某海にある、ある島。
黒蝶は能力を使い、そこへと移動する。
つい先ほど仲間と飲み疲れ潰れていた男達の前に、突然美しい女が現れ、男達は一瞬にして現れた女に騒めく。
「だ、誰だてめェ!!」
「どうやって来たんだ!?」
ふわりと砂浜に着地した女に男達は困惑の色を隠せなかったが、女の美しさに皆惑わされそうになっている。
しかし女の肩には海軍将校の証である正義の文字が背中に刻まれているコートが掛かっており、男達はそのコートを見て染めていた頬を引かせ、一斉に女を囲い剣を抜いた。
「てめェ…!海軍だな!?」
「ええ、当然……赤髪いまして?」
「!――なるほど…頭が赤髪のシャンクスだと知ってなおここにのこのこ乗り込んで来たのか…!」
「おれ達のいるこの島をどうやって見つけたんだ!?」
流石に剣を向けている女が海軍大将であるという事まではまだ男達では読めないらしく、しかしコートを被っているところか少尉以上だと思い警戒を高めた。
そんな男達の言葉に『そこらの海賊や賞金稼ぎと一緒にしないでいただけません?』と辛辣な言葉を零す。
黒蝶から赤髪という言葉がこぼれ、男達は偶然見つけたというわけではなく黒蝶は赤髪のシャンクスがいると分かったうえでここに来たのだと察し、誰もが剣を握る力を入れ、睨みも強くする。
殺気が強くなったのを華奢な体一身に受けながらも黒蝶は『まあ、そうなりますわね』と肩を竦めて見せた。
殺気だった敵陣の中、たった一人、女の身で平然としていられる黒蝶に男達は怪訝とした。
女の海兵は少なく、女はか弱いというイメージから男達は黒蝶も怯えると思っていたようだ。
黒蝶からは殺気もなく、戦う意志はないようだが…黒蝶は将校のコートを着ており海軍なのは確かなため、無暗に警戒を解こうという馬鹿はここにはいない。
「待て、そいつは敵じゃない」
「副船長…!?」
黒蝶は赤髪の部下を目線だけで見渡しながら『さて、どうしましょうか』と心の中で零していると、奥から一人の男が数人の部下を連れて現れ、男達を止める。
副船長と呼ばれた男を見た途端黒蝶は笑みを深め、そして…
「あら、ごきげんよう、"下僕その1"」
「…その呼び名やめろって言ってるだろ…」
「まあ…ですが好んで自ら変態の部下になっているのですから下僕以外何者でもありませんでしょう?それとも"ドMその1"と呼んだ方がよろしいかしら」
「……相変わらずだな、ミコト…」
下僕その1と呼ばれた男はピクリと眉を上げ反応する。
周りの男達も副船長と呼ぶ男を『下僕』と呼ぶ女に殺気立つも黒蝶は気にも留めず、殺気立つ部下達に男は溜め息をつき、もう一度男達を制した。
黒蝶、とは…ミコトの異名でもあった。
ルフィを弟に持つミコトは海兵として身を置いた後、順調にその地位を確かな物にしていき、最初こそ雑用だったが、新兵、軍曹、大佐、少将、そして大将にまで上り詰めた。
ルフィ達には大将となった事は言っていない。
ルフィに関しては言っても覚えないだろうし、アスカは覚えるだろうが、この先のストーリーを考えれば言わない方が面白……ではなく支障もなくなるだろうという配慮である。
「お前らやめておけ…こいつはこう見えて"海軍大将"だ」
「!?――か、海軍…た、たた、大将!?」
「女で大将っていやァ……大将"黒蝶"か…ッ!!」
「なんで黒蝶がここにいるんだ!?」
「っていうかベンさん!大将が来てるっつーのになんでそんな呑気なんですか!!」
副船長は殺気を静めない男達に最後の忠告した。
いつまでも殺気立った場所にいたくないのもあるが、ミコトを傷をつけたり邪険にしてしまうとミコト以上に後々鬱陶しい奴がいるためである。
副船長…ベンはあの四皇の一人、"赤髪のシャンクス"の一味であり、副船長でもある。
フーシャ村を出てからの新顔達はミコトの事を知らない。
勿論、アスカやルフィも。
他の海賊団に比べて和気藹々な海賊ではあるが、だからと言って多くの船員全てが船長であるシャンクスといつも話せるというわけではない。
シャンクスの性格からして新顔だろうと気軽に接してはくれるが、1人の船長が多くの船員を全て相手をするだけでも日が暮れる。
だから多くの船員は遠目で見ることが多いのだ。
そのため、フーシャ村を出てからの新顔はミコトがシャンクス達と縁が深いなどと知るわけもなく、大将を目の前にして平然と剣も銃も抜かないベンに怪訝としてしまう。
更に言えば大将黒蝶、と言えば女がてらに『海軍本部最高戦力』とも言われる大将の座に若くしてついていると有名で、容姿は美しいという噂も出ている。
噂とは大げさに広まることも多く、信じている者もいれば、信じない者もいる。
だからベンに大将と言われた時、女という事ですぐに黒蝶がミコトと結びついたのだ。
実は、タイミングの問題で新顔達は知らないが、フーシャ村を出てからもミコトとは時折こうしてやりとりをする仲ではある。
だが、四皇の船に乗りたいという海賊も多く、新顔が増える度にこのやり取りをするはめとなっており、ベンは毎度同じセリフに毎度同じ説明をする。
「こいつはお頭の"コレ"だ」
そう言ってベンは小指を立てて見せた。
それは世界共通の『女』となるのだが、それが更に混乱を招く。
もう面倒になってきていたベンは最近これで終わらせることが多く、何も説明もなしに海軍大将がシャンクスの女だと説明された新顔達からはざわめきが生まれる。
そんな新顔たちをよそにベンの頬に何かが走り、同時にチリッとした小さな痛みも走った。
ベンは一瞬固まったがすぐに我に返りその頬をかすめた物を見ようと後ろを振り向く。
そこには気候のいいこの島ではありえない氷の刃が砂に刺さっていた。
日差しが煌々と照り付ける中、氷は解ける様子もなく冷気の煙が上がっていた。
ベンはギギ、と音をさせながら投げたであろう目の前の人物を見た。
その人物こそ…
「ねえ、ベン…その言い方やめていただけません?―――って前も言っておりますよね?」
「……はい…すみませんでした、ミコト様…」
海軍大将、黒蝶の名を持つミコトだった。
ミコトは涼しい顔をしながらもベンに向かって殺気を向け、空中の僅かな冷気を集め、氷の刃を浮かせ刃先をベンに向ける。
自分を見つめるミコトは身長差から見上げてはいるが、まるで見下ろされているように錯覚してしまうほど恐ろしく、ベンを『下僕その1』で呼ばず本名を呼ぶ時は本気で怒っている場合もあるため、ベンは思わず謝ってしまう。
因みにこれはいつものやり取りで、新顔達が騒いでいる頃から野次馬として集まっている海賊達やベンと一緒に来た海賊達が『またやってるぜ!』とベンとミコトのやり取りを楽しそうに見ていた。
「ど、どういう事っすか…?」
ベンとミコトのやり取りにどっと笑いが起こり、それがまた理解できない新顔達はお互いの顔を見合わせる。
近くにいた先輩に問えば先輩は笑った顔をそのままに教えてくれた。
「黒蝶とお頭は昔馴染みの仲なんだ」
「昔馴染み?」
先輩たちが笑って見守っている、ということは戦闘の危険はないという事だろうと思い、少しだけ新顔達は肩の力を抜く。
だがやはり大将というのもあり完全に信用は出来なかった。
そんな新顔達に先輩たちは続け、新顔達にミコトとシャンクスがどういう縁なのかを教えた。
幹部達ではないし、先輩たちもフーシャ村を出てから入ったため詳しくはしらないようだが、新顔達は拠点としていた島の村の少女が今や海軍と入り、更には大将の立場を手に入れながらも四皇と逢引(とはミコトには言えないが先輩も新顔達もそして幹部達もそう思っている)していると聞き、驚きが隠せなかった。
自分達の頭であるシャンクスは女気がない。
本来なら新顔や先輩たち幹部達や、他の海賊達と同じようにどこかの島に愛人や妻を作っていてもおかしくない。
だがシャンクスはそんな気配すらなく、島に降りても基本独り寝が多い。
シャンクスがモテないというわけではない。
顔、地位、力、懐の大きさ…全てにおいてシャンクスは男女関係なく魅了する男なのだ。
だから娼婦や村の女たちの多くはシャンクスに好意を持つが、シャンクスはあまりそういう意味での相手はしない。
しかしやはり男の性というべきか、時折女を取る事もある。
何度かシャンクスが女と店に入るのを見たことがある新顔はベンと話しているミコトを見て何となく先ほどベンが小指を立てた意味を理解した。
時折シャンクスが買う女の姿がミコトに似ているからだ。
容姿は流石にあんな絶世の美女がゴロゴロいるわけではないが、髪の色や質感や長さ、そして体つきに雰囲気…なんとなく似ている女をシャンクスはよく買っていた。
それを思い出し、その新顔はミコトへ向けていた警戒を解く。
「それで…変態はいますか?」
「まあ、いるっちゃ、いる。」
「?…なんです、その煮え切らない返事は……ああ、もしかしてついにあの変態、野垂れ死にました?おめでとうございます。これで晴れて世界は一歩平和に近づけましたね」
「ひとの頭を勝手に殺すなよ…」
いつものやり取りを終え、ミコトはシャンクスがいるかとベンに聞く。
だがベンから出たのは釈然としない曖昧な言葉のみでミコトは首を傾げた後、『あっ』と何かをひらめいたように手を叩く。
勝手に自分の船長を殺して喜ぶミコトにベンは苦笑いを浮かべ、ミコトを連れてシャンクスのところへ案内するため森へと消えた。
ひとの頭を変態と呼び、勝手に殺して喜ぶミコトを見送りながら新顔達は先輩達に振り返る。
新顔達が何が言いたいのかを知っている先輩たちは『あれ、通常運転だからな』と言ってのけ、新顔達はお互いの顔を見合わせた。
森の奥へ進み、ミコトはようやく目的の人物達に会えた。
奥には幹部達がおり、全員ミコトとはフーシャ村で顔見知りになった者達だった。
ミコトの姿に幹部達はそれぞれ懐かしそうにミコトに声をかけ、ミコトもそれに答える。
ミコトはそのやり取りが昔に戻ったように懐かしさを覚えた。
そして、その幹部達に守られるように位置する中央には、シャンクスがいた。
シャンクスはミコトの姿に俯いていた顔を上げ、ミコトはその上げたシャンクスの顔色を見て怪訝とさせる。
「ああ、ミコトか…」
「……また…二日酔いですか…」
シャンクスの前に案内されると項垂れてるように俯かせていた顔を上げれば、その顔は真っ青となっており、声もどこか覇気がないように見える。
しかしここまで来る道のりからも酒の匂いが微かに香り、その匂いはシャンクス達がいる場所になると強くなる。
匂いだけで酔いそうな酒の強い匂いにミコトは眉間にしわをよせ
傾世元禳を鼻元へと持っていく。
勿論、防御を主に使っている傾世元禳だが、香りをシャットアウトすることはできるためお酒の香りは守られている膜のような物と共に消えている。
だがあまりにも酷すぎるありさまに思わず鼻元に傾世元禳を持って行ってしまう。
ミコトは祖父の教育のもと、酒・タバコなどの体に不必要なモノを摂取することはなく育った。
そのためタバコや酒が苦手となったのだ。
幼い頃はその匂いを毛嫌いしていたが、成長し、海兵となった今…ミコトはすっかり毛嫌いしていた匂いに慣れた。
成長してもその不必要な物を摂取しようとは思わないが、雑用から大将まで上り詰めていくうちに仕方なく慣れた、と言う方が正しいだろう。
タバコも酒等も、ミコトのように全く必要としない人がいるように、その反対にそれらがないと駄目な人もいる。
上司がそうであった場合、いくら後ろ盾が元帥と中将と大将とは言え、ただの部下が上司に『不快なのでやめていただけません?』とは言えない。
そのためミコトが慣れるしかなかった。
シャンクスは嫌そうな顔をするミコトなど気にも留めず、ミコトの言葉に頷く気力すらなかった。
「そうなんだよ…調子に乗って飲んでたら飲みすぎちまって…なあ、ミコト…ひざまくら…」
「
そのまま楽にして差し上げてもよくってよ?」
「
すみませんでした!」
頭が痛いし気持ちが悪いしでシャンクスは…というよりは飲兵衛の人間はいつも二日酔いになるたびに『もう飲まねェ』と言う。
しかし治った途端に酒を飲むのだからミコトは飲兵衛の人間が不思議でならなかった。
酒を飲まない人間からしたらどうして二日酔いになると分かっていながらセーブせず飲むのかが理解不能なのだ。
シャンクスが痛む頭を押さえミコトに膝枕を要求しようとしたが、それを読んだ(というかお約束でもあった)ミコトが傾世元禳で顔半分を隠しながらにっこりと微笑みながらもう片方の手に
飛刀を出現させたため、シャンクスは即答で謝った。
もはやミコトの前で威厳もなにもない。
軽々と頭を下げる四皇の姿に刀の姿をしているが実は精霊である飛刀は呆れながら『相変わらずだなァ、赤髪の旦那…』とぽつりと呟いた。
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