(26 / 32) ストロングワールド (26)

サンジはブルックと共に人間を無差別に襲う動物達を倒していた。
気がつけば王宮の外へにおり、その場にいる最後の1匹を倒したサンジは咥えていたタバコの煙を吐き出す。


「ヨホホホ!流石ですね!」

「ったく…きりがねェ…」


肩で息をしているとは言え敵を倒していくサンジにブルックは褒めた。
ブルックの褒め言葉を耳にしながらもサンジは息を整えようとタバコを口から放し深呼吸をし、落ち着けばまた咥え直す。
サンジが溜息に似た息をついたその時、ゴリラの興奮した声が静まり返っている夜空に響き渡る。


「こっちか!」

「!…あれは…」


新たな動物の声にサンジは駆け寄り、塀や瓦屋根を軽々と越える。
それを見送りながらブルックも声のする方へ視線をやれば、そこにいた人物に無い目を丸くさせた。


「なっ…!?」


サンジも声の方へ辿り着き、ブルックが見たのと同じモノを見たその瞬間、目を丸くさせ絶句させる。
そこは塔だった。
天高く聳え立つ1本の塔が建っていた。
その天辺には声の主である派手な服を着た赤いゴリラ…スカーレットがいる。
しかし、それだけではない。
スカーレットの大きな手の中には……


「…っ」

「アスカちゃん!!?」


アスカがいた。
スカーレットは目をハートにさせながら唇を尖らせ所謂チュ〜、をしようと手の中にいるアスカへと近づいていく。
アゲハチョウの麟粉によって体が痺れ動けないのか、いつもならアスカは自分にちゅーをしてくるゴリラなど平気で蹴り潰せるはずが抵抗もなくぐったりと手の中に納まっていたのだ。
様子の可笑しいアスカに気付いたサンジは驚きの声を上げる。


「むほほっ!むほっ!!むほほほ!!!」

「なにィィ!?アスカちゃんを嫁にするだとおおおお!!!?このクソエロゴリラアアアア!!!!」

「言葉分かるんですか!?」


少し離れた場所にいたブルックにも興奮したような理解不明に声を零すスカーレットの言葉は聞き取れても理解はやはり出来ない。
しかし同じエロ仲間だからかサンジはスカーレットの言葉が理解できその内容に怒りをあらわに背後を爆発させ、ブルックは言葉が理解できたサンジに驚きの声と共に突っ込みを入れる。
サンジは咥えていたタバコを地面に捨て、思いっきり踏み消す。
しかし怒りのあまりに地面は凹んでいた。


「お前…!やっちまったな!クソエロゴリラ!!おれの前でレディに手をかけた!!!しかもアスカちゃんにだ!!」


タバコを消したサンジは今までにないほど…いや、某ホラーランドにてアスカを花嫁にさせようとした男と対峙した以上に怒りに任せ塔に伸びているワイヤーの上を物凄い速さで上っていく。
重力やバランスなど今のサンジには関係ないように見える。
その途中、ヌンチャクを回すサルがサンジを阻んだのだが…愛の力によって1秒で吹き飛ばされてしまう。
サンジはそのまま塔の中へと入り『アスカちゃあああああん!!!』と声を上げながら中の螺旋階段を上がっていった。
彼の目的は、そう…アスカの救出―――ただそれだけだった。


「うほ?」


結婚式のように花嫁にスカーレットはアスカの愛らしく丸みが帯びている頬に念願のキッスを送ろうとしていたのだが…屋根を突き破り煙と共に現れたサンジによって頬と唇がくっつきそうになる寸前で止まった。
しかしまだ唇はアスカに向けられており、目線だけを煙が晴れ姿がはっきりと現すサンジへと向ける。


「大体舐めた事を言ってるぜオメェらはよォ……どの海を支配するって?オメェ…知ってんのかよ……東の海にどれほどの数のレディがいるのかをォ!!!」


サンジは東の海に故郷はない。
世話になった人達がいるが、それでも皆男であり、殺しても死なないと知っている。
彼の守るべき者は全て女性。
目の前でキスを送られそうになっている少女が、どれほど見た目に反して凶悪かなんてサンジには関係ない。
むしろそんな彼女さえギャップ萌え!、と言ってのけそうである。
いや、言ってのける。絶対に。
サンジは東の海のレディ達と目の前のアスカを救うべく回転させ片足を真っ赤に染め上げる。
回転するサンジに向かいスカーレットはアスカとの時間を邪魔された怒りに任せアスカを掴んでいない方の拳を振り下ろす。
しかしサンジは当たる直前に空中にダイブし、飛び上がった。
サンジを探し辺りを見渡したスカーレットだったが、ふと視界の上端に黒い何かが映り顔を上げる。
そこにはサンジがおり、スカーレットは威嚇をするように声を上げた。


「"ディアブルジャンブ"!!!」


蹴り付けようとするサンジと同時にスカーレットもアスカを渡すものかと拳を向ける。
2つの攻撃がぶつかり合ったその瞬間、サンジがスカーレットの拳を跳ね返しスカーレットは目を丸くさせる。


「"ヴネゾンシュート"!!!」


赤く染めた足でサンジは身体を回転させながら何度も蹴りを放つ。
その蹴りの早さに守る事も出来ずスカーレットは何度も体にサンジの蹴りを受けてしまう。


「オラアアアアア!!!」

「ぁ…ッ!!」


サンジは止めにスカーレットの脳天に蹴りを叩きつけた。
その衝撃でスカーレットの足場は崩れスカーレットは塔の中へと落下していく。
そして手の中に収めていたアスカはスカーレットが気を失い力が緩み落下していく衝撃で外へと吹き飛ばされてしまった。


「それがイーストブルーの恋の味…―――おっと!アスカちゃん…!」


着地し、塔の底へと落ちたスカーレットを見下ろしていたサンジだったが吹き飛ばされたアスカに気付きアスカを探す。
アスカはまだ体に麟粉が残っているのか普段なら能力で軽やかに着地するなり下僕達を下敷きにするなり1人で無事着地するのだが…ぐったりと動かず落下していく。
それを見てサンジは慌ててアスカを助け出そうとアスカに手を伸ばし塔の屋根を蹴る。
蹴ってサンジは落下していくアスカの元へと飛び降りた………の、だが…


「ヨホホホ!!」

「えっ!?」


アスカはサンジを見送ったはずのブルックが横から救出し、サンジの目の前からアスカが一瞬にして姿を消す。
これには流石のサンジは目を丸くするしかなった。


「大丈夫ですか?マドモアゼル。」


建物の廊下へと着地したブルックの問いかけにアスカは薄っすらと瞳を開ける。
体の痺れが残りつつも助けてくれたブルックにアスカは弱弱しく頷いた。
普段見れないアスカの弱弱しいその姿にサンジは自分が助け出せなかった事を本気で悔やみブルックに当たる様に声を張り上げる。


「てめェ!何美味しいとこ持ってってんだ!!下ろすぞ!このクソ―――」


しかし最後まで文句は言えなかった。
言い切る前に地面と激突したのだ。


「私、下ろされる身ないんですけど」


ブルックのその呟きが嫌に響く。







「とにかく!ナミの安全が第一だ!」

― ウソップ…? ―


ナミはぼやける意識の中ウソップの声に気付く。


「そうだな!!」

「だったらこっちっす!!」



― チョッパーの声もする…それにモニカの声も…? ―


意識も次第にはっきりし始め、ナミは瞳をゆっくりと開ける。
外は冬なのになぜか暖かい。
顔を上げれば人型になったチョッパーの横顔が見え、ナミはチョッパーに背負われていた。


「ここは…」

「!、ナミ…!!」

「よかった!目を覚ましたか解毒剤が効いたみたいだな!」


周りを見渡せばチョッパーのほかにウソップ、そして頭上には下半身を霧になり移動するモニカがいた。
ウソップは目を覚ました事に安堵と嬉しそうに笑う。
それはチョッパーも同じだった。
チョッパーも解毒剤が効き呼吸も安定して目を覚ましたナミに嬉しそうな表情を向ける。


「もう苦しくないっすか?」

「きゃっ!…ってモニカ!?」


モニカは気がついたナミの顔を覗きこむように顔を覗かせ、ナミは何度も突然現れるモニカを見ているのに関わらず驚いた声を上げてしまう。
そんなナミにモニカは懐かしそうに目を細め笑う。


「はは!まだ慣れないっすか!」

「な、慣れるはずないじゃないっ!!…でも、どうしてあんたがチョッパー達と…?」

「おれ達モニカに助けてもらったんだ!」

「え…」

「ナミの居場所を教えてくれたのも!ダフトグリーンを撤去する為にナミが起こした爆発からも!!モニカが助けてくれたんだ!」


チョッパーの言葉にナミは目を丸くする。
モニカは自分を攫いに来たシキの手下で、1番側にいる側近である。
見逃してくれた事もあったが、すぐに捕まってしまった。
好意的だったが所詮は敵。
自分達を助けてくれるとは思っていなかった。
だからだろう。
ナミが信じられないと言わんばかりにモニカを見上げていた。
そんなナミにモニカはただ笑っていた。
ニッコリと笑うモニカにナミは目線を外し、目を見張ったまま唖然と呟く。


「助けに来てくれたの…?」

「当たり前だろ!おれ達だけじゃないぜ!?ゾロもサンジもロビンもフランキーもブルックもアスカもルフィも!!皆で来たぜ!」

「……っ」


皆が自分のために助けに来てくれたと知りナミは涙を溜め顔をくしゃくしゃにしながら泣き出す。
よっぽど嬉しいのだろう、とモニカは泣きながらお礼を言うナミを優しげな目で見つめていた。


「おいおい!泣いてる場合じゃないんだよ!」

「っうん!分かってる!!シキを倒さなきゃイーストブルーは…――!」


ナミがどれほどの恐怖を感じ、自分達の助けを求めていたか…ウソップもチョッパーも分かっているため出来れば思う存分泣かせてやりたいと思った。
しかし感動の涙を流すのは早いとウソップはナミに声をかける。
ナミもまだ終わっていないと分かっていた為涙を拭い顔を上げた。
するとナミの目に黒い厚い雲が映り、言葉を切る。


「(これは…)……止まって!」

「え!?」


何かに気付いたナミはチョッパーを止め、チョッパーが立ち止まった為ウソップもモニカも立ち止まる。


「ナミ、どうした?」

「嵐が来る」

「「えぇ!?」」

「気圧が下がってる……きっと大きな雲が近くにあるのよ…王宮に戻るわよ!」

「「エエ〜ッ!?」」


王宮に戻れば動物達がまだいるかもしれない。
何よりシキの攻撃範囲にいたくないのだ。
ここにいる限り何処にいても攻撃範囲だがまだ王宮よりましである。
そんな事を考えていても元々男性陣は女性陣には勝てないのがこの一味の鉄則。
そんな鉄則いらん、とゴミ箱に捨てたいが、今は作戦があるというナミの言うことを信じ王宮に戻るしかなかった。
しかしその反面、弱弱しかったナミの呼吸も、声も元通り元気なナミに戻りつつありウソップとチョッパーは嬉しくも思う。

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