(211 / 274) ラビットガール2 (211)

ナミ達はドレスローザから出航した後、近海で『ビッグ・マム海賊団』に遭遇したという。
幸い、ビッグ・マムは乗っていなかったが、彼らが狙っているのはシーザーだった。
シーザーはビッグ・マムからも研究費を出してもらっており、その研究費を着服したクズエピソードがあった。
逃げたくても、クー・ド・バーストはドフラミンゴから逃げるために使用したためコーラが足りず逃げきれない。
しかしその場にいたクズ含めた全員が協力しビッグ・マムの船を撒くことが出来た。
それを聞いたアスカ達ドレスローザ組は拍手をナミ達に送った。


「おおお〜〜!」

「さすがお前ら!」

「手に汗握った!」

「やだもー!そんなたいしたもんだけど!」

「照れてねーぞコノヤロー!」


仲間達の拍手喝采に素直に照れて自画自賛するナミ達に、誰もが更に拍手を送る。
麦わら一味は少数精鋭で、常日頃から非戦闘員だと言っているナミ達でさえも主力にも劣らない戦闘力を持っている。
だが、それでも最も戦闘力のあるルフィとゾロが抜けていたのにビッグ・マムの船を巻いたのは称賛に値する。
しばらく調子に乗っても許されるレベルである。
ビッグ・マムの船を巻いてゾウまで翌日に着いた。
それが10日前の出来事である。


「私の見た範囲では…ゾウの中心にある都市の最も古い派かいの痕跡は2週間と少し経過してたわ」

「!――その通り…10日前、国はもう全壊していた」


ロビンが見てきた町の破壊後は新しい物もあったが、ナミ達が訪れたであろう10日前よりも前に破壊されていた後も多く発見された。
ワンダ曰く、ナミ達が到着した時にはすでにこの国は全壊されていたという。
ナミ達が来たのはまさに奇跡だとワンダは言った。
彼女…いや、ミンク族の記憶には恐ろしい光景が浮かぶ。
グッと拳を握り、耐えるような表情を浮かべる彼女達に、流石に見ていられずフランキーが『話したくなきゃいい』と言ったが、ワンダは知る権利はアスカ達にもあると言って話そうとしてくれた。
しかし…


「みんなーー!!公爵様がお目覚めにっ!!」


一人のミンク族が慌てた様子で入ってきた。
そのミンク族の言葉に、ミンク族達が一斉にワッと歓声が上がる。
どうやら大怪我を追っていままで眠っていたミンク族がいたらしい。


「よかった!すぐ容態を診に行こう!」


報告しに来たミンク族の言葉を聞いて、麦わら海賊団の船医であるチョッパーが駆けつけようと席を外した。
それを追うように、ヤギのミンクであるミヤギと、リスのミンクであるトリスタンが続くように追いかける。


「ワンダ!イヌアラシ公爵がぜひ恩人達にお会いしたいと!」

「あァ!すぐに…!」


ドレスローザ組は一連の流れに首を傾げた。
首をかしげていると、ワンダからイヌアラシ公爵というミンク族に会ってほしいと頼まれた。
公爵と名に付き、ミンク族の誰もが目を覚ましたという報告に安堵し涙を流す者もいるくらいだからミンク族の中でも名のある者なのだろう。


「イヌアラシって誰だ?」

「モコモ公国の公爵殿…つまり、この国の王だ…都市の消滅と共にずっと昏睡状態であった!」


イヌアラシ公爵という存在は国王だった。
しかし、この国には王はイヌアラシだけではなかった。


「この国には二人の王がいる…昼の王『イヌアラシ公爵』と夜の王『ネコマムシの旦那』」


この国には王が二人いる。
昼と夜に分けた王だ。
ワンダはルフィ達をイヌアラシの元へ案内しながら話を続ける。
事件は17日も前に起こったという。


「モコモ公国に"来訪者の鐘"が鳴り響いた」


この国に来訪者があれば、鐘を鳴らして知らせる仕組みになっている。
ローのクルー達であるベポ達もその鐘を鳴らされ歓迎を受けた。
だが、その日は違っていた。
鐘は鳴った。
鳴ったが、その鐘の音色は危険を知らせる『襲撃の鐘』だった。
その鐘はゾウ全体に響き渡り、襲撃によって地響きが起き、それは歩き続けるだけの『象主』も吠えるほどだった。

襲撃してきたのは―――カイドウの部下、災害と評される三人のうちの一人、ジャックだった。

ジャックはすでに絶滅し古代に数えられるマンモスという動物に姿を変える事ができる能力者だった。
そこでアスカは自分が躓いたあの段差の足跡を思い出す。
恐らく、あれはマンモスに姿を変えたジャックの足跡なのだろう。
ジャック達はある人物を探しているとミンク族に問う。

―――雷ぞうはいるのか、と。

ミンク族はその問いに首を振った。
そして、もうひとつ、問う。

―――直葉という子供はいるのか、と。

彼は雷ぞうの時とは異なり、その子供の特徴を細かく伝えたと言う。
しかし勿論、その問いにもミンク族は首を振った。
そして話し合おうと言った。
雷ぞうや直葉を探しているのなら一軒一軒探せばいい、と。
だが、それをジャックは断り力によってミンク族を降そうとした。
しかし、ミンク族も黙って力に屈するわけもなく、ミンク族は天性の戦士だった。
その話を聞いてアスカはキャロットと初めて会った時の事を思い出す。
あの時の隙のない動きを見る限り、戦士ではあるのだろう。


「よ、『四皇』の部下達だったのか!!この国を襲ったのは…!」

「ああ…なぜこの島に辿り着けたのか…なぜ侍がいると思ったのか分からない」


ミンク族達を襲ったのがまさか四皇であるカイドウの部下達だったとは思ってもみなかったウソップは驚きの声を上げる。
その驚きの声にワンダもコクリと頷いた。
ウソップはカイドウの部下が来たことに驚いたのと同時に、直葉がカイドウの部下達に探されていることにも驚いた。
部下が探しているということは、カイドウが直葉を探しているのだろう。
説明の中にあった特徴全てに直葉が当て嵌まっているのをウソップは知っている。
なぜ、直葉だけを指名したのか分からないが、ウソップにとって直葉は侍である錦えもん達と同じ枠にいる。
だから、直葉を探しているのも雷ぞうと同じ理由だと思っていた。


(ねェ…そのジャックって奴が探してるって子、ナオちゃんよね?)

(あ、ああ!そうだ…だから絶対に言うなよ!?)

(当然じゃない!錦えもんのことだって言えないわよ!)


驚きと四皇が襲撃してきたという恐怖に震えるウソップに、ナミが小声で聞いて来た。
ウソップ達ドレスローザ組は直葉の頭巾を取った姿を見ているため特徴が一致すると気づくが、頭巾を取る前に別れたゾウ先行組は直葉の特徴は瞳以外知らない。
だが、名前は一致しており、外見の特徴を聞かなくても彼らが直葉を探していると気づく。
勿論、侍である錦えもん達の事だってワンダ達には言えない。


「…………」

「…………」


カイドウの部下達が雷ぞうと直葉を捜索のため、ゾウで暴れて多くの犠牲を出した。
ゾロとロビンはお互いに視線を向け、言葉なく言葉を交わした。
言ってはいけない、と本能が言っている。
なんて言ったって、自分達の船にはその探している直葉が…この国で大暴れした部下を持つカイドウの血を継ぐ娘が乗っているのだ。
恐らく、ジャックが直葉を探しているのは連れ戻すためだろう。
しかし、直葉がカイドウの娘だと知っているのはルフィ、ゾロ、ロビン、ローのみ。
直葉は子供にしては大人びてはいるが、接しているといい子だと分かる。
そんな直葉とカイドウが血の繋がった親子だなんて想像できないが、ミンク族からしたら直葉は仇の娘だ。
カイドウの部下であるジャックが直葉を探して大暴れし犠牲者だって出ている。
直葉がいくらいい子だとロビン達が言っても、ミンク族達の傷ついた心は塞がらない。
ドレスローザの時だって国王がドフラミンゴに操られていたと知っても捕まえようと国民達が躍起になっていたではないか。
誰もが親と子を別として考えられるとは限らない。
もし、ミンク族に直葉の血筋を知られると彼らとの間に亀裂が走ってしまう。
ここで無駄な争いはできるだけ避けたかった。
そのため、今の話を聞いて二人は口を堅く閉ざすのを決めた。
そう、二人は。
その後の展開は読めており、ロビンとゾロは次の行動に移す。


「ん?カイドウって……ナオの父ちゃんか!」


ルフィは聞き慣れた名前に考え、その答えが出た。
良くも悪くも思った事をすぐ口にするルフィはそう口を開きかけた。
幸いにも先手を打ったロビンのおかげで、ナオ、という名前が出る前にロビンが能力でルフィの口を塞いだためワンダの耳には届かなかった。


「?、今、何か言ったか?カイドウがどうとか…」

「いえ?カイドウは四皇として私達も知ってたからそれじゃないかしら?」


何とか誤魔化し…きれているかは分からないが、ワンダからそれ以上の追及はなくロビンは安堵の息をつく。
ロビンの行動に、カイドウの娘が直葉だと知らないナミ達も胸を撫でおろす。
ゾロの目が『こいつ錦えもん達の事も言いそうだからそのまま口塞いどけ』と言っていたのでコクリと頷く。


「ねェ、ロビン…ルフィが窒息死しそうなんだけど…」

「大丈夫よアスカ…鼻は塞いでいないから」

「え…いや…塞がってるけど…鼻…」

「あら、ごめんなさい?」


アスカはあの時ドフラミンゴに記憶を改ざんさせられていたし、あの場にアスカはいなかったため、直葉がカイドウの娘だということを知らない。
だが、アスカも直葉の名前を出せばミンク族達から反発を貰うのは分かっていた。
ルフィの口を塞いでいないとポロっと言ってしまうのも理解している。
ただ、恋人であるルフィが口も鼻も塞がれて死にかけていたのでそこだけは助けてあげた。
船長を殺しかけたロビンは笑って手をずらし鼻呼吸ができるようにした。


「あそこの療養所に公爵様がいる…出向いてもらって悪いな…話の続きは後にしよう」


まさかルフィ達の連れに仇の娘がいるとは知らないワンダはイヌアラシがいる療養所に着いたと、療養所を指さした。
その時、悲鳴が聞こえた。


「ギャアーー!!」

「申し訳ない!シシリアン様ァ〜〜!!」


療養所だというのに騒がしく、その声の方へ視線をやればミンク族が次々に落ちていくのが見えた。
療養所に繋がる橋を急いで渡ると、そこには猫科のミンク族がいた。


「シシリアン殿!?何事です!?」

「おォ!ワンダか…!あガラ達が甘い事ばかり言うのでな…千尋の谷へ叩き落してやったところだ!!」


ワンダが駆けつけ名を呼んだのは、イヌアラシ三銃士の一人であり、犬嵐銃士隊隊長のシシリアンというライオンのミンクだった。
ライオンらしく、谷へ子を落とすごとく甘い事(砂糖やハチミツ、恋、優しさ、愛含む)を言うミンク族達を高い場所にある療養所から落としたところだった。


「シシリアン殿、"麦わらの一味"です」

「!!」


ワンダの紹介に、シシリアンはバッとルフィ達を見た。
そして、飛び上がり、そのままルフィ達に跪き頭を下げた。
それにアスカ達は驚いてしまう。


「この度は国を救っていただきありがとう!!この恩は一生忘れない!!」


何をされるのかと思えば、お礼を言われた。
大げさなお礼の仕方に驚いているナミ達にワンダが『シシリアン殿は何事にも常に全力だ』と教えてくれたが、それをルフィが『暑苦しいライオンだな』で台無しにしかけ、ナミにゴンと殴られてしまう。
気にするなというナミ達の言葉に、シシリアンはもう一度お礼を言いながら顔を上げた。
その視線が丁度ルフィの隣にいたアスカに届いてしまう。
シシリアンと目と目が合ったその瞬間、アスカは『あっ(察し)』とまだ何もしていないのに全てを悟った。


「えっ!!?妖精!?」

「分かります、シシリアン殿…女神と見紛うほど愛らしい方ですが我々と同じ生きている生命体です」

「なに!?こんなに美しいのに我々と同じ酸素を吸って生きていると!?」

「はい、こんなにも愛らしいのに生きてるんです」

「こんなにも美しいのに生きているのか…!」

「はい、こんなにも愛らしいですが生きているんです」


ミンク族によってアスカは美しくもあり愛らしくもあるらしい。
甘い事が嫌いなシシリアンでも、美も可愛らしさも超越どころか銀河まで飛び越えている存在を目の前にすると全てが無に返るらしい。
アスカどころかルフィでさえ、彼らのやり取りはもはや慣れてしまった。
ただ、彼らにとってこれほどまでに愛らしく美しい完璧な存在が自分達と同じ存在なのだという驚きなのだろうが、言葉がまるで生きているのが残念だと言わんばかりにアスカには聞こえ、遠い目が地平線を超えた遥か先へと向けられる。


「公爵が中でお待ちだ!!さあ中へ!グズグズするな!!―――あ、妖精殿は怪我をしては大変ですから急がずゆっくりとお越しください!」


ワンダがアスカを含む一味全員の紹介をしたというのに、アスカだけは『妖精殿』だった。
もう突っ込む気力も答える気力すらもない。
中に入ると先に駆けつけていたチョッパーと、ミヤギとトリスタンがおり、すでに治療は終えたのか片付けをしていた。
そんな彼らの治療を受けていたのは、他のミンク族と比べて巨体を垂れ耳の犬ミンク族。
ワンダが駆けつけて『公爵様』と抱きついたので、ベッドで体を起こす目の前のミンク族が王であるイヌアラシなのだろう。


「ゆガラ達が"麦わらの一味"かね…何から何まで救われてしまったな…本当にありがとう」


サングラス越しにイヌアラシはルフィ達を見る。
アスカに視線が止まり、アスカはまた面倒くさいことになるのかと思ったが、イヌアラシはそのまま数秒アスカを見たと思えば隣にいるナミへ視線を移した。
それにアスカは目を丸くして驚く。
てっきり他のミンク族のように『女神』だの『天女』だと言われると思って諦めたのだ。
流石王様だとアスカは安心した。

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