龍がルフィ達を乗せて登りきった時にはほとんど夕暮れだった。
赤い色に染められながらアスカはやっと地面に足を降ろすことが出来た。
「はぁ…やっと着いた…」
途中、ゾウから小さなサルが降ってきて直葉と錦えもんとカン十郎を巻き沿いにして落ちるというアクシデントがあったが、なんとかゾウに着いた。
だが、進むのが遅すぎてすでに空が沈みかけていた。
乗っているだけでも疲労は感じるもので、アスカは肩を回す。
「りゅーのすけ――…!!」
カン十郎が出した龍の絵は、あまりにも哀れすぎてルフィ達に応援されながらここまで運んでくれた。
『りゅうのすけ』という名前まで付けてしまい、ルフィ達はりゅうのすけに情が移ってしまった。
ここまでハアハアと息を上げながら一生懸命運んでくれたりゅうのすけが、ついに役目を終えて絵に戻っていく。
突然(?)の別れにルフィ達は涙を流す。
「茶番だ」
「ただの下手な絵だろ」
涙を流しながらりゅうのすけとの別れを惜しんでいるルフィ達に、ローとゾロが冷静な突っ込みを入れた。
因みに、アスカも泣いて別れを惜しむ彼らをただただ見つめるだけだった。
冷めているゾロとローに向かって誰よりも情に厚いウソップが怒るが、ゾロとローはどこまでも冷静だった。
「得たいの知れねえ土地だぞ…振り返るな―――常に前方に注意を払え!見ろ!あれが国の門だ!ゾウの背にしっかりと文明がある」
「物見やぐらもあるが…見張りはなし…国としちゃ手薄だ…」
冷静な二人にウソップも激情が治まったのか『淡白な奴らめ』と彼らに情を理解させるのを諦めた。
「それ、龍のお花?」
「ええ、そうよ…私達のためにここまで頑張ってくれたんだもの…お花を添えてあげなきゃ可哀想だわ」
アスカはコントを他所に、ロビンが絵に戻ったりゅうのすけの傍を離れていないことに気づき、近づく。
ロビンの手元には綺麗な花が握られており、そっと絵に戻り動かなくなったりゅうのすけの傍にその花を置いた。
どうやらお供えの意味で置いたらしい。
ロビンの言葉にアスカは『そうだね』と答えたが、ゾロ達と同じく淡白な性格をしているアスカは共感はできなかった。
アスカにとって、運んでくれたとはいえ、所詮は絵は絵だ。
「おーい!ウソップ!アスカ!来てみろ!すげーぞ!!」
「やぐら登んの早ェな!!」
ルフィは早速やぐらに能力で登り、そこからゾウを見渡す。
ゾウは緑が多く、中央にクジラの形の大樹がひと際目立っていた。
町もあり、ここからの風景は完全に島であり、生き物の背中とは到底思えなかった。
呼ばれたウソップは急いでやぐらに登るが、アスカは面倒臭かったので『はいはい』とだけ言っておく。
「ルフィが飛んだーー!!」
「だろうな…"マユゲ"はいるか?」
「いや!流石にここからは…」
一緒にゾウを見渡していたウソップだったが、隣にいたルフィが我慢しきれなかったのかそのやぐらから飛んで降りた。
冒険好きの船長が珍しい島?に上陸して我慢できるはずがない。
ゾロは見渡しているウソップに仲間の確認をしたが、流石に入り口から見える場所にはもういないだろう。
ゾロはそのまま進もうと歩き出す。
「ゾロ!錦えもん達を待たなくても?」
「広いっつても大陸じゃねェんだ…先に行こう」
『それでいいよな、副船長』、とゾロはアスカに振り向き聞く。
だが、それはゾロの揶揄いだとアスカは知っている。
2年も経っているのに未だに副船長だと認めないアスカはプクッと頬を膨らませてゾロを睨むが、ゾロは愉快そうに笑うだけである。
「これ見よがしに言いやがって…」
「ふふ…もう諦めたらどう?アスカ以外みんなあなたが副船長だっていう認識なんだから」
「いや!絶対諦めない!次に仲間になったやつに押し付けてやる!」
むすっとさせるアスカに、ロビンはクスクスと笑う。
ゾロがアスカを揶揄うのは、アスカが未だに副船長を認めないからだ。
反応が面白いのも勿論あるのだろう。
アスカは隙あらば副船長を降りるつもりでいる。
溜息をつきかけた時、アスカはピカーンと閃いた。
「ローがいるじゃん!ローが副船長やったらいいんじゃない?ロー、冷静だし!」
「残念、おれは別の船の船長をやっている」
それは副船長にローを指名することだった。
ローは冷静で、実力もあり、周囲を見渡せるし、何より頭もいい。
副船長にピッタリ!、とアスカはローを見たが、ローは正論で頬を叩いてきた。
パンクハザードからずっといるから忘れがちだが、ローはすでに別の海賊団の船長なのだ。
だが、アスカは諦めない。
こういう時のアスカは心底諦めが悪かった。
「じゃあ兼任!それだったらいつでも私に会えるし、会いやすいし!」
「魅力的なお誘いだが…アスカ、諦めろ」
船長が他の船の副船長を兼任をしたっていいんじゃない!?、とアスカが無茶振りをするが、もはや正論すらなくなってしまった。
「そんなに副船長が嫌だったらおれの船に乗るか?」
「ローの船?」
「ああ…おれならお前が望まないのに副船長にはしない」
「…………」
ガクリと肩を落とすアスカに、ローが肩を抱いて勧誘しはじめる。
今、ローはアスカと行動を共にしているが、いずれはアスカと別れてそれぞれの航海をすることになる。
ローはルフィと協定で抜け駆けは禁じているが、お互いに真面目に守る気はないようだった。
ただ、そればちょっかい゙はという意味で、キスはしても内緒で行為はしない。
ローの勧誘に、アスカは無言で返す。
ローの勧誘に心が揺らいでいたのだ。
そんなアスカにウソップが『オイ!揺らいでんじゃねェ!』と突っ込みを入れた。
「まあ、麦わら屋が許すとも思えないがな」
ローもウソップ達も本気でアスカがローの船に乗り換えるつもりはないと分かっている。
ただ、ローは分かりつつも、勧誘は本気であり、願いでもあった。
ローのお誘いに本当に心が揺らいだのはウソップ達(特にルフィ)には内緒である。
そもそも、アスカの本来の目的は、父であるシャンクスに会いに行くためだ。
ルフィのお守り役という名の副船長がしたくて船に乗っているのではない。
アスカは『残念だ』と零しながら歩き始めるローの後を追おうとした時、先方にゾロの後姿が見え、慌ててゾロを追う。
まだこの距離なら道を外しても対処できるが、これ以上離れれば迷子確定である。
「ゾロ!あまり一人で進まないで!一人で歩いてるとあんた迷子になるでしょうが!」
「あ?迷子になんねェ」
「なにその無駄すぎる自信…あんた目の前の目的地にも辿り着けないんだから先頭歩かないでよ」
「いやだから迷わねェって言ってんだろ………なんだその疑いの目は…」
「へェー、そんなにアレクサンドラと手を繋ぎたいんだー(棒)」
「――しょうがねェなァ…おら、さっさと行くぞ」
迷子の自覚がないゾロはアスカの言葉を不満そうに答える。
だが、アスカが長身ウサギを一羽出せば簡単に手の平をクルクルーっと返す。
それはそれは見事な手の平返しだったという。
よほど長身ウサギとお手々とお手々を繋ぐのが嫌だったらしい。
(アスカ…あなた、そういうとこよ…)
『いやだから先に歩くなって言ってんのよ』とため息をつきながらゾロの迷子発生イベントを阻止したアスカの背を見つめながら、ロビンは思う。
だから、ロビンもゾロも、キャプテンに憧れていたウソップでさえも副船長をアスカに指名するのだ。
そもそも、なぜ副船長が必要なのか。
癖の強すぎる船長とクルーの尻を叩ける人材が必要なのだ。
更に言えば、ルフィが逆らえない唯一の人材がアスカだけなのである。
正確に言えば、ミコトとアスカだ。
この二人にはルフィだけではなくエースやサボも逆らえないだろう。
ルフィを完全に抑えろとは流石にロビン達は言わないが、昔からアスカには強く出れないルフィを見ていると、アスカが副船長になるのは自然な流れでもあった。
今だって迷子になる確率100%なゾロの手綱をがっしりと握り締めている。
「ねえ、この門…開いてると思ったけど…」
「ああ…誰かにこじ開けられてる」
ゾロを連れて門をくぐると、それにアスカは違和感を感じた。
門はすでに開いていた。
門が地面に転がっていたが、風化によって壊れたにしては蝶番も門も古そうには見えなかった。
門はローの言葉通り、誰かにこじ開けられたようだった。
「確かに!この道も妙だぞ!森の"獣道"と言うにゃ広すぎる!」
ゾロもそれには気づいており、門をくぐった先にある明らかに争った形跡を見て笑った。
戦うのが好きな性格故か、『心して行こうか』という割にはその顔は嬉しそうに笑っている。
「住んでる奴も得たいが知れねェのに敵付きかよ!ちくしょー!」
自称小心者であるウソップは、カン十郎やローから得た『人間を嫌うミンク族』がいると恐々していたというのに、島に登ってみてみれば更に敵も追加されていた。
『うぅ…』と逃げ腰になりながらも自ら後方に回ってくれる。
いや、本人はそのつもりはさらさらないのだろう。
「…なんか…慣れなくて気持ち悪い…」
「地面に見えるけどゾウの皮膚だものね」
一歩踏み出すたびにぶにぶにと微妙に柔らかい感触にアスカは眉を顰めた。
そんなアスカにロビンが苦笑いを浮かべる。
文字通り象という生き物の背を歩いているため、普通の地面とは全く異なる。
柔らかいわけではないが、決して土やコンクリートなどの固すぎる陸地とは全く異なっている。
固すぎてはいないが、地面として認識するには柔らかいのだ。
それが慣れない。
「ナオちゃん、落ちちゃったけれど…大丈夫かしら…」
ふと、ロビンは後ろを向く。
その視線は、先ほど自分達が登ってきた場所に向けられている。
どうやら錦えもんと共に落ちた直葉を心配しているようで、ウソップはビビりながらも直葉しか心配していないロビンに『錦えもん達は??』と思ったが、錦えもん達の無事な声も聞いたので心配はしなくてもいいと考えてもいいだろう。
直葉を心配しているのは子供だからだ。
「…お前、気づいてるだろ」
「あら、何の事かしら」
「あいつが……いや、いい」
ゾロはロビンが直葉の血筋に気づいているのだと何となく察している。
だからこそ、ロビンが直葉を心配しているのが理解できない。
それはゾロが直葉の度胸の良さを知っているからだろう。
直葉は子供ながらに七武海であるドフラミンゴに捕まっても逃げ出そうとし、更には、自分の身の安全が保障されているとはいえあのドフラミンゴを脅しをかけた度胸がある。
その度胸の良さは恐らく父親である四皇のカイドウから引き継いだものだろうが、ゾロはその度胸の良さを見てしまうとどうも子供であっても直葉を心配する気は起きなかった。
ゾロの言葉にロビンは笑みを向けた。
それが笑って誤魔化しているのだとゾロも気づいて言い返しかけたが、やめた。
直葉の父親を知っているローはただゾロとロビンのやりとりを見ているだけだったが、直葉の父親を知らないアスカ達は二人のやり取りの意味が分からなくて小首をかしげた。
そんな敵がどこにいるかも分からない場所でのんきに歩く7人を望遠鏡で覗く人影が一つ―――…アスカ達はそれに気づかない。
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