(209 / 274) ラビットガール2 (209)

アスカ達がドンキホーテファミリーと戦っている間に、ナミ達も色々あったようだった。
ルフィ達がゾウへ上陸したのを知ったナミが駆けつけてくれたが、ルフィに抱きつき謝った。
その瞳には涙が浮かんでおり、ただ事ではないことを知らせる。


「サンジが!?」


出迎えに来たのは、ナミとチョッパーだけだった。
ブルックは今"身を隠して"おり出迎えには来られないが、ゾウにはいるらしい。
そして、サンジ。
彼の姿はゾウにはない。


「こんな手紙を残してサンジくん…いなくなっちゃったの…」


そう言ってルフィ達に渡したのは、一枚の紙だった。
その紙にはサンジの文字で『野郎共へ 女に会ってくる 必ず帰る』と書かれていた。
それを見て『なァんだ』とルフィは肩の力を抜く。
いなくなったと言ったから一味を抜けたと思ったが、必ず帰ってくると書かれているから何か用事で抜けたのだろう。


「め、めめめ!女神様っ!と恩人の方々!ど、どどどど、どうぞこちらです!!」

「おれらはオマケか」


ゾロもフランキーもそれほど心配はしておらず、ナミがただの用事で出かけたような軽いものではないのだと説明しようとしたとき、ミンク族が声をかけてきた。
どうやら宴の準備が出来たことを知らせてくれたのだが、アスカの前で照れているのか男のミンク族がモジモジと近づいてきた。
ルフィが宴と聞いて我慢できるわけがなく、ミンク族について行って建物に消えた。


「ちょっと!ルフィ!!聞いてるの!?」


サンジがいなくなったというのに危機感のないルフィ達男連中にナミは慌てた。
そんなナミにアスカとロビンがそれぞれ肩を叩いて宥める。


「ナミ、話は中で聞くわ」

「宴を前にルフィに話を聞けは無理でしょ、ナミ」

「うう…なんでうちの男連中は能天気なのよ…」


航海士としてルフィの我が儘を普段から聞いているナミだからこそ、ルフィの能天気と天然に振り回されてきた。
しかもルフィが集めた仲間のうち序盤で仲間になったナミはルフィとの付き合いもそれなりに長い。
相手がサンジだからこその信頼関係なのだろうが、目の前でサンジが去ったのを見たナミは宴どころではない。


「あっ…そういえば…アスカ、あんた女神ってどういうこと?」

「切り替えはや…」


そう思えば、パッと話題を変えるナミは何だかんだ言って麦わらの一味なのだろう。
アスカはナミの言う女神にどう説明すればいいのか困ったが、とりあえず説明する。
どうやらウサウサの実の影響か、ミンク族からしたらアスカは愛らしく美しい存在に見えるらしい。
『女神はお姉様しかいないのに!』と言うアスカにナミもロビンも『相変わらずルフィのお姉さん贔屓ね』と呆れ笑われた。
中に入ればすでに男性陣はミンク族に囲まれそれぞれの席に座って宴会を始めていた。


「アスカ!こっちにこいよー!」


アスカが入ると『女神…!』『女神が来られたぞ!席をあけーい!』ともはや定番になりつつあるやり取りがミンク族からされる。
もう突っ込むのも面倒なのでアスカはルフィに誘われるまま、ルフィが座っているパンダのミンク族の膝の上に乗る。


「はわわ…め、女神がおれの膝の上に…っ!!おれ!これから!椅子になるッッ!!!」


『羽のように軽い!まるで天女!――えっ!?天女!?』と(ミンク族視点で)麗しいアスカが自分の膝の上に座ってくれたことが感激しすぎて泣いてしまった。
周りからは『いいなー!』『そこ変われ〜!』やら野次が飛ぶがパンダのミンク族は気にしない。
ついパンダのミンク族を見上げれば、彼と目と目が合った。
『きゃっ!目が合った!おれ!もう何も見ない!』とまるで乙女のように頬を染めて顔を手で覆うパンダのミンク族(♂)にアスカはもう何も言うまいと目の前にある飲み物を飲んだ。
その顔は虚無の顔をしていた。


「姉ちゃんズリィ!それ俺が狙ったものなんだぞ!」

「テーブルにあるモノはみんなのモノなのよ!」


ふと、ミンク族の会話が耳に入りそちらに視線を向ける。
そこには猫科のミンク族が二人並んで食べていた。
同じ外見と会話からして姉弟なのだろう。


「アスカ!これうめェぞ!」

「ん、ありがと」


アスカはその姉弟のミンクを見つめていると、ルフィが自分の手にある肉と同じ肉を渡す。
だが、その肉は明らかに小食のアスカには大きすぎる骨付き肉だった。
今は一人前を食べれるようにはなったものの、小食なのは変わらない。
出会いが出会いだったせいか、ルフィは時々自分が美味しいと感じた食べ物をアスカに渡して肥やそうとしているのだ。
とはいえ、今のアスカの体重はギリではあるが19歳女性の平均体重なので昔ほど気にしなくていいのだが、痛々しいまでに痩せ細って死にかけていたアスカがトラウマになっているのかルフィは見た目が健康的に成長しても心配は心配らしい。
貰ったのはいいがアスカは『こんなに食べれないんだけど』と思いつつ齧る。
小食でも流石に減ったお腹は無視はできなかった。
食べきれなかったらルフィに渡せばそれで解決するのもある。
無理に食べさせるほどルフィも鬼畜ではない。
肉を齧ったアスカの歯形はルフィやゾロに比べると当然小さく残る。
肉が大きいというのもあるし、一口が大きいルフィの隣にいるというのもあるかもしれないが、頭上から『はぅ…お口が小さい…可愛い…まさに女神…いや天女…』と聞こえたが、アスカは無視した。
肉で口いっぱいにしながら、アスカは直葉の姿を脳裏に思い浮かべる。


(姉、か…)


先ほどの姉弟のやり取りを見てアスカは考える。
一番に思い浮かぶのは、直葉の言う『姉上』という言葉だ。
アスカはナミ達と合流して心の余裕も出てきたのか、直葉の言葉を考えていた。


(姉って言われてもなァ…私の兄弟は兄さんしかいないし…)


ごくりと肉を飲み込み、また齧る。
宴の仲間やミンク族の賑やかな声を聴きながらアスカは考えて考えて、そして考える。
アスカは記憶を取り戻し、家族を思い出した。
自分がどんな村で生まれて育ったのかも思い出した。
だけどやはり妹がいるなんてアスカは知らない。
だから余計に直葉が勘違いしているのだとアスカは思っている。
しかし、それに腑に落ちないのも確かにあった。


(仁…お父さんの名前……あの写真に写っている男性がお父さん…)


それが父の存在だ。
勿論、記憶を取り戻したアスカの父親と直葉が見せた写真に写る男性は似ても似つかない他人だ。
アスカの髪色は父親から継いでおり、兄だって同じ髪色をしている。
目の色は母親から継いでいるから父親とは違うが、それでも父親の目の色と仁という男性の目の色は異なっている。
だけど、仁が父親だと受け入れかけている自分もいるのだ。
それが逆に違和感を感じる。
そして―――母の存在。
アスカは直葉が言う母の名前も顔も知らないが、ただ分かるのはその母親という存在に不快感を感じているということだけだ。


(お母さんにはそんなこと思わないのに…)


父と共に海賊に殺された自分の生みの親の母には、アスカは不愉快も不快感も何も感じない。
むしろ親しみを感じており、だからこそ、直葉の言う母にだけ不快感を感じている自分に訝しんでしまう。
母親だという存在に嫌な気持ちになったせいか、アスカは消化不良になったように食欲がなくなった。
食べようとも食欲がなくなったので、アスカは食べかけの肉をルフィに渡す。
『ん』とだけ言って渡すアスカに、ルフィは慣れたように受け取り食べかけの肉を普通に齧る。
それを見ながらアスカは食後の飲み物に手を伸ばす。


(あの子とも話をちゃんとしないとな…)


確認せず手に取ったので口に広がる酸味にオレンジだと気づく。
程よい酸味と甘みに舌鼓を打ちつつ、アスカは時間がある時に直葉と話をしなければと考える。
だが、確実に駄々を捏ねて泣くだろうなというのが目に浮かび、面倒臭いという気持ちが生まれてしまい諦めかける。
そんな感情ごとアスカは飲み込みながらオレンジジュースを胃に収めていく。


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