(29 / 32) ストロングワールド (29)

崩れ落ちる島から脱出したサニー号はシキの大きな海賊旗をパラシュートにし、空中からゆっくりと海面へと落ちていく。
幸いにも大きな岩がサニー号に落ちてくることは無いが油断は出来ないだろう。
しかし、ナミ達が心配なのは大きな岩がぶつかることではなかった。


「ルフィ…っ」


ナミ達が心配なのは船に乗っていないルフィの事だった。
仕方ないとはいえ、ルフィはシキとの戦いで船に乗り脱出することが出来なかった。
島が崩れていき砂煙の固まりをナミ達は固唾を呑んで見つめている。
途中、ビリーが助けに行ったのだが…ビリーとルフィの姿はまだ見えなかった。


「――――」

「え…」


アスカも姿の見えない幼馴染を不安そうに見つめていた。
するとアスカの耳に聞き覚えのある声が届き、アスカは確かめようとウサギの耳を出す。


「ぉぉぉぉぉぉ…」

「!―――ルフィ!!」

「え!?本当!?」

「本当だ!!ルフィだ!!」


ウサギの耳を出せば小さいが聞こえる幼馴染の声。
嬉しそうなアスカの声にナミ達は耳を傾けるが聞こえない。
しかしチョッパーはアスカと同じくルフィの声が聞こえているようだった。
モニカも耳を澄ますも『聞こえないっすよ〜!』と不満げな声を上げる。
どうやらルフィの声は遠く動物の耳で無いと届かないようで…


「ぉぉおおおおおおお…!!!」

「!――ルフィっ!!」

「ど、どこだ!?」


ようやく人間の耳にも聞こえるほどの距離に来たのか、ナミ達の耳にもルフィの張り上げた声が届く。
ウソップが声のする方へ目を配らせると巨大な雲を突き抜けビリーの姿が現れる。
そのビリーの背にはルフィの姿も確認できた。


「よっしゃああああ!!!」

「よくごぶじで!よがっだぁ〜!!」

「ゔんゔん!!」

「〜〜やった!これで東の海は無事だァァ!!」

「だが締まらねェな、あの姿」


ビリーとルフィの姿を見たアスカ達は一斉に肩の荷を落としたかのように安堵の息をつく。
フランキーは拳を握り喜び、ブルックとチョッパーは手と手を取り合い涙を流し喜び、ウソップはルフィと東の海の無事を喜び、モニカは『お〜!』と拍手喝さいでルフィに拍手を送る。
そしてゾロの呟きにサンジ達は笑みを浮かべながらも頷いた。
ゾロ達の目線の先にいるルフィはギガを使い、体が幼児のように小さくなっていた。
それを見てナミ達はつい笑みを零してしまう。
あとはサニー号が海面に着水し、ルフィがサニー号へ戻ってくればそのままトンズラしながら宴だと皆そう思っていた。


「あ…!」

「島が…」


ルフィを待っていると背後の砂煙の中からシキが浮かせていた島が次々と落下していく。
それを皆唖然と見上げていた。


「シキたんが倒れたから能力がリセットされたんすね…」


ナミ達よりも長い間共にいたモニカの呟きを耳にしながらナミ達は下に落ちていく島々を見送る。


「!…シャオ達は!?」


落ちていく島から次々と動物たちが落ちていくのを見てナミはハッとシャオ達の事を思い出す。
ナミが思い出したのを切っ掛けにゾロ達も島に取り残されたままのシャオ達を心配していた。


「おい!あれを見ろ!」

「え…!?」


辺りを見渡しているとふとウソップが何かに気付き声を上げた。
指差す方向を全員が見ればそこには両腕についていた羽で空中を飛んでいるシャオ達が見える。


「よか…た…」

「!、航海士のお姉さん!!」

「ナミさん!!」

「ナミ!!」


シャオ達が無事だと分かった途端、ナミは気を失いその場に倒れる。
完全に地面に倒れる前に側にいたモニカが後ろから抱きかかえるように支え、そのままゆっくりとナミを地面に降ろす。
気を失ったナミにアスカ達が慌てて駆け寄り、ビリーに乗っていたルフィも、ビリーも急いでサニー号へと向かいナミに駆け寄った。


「うん、大丈夫だ…疲れがたまってただけだよ。安心したから気が緩んだんだ」

「そうか…よかった…」


チョッパーがナミを診れば、チョッパーからは疲れがたまっていただけだと言われ、ルフィ達は安堵の息をつく。
しかしふとナミの髪を労わるように撫でるモニカが顔を上げる。


「そういえば、この病気っすけど…解毒剤だけじゃ駄目っすよ。」

「え…えええ!?そうなのか!?」

「じゃあナミは死ぬのか!?」

「おいおいおい!!それならそうとなんであの時言ってくれなかったんだよ!!」


モニカの言葉に安堵の表情を浮かべていたルフィ達は表情を一変させ、驚愕と不安と心配の表情へと変える。
詰め寄り責め立てるようなルフィ達にモニカは慌てる様子もなくケロッと答える。


「ああ、平気っす…ちょっと待っててください」

「?…ああ…」


モニカは腕で抱えるように抱いていたナミの頭をゆっくりと膝の上に乗せ、ポケットから白い手袋を取り出した。
待つように言われたルフィ達は仕方なくモニカのする事を見守るしかなく突然手袋を取り出したモニカを怪訝そうに見つめる。
モニカは手袋を嵌めた後、ナミの顔にあるダフトグリーンの症状の薄っすらとした斑点へと手を当てた。
そして何かを引き抜くようにすぐに手を頬から離す。


「な…!?」

「斑点が…消えた!?」


モニカが手を頬から離せば吸い出されたかのように斑点から毒々しい緑色の液体が湧き出るように出てきた。
そして無重力の中にいるかのようにその液体はモニカの手の平で踊っており、液体が抜かれた途端に薬で治りかけていたナミの体中にある薄い斑点が綺麗に消えていったのだ。
それにはルフィ達も驚きの声を上げるしかない。
モニカは宙に浮かんでいる液体を乗せている手と、まだ何もしていない手で液体を潰すように手を重ねる。
ぷちゅ、と愛らしい音が微かに響くも、その愛らしい音とは反しジワッと白い手袋を緑色に染め上げた。


「モ、モニカ!?」

「早く手袋を取らなきゃ…!今度はモニカがダフトグリーンの毒にやられちゃうよ!」


ダフトグリーンの出す香りで人間や動物は体が毒に侵されてしまう。
今のモニカのように液体だったらどういう反応になるかは分からないが、毒はどんな方法でも毒にしかならない。
手袋が全て緑色になっていくのを見てフランキー達は慌ててモニカに手袋をはずすように声を揃える。
その中で一番慌てていたのは船医のチョッパーだろう。
しかしモニカは慌てふためく周りの反応などよそに平然と笑っていた。


「大丈夫、大丈夫。こう見えてアタシは科学者っすよ?」

「あ…そっか……モニカはあの研究者と一緒に研究してたんだっけ…」


平然とするモニカの言葉にチョッパーは忘れていたのか納得する。
フランキー達もモニカが研究者だった事を言われて思い出したのか平気だと笑うモニカに安堵していた。
モニカは『それに…』と呟きながら緑色に染め上がった手袋を外し、ジッパー付きの透明な袋に入れる。
その際やはり手袋には一切触れず、手袋を外したその手には一滴の液体も付着していなかった。


「先輩達はダフトグリーンの研究もしてたから、大抵の毒に侵されない手袋も発明してたみたいっす。」


『それを拝借しちゃいました!』と晴れ晴れしい笑みを浮べながらモニカは続けて『これでアタシはアタシで研究材料が増えてウッハウハっす〜!』と手袋の入った袋に頬擦りする。
それを見て余りにもデレデレな笑みだったためか、それとも毒で染められている手袋に頬擦りしているからか…麦わら一味からは引いた目線を向けられる事になる…が、モニカは気にしていない。
しかし、やはりサンジだけは『研究熱心なモニカちゃんも素敵だーー!』と盲目となり惚れ惚れし、麦わら一味の引いた眼差しはモニカからサンジへと移る。


「じゃあ、アタシそろそろお暇するっすね。」

「ええええ!?モニカちゃん行っちゃうの!?」


存分に毒が染み込まれている手袋に頬擦りして満足したのか、モニカは膝の上にいるナミをチョッパーに任せ上半身を霧に変化させまだ空中にいるサニー号から離れる。
モニカが別れを告げるとサンジがいち早く反応し、涙やら鼻水やらを出しに出し別れを惜しむ。
そんなサンジにモニカは頷き笑みを浮かべた。


「だがよ、嬢ちゃん…船なんてあんのか?」

「よかったら次の島まで乗せてってもらえよ!ナミを助けてくれた礼もしたいし!!」


フランキーは船端へと移動し、ゆっくりと海面に落ちていくサニー号の周りと、海面を見渡した。
そこには岩や島が落ちているが移動するための船なんて1隻もない。
あるとすれば遠くにある海兵が乗っている軍艦だけである。
シキを追ってきたであろう彼らの船に、シキの仲間だったモニカが乗れるとは限らない。
いや、乗れるだろうが確実に大監獄行きである。
ナミを助けてくれたのもそうだが、シキを裏切り行き場の無いモニカを放っておくことも出来なかった。
ウソップは敵だったとは言え一度は疑い信じられなかった罪悪感もあってか、船長であるルフィに振り返りながら乗せてくれと告げる。


「ああ!いいぞ!!お前面白ェし!!」

「…ありがたい話しっすけどねェ…ま、アタシはあの島でのんびりとダフトグリーンの研究でも続けながら動物達も治していきたいんす…アタシは一切手を出してないとはいえ…アタシもシキたんの仲間だったっすからね…」

「モニカ…」

「モニカちゃん…!君はなんて…!!な゙ん゙で慈悲深い゙ん゙だ!!」


モニカはサニー号に合わせる様に自分もゆっくりと下へと下がっていく。
仲間だった自分がシキ達の尻拭いをしたいとシャオ達がいる島へ目線を向ける。
シャオ達にもモニカの事は多少は知られているだろう。
なんたってモニカはシキのお気に入りとして常に側にいたのだから。
最初から受け入れてくれるとは思っていない。
しかし、もう敵ではないというのを長い時間をかけて分かってもらうしかなかった。
モニカは長期戦となる事を覚悟してか、苦笑いを浮かべていた。
モニカの言葉にルフィ達はもう乗って行けとは言えず、そして何故かサンジはこれでもかと感激し涙と鼻水を止め処なく流していた。
それを見たゾロが『そこまで感動することかよ…』と呆れながらに呟くが、幸いサンジはモニカの言葉に胸が一杯で気付いていなかった。


「じゃ!海軍に捕まらない様気をつけて!!」

「ああ!ありがとな!!モニカ!!」

「モニカ!ありがとう!」


島へと降りようとルフィ達に手を振りながらサニー号から離れ、島へと降りていこうと降下していく。
だが、それをアスカがとめた。


「待って!」

「…?」


島へと降りていこうとしたモニカに気付きアスカは慌ててナミの側から船端へと駆け寄り、身を乗り出しモニカに声をかけ引きとめた。
珍しいアスカの行動にサンジ達は目を丸くさせ、怪訝そうにアスカの小さな背中を見つめる。
モニカはアスカに引きとめられ、首を傾げながら自分に用があるというアスカにゆっくりと近づく。
モニカを見上げるアスカの表情はどこか複雑そうにしていた。


「なんすか?」

「あの……あなた…もしかして……」


モニカとアスカは接点はない。
あると言えばシキの仲間だったときに広間で対峙したのみだろうか…
モニカは口篭り言葉を詰まらせるアスカに更に首を傾げるが、決して急かそうとはしない。
そんなモニカにアスカはおずおずと顔をあげ、口を閉ざしたままモニカに向かって手を振って招く。
もっと近くに来て欲しい、とジェスチャーで伝えるアスカにモニカは何も言わずその通りにしゆっくりとアスカに近づき、アスカはモニカの耳元に唇を寄せた。


「――――」


アスカの声はルフィ達には聞こえなかった。
聞こえたのはモニカだけだろう。
その証拠に…


「はいっす!当たりっす!!」


…と満面の笑みで頷いてみせていた。
モニカの答えと頷きを見てアスカは目を見張り驚いた表情を見せる。
そんなアスカの反応にモニカは悪戯が成功した子供のように無邪気な笑みを浮かべ、アスカの頭を撫でる。


「じゃ、本当の本当に!お別れっす!」


まだ目を丸くさせて驚くアスカに目を細めながらモニカは自分達の会話が聞こえず不思議そうだったり怪訝そうだったりと色々な表情を見せるルフィ達を見渡す。
そして、今度こそ本当に別れだ、と涙を見せずお互い笑顔で別れた。


「あっ…」


笑顔で手を振るモニカに、ルフィ達も見送ったのだが、ただ…アスカだけはモニカ達の声にハッとさせ我に返り寂しげな表情を浮かべて島へと向かうモニカの姿を見送った。


「…………さま…」


アスカの小さく寂しげな呟きは、誰にも届くことはなかった。

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