モニカに案内された場所…そこは王宮の周りを囲うように植えたダフトグリーンだった。
酸素マスクをしたシキは目の前の人物を見て目を細め笑う。
「なるほど…樹をなぎ払って怪物どもにここを襲わせようってのか…」
雪化粧を施されているダフトグリーンの何本かは倒れていた。
モニカも酸素マスクを嵌めて倒れている木の周りを見れば、根元にはダイナマイトが置かれ、後は着火するだけとなっている。
シキは木をなぎ倒そうとした女――ナミを見下ろし小さく笑い声をもらす。
マスクを嵌めている為くぐもった声がダフトグリーンを見つめていたモニカの耳に届き、モニカはダフトグリーンからシキへと目線を戻し、そしてシキと同じくナミを見下ろす。
ただ、モニカの瞳はなんの感情もなかった。
哀れみや、同情、そして愚人を見る瞳ではなかった。
その瞳には何もない。
ただ、部下達に拘束され苦しげに顔を歪める女を見ていた。
「はなからこうするつもりだったのか?ベイビーちゃん……せっかく条件をのんでやったというのに…」
ダフトグリーンの毒素によって身体を所々緑色にさせるナミを見下ろしシキは上機嫌に笑う。
面白いモノを見るかのようなシキの視線と言葉にナミは苦しげに息をつきながら気丈にもシキを睨みつける。
苦しいはずなのに気丈に振舞うナミにシキはマスクの奥で目を細め笑みを深めた。
「あ、んたが…私の…言う、ことを…聞いてくれ、る…わけがない…っ!滅ぶ、故郷も…!凶報に、肩を…落とす…仲間達、の…姿も…!私、は…見たくない、のよ…ッ!!!」
「早まった真似を…」
「ぅ、ぐ――ッ!!」
睨みつけるナミの顔をシキが掴み、ナミを持ち上げる。
ナミは苦しげな声を零し、その声を聞きながらもモニカは表情を崩さず無感情に掴み上げられているナミを見つめていた。
無感情に見つめるモニカなどよそにシキはそのままダフトグリーンへとナミを押し付けた。
するとナミの身体にある緑色の斑点が少しずつ広がっていく。
「この樹が放つ強力な毒素は誤算だったか?」
「…ッ」
元々、シキはナミさえ手に入れれば東の海などすぐにでも消し去ろうと思っていた。
それはモニカもシキから聞き、知っていた。
余りにも惨い仕打ちには同情はする。
同情はしてもモニカにはどうすることも出来なかった。
自分が気に入られているのは分かるが、だからと言って自分がどうこう言ってシキが受け入れるという訳でもないというのも知っていた。
ただ、小さい頃から孤児だったからか…モニカはナミのように熱くはなれなかった。
「海賊が故郷だの家族だの言っちゃいけねェよ…」
シキはいつも煩いほどにハイテンションな部下が今日は一言も喋らないのを不思議に思う事もなく、能力で鉄の棒を浮かせナミの周りに浮遊させる。
「そんなモンのために足を引っ張られテメェの命危ぶめてちゃ世話ねェや!!」
「―――ッ!!!」
顔を掴んで持ち上げていたシキは笑い声を上げながらナミを放し、地面に落ちる前に能力で浮かせていた鉄の棒をナミに突き刺す。
しかし棒はナミの体を貫通することなく、シキはただナミを見せしめのように棒で動きを封じただけだった。
身体は貫通することはなかったが…せっかくモニカが選んだドレスのスカートは棒が刺さり台無しとなっている。
それでもモニカは眉1本動かすことはなかった。
「オメェに総会が終わっても生きてられる悪運があったら航海士として一生使ってやろう!!…生意気な女は嫌いじゃねェ!ジーッハハハハハ…!!」
「…ッ」
棒と棒の間に体を挟める形となり、ダフトグリーンの毒素によって体の自由も利かず、ナミはただ高笑いを上げるシキを睨みつけるしかできなかった。
悔しげに顔を歪めるナミを上機嫌に見つめ、シキはそのままナミに背を向け去っていく。
シキが歩くたびに義足の代わりに着いている剣の高い音がナミの耳にいやに大きく聞こえた。
「…………」
だが…シキが王宮へ戻っていったその場に、モニカが残っていた。
ナミはモニカに気付き、視線をシキからモニカへと移す。
モニカはナミに睨みつけられてもやはり表情1つ変えず、ゆっくりとナミへ歩み寄る。
「馬鹿っすねェ…あんた。」
「…っさ、い」
ナミに歩み寄り、モニカはしゃがみ込んでナミのオレンジ色の髪を撫でる。
呆れたようなモニカの声にナミは絞り出すような声で呟き悪態をついた。
そんなナミにモニカは目を細め優しく髪を撫で続ける。
「あと少し…我慢っすよ…」
「……、…」
先程の呆れたような声とは違い、モニカの声はとても優しかった。
小声で呟いた為見張りとして立っている部下達には聞こえず、傍にいたナミだけが聞こえていた。
ナミは敵のはずのモニカの優しげな声とナミを労わるように髪を撫でる仕草に戸惑いの色を隠せない。
瞳を揺らすナミにモニカはマスクの奥で小さく微笑み、シキに呼ばれその場から立ち去っていく。
「――――ィ…」
ナミのその悲しげな呟きは、雪が積もる音によってかき消された。
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