チョッパーは霧が道を遮り、進む道は一本しかなく戸惑いながらもその1本の道から瓦屋根へと走る。
モニカは2人を見送った後笑みを深め静かに姿を霧に変え、その場から存在もろとも消す。
「チョッパー、匂いはどうだ?」
「駄目だ…空気中にダフトグリーンが紛れ込んでて上手く鼻が利かねェ…!」
動物は人間より嗅覚が優れている。
しかし、目的の匂いをかき消すような強い匂いが他にも漂っているのならその嗅覚も役に立たなかった。
首を振るチョッパーにウソップは『くそ…!』奥歯を噛み締め、やはり嘘だったか、と敵を信じた自分を責める。
すると…
「ほら、あそこっす」
「うおあァ!?お、おま…!おまっ!!」
「!…モニカ!!」
焦りながら辺りを見渡すウソップの肩に誰かの手が置かれる。
ポン、と自分以外誰も人はいないのに肩に感じる手の感覚にウソップはビクッと身体全体を跳ねさせる。
振り返れば上半身だけを戻しているモニカが後ろにいた。
いつの間にか自分の後ろにいるモニカにウソップは心臓を押さえビビった声を上げる。
チョッパーも気配のなかったモニカが後ろにおり目を丸くさせ驚きの声を上げた。
そんな2人をよそにモニカは『あそこっすよ、あそこ。』とどこかを指差す。
「あそこ…?」
「?―!…いたーー!!ナミがいたぞ…!」
「ええ!?え!?」
モニカが指差す方向を見ても2人の目からはナミは見えない。
チョッパーも懸命に指差す方向だけではなくその周りにも目を配らせていると、何かに気付いたウソップが頭につけているモノで見たその時、ナミを見つけたと叫んだ。
チョッパーはウソップの言葉に驚きながらも自分もナミを見つけようと必死に辺りを見渡す。
そこにはやはり何も無い。
しかし、よく目を凝らせば一部が強い光りを帯びていた。
「あんれまァ…ありゃァ、やばいっすねェ…」
「「や、やばい!?何が!?」」
「まあ、やばいっす。」
「「だから何が!?」」
モニカも目を凝らしナミがいるであろう場所を見ればポツリと不吉な言葉を呟く。
『やばい』と言うモニカにウソップ達がモニカを見上げて問えばやはりモニカからは『やばい』としか返ってこない。
『ありゃ死ぬっすね。』となんでもないように呟くモニカの言葉にチョッパーもウソップも顔の血の気をサーーッと引かせ『ナミーー!!!』と大声でナミの名を呼びながら強い光りが灯る場所へと全速疾走で向かう。
「まァ、まァ…突っ走っちゃって、まァ……でも間に合わないっすねェ…」
置いてけぼりを食らったモニカは置いていかれたことに肩を落とす事なく呑気にウソップ達を見送る。
そして『若いって素晴らしい』と若いからこそ突っ走る彼らの背が小さくなったのを身ながら肩をすくめ身体を戻し宙に浮いた。
その両手には薄い桃色の布が握られていた。
「もう少しだ!待ってろよ!ナミ!!」
全速疾走で走ればそれほど距離は長くはなく、チョッパーはあと少しで着くと更に足を速めた。
…の、だが……
ジジジ、という何かが燃える音が2人の耳に届く。
「え」
「ちょ、おま…っ」
木と木の間に飛び込むように突っ込むと2人の視界に信じられないモノが映った。
それは―――
ダイナマイト。
2人は心の準備もなく爆発に巻き込まれる。
爆発音が雪降る静かな空気を裂く。
黒い煙が上げられチョッパーとウソップは死んだと思った。
しかし…
「ふー、危なかったっすねェ!」
「んな…!モ、モニカ!!」
衝撃に耐えるように目を瞑っていたウソップ達だったが、一向に痛みは来ず何故か浮遊感が感じられる。
怖々と目を開ければ自分達は爆発してなぎ倒される木々を見下ろしている形となっている。
『え?え?』と理解不明の出来事に混乱していると、ふと聞き覚えがありすぎる声が上から降っており、ウソップは顔を上げる。
そこには自分達の敵であるはずなのに関わらず助けるモニカがいた。
モニカは驚きの表情で見上げるウソップとチョッパーにニコリと笑う。
「怪我は無いっすか?」
「あ、ああ…」
「モニカ…なんで……」
先程といい、自分達を追ってきたはずなのに助けてくれるモニカに流石に戸惑いが生まれる。
先程ほどの警戒心はないのだが、どうして助けるのかが強い疑問に思う。
チョッパーとウソップの戸惑いと疑問の強い瞳にモニカはやはり何も言わずただ笑みを深めただけだった。
何も言わないモニカにチョッパーとウソップは唖然としていたがふとナミの事を思い出し慌ててナミの姿を探しに視線を下へと移す。
しかしナミの姿はなく、なぎ倒されている木々が転がっているだけだった。
「「!――ナミ!!」」
下には姿がなく、今度は自分達の周りを見渡す。
すると隣にぐったりしているナミの姿があった。
2人はナミの姿に宙に浮いているというのも忘れ嬉しそうに笑いナミの名を叫ぶ。
それを機に宙に浮いていたウソップ達は、駆け寄る前にいた瓦屋根へと浮きながら移動する。
どうやら自分達やナミが爆発に巻き込まれなかったのはモニカのお陰のようで、ふわっと羽のように軽々とナミを連れてウソップの腕に移すモニカにチョッパーはなんとも言えない瞳で見つめていた。
「なんすか?」
「あ…いや……その…ごめん…」
「?…何を謝ってるんすか?謝る事はしても謝られる事なんて人生で一度もしてないっすけど…」
ウソップの腕にナミが収まったのを見て満足気に笑っていたモニカだったが、ジッと自分を見つめるチョッパーに気付き首を傾げる。
チョッパーはモニカの問いに慌てて目をそらして言いにくそうに歯切れ悪く謝る。
謝るチョッパーにモニカは身に覚えがないと更に首をかしげチョッパーをマジマジと見つめた。
ジッと見つめるモニカの視線が肌に刺さるのが分かり、チョッパーはグッと更に歯切れ悪く呟く。
「……その…疑って…ごめん……モニカはおれ達にナミの居場所を教えてたのに…おれ達がモニカを信じれなくて…ごめん…」
「何謝ってるんすか、それは当たり前じゃないっすか。」
「え?」
「だって、アタシはシキたんの仲間っしょ?そんでタヌキたん達は麦わらの一味。…疑わずすぐに敵を信用する海賊なんていやしないっすから、別に謝ることはないんす。」
『すぐ信用してたら命がいくらあっても足りないっすからねェ』とニカッと笑うモニカにチョッパーは言葉を失った。
言葉を失いつつもチョッパーは心の中で『おれ…タヌキじゃないんだけど…』とどこか冷静に呟く。
チョッパーは割かし素直な方だ。
そりゃアスカに比べればその差は歴然としており可愛いだろう。
純粋で素直なチョッパーでも、敵の言葉を聞きまずは疑うという選択となる。
それに責める理由はないとモニカは笑う。
だから更にチョッパーの罪悪感は強まってしまうのだ。
まだチクッと毒を吐かれるのなら気が楽なのかもしれない。
俯きもう一度『ごめん…』と呟くチョッパーにモニカは自分の膝しかないチョッパーの帽子を優しく撫で、ウソップに振り返る。
振り返ったウソップの表情はチョッパーほどではないが多少の罪悪感があるのか気まずそうで、そんな2人にモニカは苦笑いを浮かべる。
「じゃあ、とりあえずアレが来る前に避難するっすか」
「「アレ?」」
気まずい空気が流れる中モニカの言葉に2人は同時に首をかしげた。
首を傾げる2人にモニカは『そう、アレっす!』とダフトグリーンがなぎ倒された方向を指差す。
2人がモニカの指を伝い目線を王宮の外へと向ければ、そこには――…
「お、おいおい…嘘だろ…!?」
「い、急いでここから避難しなくちゃ…!!」
ジッと目を凝らしていると、地響きのようなモノがチョッパー達の耳に届く。
それでも嫌な予感しかしないのに、チョッパーとウソップの目には更に嫌な予感が姿を現した。
それはシキの計画により姿や生態を強制的に変えられた動物達だった。
動物達はダフトグリーンが撤去され意気揚々とこちらに向かってきており、どう見てもその集団にチョッパーとウソップが勝てる要因はない。
強面な海賊を相手にしてた方が勝機はグンと上がっていただろう。
2人はこちらに向かって来る動物達に慌てて瓦屋根から降りる。
瓦屋根から降り、急いでチョッパーは人型となりウソップからナミを預かり2人は全速力で逃げる。
その足はどんな人間でも負けないほどだろう。
むしろ今の彼らは世界最速なチーターより早いかもしれない。
そんな2人をモニカは愉快そうに笑みを零した後、自分も逃げる為霧となり瓦屋根から降りてチョッパー達を追う。
その手にはもう、桃色の布は消えていた。
22 / 32
← | top | back | →
しおりを挟む