(216 / 274) ラビットガール2 (216)

話もルフィがサンジを取り戻しに向かうことに決定し、ルフィはアスカの腰に腕をグルグルと巻き付かせたまま早くペコムズを治そうとチョッパーに診せるため部屋を出た。


「ゾロ!いたのか!」


部屋を出ると、ベンチにゾロが座っていた。
一緒に来たのに姿がないことに気づいていたが、また迷子になっているのか程度の認識だったが、どうやら部屋を出て外で待っていたらしい。
ゾロは声をかけるルフィとルフィに拘束されているアスカをチラリとみる。


「今の聞いてたか?」

「聞こえた」

「サンジのこと心配なんだろ?」

「蹴るぞてめェ」


『放っとけつったろあんなバカ』、とぼやくゾロにアスカは『素直になればいいのに』と思う。
そんなアスカの心の中などゾロにはお見通しなのか、『なんだよ』と視線を向けて来るアスカにギロリと睨む。
だが、アスカには『べつにぃ?』と体に巻き付くルフィを剥がそうとしながら意味ありげに目を細められるだけだった。
ゾロが意味ありげなアスカに何か言いかけたその時、丁度タイミングよくチョッパー達が訪ねて来た。


「おーい!ルフィ!ゾロ!ペコムズどうだー!?」

「あァ!痛がったり壁に頭ブツけたり怒鳴ったりしてるよ!すぐ治してくれ!」

「え!?それどんな症状だ!?すぐ診る!!」


誇張されているレベルではない症状の伝え方をするルフィに、チョッパーは信じて慌てる。
急いでペコムズの下へと向かおうとしたチョッパーだったが…


「ゆガラが"麦わらのルフィ"か!会いたかったぜよ!!」


後ろから聞こえないはずの声がし、チョッパー達は振り返る。
そこには本来なら部屋で安静にして寝ているはずのネコマムシが立っていた。


「えー!?なんでついて来てんだ!!寝てろよ!」

「丁度いま治ったトコじゃき」

「治ってねェよ!!」


ネコマムシはイヌアラシと同じく、安静必須な怪我をしているに関わらず、チョッパー達が診に来ればお風呂に入り部屋に入ってきたボールにじゃれて傷を開かせベッドに寝かせたばかりだった。
包帯だって変えたばかりなのだ。
治ったと言い切るネコマムシに思わずチョッパーは怒号のごとく突っ込んだ。


「おい見ろよアスカ!ゾロ!デケーな!あれがネコマムシか!バケ猫じゃんか!」


遠目からでも分かるほど、ネコマムシは巨体を持っていた。
ルフィの言葉に、アスカは『本当だ』と言いながらイヌアラシの姿も思い出す。
仲が悪いと言う二人の体格は似ており、二人以外に体の大きいミク族は見たことはない。
その間もルフィを剥がそうとしたが、なかなか緩まない。
『ちょっと…いい加減離して』『やだ!』という攻防を繰り広げていたルフィ達に向かってネコマムシが飛んできた。


「感謝のガルチュ〜〜!!」


そう言ってネコマムシが突撃し、三人は壁とネコマムシに挟まれてしまう。
ルフィ達は痛くはないが、突撃の衝撃でゾロが座っていたベンチと壁が壊れた。
恩人の仲間に感謝を込めてミク族特有の挨拶をしていたネコマムシはルフィとゾロの間にいるアスカに気づき、そして――


「えっ!?妖精!?」


やはり、ネコマムジも他のミンク族同様、その目にはアスカは輝いて見えるらしい。
突進した衝撃からくる負傷とアスカの愛らしさのWパンチに、ネコマムシは血を吹いた。


「ネコマムシが血ィ吹いた〜〜!!」

「オイ!何やってんだバケ猫!」

「く、苦しい…早くどいて…」


怪我人が出てチョッパーが慌てて駆け寄る。
アスカは男二人に挟まれ苦し気に唸り声を零し、ルフィは大爆笑していた。


「…何の騒ぎだ?」


ネコマムシに潰されたアスカ達はやっと脱出に成功するも、ゾロは刀を抜き、ルフィはネコマムシの上にアスカを抱きしめたまま登り楽し気に笑う。
すると、仲間と合流していたローがルフィの下に現れたが、相変わらずどんな時でも騒がしい一味に呆れかえる。


「あっ…ルフィ、ローが戻ってきた」

「え?――あ!トラ男〜〜!そいつら仲間か〜〜!?」


何度言っても離さないルフィに、アスカはもう諦めた。
腰に腕をグルグル巻きされながらルフィを支えに抱きつくアスカが最初にローに気づく。
肩を叩いてルフィにローが戻ってきたことを知らせると、ルフィはローに手を振る。
そのローの後ろにはローの仲間であるクルー達がいた。


「そうだ、紹介しに来た…ウチの船員、総勢20人だ」

「「「お見知り置きをォ!"麦わら"ァ!!」」」


ルフィはローの言葉にネコマムシから降りてポーズを決めるローのクルー達に楽し気に手を振って答えた。
ローはアスカの紹介もしようとしたが、アスカの腰にルフィの腕がグルグル巻きにされているのを見て片眉を上げる反応を見せる。
視線でルフィに問えば、ルフィはその視線とその意味が分かったのかグッとアスカを抱き寄せた。


「ウワキボーシだ!」


アスカは『あっ!バカ!』とルフィの言葉に慌てて口を塞ごうとしたが、それは失敗に終わる。
アスカの景色がルフィの顔からローの顔へと変わったからだ。


「…へえ」


ルフィの言葉を聞いてローは能力を使い、ルフィの腕からアスカを奪う。
アスカがいた場所にコロンと石が転がり、巻き付いているものを失ったルフィの腕は巻き戻すように元の長さに戻っていく。
ルフィは『おい!』とアスカを奪われてローを咎めたが、それ以上は動かなかった。
ローは咎めるルフィの声を無視し、ルフィから奪ったアスカの腰に腕を回し、ルフィと同じくグイっと自分の方へと抱き寄せる。
傍から見れば親密な空気に思われるが、そのローの声から出されるその音は全くの正反対であった。
ローは浮気と聞き鋭い視線をアスカに向け、関心するかのようなその声は冷たく短い音でもアスカを刺すようだった。
アスカは明らかにローが浮気を疑っていると慌てて否定する。


「う、浮気はしてない」

「浮気"は"、ねェ…」

「あ……あー………ちょっと…色仕掛けを…」

「……………」


ローの責める視線が深くなる。
言葉選びを間違えたアスカは視線を逸らして白状するが、ローから感じる気配が肌をピリッと焼く。
ルフィを見るも、ルフィは何も言わない。
恐らく、それが彼のアスカへの罰なのだろう。


(ルフィめ!以前なら何も言ってこなかったくせに!)


そう思いつつ、ルフィを睨むが流石にアスカもそれはただの八つ当たりだと分かっておりルフィを睨むのはやめた。
チラリとローへ視線を戻せば、ローの目は凍えるような冷たい目をしていた。
『あ、これマジ切れしている…』と焦りすぎているせいか逆に冷静に頭が動く。
ローはアスカを更に抱き寄せる。
その力は痛みを伴うもので、文字通り抱き潰しかねない力の強さだった。
アスカが痛みに顔をしかめてもローは気にも留めずアスカをジッと見つめる。


「お気に入りのミンク族でも出来たか?」

「う、ううん…全然…これっぽっちも…」

「どうだか…おれと麦わら屋が無理矢理恋人にしたようなものだしな…本当は別の奴を―――」


ローが言いかけたその時、アスカがローの両頬を挟むように触れる。
むにっと力を入れて触れるアスカに、ローは口を閉ざした。
その黙った隙にアスカはローにキスをした。
ローの不穏な雰囲気に見守っていたローのクルー達がアスカのキスに『おおっ!』と歓喜…なのか分からない声を零した。
そんなクルー達を他所にアスカはローから顔を離す。
ローを見ると、彼は驚いた表情を浮かべていた。
まさかアスカからキスを送られると思っていなかったらしい。
その驚いた表情にアスカはクスリと笑う。


「冗談でもやめて…私は私の意思で二人の恋人になったんだから」

「…そうだな…すまない」


あたかも自分達が無理矢理恋人にしてアスカの意思ではないと言うローにアスカはキスをして止めた。
笑みを浮かべているが真剣な瞳を向けられローは自分の発言に気づき謝る。


「私もごめん…物事を進めるのにちょっと丁度いいなって軽はずみでしちゃって…」

「…もうすんなよ…冗談でも本気でも…」

「うん、わかった…ごめんね」


腰に手を回して抱き寄せ、ローとアスカは額を合わせる。
苛立ちもキスで和らいだのか、腰に回す手も抱き寄せる力もアスカが痛くないよう弱めてくれている。
ローの失言も勿論咎める事ではあるが、元々の原因はアスカの色仕掛けだ。
アスカだって心は自分に向けられていると分かっていても、ローやルフィが自分以外に色仕掛けしているところを見るのは悲しいしつらい。
アスカは二人の心を傷つけたのだ。
素直に謝ると、ローは許してくれた。
ローと拗れるのを回避できた嬉しさもあり、アスカの顔には笑みがこぼれた。
その笑みにローも釣られるように頬が緩む。
そんな二人に、麦わら一味は(一人を除いて)『あーあまたやってらァ』と見守っていたが、ローのクルー達からは歓声が上がった。


「おめでとうキャプテン!!」

「ついに冷酷ウサギと恋人になったんすね!!」

「長い間片思いしてましたもんね!」

「いやー、10年以上の片想いもここでついに終止符かァ〜!長かったっすね!」

「お祝いに後で宴を開きましょうね!!」

「えっ!っていうことは冷酷ウサギはうちの船に乗るってこと!?やった〜!女の子が増えた〜!」


ローのクルー達はずっとローの片想いを応援していた。
ローは自分の事を多くは語らないが、恩人や初恋の人の事をポツポツだが話してくれたことがあった。
勿論、自慢するような人ではないからクルーに聞かれた際に気分がノッてくれた時でそれほど多い情報ではなかったが。
その中でもアスカが賞金首になり手配書を配られた時に思わず『初恋でずっと探している人だ』とローが口を滑った時は驚きを通り越した。
幼い頃に生き別れたその初恋の人は、古株と言われるペンギン、シャチ、ベポも初耳であったほどローは想いを秘めていた。
だからこそ、ローの恋をみんな応援していた。
まだ付き合った報告をしていなかったからか、キスをする二人を見て驚きつつも結ばれたと喜んだ。
それぞれ声をかける中、一番喜んだのはアスカに懐き懐かれていたベポと、同性であるイッカクだろう。
特にイッカクはハートの海賊団の中で唯一の女船員だったため、恋人になったのだからアスカは麦わら海賊団からハートの海賊団に移ると思っているらしく、やっと同性の仲間ができたと喜んでいた。
それを見てローはまだアスカが二人の男性と恋人なのも、海賊団は変わらないのを教えていなかったと思い出す。
とりあえず説明するよりも前に、長い間応援してくれたクルー達にお礼を述べるのを優先とし、アスカをルフィに返してクルー達と向かい合う。


「よかったね!キャプテン!ずっとアスカのこと好きだったもんね!」

「ああ、ありがとうベポ…あのな…」

「いやァ〜片想いしている子のために色んな美女に声を掛けられても靡かなかったキャプテン超かっこよかったっすよ!今度冷酷ウサギにその雄姿伝えておきますね!」

「そうか…ありがとなシャチ…そのアスカのことなんだがな…」

「冷酷ウサギが麦わらの海賊団からこっちに移るにあたって部屋割りはどうしましょう?イッカクと同室でいいですか?」

「そりゃァ、ペンギン!恋人なんだからキャプテンと同室だろ!」

「だよなー!!」

「いい加減に人の話聞けお前ら」


片想いをずっと応援してくれたクルー達の純粋な想いを向けられているせいか、いつもならスパッと切って捨てることができるのに中々切り出せなかった。
『よ゙がっだでずね゙!ぎゃぶでん゙!』と号泣するクルーがいるから余計だろう。
だが、いい加減に話も終わらないのでアスカと付き合っているのが自分だけではないことと、アスカは海賊団を移らないことを伝えようとしたとき…全員が嬉しそうな顔から笑顔が消えた。
まるで絶望の色を塗りたくったような悲痛な表情に、ローは怪訝とさせた。
彼らの視線は自分の後ろに向けられ、ローは『なんだ』と振り返ろうとした。
それをベポが止める。


「だ、駄目だよキャプテン!見ちゃダメっ!」


もふっ、とした感触と同時に、目の前がオレンジ色に染まる。
どうやらベポに抱きしめられているらしい。
いや、なんで抱きしめられているのか分からないが、抱きしめられた。
そのローの耳に、アスカとルフィの会話が届く。


「ルフィ…ごめんね」


弱弱しく零すアスカの声に、ローは抱きしめて守ってやりたくなる。
だが、その役目はルフィに託しており、今は抱きしめるベポを剥がすのがローの仕事だ。
ロー達のやり取りをよそに、アスカは両手を広げて待つルフィの腕の中に戻る。
アスカの謝罪に、ルフィは戻ってきたアスカの体をこれでもかと抱きしめ、いつものように明るい笑みで許してくれた。


「もうすんなよ…おれもトラ男もおれ達以外を見るアスカなんか見たくねェ」

「うん…」


ルフィも自分のためにしてくれたと分かっているが、それでもモヤモヤが生まれた。
今はそのモヤモヤも消えたが、いい気分ではない。
アスカもローもだが、何より目の前で見せられたルフィが一番傷ついていると心から反省した。
抱きしめてくれるルフィに甘えるようにすり寄り、アスカはローにしたように自分からルフィにキスをした。
二人と付き合うにあたって決め事があった。
それが、アスカが相手に、相手がアスカにしたことをできる限り同じことをもう一人にもするというものだ。
今回もローにキスをしたから、ルフィにもキスをしたのだが、勿論、それだけではなく謝罪も入っている。
ちゅ、とリップ音が小さく聞こえ、ローはなぜベポが抱きしめて来たのか理解した。
その説明もすべく、ローは能力を発動しアスカの傍にある石と自分を入れ替える。
パッと石と変えられたベポは抱きしめる相手がいなくなり、自分を抱きしめる。


「キ、キャプテン??」


能力を使ってアスカの傍に移ったローに、ベポだけではなくクルー達が首を傾げた。
そんなクルー達を見渡しながら、ルフィの腕にいるアスカの肩を抱きよせた。
さっきまでルフィとの浮気現場を見ていたクルー達は、これから起こるであろう修羅場にみんな顔を青ざめる。


「話していなかったが…おれと麦わら屋とアスカで付き合っている…だからアスカがおれの船に乗ることはない」


ローはアスカの肩を抱き、ルフィはアスカの腰に手を回して抱く。
アスカの負担にならないよう力を入れて抱き寄せるその光景はやはり異様だった。
いくら海賊団に入っていてもまだまだ爛れていない彼らは付き合いとは二人でするものだという常識が残っていた。
そのため、船長であるローの言葉に誰もが口をあんぐりと開け呆気にとられた。
そして―――


「ぎゃーー!ベポが倒れたァ〜〜!!」


あまりのショックにベポが気絶してしまい、その場は騒然となった。
ローは慌てる船員たちに顔を手で覆い、アスカは気まずげに頬をかき、ルフィは笑った。
しかし、事態はそれだけでは終わらない。


「ルフィ〜〜…トラ男〜〜」


『気絶するほどか?』、とローは気絶して仰向けに倒れたベポに駆け寄って声をかける船員たちを見ながらそう思っていると…背後から悪魔の声が聞こえた。
その声にローだけではなくルフィもビクリと肩が跳ね、二人が恐る恐る振り返るとそこには―――

――満面の笑みの大魔神がいた。

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