(218 / 274) ラビットガール2 (218)

カンカンと鐘の音で直葉は目を覚ました。
パチリと目を開ければ、直葉は錦えもんに背負われていた。


「おお、直葉!起きたか!」

「ふぁ…おはようございます…錦えもん殿、カン十郎殿」


錦えもんはあくびで直葉が起きたのだと気づく。
降りるかという問いに頷いたので、背負っていた直葉を降ろすと直葉は周囲を見渡す。


「なんの音ですか?」

「鐘の音だ…きっと客の来訪を知らせるものであろう…拙者たちを歓迎して!」


直葉は目覚ましとして聞こえた音に首を傾げ、それをカン十郎が答えた。
笑うカン十郎に、錦えもんが頷くとモモの助の声がした。


「直葉ー!父上ー!カン十郎〜〜!!」

「モモの助っ!」


カン十郎とはドレスローザで別れてしまったモモの助は、彼の姿に自然と笑みがこぼれる。


「直葉も無事でよかった!!心配しておったのだぞ!」


あの時、サニー号安全確保チームとして一緒にいるはずなのだが、手違いがあってアスカと共にドレスローザに残ることになってしまった。
直葉はカイドウの娘だ。
それはモモの助と錦えもんだけではなく、他の侍達も知っている。
知っていて、彼らは直葉を受け入れた。
モモの助に至っては、カイドウの娘と理解していても恋をするのを止められなかった。
その初恋の相手が無事の姿を見せてくれたことにモモの助は心から安堵した。


「モモの助、心配してくれたの?」

「うむ!」

「どうして?」

「どうして…って…それは…その…」


心配したというモモの助に直葉はコテンと小首をかしげる。
直葉は四皇の父を持ち、そして強者である幹部達に囲まれて育ってきた。
幼い姉でも父の血筋のおかげか強い部類に入る子供だった。
だからか、モモの助のようによく怯える存在は初めて見たのだ。
そのせいか守るべき対象と見てしまうのは仕方ない。
それに、直葉はモモの助からの感情に気づいていないのもあるかもしれない。
モモの助は直葉が初恋で片想いしている。
だから、片想いしている女の子を心配するのは当然だが、それがまだ恋もしたことがない直葉には通じていなかった。
チラリと父とカン十郎を見る。
助けを求めたのに、大人二人からは『頑張れーっ!』『イケ!そこで畳みかけろ!』と応援していた。
モモの助の立場から敵の娘との恋を応援してくれるのは大変ありがたいし助かるが、今ではない。
頼りになる大人たちは助けてくれず、直葉は『ね、どうして?』と純粋な疑問を問いかけて追い詰める。


「せ、拙者……な…ななな直葉が…!」

「うん、私が?」

「す、すす、す…――――」

「あ、なんか猫の声がする!」

「――――」


勢いに任せて告白しようとしたモモの助だったが、直葉の耳に猫の鳴き声が届き意識がモモの助から猫へと変わってしまった。
気の変化は子供特有ではあるが、意を決して告白しようと思ったモモの助はその勢いを塞き止められガクリと肩を落とした。
それは錦えもんとカン十郎も同じで、猫の鳴き声に目を輝かせながらモモの助に背を向ける直葉に肩を落とした。


「モモの助!錦えもん殿!カン十郎殿!ミンク族の方の声でしょうか?なら姉上もそちらにいらっしゃるかもしれません!早く行きましょう!」

「わっ!待つでござる!直葉!」


直葉はもうすっかりさきほどの疑問も消え、完全にそちらに気が向かってしまった。
直葉の頭の中はミンク族というよりも、姉のことだろう。
姉と会ってから傍にいたのに、一晩でも離れてしまった。
直葉は寂しがり、早く会いたいと思っていた。
ミンク族とも合流しているだろうと、直葉は姉だと言い張るアスカの下へ向かおうと走り出してしまう。
一世一代の告白を相手に切って捨てられ落ち込んでいたモモの助は直葉が一人走り出したので慌てて追いかけ、その二人を苦笑いを浮かべた錦えもんとカン十郎も続く。

――錦えもん達が向かったのは、クラウ都という場所。
クラウ都は人の気配がなく、建物もほとんどが崩壊していた。
カイドウの部下であるジャックがミンク族にした仕打ちはモモの助から聞いていたため驚きはないが、悲惨さに胸が痛くなる。


「やめてください旦那!」

「公爵様落ち着いてーー!」


クラウ都に入りとりあえず進むと、声が聞こえた。
何やら揉めているのを止めるような声で、直葉とモモの助はお互いの顔を見合わせた。


「あそこで何やら…――ん?」


声の方へと視線をやれば人影が争う姿が見え、錦えもんが子供達を後ろに下げる。
しかし、その人影に既視感を感じた錦えもんは目を凝らしながらもっとはっきりと姿を見ようと近づこうとしたその時、ウソップ達が駆けつけ4人を物陰に押し込むように隠れさせる。


「あぶねェ!間一髪!」

「間に合った!」


錦えもんはウソップとチョッパーが、カン十郎はフランキーが抑え込み、モモの助はナミが、直葉はロビンが抱っこして止めた。
アスカ達は宴で眠っていたが、鐘の音で目を覚ました。
周囲から侍が来たというのを知り、慌てて錦えもん達を探したのだ。
ミンク族が襲われたのは、侍である雷ぞうを探すため。
雷ぞうなど知りもしない彼らからしたらいい迷惑どころか、錦えもん達を恨んでも擁護できない。


「あんた達悪い事言わないからすぐサニー号へ戻りなさい!」


ナミの言葉に錦えもん達は首を傾げ怪訝とさせる。
彼らの切羽詰まったような雰囲気も錦えもん達からしたら謎だ。
それを問おうとしたその時、争う声が聞こえ全員がそちらに意識が向かう。


「あっ!コラ!」


全員の意識が向こうへ向けられたせいで拘束の力が緩んでしまった。
争いが気になるのか錦えもん達も体を起こしそちらに視線を向ける。
目の前に広がったのは、体の大きいミンク族同士の喧嘩だった。
いや、喧嘩といより殺し合いだ。
己の獲物を持って睨み合うその光景に、錦えもんは目を丸くし―――


「ケンカをやめェーーい!!」


咄嗟さのように、錦えもんはその喧嘩を止めに入った。
物陰に隠れて錦えもんが現れたことに、ミンク族からざわめきが生まれる。
ウソップとチョッパーが止めきれず、錦えもんの背中に張り付きながら止めるが錦えもんは止まらない。


「放してくれ!頼む!」

「何する気だ!お前まで!!」


錦えもんの後に続くように、フランキーの拘束を逃れたカン十郎と、ナミの腕から飛び降りたモモの助が駆けつけ、ミンク族の前に出た。


「ナオちゃんはいいの?」


ただ、直葉だけは抵抗なく大人しくロビンの腕に収まっていた。
ロビンの問いに、彼女の腕に抱きかかえられながら直葉は静かに頷く。


「直葉はあの方々とは初対面ですから」


そう答える直葉にロビンは首を傾げた。
まるで錦えもん達は初対面ではないと言わんばかりの言葉だ。
しかしそれをロビンが問おうにも、直葉が『姉上のところに行きたいです』と見上げてきたのでロビンはそっと直葉を降ろしてあげる。
直葉は、ロビンが子供に弱いのを分かっていて上目遣いでロビンを見て甘えるような声色を出した。
それに加えて大人しい素振りをみせれば、子供に甘いロビンが降ろしてくれると分かっていたのだ。
降ろされた直葉は一直線にアスカに向かって抱きつく。


「姉上っ!直葉、姉上と会えなくて寂しかったですっ!」

「え…あ、うん…」

「サルと移動男達に酷い事されませんでしたか!?」

「いや、大丈夫…えっと…放してくれないかな?」

「やです!」

「そっか〜いやか〜」


離れていた分を取り戻すように強く抱きしめる直葉の腕の力は子供とは到底思えなかった。
直葉の出生を知れば納得できる力の強さだが、生憎とアスカは子供という存在を知らず成長したのでそこまでの疑問は生まれない。
チラっと助けを求めるためにロビン達を見る。
ロビンとブルックからは微笑ましい視線を貰い、フランキーとゾロは興味ないためか助けてくれる素振りすらない。
ならばと彼氏であるルフィに視線をやれば案の定体に腕を撒きつかれ抱きつかれた。
そして、争いがここにも。
もはやルフィ(またはロー、または両者)と直葉が睨み合いバチバチと火花を散らすのはお約束である。
そんなアスカ達をよそに、錦えもん達は必死に錦えもん達を庇うウソップを押しのけ前に出る。


「ゾウの国の者達よ!拙者ワノ国光月家が家臣錦えもんと申す者!」


何を思ったのか、殺し合う彼らを前に錦えもんは名乗り出た。
この国の崩壊の原因であるワノ国の人間であり、雷ぞうを探していると堂々とイヌアラシとネコマムシに問いかけた。
それにはウソップとチョッパーは顔を青ざめ泣くしかない。
一見自殺行為としか思えない錦えもん達の姿に、アスカもゴクリと唾をのんで見守る。
必死にウソップとチョッパーが誤解を解こうとしている中、先ほどまで不仲の相手を目の前に殺意を隠しきれず殺し合っていたイヌアラシとネコマムシは他のミンク族を従え錦えもん達の下へと歩み寄り―――跪き頭を垂れた。


「お待ちしていた…――――雷ぞう殿はご無事です!!」


アスカ達はイヌアラシの言葉や、彼らが襲わず頭を垂れるその姿に言葉を失うほど驚いていた。
他のミンク族もみんな跪いて頭を下げていた。
その彼らの目からは涙があふれ出ているのをアスカは見えた。
誰もが言葉を失う静けさの中、錦えもんはホッと安堵の笑みを浮かべる。


「そうか無事か!よかった!」


その錦えもんの言葉と笑みに、先ほどまでネコマムシと争い険しい表情を浮かべていたイヌアラシや、ネコマムシはニコリと錦えもんの笑みに釣られるように笑った。


「おい待て…」


ルフィでさえ驚きすぎて腰を抜かしたように座り込んだほど衝撃的だった彼らに、ウソップが二人の間に立つ。


「おい!雷ぞうはいたのか!ずっと!全員が知ってたのか!?」


ウソップはナミ達からは雷ぞうや侍が原因でカイドウの手下であるジャックから酷い仕打ちをされたのを聞いた。
ナミ達に至っては毒で苦しむ姿を目の当たりにしている。
本当なら侍や雷ぞうを恨んでも仕方ないことを彼らはされたのだ。
ウソップはミンク族達を見渡す。
彼らに遺恨は見られず…彼らは笑っていた。


「お前らみんな!死ぬトコだったんだぞ!!」


死者だって出ていた。
生き残った彼らだって決して軽傷だったわけではない。
傷跡が残った者もいれば、イヌアラシは足、ネコマムシは腕を失っている。
生まれ育った千年の都市が滅んでしまった。
なのに、彼らは笑っていた。
ウソップは瞳からポロポロと涙があふれ出ていた。
ナミも声にならないほど泣いてしまっている。
ネコマムシは知り合って短いのに自分達のために泣いてくれるウソップの頭を撫でる。


「ゆガラ達にも秘密ですまんかった!ワノ国の光月一族と我らは遥か昔より兄弟分―――何が滅ぼうとも敵に"仲間"は売らんぜよ!!」


その言葉は紛れもないネコマムシではなくミンク族全てからの言葉だった。

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