(61 / 293) ラビットガール (61)

「で、用件は?」


ミコトはシャンクスを嫌っている。
それはもう…四皇を『変態』と呼ぶほど嫌っている。
…と、ミコトは思われていると、思っているだろう。
しかし、ミコトの身近な人たちは全くの真逆だと認識している。
ミコトは世間で言うところの『ツンデレ』なのだろうと思っていた。
詳しく言えば、『シャンクス限定のツンデレ』である。
先ほどのようにシャンクスにそっぽを向く素振りを見せているくせに、こうしてちょくちょく会いに来ては憎まれ口をたたきながらもシャンクスの傍を離れようとはしない。
それはシャンクスも気づいており、ベンも、ヤソップも、幹部全員が気づいている。
だからシャンクスはミコトに冷たく辛辣な事を言われても、そして態度が素っ気なくても本心ではないと分かっているから突き放すことも避けることもしない。
そして、だからこそ、シャンクスはミコトが愛おしくて仕方なかった。
別にシャンクスがマゾだとかではなく、シャンクス曰く、ミコトがそっけないのは逆に自分を意識して好意を持っているからだと断言しており、それを聞いたベンからは『まあ…あんたがそう思うならそれでいいんじゃないか?…知らない方が幸せなこともあるしな…』と返されたのだが、シャンクスは聞いてもいなかった。
シャンクスがそんな解釈をしているとは知らないミコトはシャンクスの問いに『ああ、そういえば』とあまりの酒の臭さといつものやり取りで忘れていたミコトはシャンクスの問いに思い出したように零し、能力で隠していた物を出そうと手のひらを広げた。
しかし…


「か、頭ーーっ!!」


シャンクスの部下が慌てた様子で現れた。
よっぽど焦っているのかミコトの隣に滑るように止まり、隣に海軍大将がいると気づかず走りすぎて荒れる息を懸命に整えようとする。
あまりにも息をしすぎているため、ミコトは『まぁ…』と声を零し能力を出そうと広げていた手のひらの上に水の入ったコップを能力で出し、そしてシャンクスの部下に差し出す。
部下は走っていたこともありよほど喉が渇いていたのか差し出したのが大将であるのも気づかずお礼を言ってグビグビと一気に水を飲み干す。
喉も潤い部下はこちらを見つめるシャンクスに必死に伝えようと後ろを指さすのだが、焦りすぎて何から報告すればいいのか分からずにいた。


「あら、鷹の目ではありませんか」


言葉にならない言葉を零している部下の背後に何者かが近づいたのに気づき、ミコトはそちらへと目をやる。
ミコトの視界に納まった男…それは王下七武海の一人である鷹の目だった。
元々前世(?)の記憶があるミコトは鷹の目の登場に驚きもせず微笑みを貼りつける。
そんなミコトの呟きに部下はやっと大将の存在に気づき、そして背後にはいつのまにか王下七武海も立っており、部下は驚きのあまり悲鳴を上げて尻もちをつきながら下がる。
2人はそんな部下を気にもとめず、鷹の目は微笑むミコトの姿を見て若干微かに目を見開いた。


「ほう…これは意外な人物がいたものだ…」

「…久しぶり、と言うべきかしらね」

「前に会ったのはいつだったか」

「そうですわねェ…前の会議ですから約一ヶ月前でしょうか?」

「そうだったか?」

「ええ、確かそのくらいでした」


海軍大将が四皇の島にいる事に驚いた様子だが、鷹の目は何度かシャンクスの元に訪ねるとミコトがいるのを目撃しており、そこからミコトとシャンクスが敵同士という関係ではないのを知っているため驚きも大きくなく疑問も持たない。
状況把握が早い鷹の目に感謝しながらミコトは鷹の目に道を譲る。


「どうぞ、鷹の目」

「よいのか?」

「ええ」


道を譲られた鷹の目は自分が先に用件を済ます事に多少の申し訳なさを感じているのか、頷くミコトに短く『すまないな』と零しシャンクスの前に立った。
ミコトはそれを見送りながら笑みを貼りつけたまま"下僕その1"と呼んでいるベンの隣に移り座った。
以前はお嬢様育ちではあるが、この世界に生まれてからは一般家庭の元育ったため地べたに座る事は何ら抵抗はない。
それに海軍に身を置いていれば、そんな細かい事気にもしなくなった。


「いいのか?」

「構いませんわ…どうせ用件は同じですし」

「同じ?」


鷹の目に譲ったミコトにベンが声をかけ、ミコトの答えに首を傾げた。
ミコトは鷹の目がなぜここに来たのか知っているため、原作通りのやり取りを見たいと思ったがゆえに鷹の目に譲った。
ニコニコと笑うミコトのその顔はとても楽しそうで、海兵であるときのただ貼りつけているだけの笑みとは違っていた。
それを見分けれる一人であるベンは楽しそうなミコトを見て『まあいいか』と鷹の目へと目を向ける。
シャンクスはミコトを目で追いベンの隣に座ったのを確認した後鷹の目へと目を向ける。


「よう"鷹の目"…こりゃまた珍客だ…おれは今気分が悪ィんだが…勝負でもしにきたか?」


鷹の目は昔、よくシャンクスと勝負をしていた。
その縁もあり時折こうして用があって尋ねにくるのだが、その頻度はミコトと比べれば少ないだろう。
珍しい鷹の目の登場に驚いているように見せるシャンクスに鷹の目はその言葉も含め鼻を鳴らした。


「フン…片腕の貴様と今さら決着をつけようなどとは思わん。面白い海賊達を見つけたのだが…ふとお前が昔していた話を思い出した。ある小さな村の…面白いガキの話…」

「何!?まさか!!」


鷹の目は片腕を失ってから自分との勝負に興味を失っており、それを知りながらもシャンクスはあえて冗談を飛ばす。
それを軽く交わし、懐からある一枚の手配書をシャンクスに差し出した。
シャンクスはそれを受け取り、手配書の写真を見て先ほどまで元気の欠片もなかったがあっというまに笑顔に変わる。


「来たか、ルフィ!」


その顔はとても嬉しそうで、ミコトは『いい歳の癖にはしゃいでまぁ』とちょっとした毒を心の中で吐いてみせていたが、シャンクスの嬉しそうな顔と、シャンクスがまだルフィを可愛がってくれているのを感じ、思わずくすりとほほ笑んでしまう。
隣でもくすりと笑った気配を感じ、ミコトは目線だけその気配の方を見る。
当然ながらミコトの隣にはベンしかおらず、目線の先はベンだった。
ベンは自分と同じくシャンクスの反応を微笑ましく思っているかとミコトは思っていたが、なぜか目線をこちらへ向けており、ミコトはベンの視線の意味を理解し、そしてハッとしたように自分の頬を両手で押さえる。
そんなミコトにベンの笑みは深まり、ミコトは恨めしそうにベンを上目遣いで睨んだ。


「……なんですの」

「いいや?なんにも?」

「……言っておきますけど…わたくしは別に変態の笑顔を見て微笑んでいたわけではありませんわよ?ルー君を忘れずにいたことを褒めていただけです!」

「へーへー」

「…信じてませんね?」

「いやいや、信じてますとも!大将殿を疑うなんて正気の沙汰じゃないですしねェ」

「………」


わざとらしい敬語のベンにミコトはムスッとさせニヤニヤとニヤついているベンに何か言い返そうと口を開く。
だが、それを邪魔する者がいた。


「ミコト!!こっちこい!!ルフィが海賊になったぞ!!しかも手配書まで!!飲むぞっ!!宴だァ!!!」

「飲むってあんた今飲みすぎて苦しんでた所じゃねェか!」

「ばかやろっ!!こんな楽しい日に飲まずにいられるか!!鷹の目お前も飲んでけ!な!」

「遠慮する。用件が終わったので帰らせてもらうぞ」

「んだよつれねェなー!」


邪魔する者…それはシャンクスだった。
当事者でもあるシャンクスに呼ばれミコトは空いていた口を閉ざしムスッとしたままベンを睨みながら立ち上がって手招きをするシャンクスへと歩み寄ろうとする。
いつまでも睨むミコトだったがベンのにやけ顔は中々取れず、帰ろうと背を向ける鷹の目の姿をとらえ『あら』と睨んでいた表情を和らげる。


「もうお帰りになられるので?」

「ああ…ここに来たのはアレに手配書を見せに来ただけだ…二日酔いの男に付き合う義理はない」


シャンクスに気分が悪い、と極悪な顔で言われた鷹の目だが、その気分の悪さの原因は当然知っていた。
自分の問いに頷き去っていこうとする鷹の目にミコトは『まあ』と声を零しクスクスと愉快そうに小さな笑い声を漏らし、去っていく鷹の目を見送った。


「ミコト!!」

「あーもう…はいはい、今行きますわ」


鷹の目を見送っていると中々こちらへ来ないミコトにシャンクスから催促が出た。
ミコトは呼ばれて仕方なく変態と呼んでいるシャンクスのもとに歩みより、シャンクスの隣へと座る。
当然そこに座るのが当たり前のように座るミコトを鷹の目が見ていたとは知らずにミコトは渡された酒のビンを渋々を装いシャンクスに注いでいた。







鷹の目が去った後も、シャンクス達は賑やかに酒を飲み宴会を始める。
先ほどまで酔っぱらい二日酔いで苦しんでいたとは思えないほどシャンクス達は次々に酒を飲み干しては次の新しい酒を飲み始める。
幹部達は元より、新顔や他の海賊達も船長が目に掛けている海賊が初めて賞金首になった事にそれぞれ宴会をはじめ騒いでいた。


「そういやミコトの用件はなんだったんだ?」

「鷹の目と同じルー君の手配書を見せようかと思いまして……ああ、それとアスカも賞金首になりました」

「そうか……………………………って……何ぃぃぃ!!!!?」


シャンクスは鷹の目の報告に嬉しさが勝ち、ミコトも用事があってここに来たことをやっと思い出す。
酒のビン、2本を飲み干した後に思い出したシャンクスにミコトは呆れながら注ぎ終わったビンを傾けるのをやめる。
ミコトが鷹の目に順番を譲ったのは、そちらの方が面白いからである。
ミコトはシャンクスに問われ、もうひとつの用件をシャンクスに伝えた。
ビンを片手で持ち、もう片方の手で手品のようにアスカの手配書を取り出し、シャンクスに渡した。
おちょこを机替わりにしている木の箱の上に置き、思わず頷いて差し出された手配書を受け取り、娘の手配書を見つめていたシャンクスだったが……長い沈黙が続いたかと思えば遅れて驚きの声を上げた。
シャンクスの隣に座っていたミコトはシャンクスの大声をもろに耳に入れてしまい、キーン、となる耳鳴りのする耳を押さえながらシャンクスを睨む。
幹部であるベン達もミコトの言葉に唖然としておりその場は静まり返っていた。
シャンクスは口をパクパクとさせたかと思えば、娘の懸賞金を見てギョッとさせる。


「"冷酷ウサギ"…い、1千500万ーーー!!?」


娘の手配書にはアスカの名前がなかった。
だが、ミコトが渡したということはこの手配書はアスカの物だということだろう。
写真入手に失敗したのか、本来手配書に入るはずの写真の場所には黒く塗りつぶされているだけとなっている。


「やっぱりアスカ…海に出たのか…」

「ルー君の船に乗っているようですね…」

「あー…やっぱりか……」


アスカがなんらかの形で海に出ることは父であるシャンクスは分かっていた。
それも原因が自分であることも。
それでも娘が賞金首になったことは驚いてしまうのだが、驚きよりもどこか嬉しさが勝ってしまう。
そしてルフィの船に乗っているというのには驚きはなかった。
ルフィもアスカも昔から仲が良く、世話になったフーシャ村の人達はいつか2人は結婚するのだと疑いもしないほどだった。
父親として可愛い娘を嫁に行かせるなど想像もしたくない苦行だが、もしもその旦那が、未来の義理の息子が、ルフィならばきっとシャンクスは許しただろう。
むしろシャンクスもルフィ推しである。
そしてベン達幹部達もルフィ推しであり…心強いことに海軍中将と海軍大将の黒蝶もルフィ推しである。
この場はルフィがアスカの旦那になることを前提に考えている人間しかいなかった。
話は横へ逸れてしまったが、昔ルフィとアスカの兄貴分だというエースと言う青年が挨拶に来たときに聞いた話も相まってシャンクスはフッと娘とルフィの手配書を見下ろし笑う。


「アスカが海に出たのは置いて行ったおれのせいだ…だがアスカにはルフィがいる。あいつなら、アスカを…おれの娘を守ってくれるさ!」

「シャンクス…」

「それに考えてみろ!おれとお前の子だぞ?そう簡単にやられるわけがない!」

「そうですね………って誰と誰の子ですか!」

「あだッ!!ご、ごめんなさい!すみません!調子に乗りましたっ!!!」


ルフィの船に乗っている、と聞いただけで娘の安否への心配が薄らいだ。
シャンクスはルフィを信頼しており、その言葉にミコトは感動しかける。
だが、続いた言葉に頷きかけたミコトだったが、ハッとさせ慌てて首を振る。
シャンクスの足を踏むミコトだったが、サンダルを履いているシャンクスの足は素足をさらけ出しており、ヒールの高い靴を履いてるミコトからの攻撃に思いっきり体力ゲージを削っていく。
地味に痛いミコトの足踏み攻撃にシャンクスはすぐに降参し、周りにいた幹部達はそんないつも通りのやり取りと、昔可愛がっていた子供であるルフィとアスカの出世に宴が更に盛り上がった。

61 / 293
| top | back |
しおりを挟む