シキを追って来ていた海軍が着いた時には既に事が終わっていた。
シキのいる船を発見し、見上げた時にはもう島が崩れていた。
「島が落ちてくるぞーー!」
「逃げろ!この場から離れるんだ!!」
「急げ!!」
島から逃げ出した海賊達を見つけ、一人残らず連行する。
どうしてか、海賊達は抵抗もなくうつらな目をして海兵に連れて行かれていた。
その理由を一介の海兵が知る由はないが、オニグモ、ヤマカジ、ストロベリー等の中将からは気にする事はないと言われてしまう。
縦社会である海軍では一介の海兵には何の権利も与えられず、ただ上司の言う事に従うしか術は無い。
全ての海賊達をそれぞれの船の牢屋へと入れ終わったその時シキが倒れたのか、浮いていた島の浮遊能力がリセットされ次々に島が崩れ容赦なく軍艦の周りに落下する。
粉々になり落ちていく島の衝撃により、海面は高波となり軍艦に襲いかかり、海兵達は近くにあるモノにしがみ付き揺れに耐えていた。
しかし、海兵達が大きな揺れにバランスを崩している中、中将達は平然と立っていた。
「シキがいたぞー!!」
「金獅子のシキだ捕らえろ!!」
シキが浮かせていた島全てが落ち終わり海面も穏やかになったその時、ふとシキの姿をある海兵が捉えた。
海兵がシキを指差せば、シキは海面のギリギリな所で浮いており、それに何の疑問もなく海兵達は慌しくシキを捕らえようと動き出す。
すると日差しが海兵達に注がれ、ふと顔を上げればそこには1隻の船がシキの海賊旗をパラシュート代わりにし海面へと落ちていくのが見える。
「まさか…あいつ等がこれ全部やったのか!?」
「目標!麦わらの一味!砲撃用意!!
「!―――はッ!」
その1隻の船…麦わらの一味が乗っている海賊船を見て、海兵達はこの目の前の島々を見渡し驚愕していた。
たった9人の海賊団が大海賊であるシキを倒したのだから驚くのも無理はないだろう。
驚きが隠せず動揺が広がる海兵達に各中将達が一喝し、動揺から砲撃態勢へと変えた。
しかし――
「待つっす。」
「…!!」
1人の少女が海兵達の前へと現れる。
麦わらの一味達に標準を合わせていた海兵達は突然上から現れた少女に目を見張る。
少女は足の部分を霧状にさせ、上からゆっくりと降りてくるように降下していく。
その姿はオタク丸出しの眼鏡に灰色の髪をふたつのミツ編みにして前に出し、白衣を着ていた。
そう、その少女こそ…モニカである。
海兵達は見知らぬ少女が上から降下しているのを見て暫くは唖然としていたが、1人の海兵が我に返り不審者に銃を向ける。
「誰だ貴様…!!麦わらの仲間か!!」
「待て。」
「!…しかし中将…!!」
1人が我に返り銃をモニカに向けたのを皮切りにモニカの登場に呆気に取られていた他の海兵達も我に返りモニカを警戒し銃を向ける。
しかし最初に銃を向けた海兵にオニグモが手で制止、上司に制された海兵は銃口をモニカに向けたまま止めたオニグモに非難めいた声を上げたのだが…
「遅かったですね…―――黒蝶殿。」
オニグモの言葉に船の空気が凍りつく。
暫く沈黙が続いたが、モニカが甲板の上に着地した僅かな音で皆我に返り凍りついていた空気も少し和らぐ。
しかし黒蝶という自分達の上司よりも上の地位の海兵の名と、目の前の少女に海兵達はどよめきが広がる。
「こ、黒蝶さん!?この少女が…!?」
「嘘だろ…!?黒蝶さんがこんな平凡な少女なはずがないだろ!!」
「ああ!なんたって黒蝶さんはかの女帝ハンコックと並ぶほどの美貌を持ってんだ!こんな平凡な少女が黒蝶さんなわけねェ!!」
中将の部下となれば稀だが大将を見ることもある。
本当に稀だが黒蝶の顔は特に忘れたくても忘れられないほどの美貌らしく一度見た者は目に焼きつき間違えるはずがないと自身満々に言えるほどだった。
この中にも黒蝶を見たことがある者も多く、目の前の少女の顔や体中何処を探しても黒蝶要素は1つもない。
本当に目の前の少女は平凡で、どこにでもいる研究オタクそのものだった。
信じ切れない海兵達にモニカはくすくすと笑いながら1歩前へ足を踏み出し、ゆっくりと歩き出す。
モニカが歩き出せばどよめきは強くなり、モニカが黒蝶だと信じ切れていない者は銃を持つ手を強めた。
そんな警戒心が強まる中、1歩、また1歩、と前を真っ直ぐに歩くモニカに変化が起こった。
モニカがまた1歩足を踏み出したその時、つま先から頭の天辺まで一瞬にしてモニカの姿が変ったのだ。
その姿は…
「なっ…!?」
「こ、黒蝶さん!?」
大将黒蝶――…ミコトだった。
スニーカーだった足元も黒いパンプスに代わり歩くたびにコツコツと板を叩く音が響く。
灰色でミツ編みだった髪も真っ直ぐで綺麗な漆黒の黒へと変り、服装も大胆にも胸元が開きスリットが深くミコトの長く美しい足を曝け出すミニスカートの黒で統一されているスーツへと変る。
身長も、容姿も何もモニカから黒蝶へと姿を戻すミコトに海兵達は唖然とする。
そんな自分に唖然とする海兵達をよそにミコトはニコリといつもの妖艶な微笑を浮かべオニグモの前へと立ち止まった。
「追うのはお薦めいたしませんわ」
「なぜか聞いてもよろしいでしょうか。海賊が目と鼻の先にいる…ならば海軍である我々はその海賊を捕らえるのが仕事では?」
ミコトが微笑めば周りの全ての海兵達は頬を染める。
しかしミコトの微笑を向けられている張本人であるオニグモは頬を染めるどころか怪訝そうにミコトを見下ろしていた。
ミコトはオニグモの言葉に微笑を深めながら己の手にいつもの傾世元禳を戻す。
「二兎を追う者は一兎をも得ず…シキだけで我慢なさい。」
「………あれが麦わらの一味だから見逃せと?」
上司であるミコトに隠さす事のない言葉を投げかけるオニグモにミコトは…
「さあ?」
小首をかしげ、意味ありげに微笑むだけだった。
オニグモはミコトの笑みと呟きに不快そうに眉を顰める。
しかしミコトはそんなオニグモなどよそに『ああ、そういえばシキの仲間を捕まえておきました。』と笑みを深めながらミコトが指を鳴らせば突然ミコトの横に黒い小さなドームのようなものが湧き上がり、海兵達は突然のドームに目を丸くさせる。
「こ、これは…!」
「インディゴ!?それにシキの部下や航海士達までいる!」
黒いドームが萎んでいき、完全に消えればそこにはシキの仲間達が眠りに付き軍艦の床に転がっていた。
その中には手配書も回っていたインディゴ、そして新たな仲間として手配書が作られたばかりの赤ゴリラのスカーレット。
他にはモニカの時だったミコトが眠らせた航海士達に島中にいたシキの部下達もおり、軍艦の床は人の山となっていた。
「本部へ戻ります…他の船に撤退命令を出しておきなさい。…ああ、あとシキは捕らえておきましたが暴れられたらあなた方では抑えきれませんでしょう?インペルダウンへ引き渡すまでわたくしが預からせて頂きますわ」
「…………」
海へ落ちていったシキは海面に触れる直前にミコトの能力で回収されていた。
どこにいるかは不明だが、海兵達は先程の黒いドーム状から出てきたシキの仲間達を見てしまっては疑問に思うことすらできない。
そして、シキを捕まえているがミコトはオニグモ達に引き取らせようとする気はなく笑う。
馬鹿にはしていないつもりである。
否、ミコトは馬鹿にしたつもりではなかった。
しかしミコトの言い方では自分達が麦わら一味より弱いと言われているようでオニグモは無意識に眉間のシワをよせる。
そんなオニグモの心の内に気付いているもののミコトは知らないフリをし側にいた海兵に撤退命令を出し、ミコトの命令に戸惑う海兵に目も呉れず船の中へと姿を消していく。
「あ、あの…中将……」
「……黒蝶殿の指示に従うしかあるまい…」
問題児である麦わらの一味が自分達の目と鼻の先にいる。
しかし上からは撤退命令が出された。
一介の海兵はどうしたらいいのか判断しかねてしまい、不機嫌そうにしている直属の上司に恐る恐る声をかけ窺った。
オニグモは溜息をつきながらミコトの指示通りに動けと命ずる。
その溜息の行き先は戸惑い何も出来ない部下達ではない。
オニグモの溜息の行き先はミコトへ向けられていた。
(噂では聞いていたが…これは余りにも酷い……)
オニグモや他の中将達は黒蝶と任務を共にした事は一度もない。
しかし噂では色々聞いていた。
ミコトの噂とは、麦わら一味の贔屓である。
麦わら一味の中に縁のある者がいるかは分からないがミコトはよく麦わら一味を贔屓しては見て見ぬしているという。
その噂を聞いたことがあるオニグモは海兵であるに関わらず海賊を庇い贔屓し見逃すミコトにギリッと奥歯を噛み締め拳を握った。
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