨みつけ歯切れ悪く反論しようと声を上げたが言葉が出ず不発に終わった。
冷静になれないルフィに必死でウソップが宥め、アスカも手助けするように怒りで震わせながらトーンダイヤルを握るルフィの手へそっと自分の手を添える。
2人の宥めに多少は落ち着いたのか、ルフィはフランキーに噛み付こうとするのは止め目の前にいたウソップにトーンダイヤルを押し付ける。
暴れると思ったのか、ウソップは目を瞑っていたが胸に押し付けられるトーンダイヤルを咄嗟に受け止め、自分の脇を大股に通り過ぎるルフィへ振り返りながら見送る。
アスカは怒りが治まらない幼馴染の背を見つめていた。


「おい、ウソップ…もう1回聞かせろ」

「え?あ、ああ…」


ウソップはサンジに声をかけられハッとさせ慌てて頷く。
そして、ウソップはカチッともう一度トーンダイヤルを再生させた。


≪私はシキの一味で航海士をすることにしました……シキは…例えルフィ達が逆らっても絶対に敵わない伝説の海賊…みんなが私を追ってきてくれても命を落とす結果となる…―――これだけ言っておきます……≫


また、同じ言葉が繰り返される。
トーンダイヤルは声を録音する貝。
何度も聞いても、何度も再生しても出てくる言葉は同じ。
ルフィが自分達を生き埋めにした土の固まりの前に立ち腕を思いっきり伸ばし力の限りぶつけたのと、アスカ達が続きの言葉を聞いたのは…同時だった。


「ナミ…」


アスカはナミのその言葉を聞き金色の瞳を涙で濡らす。

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