錦えもん達が面識があると知り、そして、彼らミンク族が錦えもん達に遺恨はないと知り、ウソップは腰を抜かしたようにその場に座り込んだ。
積もる話もあるとウソップを回収し、ルフィ達は少し離れた場所で彼らを見守っていた。
その中には直葉もおり、直葉はアスカの傍でモモの助達を見つめていた。
錦えもんは背中にある光月家の証である家紋の入れ墨を入れている背中を見せる。
その家紋はイヌアラシとネコマムシもあるらしい。
どうやらナミ達が思うよりも彼らのつながりは深い物だったらしい。
杞憂に終わったが、争わなくていいと誰もが安堵した。
「しかしイヌアラシ!ネコマムシ!おぬしらが生きてここにおったとは驚いたぞ!」
「死に損なってな…あの日の言葉を頼りにここで待てば…」
「ああ!必ずいつかゆガラ達に会えると思うとったぜよ!」
錦えもんも顔見知りだった二人がどこにいるのか知らなかったようで、二人がこの国にいる事や生きていることに驚いているようだった。
それ以上に喜びがあったが、錦えもんの言葉をイヌアラシが答え、それに続くようにネコマムシが答えた。
「おいバケ猫!今私が錦えもんと話していたんだ!」
「あァ!?ゆガラと話すのは気分が悪いと思うてな!!わしが代わっちゃっただけぜよ!!」
それが喧嘩勃発のきっかけとなった。
二人の仲は表向きではなく、本当に仲が悪いらしい。
自分が錦えもんに答えていたのにそれを奪うようにネコマムシが答えたのにイヌアラシは腹を立てせっかく収めていた剣を再び抜こうと手にかける。
その売られた喧嘩をネコマムシは嬉々として買い、ミンク族達は慌てて宥めようとする。
しかし、他のミンク族に止められるのならば元から不仲で昼夜交替制度は取っていない。
アスカ達もまたやってると呆れたように見ていた。
だが、そんな二人を意外な人物が止めに入った。
「ケンカなどよせ!イヌアラシ!ネコマムシ!!」
それはモモの助だった。
突然起こった二人の喧嘩に驚いた表情を浮かべたが、声を上げて対峙する二人を止めに入る。
「あんなに仲が良かった二人がなぜさっきから殺し合いのようなケンカをするのでござるか!!」
「そ、それは…」
いつもなら止める者の声など聴く耳持たない二人の言い争いが止まった。
焦るような表情に、他のミンク族達も驚いたような表情で二人を見ていた。
二人は例え子供であっても喧嘩を止めたことはなかったからだ。
そんな周囲など気づかずモモの助は更に『もう二度とケンカは許さぬ』と命じ、さらに続ける。
「父上の事が原因ならなおさらでござる!!こんな二人を見たら"父上"は悲しむぞ!!」
その言葉に、イヌアラシとネコマムシは完全に戦意を喪失した。
彼らから発せられるピリピリとした気配が完全に消えたのを認識したのと同時に、アスカ達は疑問が生まれる。
「父上って…錦えもんそこにるじゃねェか」
ウソップがアスカ達の疑問を代表して答えるように呟く。
素朴な疑問だが、誰もが思っている疑問である。
そんなアスカ達など他所に、5歳に叱られた二人はガバッと平伏するように頭を下げ謝罪した。
その姿にミンク族達からどよめきが起こり、アスカ達も目を丸くして驚く。
「"モモの助様"の言う通りでござる!」
モモの助の言葉を、父である錦えもんが同意して答えた。
その際に、息子であるはずのモモの助を『様』と敬称したことに事情を知らないアスカ達は違和感を感じた。
そんなアスカ達に、錦えもんは今までアスカ達に欺いていたことの謝罪を交えながら答えてくれた。
「ここにおわすはワノ国『九里』が大大名!『光月おでん』様の跡取り!『光月モモの助』様にござる!!」
その言葉に、侍とネコマムシ、イヌアラシ以外が驚いた声を上げた。
ミンク族達は二人から光月家の事も聞いていたらしく、その驚きはきっとアスカ達よりも大きい。
「なんか偉ェのか、モモ」
「彼らが家臣の筆頭なら相当有力なお殿様かもね」
彼らの話によれば、モモの助は錦えもんとは血は繋がってはおらず、親子関係でもなく、モモの助に錦えもん達が従っている主従関係らしい。
それを隠していたのは身分が明らかになると敵が増えるからだという理由らしい。
突然の暴露に混乱するものも少なくはない。
「親子じゃなかったのか!?」
「似てますけどね」
「嘘をついて悪かった…せっしゃは実はえらいのだ!」
「ハイえろいですよね!」
「"えらい"のだ!!」
騙しているような形ではあったが、決してルフィ達を信頼していなかったわけではない。
告げるタイミングを逃しただけだった。
そこは別にルフィ達も気にはならないが、モモの助の身分よりも錦えもんと親子ではないという事実が驚きである。
なんて言っても女関係での鼻の下を伸ばした顔がそっくりなのであった。
「ま、どーでもいい!」
「どうでもいいとはなんだ!頭が高いでござるぞ!ルフィ!」
「知るか!なんでお前が偉かったらおれ達が変わらなきゃいけねェんだバーカ!」
鼻をほじって言葉通りどうでもよさげなルフィの言葉にモモの助がかっとなる。
やはり地位が高いだけあって子供とはいえプライドもあるのだろう。
そんなモモの助にルフィはいつものように生意気な子供の頬を掴んだ。
そんなルフィにモモの助も負け時と応戦する。
すると、子供(5歳)と子供(19歳)の喧嘩が始まり、辺りは賑やかとなる。
「また始まった…まァ…命の恩人であるが…」
「海賊にへりくだれとはムリでござろう…気がまぎれてよいのではないか?」
ルフィとモモの助の喧嘩はもはやいつもの事で、すでに止める気力すら沸かない。
ただ、カン十郎の気がまぐぎれていいのではないかというのは錦えもんも同じ意見なのか『まァそうだが』と複雑そうにつぶやいた。
そしてルフィに虐められたとちゃっかりナミのお胸に顔を埋めるのもモモの助は忘れない。
更にはそれにガチ切れするエロ親父も忘れない。
「"休戦"だネコ!我々が引きずっていてはモモの助様を苦しめる」
「主君のためじゃ!ゆガラとは言葉は交わせど心は通わせん!」
「望むところだ!」
ナミが金目当てで子供に色仕掛けをし、ウソップ達がそれにツッコミを入れる。
彼らとモモの助のやり取りを見ていたイヌアラシはネコマムシに休戦を申し出る。
主君であるモモの助の言葉もあってか、ネコマムシはその休戦を受け入れ、彼らは握手をして一時的休戦を結んだ。
その瞬間、ミンク族達からは歓声が上がった。
「奇跡だ!」
「二人の王が仲直りしたァ!!」
「やった〜〜〜!!」
二人はミンク族達の歓声に気まずげに口を閉ざすしか他になかった。
よほど二人の仲直りが嬉しかったのか、その歓声は国の隅から隅まで届くほどだった。
「ん?…待てよ!じゃあナオは?」
わあわあと喜ぶミンク族達を微笑ましく見ていたが、ふとウソップは直葉へ視線を向ける。
モモの助は実は偉い人の息子だと分かり、その家臣が錦えもん達だというのは理解した。
だが、直葉はまだ明確にされていなかった。
モモの助が大大名の息子、錦えもん達がその家臣なら、直葉はその家臣となる侍達の誰かの娘となる。
と、なると、アスカの父親だと言っていた仁がその家臣となるだろうか。
ただ、気になるのは、錦えもんは仁という男と会ったことがないという事だ。
母親なら会った事はあるようだが、それも一度だけだと言う。
結局、騒動が重なり聞く機会がなく、アスカの家族のことが分からないままここまで来てしまっている。
錦えもん達の正体も知ったとして、ウソップの疑問は当然であった。
しかし、ウソップの言葉に明るかった錦えもん達の表情が曇ってしまう。
眉を顰めるその表情はどこか気まずげだった。
ウソップは自分の問いは何か彼らに不快な思いをさせたのかと焦る。
「す、すまねェ…これ…聞いちゃダメだったのか…?」
理由は分からないが直葉の事は聞いていけないことだと思ったウソップはすぐに謝った。
しかし、錦えもんがそれを首を振って『そうではない』と答えウソップを気遣う。
しかし、それでも錦えもん達の口は堅く閉ざされていた。
その雰囲気にイヌアラシとネコマムシが気づき、同時に話の中心となっていた直葉に気づいた。
直葉を見る彼らは小首をかしげる。
「時に…その子供は誰だ?」
「え?ナオちゃんのこと知らないの?」
「なお…?いや、わしらの知っちゅーなかにそがな名前の子供は聞いた事がないぜよ」
モモの助の事を知っているのだから、直葉も知っていると思っていた。
ロビンは直葉の言う『初対面』という言葉を思い出した。
何かに気づいたロビンはハッとさせ咄嗟に直葉を後ろに隠そうとした。
しかし、ロビンの後ろに隠されるよりも前に直葉は自らの足で前に出た。
「な、直葉!」
前に出る直葉にモモの助が慌てた。
止めに入ろうとした錦えもん達を直葉は手で制止させる。
直葉の表情は覚悟を決めたようにも見え、錦えもん達はそれ以上何も言えなかった。
直葉は背筋をまっすぐに伸ばし、自分よりも倍もある大きさのイヌアラシとネコマムシの前に立ち、彼らを見上げた。
そして、直葉は頑なに外さなかった頭巾を外しその姿を露にさせる。
その瞬間、イヌアラシとネコマムシはそれぞれの獲物を直葉に向けた。
「!―――お、お前ら!なにやってるんだよ!!」
「二人ともどうしたんだ!?」
イヌアラシもネコマムシも、決して子供に武器を向けるような人ではない。
だからこそ誰もが二人の行動に驚いた。
直葉にそれぞれの武器を向ける二人に慌てたのは麦わらの一味だけではない。
ミンク族達も驚いた表情を浮かべながらも、武器を向ける二人にみんな動けなかった。
ただ、モモの助を含む侍たちは驚きではなく直葉を心配しているような表情を浮かべていた。
子供であるはずの直葉を二人は殺さんばかりの…いや、殺してやるという強い感情が隠されていない殺意を向ける。
その二人の殺意や睨みを一身に受けても、直葉は表情一つ変えずただ彼らを強い眼差しで見つめていた。
「二人とも待て!直葉を傷つけてはならん!!」
流石に黙っていられず、モモの助が間に入ろうとするが直葉本人に止められた。
手で制されたモモの助は思わず足を止めてしまったが、それでも直葉を庇おうとイヌアラシとネコマムシに武器を降ろすよう命じた。
しかし、主君であるモモの助の言葉でも彼らは殺意と武器は決して下げなかった。
「モモの助様!どいてこの者を庇うがかえ!!」
「直葉は違うのだ!!直葉は…」
「モモの助様は存じてあげないと思いますがこの者は―――カイドウの娘ですぞ!!!」
本当は直葉を背中に庇ってやりたい。
それは恋心があるからとかは関係なく、直葉を誤解して三人が争う姿を見たくないからだ。
イヌアラシの言葉に誰もが驚愕し、開いた口が塞がらなかった。
「カ、カイドウの娘!!?」
「直葉がか!?」
誰もが驚き言葉さえ無くすその場は静まり返っていた。
そんな中、直葉がカイドウの娘だと知っているルフィ、ゾロ、ロビン以外はイヌアラシの言葉に驚きの声を上げる。
「お、おいおい!何言ってんだよ!なんで直葉がカイドウの娘になるんだ!?」
「そうだよ!もし直葉がカイドウの娘だとしてもどうしてカイドウの娘がこんなところにいるんだ!?」
カイドウはルフィ達が戦う相手であり、敵だ。
その敵の娘がこんなところにいるのかウソップ達には理解ができない。
ウソップだって父とは離れて暮らしていたし、アスカも父親と離れてしまい、航海に出た理由だってルフィが海賊王になるのを見るためなのもあるが、もう一つの理由に父親に会うためなのもある。
だから、ウソップやアスカのように父親と離れて暮らしていたとして、父を求めて海に出て何らかのきっかけでモモの助達と一緒に行動することになったとしても何らおかしくはない。
ただ、着ている着物がモモの助達と同じというのは引っかかるが行動力のありすぎる子供として片づければそれまでだ。
一緒に行動していても直葉に怪しい動きはなかったし、確かに角が生えている人間は珍しいが、直葉は普通の子供だ。
だから何か誤解をしているんだとウソップとチョッパーは慌てて二人の誤解を解こうとした。
しかしそんな二人の言葉にイヌアラシとネコマムシはグルグルと喉を鳴らし歯を食いしばり顔をしかめた。
「その角…その姿…わしらは決して忘れもせん!!!貴様はあの時あの場所におったろう!!!」
ギリギリと歯が砕けるのではないかと思うほどネコマムシは歯を食いしばり、ギロリと直葉を睨みつける。
あの場所、あの場、などウソップ達には分からないがモモの助や錦えもん達には分かったのか、皆暗い顔をしていた。
直葉もネコマムシの言う意味を理解しており…
「はい」
静かに、怯えもせず、ネコマムシの言葉に頷いた。
その瞬間、ピリピリとした殺意が強くなる。
『貴様!』とイヌアラシが激情を露にさせた時―――
「だから、直葉は…私はここにいるのです」
直葉は静かに遮った。
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