(215 / 274) ラビットガール2 (215)

サンジの出生であるヴィンスモーク家は実は人殺しの一族と聞き、アスカ達は驚く。


「"人殺しの一族"ってどういう事!?」

「『ジェルマ66(ダブルシックス)』って名前は知らねェか?別名を"戦争屋"だ」


サンジの家が人殺しの一族と言われ信じられないナミがペコムズに問い詰める。
だが、返ってきたペコムズの言葉に更に驚きが隠せない。
しかし、ペコムズの言葉を聞き驚愕したのは何もナミだけではない。


「ジェルマ66!?あんなの創作物でしょ!?本当にいるの!?」


アスカもペコムズの言葉に驚いていた。
二人が引っ掛かったのは、『ジェルマ66』という部分だ。
ジェルマ66というのは世界経済新聞に連載している物語の組織の名として広まっており、新聞を読んでいるナミも知っているほどだ。
ただ、それだけではない。
アスカも反応を示したことにナミは驚いた。
ナミは新聞で暇なときになんとなく読んでいる作品ではあるが、アスカは新聞を読まない。
そもそもあの作品は女性向けではなく、男性向けの作品だ。
アスカが興味を持っていたことにナミは驚いた。


「えっ…アスカも知っているの?」


思わずそう零せば、アスカはナミに振り向く。
その目は輝いており、いつものアスカとは真逆の反応に戸惑いを隠せない。
そんなナミ達を他所にアスカは興奮さめやらぬまま続ける。


「知ってるもなにも!小さい頃から『海の戦士ソラ』を見ててずっとファンだったんだよっ!!」


アスカは記憶を取り戻したからか、幼い頃から見ていた作品が実は実在していたと知って興奮していた。
それこそ、ドフラミンゴに出会う前から『嘘つきノーランド』と同じく愛読していたほどだ。
破顔するアスカの勢いにナミは押されてしまうが、『あのね、あのね』と嬉々として話すアスカを微笑ましく笑みを浮かべる。
いつも大人しいアスカのはしゃぐ姿は保護者として君臨しているナミからしたら可愛くて仕方なかった。
ナミにジェルマ66の事を語るアスカの腰に文字通り腕が回されグッと引き寄せられた。


「わっ!ル、ルフィ!?」


グイっと強く引き寄せられたアスカは驚いた声を上げ、後ろを振り向く。
予想通りルフィがおり、これまた予想通りむすっと拗ねた表情を浮かべていた。
アスカはルフィが不機嫌になる要素がどこにあるか分からず首を傾げていたが、ナミは気づいているらしく呆れたようにため息をつく。


「ルフィ…あんたって結構嫉妬深いのね…今のは物語の話よ?」

「でも実際にいるんだろ?」


ナミの言葉でアスカもルフィの不機嫌の理由が分かった。
どうやらジェルマ66に嫉妬していたらしい。
物語にさえ嫉妬する独占欲の塊にナミのように呆れたくなったが、残念(?)ながらアスカはそんな彼が好きなのだ。
アスカもまんざらでもなさそうなのをナミは呆れたような安心したような複雑な感情を吐き出すようにため息をつく。
ルフィのムッとさせた言葉に答えたのはペコムズだった。


「ああ、ジェルマ66は存在する組織だ…そのトップにいるのがヴィンスモーク一家…ボスが"黒足"の親父なのさ」


アスカはペコムズが頷いたのを見て更に金色の目を輝かせた。
それが気に入らずムッとさせたが、ナミはサンジの出生に驚いていた。


「そんなのはどうでもいい!おれ達が知りてェのはあいつが戻ってくるかだ!おれ達が『ビックマム』の子分になるのはイヤだ!だからそん時はお前らがおれの下につけ!」

「え〜〜っ!!」


ルフィは直感で仲間に引き入れている部分はあるが、仲間が結婚することに否定的ではない。
一人増えると喜ぶくらいだから仲間の幸せを考えて受け入れてくれる船長ではあるが、それが理由で傘下に入るのは別の問題だった。
それが喧嘩を売った相手なら余計に。
だから逆にペコムズ達に傘下に入れと言い、ペコムズはその発言の恐ろしさと驚愕にベッドから落ちて泡を吹いた。


「口を慎め小僧!恩人といえど調子に乗るな!ママは海の工程!『四皇』の一人だぞ!!」

「うん」


威嚇のようにグルグルと喉を鳴らし、サングラスを上げる。
サングラスを上げると真ん丸な小さな可愛い目が見えた。
本人からしたら睨んでいるのだが、その小さな真ん丸な目が可愛くて怖さが半減してしまっている。(むしろ全く怖くない)
四皇と聞いても表情一つ変えず簡単に頷くルフィも相まってペコムズは傷が痛みガクリと座り込んでしまう。


「ハァ…ハァ…いずれにせよ…結婚からは逃げられねェさ…」


幸い傷は開いておらず、痛む傷を抑えながらベッドに戻りながらペコムズは言った。
その言葉にアスカ達が首を傾げると、ペコムズはビッグ・マムの『お茶会』の招待状は絶対に断れないと言った。


「どうして断れないの?」

「断れば後日…そいつにはある『プレゼント』が届く事になる…」

「『プレゼント』?断ったのに?」

「中はなに入ってるんだ?肉か?」

「馬鹿言え!断ったんだぞ!?ママに恥をかかせたんだ!嬉しい物など入っちゃいねェ!―――中身はそいつに関わりのある"誰かの首"だ!!」

「!!」


お茶会の招待状とは言うが、それは拒否権のない脅しでもあった。
過去、ビッグ・マムのお茶会を断って大切な人の首を送られた者達をペコムズは知っている。
だから、サンジの行動は正しいと思えた。
サンジが断った場合、アスカ達麦わらの一味か、レストランの誰かか、カマバッカ王国の誰かか…サンジと関わりのある首がプレゼントされるのだ。


「『脅迫』は圧倒的な実力者が口にすれば『必ず来る未来』でしかない…一体誰が逆らえる?それが『四皇』という存在!為す術もねェってのはこういう事だ!」

「だから…サンジ君は行くしかなかったんだ…」


ナミはなぜサンジが結婚を断らなかったのか理解した。
彼は知っていたのだ…自分が断ることで大切な存在に危険が訪れるのを。
それはすなわち、サンジは大切な人達を守ったのだ。
守るために敵の言うこと聞くしかなかったのだ。


「もう一つ…安心させてやろう、恩人達よ…お前らがウチの傘下に入ることもない!」

「え?どういうこと?」

「これは"政略結婚"だ!ママは傘下につく者達と必ず"血縁"を結ぶ―――つまり結婚が成立した瞬間!"黒足"のサンジはお前らの仲間じゃなくなるってことだ!」


ビッグ・マムやその子供達との結婚は、普通の幸せな結婚とは全く異なる。
ビッグ・マムと血縁を結ぶことで、傘下との繋がりも強くし簡単に裏切らないようにしている。
娘が嫁入りしてきたとしても、動向を探られることもある。
政略結婚なのだから、相性が悪く不仲な夫婦生活だってあるのだ。
それに、サンジは麦わらの一味として結婚を強要されているのではなく…ヴィンスモーク家の血筋として結婚を強要されている。
それはすなわち、ベッジについていくしかなかったとはいえ、サンジは麦わらの一味と無関係になったということになる。
それにいち早く反応したのは、勿論ルフィだった。
怪我を負っているペコムズの胸ぐらを掴んだ。


「なんだその勝手な話!サンジはおれの仲間だ!」

「ぐ…!だがそれ以前にヴィンスモークの倅だろうが!おれに当たるな!」


仲間ではないと言われて、黙っていられるルフィではない。
胸倉を掴んでペコムズに憤りを向けるルフィを、アスカとナミが抱きついて止めた。


「ルフィ!落ち着いて!」

「やめなさいルフィ!怪我人よ!?」


止めにはいるアスカやナミだってルフィと同じ気持ちだ。
サンジは大切な仲間であり、すでに家族同然だ。
そんなサンジが無理矢理結婚をさせられるだけではなく、もう仲間ではないと言われれば、誰だって腹を立てるだろう。
だが、それをペコムズに当たっても仕方ない。
二人の宥めで少しは落ち着きを取り戻したのか、乱暴な手つきではあったがペコムズを解放した。
しかし勢い余ってペコムズはベッドから落ちてしまう。
ルフィの傍に抱きついたままアスカはベッドから落ちて仰向けになったままのペコムズに声をかけた。


「ねえ、ペコムズはこれからどうするの」

「回復したら戻るさ…おれを殺したつもりだろうベッジのガキをこのまま済ますつもりはねェ!」


ペコムズの今の立場的に心配ではあるが、その言葉をアスカは望んでいたのかもしれない。
アスカは頭に血が上がっているルフィの傍から離れず、一瞬視線を伏せ口をつぐんだが、ペコムズへ視線を向ける。


「なら、ルフィも連れてって」

「!――アスカ!!」


アスカの言葉にナミが咎めるように名を呼ぶ。
叱るようなナミに、アスカは諦めるように首を振る。


「無駄だよ、ナミ…ルフィが言ったら聞かないのは知ってるでしょ?だったら侵入だけでもスムーズにした方がいいと思わない?」

「そ、そうだけど…!」

「ならおれ一人で十分だ!コイツと一緒なら『茶会』に潜り込んで式をぶっ壊せるかもしれねェ!」

「それはそうなんだろうけど…」


ビッグ・マムの所に行く行かないの話はまだ一味の中では決着がついていないが、ルフィの中では決まっている。
それはアスカだけではなく一味であるナミ達もルフィが納得していないことに諦めと言う言葉はないと知っている。
それにナミ達だって結婚のためにサンジが一味を抜けるなんて納得できるものではない。
サンジが好きな女性と結婚して幸せになるなら仕方ないとは思えるが、この結婚にサンジの幸せがあるとは思えない。
それでも、ルフィとアスカの言葉に反論の余地もないナミだが、渋ってしまう。
ビッグ・マムに負ける心配よりも、ルフィを一人に行かせる心配の方が強いかもしれない。


「おれにママを裏切れっていうのか!?敵を誘導しろって!?」


ナミ達の事を見逃してくれようとしてくれたペコムズだが、ナミ達の事を見逃すのとビッグ・マムを裏切るのとでは話は別だ。
ナミ達を見逃すことと、ビッグ・マムを裏切るのとは全く違う。
ビッグ・マムの敵だと分かっているルフィを密かに連れて行くのを簡単に承諾できるわけがない。
勿論、アスカだってそれは承知だ。
アスカがペコムズと同じ立場なら絶対に断っている案件である。
だが、アスカだって大切な仲間を連れていかれて黙っているわけにはいかない。
アスカはルフィから離れ、ベッドから落ちたままのペコムズに近づく。


「ね、お願い…ルフィを連れてって…」

「〜〜〜〜っっ」


アスカの手がペコムズの頬に触れる。
アスカは自分に惚れていると言っていた言葉を信じ、ペコムズに色仕掛けで頷かせようとしていた。
こういう色仕掛けは女としての自信があり魅力的なナミやロビン達がするべきだが、アスカは自分に惚れたというペコムズの目を信じることにした。
アスカは毛並みを確かめるように優しく撫で、そのまま彼のヒゲに触れる。
犬科とは違い、猫科のミンクであるペコムズのヒゲは非常に敏感だ。
惚れた女が優しく意味ありげにヒゲに触れている。
悪寒とは違うゾクゾクした何かが背中に走り、ペコムズは声にならない声を零した。


「う、ぅぐぐぐ…っ!お、おれは…ママの…傘下だ…!!ママを裏切れ、ない…!」


しかし、流石ビッグ・マムの傘下に入っている海賊と言うべきか。
中々折れない。
とはいえ、効いているとアスカでも分かった。
後ろで『離せナミ!こいつブン殴る!』『ダメだってば!』という恋人と仲間の声と、『は、はわわ…はわ…はわ…』『はぅ…なんて美の女神…』『絶許』というミンク族の声が聞こえるがアスカは無視をすることにした。


「裏切ってほしいわけじゃないの…ただ、ルフィを連れてってほしいだけ……だめ?」

「うぐぐ………ゔぅ゙…」


ダメ押しに上目遣い+顎を撫でる攻撃を繰り出す。
猫科なのもあってか、拒みたくても拒めず、鳴らしたくなくても好いた女に顎を撫でられゴロゴロと喉を鳴らしてしまう。
顔をしかめて決して承諾しない意思を示しているが、尻尾は素直なもので、尻尾を立てて小刻みに震わせていた。
これは猫科が嬉しいと思う時の仕草である。
もはやこれは承諾したとアスカは解釈していいと思った。
アスカはナミ達に振り返り言った。


「いいって」

「そんなこと言ってねェ!!」

「だめ?」

「だめじゃねェッ!」


勝手に承諾したことにされたペコムズは反論をしたが、アスカがコテンと小首をかしげてみせれば即落ちした。
見事な二コマ落ちであった。
言質は取った、とアスカは『ありがとう』とお礼を言った。
その後すぐにナミから解放されたルフィの腕が文字通り腰に巻かれ引き寄せられた。
付き合ってから何度もされているので、もはや慣れてしまったアスカはナミに向かってピースを見せた。
その顔には『やったぜ』という文字が浮かんでおりドヤ顔していた。
これには過保護なナミも流石に呆れた溜息をつくしかなかった。

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