イヌアラシ達の怪我はジャック達にやられたものだ。
そして、もう一つ…ミンク族の国を滅ぼしたものがある。
それは―――シーザーの"毒ガス兵器"である。
シーザーの作った平気がドフラミンゴによってカイドウまで届いていた。
ジャックはその毒ガス兵器を使用し、ワンダ達を更に苦しめた。
「まァ、敗者の話より…ゆガラ…"麦わら帽子"がよく似合うな」
「ん?」
イヌアラシの視線の先にはルフィの麦わら帽子があった。
ルフィの麦わら帽子を見るその視線はとても優しい。
「私も昔…あー…誰だ、あの猫の…」
「ネコマムシの旦那ですね」
「それと共に海に出ていた時期があってな…今や"四皇"の海賊…シャンクスが昔そんな帽子を…」
イヌアラシの言葉にアスカは目を丸くする。
久々に父の名を聞き、アスカはイヌアラシのベッドに乗り出した。
「パパを知ってるの!?」
元々アスカは父に会いにルフィの船に乗っているので、父の名に敏感になっても仕方ない。
嬉しそうなアスカの笑顔を向けられたイヌアラシは…
「ゔ…ッ」
胸を押さえ前屈みになる。
アスカは突然苦しむ様子を見せるイヌアラシに驚いてベッドから離れてしまい、入れ違いになるようにチョッパーがベッドの上に乗ったままイヌアラシに駆けつけた。
「どうしたんだ!?傷が痛むのか!?」
アスカは何かしてしまったのかと焦った。
しかし、よくよく考えればベッドに手をついて乗り出しただけで、爪の先すらイヌアラシに触れていない。
巨体を持つイヌアラシの大きなベッドに一般女性の身長を持つアスカが乗り出したとしてもベッドが傾くわけでもない。
チョッパーもそれは分かっており、目も覚ましたばかりというのもあり傷が開いたのかと心配した。
しかし、
「…まさに妖精…いや、天使…いや、女神……なんという輝き…国…いや!この世界の秘宝…」
唸るような呟きを聞いた瞬間、チョッパーはスンッと真顔になった。
それはチョッパーだけではなく、アスカもナミ達も心配していた表情を静かに真顔に変える。
この場で笑顔を保ててるのはワンダと、ルフィだけだろう。
特にルフィもシャンクスの話題に心が躍っていた。
「おっさん、シャンクス知ってんのか!?なんで!?この帽子おれシャンクスから預かっ―――」
ルフィは最初こそ女神だの天使だのとアスカを見て頬を染めるミンク族達に腹も立っていた。
アスカを自分の女だと言いふらしたかった。(実際やろうとしてアスカに止められた)
だが、彼らの様子からアスカに惚れているわけではないと気づき、それが彼らのアスカへの挨拶だと思うことにしている。
ルフィですら触れるのが面倒臭いらしい。
シャンクスを知る人物はそうそう会うことはない。
だからその話を聞こうとしたとき…イヌアラシはそのまま仰向けになり眠りについた。
「寝たァーー!!」
「もう午後6時を回っているからな」
「まだ6時だろ!!子供か!!」
時計を見れば、ワンダの言う通り針は6時を指している。
この国には二人の王がおり、朝6時から夕方6時までの王と、夕方6時から朝6時までの王が存在している。
なぜ、時間によって分かれているのか…答えは簡単だ。
仲が悪いのだ。
イヌアラシとネコマムシの二人の王は顔を合わすと殺し合うと言われているほど不仲で、普段は住んでいる場所と時間を分けることで衝突を避けていた。
「昼夜逆転は我々にも影響している…『町』の者達は昼に活動を…『森』の者達は夜行性だ…――先の戦いにおいてもそうだった…」
シシリアンも6時には眠る『町の者達』であるため、ウトウトしながら話すも耐えられずその場で眠ってしまった。
そのシシリアンの代わりに、二人の王を行き来できる役職を持ちこの時間でも目が覚めているワンダが話してくれた。
――町を襲ったジャック達をイヌアラシや銃士隊達が町人達を避難しながら戦った。
しかし、ジャックはカイドウの部下であるだけあり頑丈な体やその力に、イヌアラシ達は彼らを退かせることはできなかった。
結局朝6時までジャック達を撤退させることはできず、活動時間の交替にてイヌアラシはネコマムシに後を任せた。
しかし、ネコマムシに交替してもジャック達は手強く、結局その戦いは5日も続いた。
「二人の王にしびれが切れたのか…5日目にして…とうとう『兵器』を持ち出してきた…!それが『毒ガス兵器』だったのだ…!」
ジャックも二人の王を相手に戦い、部下達も次々と補充され戦いはどちらも一歩も引かなかった。
しかし、5日も経ち一歩も引かない相手にジャックは毒ガス兵器を使用した。
5日も戦っていたというのに、毒ガスにかかれば結果は一瞬だった。
毒ガスは街全体と森の半分まで広がり、砦の奥に避難していたミンク族以外が全滅した。
「そこから先は…思い出したくもない!」
ワンダは忘れたい記憶がよみがえり顔をしかめる。
ワンダも毒ガスの中にいたが、布で鼻と口を塞ぎおぼろげな意識の中、彼女は見た。
ジャック達は彼らが自分達の望む答えを持っていないのを理解しながらも質問しては手にかけていった。
そして、強者と呼ばれる者達は磔にされ拷問された。
その中にはイヌアラシとネコマムシもいたと言う。
「6日目…もう破壊に気が済んだのか同じ答えに飽きたのか…数十人の部下を残し…ジャックはこの地を去って行った…」
毒ガスの怖さは、パンクハザードでアスカ達も経験しているから毒ガスを撒かれたミンク族達の恐怖も分かる。
だから、ジャックがどれだけ非道なことをしたのかも理解していた。
「いや…それすらも…救われていたのだ…」
「わー!起きてたのか!?」
ぐうぐう寝ていたイヌアラシが目を覚ましたのか、話に入ってきた。
そのイヌアラシの上に乗っていたルフィは驚くが、退く気はないようである。
「新聞にあったジャックの『死亡記事』を読んで分かった」
イヌアラシは脳裏に先ほど読んでいたある新聞の記事を思い出す。
記事にはジャックの死が書かれており、そしてその記事にドレスローザの事件も書かれていた。
それを見てイヌアラシは全てを理解し、だからこそ、ルフィ達にも恩人としてお礼を言った。
イヌアラシとネコマムシが治めるこの国の恩人は何もナミ達だけではなく、麦わらの一味全員だった。
「その次の日なんだ…おれ達がここに着いたのは!」
ドレスローザから出航しビッグ・マムの船を撒いたナミたちはゾウに着き、上陸を反対しているシーザーを使って上陸した。
アスカ達同様、ナミ達がついたころには襲撃された後だった。
そこでトリスタンと出会い、毒ガスの事も知った。
毒で倒れていたペドロというミンク族に助けを求められ、ナミ達はそれに答えた。
毒ガスは製作者であるシーザーがいたため、中和させた。
チョッパーを中心に、ナミ達や他に動けるミンク族達と共に怪我人全員のの治療を施した。
そのおかげでワンダ達は仲間や家族をこれ以上失わずに済んだのだ。
212 / 274
← | top | back | →
しおりを挟む