(220 / 274) ラビットガール2 (220)

直葉は刺すような殺意の中、言葉一つで相手を黙らせた。
静けさが戻り、直葉はまっすぐミンク族達を見渡す。
彼らは自分がカイドウの娘だと知り、その目を驚きから恨み深い色へと変えていた。
だが、それは直葉からしたら想定内だ。
それだけのことを父はしているし、してきている。
昔は守られていたから気づかなかったが、海に出て少しだけ外界に触れた直葉は父がどれだけ非道な行いをしているのか気づいた。
だからこそ、直葉は引き下がるわけにはいかない。
―――直葉はまず、頭を下げ謝罪する。


「…なんのつもりぜよ」

「父があなた方に行った所業は謝って済むことではないです…ですから私は父の娘としてあなた方に謝罪をしなければなりません」


静かに頭を下げ謝罪をする直葉は逆効果ともいえる。
実際イヌアラシもネコマムシも他のミンク族からも、批難の視線や声が直葉に投げかけられる。
だが、それも受け入れるほかにないと直葉は分かっている。


「貴様一人それも子供の謝罪で収まるようなものではない!我らは貴様らを決して許しはしないぞ!!」

「構いません…父はそれだけのことをしたのですから……ですが、父の娘として、そして私は決してあなた方に危害を加えないことを知っていただきたいのです」


イヌアラシの言葉も直葉は受け取り、飲み込む。
直葉は父寄りの性格をしている。
だから今までワノ国の人達が苦しもうが興味を示すことはなかった。
家族がいればそれでよかった。
だけどその考えを変える出来事が起こった。
直葉は世の中にあんな人がいるのかと子供ながらに驚いた。
そして、齢5歳にして父達の立ち位置を理解した。
だからこそ自分が謝って済むものではないと理解しており、だからこそ彼らに伝えたかった。
それに、いくら謝罪をしても彼らは決して直葉の謝罪もカイドウの謝罪も受け取らない。
これは自分の自己満足だと直葉も理解している。
けれど、謝罪するべきだと直葉は思っていた。
グルグルと不機嫌そうな喉を鳴らす声を聞きながら、直葉は下げていた頭を上げて彼らを見た。
やはり、誰一人カイドウの娘を許してはいない。
それでもいいと直葉は思う。
直葉が望むのは許しではなく、目的達成だ。
勿論、謝罪が偽りというわけではないが、モモの助やルフィを含め、姉であるアスカ以外と仲良しこよしになるつもりは一切ない。
そこがモモの助との違いであり、すれ違う原因だろう。
すれ違いにすら直葉は気づかない。
大人びているとはいえ、直葉だって自分の事で一杯一杯なのだ。


「私はモモの助殿達から聞きあなた方の目的を存じております…ですがそれに関して私は関与するつもりはありません」

「それを信じろと言うがか」

「信じなくても構いません…あなた方が私の邪魔をしないかぎり私はあなた方の邪魔はしないことをあなた方に誓っても構いません」


敵の娘というだけで信用はがた落ちだ。
そんな存在が信じろと言うのは無理な話。
それも勿論直葉は理解している。
だから利害の一致を強調した。
ただ善を前に出すよりも、利害が一致したとこちらに得があるから味方でいるのだと言った方があちらの納得する理由ができるからだ。
だが、実際は利害の一致ではない。
モモの助達と行動を共にしているのは利害の一致というわけではなく、モモの助…正確にはモモの助達といることによって出会えるルフィ達を味方に引き入れた方が有利だからだ。
怪訝とさせる彼らの視線に直葉は答える。


「母を助けたいのです」


直葉の言葉に、ますます彼らからの怪訝な視線が深まる。
それはそうだろう。
あちらには大儀があるが、直葉の理由が母を助けるためだけだ。
理由に重さが必要であるのであるなら、直葉の理由は彼らからしたら軽すぎる。


「ドレスローザでも母親のためとか言ってたな…」

「カイドウの娘っていうのが本当なら…お前の母親はカイドウの妻ってことか…」


ゾロとフランキーの言葉に、直葉は振り向き声なく頷く。
その際アスカと目が合うが、直葉は姉から逸らすように目を伏せながらミンク族達に視線を戻した。
その意味が読み取れず、アスカは軽く眉を顰め直葉の小さな背中を見つめる。


「母は新世界のある島に生まれ育ちました…その島は世界政府に加盟していませんでしたがとても平和な島だったと聞いています…母は私達によく島で過ごした日々を楽しそうに話してくれました」


目を瞑ると今でも鮮明に母の姿が浮かぶ。
母はとても美しい女性である。
姉と同じ髪色に、直葉と同じ髪質と瞳。
姉も直葉も父は勿論母からも遺伝子を受け継いで生まれた。
この海楼石で弱まることのない体質も母から受け継いだものだ。
母から故郷の事を直葉はよく聞かせてもらった。
それぞれの季節になる特産物の果物、よく見かける動物や珍しい動物のこと、幼かったころの様子など。
母は娘達に聞かせる際、とても幸せそうで…とても懐かしそうに話してくれた。
母が楽しそうに笑えば姉も直葉も釣られて笑顔になる。
その笑顔を、父は奪ったのだ。


「母が15の時です…母は父に目を付けられ無理矢理攫われました…その際父は母を独占するために母以外の全てを壊したのです」


母が15歳の頃に、父と出会った。
――出会って、しまった。
父は母に一目惚れしたわけでも子供を産ませる女を探していたわけでもなかった。
勿論、愛などありはしない。
母は特別だった。
母が特別な存在だと知った父は母を攫い、母の生まれ故郷である島を全て破壊し壊した。
全て。
そう、全て。
両親も、家も、友人達も全て。
直葉の言葉に誰もが言葉を失う。
しかし驚くことではないのだろう。
カイドウは海賊である。
欲しいものが拒むのならそれを奪うまで。
暴力で黙らせるのも海賊ならばお手の物だ。
ルフィやシャンクスなどの海賊が珍しいだけで、一般の海賊などそんなものだ。


「母は全て奪われ…―――カイドウの子を孕みました」


誰かが直葉の言葉に息を呑んだ。
海賊が一般人を攫うのはよくあることだ。
その末路だってよく聞く話だ。
だからカイドウの妻として攫われた直葉の母のその末路に誰も驚かない。
ただ、まだ5歳である直葉が口にすることではない。


「母は好きでもない男の子供である私達を心から愛してくださった…私達は母から沢山の愛を頂きました…そんな母が言ったのです―――『貴女は自由に生きなさい』と…」


母からしたら憎い男の子供だというのに、母は姉も直葉も愛してくれた。
父への恐怖ではないその愛情は娘達に伝わっており、だからこそ姉も直葉も心を歪まず育った。
そして、そんな母から直葉は自由に生きることを望まれた。
燃え盛る城で言った母の言葉が、母の顔が、忘れられない。
忘れてはいけないことだと直葉はずっと覚えていた。


「あの時!母もあなた方の事を見ていたのです!!夫の冷酷な姿を見てどうして娘を夫の下で育てられましょう!!どうして見て見ぬふりをして娘を愛せましょうか!!母は私を父から逃がすために"モモの助殿達と共に渡らせた"のです!!母は私に"カイドウの娘"ではなく"普通の人間"として生きることを望まれた!!私はそれに報いたい!」


あの時、直葉は父の傍で彼らを見ていた。
いや、見せられた。
母にべったりな直葉を母から奪い『この国を背負った男の末路だ、よく見ておけ』と言って同席させた。
屈強な人間に生まれた父からしたら子供に見せるものとそうでないものの区別が難しかったのだろう。
元々直葉は姉とは異なり父の遺伝子が強く出ていた。
教育の一つとしてワノ国を背負った男の末路を見届けさせたかったのだろう。
娘達の世話は基本的に母に任せている父ではあったが、この時ばかりは母がどれだけ反対しても父は決して母の言葉に耳を傾けることはなかった。
将来を期待していた姉ではないのは、姉が時間まで捕まらなかったからだ。
いうなれば、直葉は姉の影武者である。
父の言葉に従って直葉はその目で『男の末路』を見た。
そして、直葉は父がどれほど危険な人間なのか理解した。
そして、母が恐怖を抱く父に強く反対した理由も直葉はあの瞬間理解した。
母は父から隠されてきたが、どこかで末路を見たのだろう。
いや、恐らく見たと言うよりは誰かに聞いたのだろう。
人伝に聞いても一般人である母からしたら恐怖する出来事だった。
あの国で一番父を恐れていたのは母だ。
けれど母は父との間に生まれた娘達をカイドウの娘としてではなく一人の人間としての育成を望んでいる。
直葉は演説のように叫び、彼らに訴える。


「なら、なぜここにいる」


誰もが直葉の言葉を聞き静まり返ったその場に、ポツリと呟かれた言葉が大きく響く。
その声の主へ直葉は視線を向ける。
視線の先にいたのはイヌアラシだった。
イヌアラシの言葉は多くを言わなかったが、直葉にも周囲にも通じていた。
母が父から逃れて生きろと言った。
その言葉に報いたいと言った。
ありきたりだが、それが本当ならばイヌアラシ達も納得する理由でもある。
だが、直葉の今ここにいるという行動と、直葉の言葉が全く異なることになる。
それを問うているのだろう。


「母が苦しんでいるのを知っていてどうして何もせず生きられるのでしょう…私は母を愛しています…肉親や故郷を奪った男との間に産むことを強制されたのに母は私達を愛してくださった…母のその愛情を、私は返したい…それが例え母の言葉に反していたとしても…母を奪った事で父から殺されたとしても…私は母を父から救いたい…ただ、それだけです」


直葉の言葉に誰も何も言えなかった。
正直、父の罪への怒りを子供に向けることにミンク族達も大人げないと分かってはいた。
分かってはいたが…それを冷静に受け止め、直葉をただの子供として見る事が出来なかった。
直葉は母のためにここにいる。
きっと母は直葉が戻ってきたことに怒り悲しむだろう。
本当は母の望む通りに生きてもよかった。
父の手が届かない4つの海のどれかで生きてもよかった。
どうせ父は母さえ傍から離れなければ娘などに興味を向けるような人ではない。
現に直葉がいなくなっても父は自身で探すのではなく、ドフラミンゴに情報を流すだけだった。
父はドフラミンゴに探せとは命じておらず、もしも見つけたら捕まえておけという命令を下していた。
これが母ならば、海という海、そして島という島を全て自らの足で探していただろう。
あの父からしたら娘達など…特に跡取りでもない直葉など母の足枷にしか過ぎない。
だけど、母の望む人生を送らなかったのは直葉は分かっているのだ。
母が父から解放されるのを。
"彼"が父を討つのを。
だから母の言葉を反してでも直葉は新世界にとどまっている。


「モモの助殿と行動を共にしているのは…利害の一致です…母を救うのに彼らと行動を共にすることがよいと私は思ったのです」


モモの助達は直葉の事情を知っている。
だからこそ、カイドウという敵の娘だとしても仲間として受け入れてくれた。
直葉は彼らが同情してくれたと本当に思っている。
確かに子供は親を選べないという言葉通り、直葉の出生には同情した。
しかし、何より彼らの心を動かしたのは直葉の母と直葉の真剣さだろう。
でなければ子供とはいえカイドウと繋がりのある直葉を信用し、尚且つ主君となったモモの助の恋心を受け入れることは情に弱い侍達とてしない。
それでもミンク族達はとりあえずは納得してくれたのか、最初程の刺々しい雰囲気が消えたのを感じた。
直葉だって彼らが心から自分を受け入れくれたとは思っていない。
それでも、納得してくれたことに直葉は安堵した。
しかし、納得できない存在もいた。


「ねえ、待って…」


胸を撫でおろしているとナミが話に入ってきた。
全員の視線がナミに向けられたが、ナミは気に留めるわけでもなく気になったことを直葉に問う。


「ナオちゃん…あなたのお父さんがカイドウなのは本当なのね?」

「はい」

「…だったら…アスカのお父さんもカイドウってことになるわ」

「…………」


ナミは直葉の話を聞いていた間、ずっと考えていた。
彼女の話もちゃんと聞いたうえで、一つ、疑問に思う。
それはアスカのことだ。
錦えもんも直葉も、アスカの父親を知っているような口ぶりだった。
ナミはチラリとアスカへ視線を向ける。
その視線に誘導されたように誰もがアスカを見る。
アスカはただじっと直葉を見つめていた。


「それに…あなたのお父さんはカイドウだって言っているのに…アスカを姉だって言っているのに…なのに、あなた達はアスカのお父さんを仁っていう人だという…矛盾があるのはなぜなの?」


直葉の話をナミは疑ってはいないが、矛盾だらけに疑念を感じてしまう。
直葉の父親は四皇であるカイドウであるのは間違いはないのだろう。
そこへの驚きは勿論あるが、それよりも、矛盾に気を取られてしまった。
直葉がカイドウの娘だというのであれば、直葉が姉と呼ぶアスカもカイドウの娘となる。
だが、錦えもんはアスカの父親の名を『カイドウ』ではなく『仁』と呼んだ。
それにアスカは北の海で生まれ、5歳までドフラミンゴの下で育ち、17歳まで東の海でルフィと共に暮らしていた。
カイドウの気配がない人生を送っていたのだ。
カイドウが赤子のアスカを捨てた、直葉の母以外の女と子供を作っていた、または母がカイドウ以外の男と子供を作っていた、となら納得できなくはない。
直葉が聞けば『あの父が母以外の女性に手を出すわけがないし、母が自分以外の男と関わらせるのを許すわけがない』と全否定するだろう。


「直葉も詳しい話は分かりません…ですが…母が言ったのです…姉上は…あなたは、娘だと」


直葉もアスカを姉だと呼んではいたが、その実、よく分かっていない。
母がアスカを娘と呼んだから、直葉はアスカを姉と呼んでいる。
最初こそ会ったこともない姉に興味すら沸かなかったが、母が愛おしそうにアスカと写る写真を見ていたから興味が沸いた。
母の愛を疑ったことはないが、母は娘達の中で一番愛情を向けているのはアスカだろう。
そこにあるのは嫉妬ではなく、興味だった。
母に関しては目ざとい父が知らない、母の娘。
そして、"血の繋がらない姉"。
家族しかいない直葉からしたら興味を示すなと言う方が無理だった。
とはいえ、母が詳しい事を話さないので直葉も詳しく説明しろと言われても困ってしまう。
説明されても全く理解ができない難題に一行は首を傾げた。
しかし、みんなが首を傾げるなか、アスカはツキンと頭の痛みに微かに眉を顰めた。
そして同時に脳裏にある光景がフラッシュバックする。


「私の母は一人しかいない」


うーん、と誰もが直葉の足りない説明に頭を悩ましていると、ポツリとアスカが呟いた。
その呟きにルフィ達はアスカを見る。
アスカは眉を顰め直葉を拒むように彼女を見下ろしていた。
ただ、それは拒絶の感情もそうだが、痛みと、容赦ないフラッシュバックからくるものもある。
それに気づかないナミ達はアスカが珍しく本気で人を拒む姿だと勘違いしていた。
いや、それも当たっているのだろう。
ただ、拒んでいるのは直葉ではなく、直葉のいう母だ。


「父だってそう…私の父親は二人いるけど……仁って人じゃないし、あなたの母親も母じゃない」

「それは…」

「私は、あなたの姉じゃない」

「………」


アスカの父親は二人いる。
海賊によって海に消えた生みの親と、父親に名乗り出てくれたシャンクスだ。
だが、母は生みの親しかいない。
ミコトやマキノだって母親代わりに変わらないが、彼女たちはどちらかと言えば母ではなく、姉寄りだ。
シャンクスと結ばれたミコトなら母として受け入れる事だってできていた。
しかしアスカが覚えているかぎり、直葉の言う母親は知らない。
知りたくもなかった。
だから、直葉を妹として受け入れることはアスカにはできなかった。
血の繋がりがあるかないかなどは関係なく、直葉を妹として認めてしまえばその母親を母として認め受け入れてしまうのと同じだから。
真正面から拒まれた直葉は開けかけた口を閉ざすしかなかった。
しかし、アスカからの威圧に負けかけた直葉だったが、ぐっと顎を引き負けそうになる心を鼓舞して直葉はアスカに分かってもらおうと続けようとした。
しかし…


「ですがお母さまは姉上を―――」

「――やめてっ!!」


それをアスカが拒んだ。
母という名前を聞くだけで頭痛が酷くなっていく気がした。
ツキンツキンと軽かった痛みがズキンと重い痛みに変わったような気がしてアスカはその痛みに思わず耳を塞ぐように頭を抱えてしゃがみ込む。
その様子にナミ達は驚いたようにアスカの名を呼んだが、アスカは気づかない。
ズキズキとした痛みと母への拒絶で周りを見る余裕がなかったのだ。


「やめて!もうやめて!あんな…!あんなことをしておいて今更母親面して会えるとでも思っているわけ!?いや!!いや!!会いたくない!!会いたくない…!!!」


フラッシュバックの起こるタイミングが速くなっていき、それに同調するように頭痛も深くなっていく。
フラッシュバックには一人の女性が脳裏に浮かんだ。
光を背にしているように逆行で姿は分からないが、そのシルエットから女性だと分かる。
アスカはその人が母親だと何故か分かった。
フラッシュバックはアスカ視点だったが、その女性はアスカに向かって何度も何度も―――殴り蹴ってきた。
声は聞こえないが口が動いている気がしたので、きっとアスカを罵りながら蹴り殴りを繰り返しているのだろう。
その光景に恐怖がアスカを支配する。
ガタガタと傍から見ても分かるほど体を震わせ逃避するように目をぎゅっと瞑る。


「アスカ!落ち着いて!」


医師であるチョッパーがアスカのパニックを起こしたような異常な様子に慌てて駆け寄って落ち着かせるために声をかける。
しかしチョッパーの声や心配して声をかけるナミ達の声はアスカには届かなかった。
やめて、お願いだからやめて、と繰り返すアスカに誰もが言葉を失っていた。


「大丈夫…大丈夫だ、アスカ…」


会いたくないとも繰り返し蹲って泣くアスカの背をルフィがそっと触れる。
何を言っても反応しなかったアスカは、ルフィの手のぬくもりと声に反応した。
恐る恐る顔を上げてルフィを見上げるアスカの瞳からは涙がポロポロと零れ落ち、頬を濡らしていた。
ルフィの顔を見てアスカは完全に落ち着きを取り戻し、ポツリと呟いた。


「ルフィ…私…あの人に会いたくない…」

「…分かった」


ルフィの服を握り締め、懇願するようにアスカは震えた声で言った。
その言葉をルフィは否定せず頷いてみせると、アスカはその言葉に安心したようにホッとした表情を浮かべた後、意識を失う。
力が抜けて気を失い倒れかけたアスカをルフィが抱き留めた。


「アスカ!」

「大丈夫…気を失っただけだよ」


力なく倒れたアスカにナミ達は駆け寄ると、チョッパーの診断にホッと胸を撫でおろす。
そして、ナミ達は直葉へ振り返った。


「どういうこと?…ナオちゃん…あなたのお母さん…アスカに何をしたの…」


直葉は姉の様子に唖然としたように呆然と立ち尽くしていた。
ナミの問いに直葉はハッと我に返り無言で首を振った。


「いいえ何も!!お母さまは何もしていません!お母さまは姉上に会ったこともありません!!それに…お母さまは姉上を愛しています…!姉上に酷いことは絶対にしていません…!!」

「今のアスカを見て納得できるとでも思ってるのか」

「………いえ…ですが…本当に…お母さまは姉上に酷いことは…」


直葉もアスカが乱れるほど拒絶されるとは思っていなかった。
パニックを起こしたように叫び泣くアスカに驚き唖然としてしまったが、直葉は決して母がアスカに酷いことをしたとは思えなかった。
そもそも、母とアスカは面識がないのだ。
例え虐待したとしても、それは母ではない誰かだ。
しかしそれを全て信じろというのは無理な話。
直葉はゾロの言葉に酷いことしていないとしか言えず、口を噤んでしまう。
ゾロ達からの責めるような視線から逃れるように直葉は俯いてしまう。
全員が責めているわけではないのだが、ゾロ達の責める視線も分かる。
だが、本当に母はアスカに危害を加えてはいないのだ。
それだけは神に誓える。
しかし直葉もショックを受けているのか彼らの納得いく言葉が浮かばなかった。
その姿を見てロビンが流石に可哀そうだと思ったのか間に入る。


「今、ナオちゃんを責めたってなにもならないわ…真相はアスカが目を覚ました時…話せる状態だったら聞きましょう…」


子供に罪はないと考えているロビンだって本当なら直葉の事を信じたい。
だけど、今のアスカを見て信じたくても信じ切ることができないのも事実だ。
ロビンの言葉も一理あると思ったのか、ゾロ達は引いてくれた。
彼らも頭では子供をせめても仕方ないと分かっているのだ。
本気で直葉を責めているわけではないのだろうが、納得できないのだろう。
ロビンはホッとしながらも、心配そうに気を失っているアスカを見つめる。

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