サンジを取り戻すためにゾウを出たルフィ達。
仲間を取り戻すために気合を入れていた。
しかし現在…―――ナミたちは撃沈していた。
ゼーゼー、と息を荒くしながらアスカは芝生に座り込む。
それはアスカだけではなく、ルフィ以外の全員…ナミ、チョッパー、ブルック、ペドロ、ペコムズがアスカと同じく息を荒らしその場に座り込んだり蹲ったりと力なく横たわっていた。
「ちょっとおも〜〜か〜〜じ…」
「はーーい……」
覇気のない声でナミは面舵を指示する。
だが、舵を握るチョッパーの手は力はなく舵を動かす腕もフルフルと震えて力が入らない。
「…こう?」
「あ…もう…ちょい…」
「こらこらこら〜〜〜!!気合を入れろよ!沈むぞ!!」
「うっさいわね!あんたがゾウから急に飛び降りるからもうみんなぐったりよ!バカ!」
覇気がない声掛けをルフィが遮る様に然りつけた。
そんなルフィを気に掛ける余裕なんかアスカ達にはなく、アスカは幼馴染兼恋人の声に無反応にその場にうずくまっていた。
アスカもワノ国組に入っていたが、ワノ国にいる直葉の母と会いたくないと言ったためこちらの方へ割り当てられた。
結局行きつく先にワノ国がいるのだが、滞在時間が長ければ直葉の母と遭遇する率が高くなる。
そのリスクを考えてアスカはこちら側に振り分けられた。
「ホラ…また少し進路がずれた…と〜〜り〜〜か〜〜じ〜〜…」
「はーいっ!!任せて!」
アスカでさえ力が入らずぐったりとしている中、ルフィだけが元気だった。
本来なら取り舵を取れるのはルフィだけだったはず。
だが、ナミの指示に返ってきたのは元気な女の子の声だった。
元気な声にルフィは『ほら見ろ!』とぐったりしているナミ達に指さした。
しかしその声に違和感を感じた全員がそちらへ振り向く。
そこには―――
「わーっ!ホントに海の上〜〜!こんなに重そうな船が浮いて進んでる〜〜!」
――ミンク族であるキャロットが立っていた。
キャロットは海と船に興味津々に見渡していた。
「な、なんでお前がいるんだァーー!?」
ルフィでさえキャロットの姿に目を丸くして驚いていた。
アスカも本来こちら側にいるはずのないキャロットの姿に声さえも出ないほど驚いているほど、彼女の登場は突然で想定外のことだった。
きっと今頃モコモ公国ではキャロットの姿がないと騒動になっているかもしれない。
「キャロット!お前なぜここにいる!?」
「ついて来ちゃったっ!」
ついて来ちゃったじゃねえ!、とウソップがいたらそう突っ込んでいたかもしれない。
残念ながらこの面子にウソップレベルのツッコミをできる奴はいない。
早速ミンク族の挨拶であるガルチューをルフィをはじめ全員にして回っていった。
しかし、アスカの番になるとその俊敏だった動きがピタリと止まる。
アスカは次は自分だと身構えていたが、抱きつかれる衝撃も甘噛みされる感触も一向にこず恐る恐るキャロットを見た。
するとキャロットは目の前にいるが、なぜかハアハアと息を荒くしてアスカを凝視していた。
それはもう、淡白なアスカが怖く感じるほど。
「えっと…どうしたの?」
「い、いいんですか!?ガ、ガガガ…ガ、ガルチューしてもいいんですかッ!?」
「………」
ミンク族の目を通したアスカは女神のごとく輝いて見えるらしいのでルフィ達のように気軽にガルチューができないのだろう。
しかし、アスカ自身はミンク族に心酔される理由がないので戸惑うしか反応ができない。
いいのか、と問われたので、とりあえず首を振っておいた。
挨拶だろうとなんだろうと甘噛みされて嬉しいタイプではない。
しかし、断られたキャロットはガクリと肩を落としてガッカリとした。
ミンク族の女神に挨拶を断られた事への気落ちはしみじみ分かるので肩を叩いて慰めつつ、ペドロもこのままキャロットを連れて行けないので黙っているわけにはいかない。
「悪いが一度船を戻してくれ」
「引き返さないでー!ワンダに怒られる〜〜!」
予想外の出来事とはいえ、まだ引き返せる距離(と言ってもほとんど進んでいない)なため、ペドロはキャロットを帰すため船をもう一度モコモ公国へ戻ってもらうようルフィ達に頼んだ。
それを聞いて初めて国から出てワクワクしていたキャロットは慌ててペドロに縋って止めた。
「恩人達…それも女神に迷惑をかける気かキャロット」
「う"…で、でもでも!一度海へ冒険に出てみたかったの〜〜!」
すでにミンク族から『女神』で固定されたアスカはチラッとキャロットの縋るような目と合い、速攻気まずげに逸らした。
帰されるとキャロットは必死に懇願する。
ちゃんと荷物を持ってきたと言って鞄の中を出したが、お弁当(人参)、ジュース(人参)、おやつ(人参)、着替え――とちゃんと考えて持ってきたようだが、ペコムズの『どれくらいもつんだ』という問いに『半日』と答えた。
それにペコムズは呆れたように半日では到底足りないことを教える。
「え〜〜!?何日もかかるの〜〜!?まっすぐ進んでも!?そんなに広い場所ってある!?」
国から出たことのないキャロットにとって、海は未知の世界だ。
半日で島と島を渡れると思っていたキャロットは何日もかけて目的地を渡ると聞いて驚きと共に感激していた。
「まーいいよ…乗っちまったもんは仕方ねェ!自分の身は自分で守れるか?」
「うん!ありがとう!大丈夫!」
結局、戻るよりも進むことをルフィは選んだ。
連れ戻されると思っていたキャロットは乗船を許されたことにホッと胸を撫でおろした。
「め、めめ女神さまっ!よ、よろしくお願いします!!」
「あ、うん…よろしく…」
「女神さまは私達が守りますからね!!安心してくださいね!!」
「う、うん…ありがとう…」
可愛らしい見た目に反して、キャロットはペドロも認める戦闘力を持っているらしく結局ペドロやペコムズ達も船長であるルフィが許したという事で渋々納得することにした。
アスカもキャロットが乗ることに不満があるわけではないので仲間が増えたという感想を持っただけである。
そんなアスカの元にキャロットは駆け寄り、なぜかグッと拳を握り締めアスカを守る気満々に宣言した。
アスカはルフィやゾロ達より強くはないものの、弱いつもりでもない。
本来なら勝手に守られるだけの存在にされたことに苛立ちを持つのだが、キャロット達ミンク族の自分に向けられる気持ちが消化しきれず戸惑いしか生まれない。
ぎこちなく頷くアスカを見て、キャロットは…いや、ミンク族の三人は一気にやる気を出す。
アスカ過激派であるナミはキャロットの言葉に『いい心掛けね!』と後方保護者面をしていた。
そんなアスカ達のやり取りなど気にもせず、ルフィのお腹はグーっと鳴る。
「ハラへった…メシにしよう!誰かメシ作ってくれー!」
お腹を摩りながらルフィは声を上げて訴えた。
普段ならコックであるサンジがすぐにルフィの食事を用意してくれるのだが、現在そのコックを連れ戻すために海に出ているためいつもルフィを満足させる料理を出す人がいなかった。
当然、辺りは無言で包まれる。
「じゃあ…わた―――」
「お前は駄目だ!!お前はキッチンに入るな!おれ達が死ぬ!!!」
「……………」
じゃあ、とアスカが手を挙げて立候補をしたが、それをルフィが即答で断った。
もはやマッハである。
即断られた料理下手なのに自覚がないアスカはムッとさせルフィの伸びすぎる頬を思いっきり引っ張った。
「せっかく恋人になったのにそんな意地悪ばっかり言ってると嫌われるわよ(まあそっちの方が私は都合がいいけど)」
「お前らはアスカの
死の料理を知らねェからそんなこと言えるんだ!!」
「知らないもなにも食べたことないんだから当たり前でしょ?…全く、しょうがないわね…私が見ててあげるから一緒に作りましょう」
『ちなみに私とアスカで一人10万ベリー払ってね』と無茶苦茶なぼったくりをされてそちらに気を取られたルフィはアスカもキッチンに入ったことに気づかなかった。
気づいた頃にはすでに料理が出来上がった頃である。(遅)
「ハッ!そういやアスカ、キッチンに入らなかったか!?」
「おそっ!入ったは入ったけど…だいぶ時間経ってるぞ?」
チョッパーの回答にルフィが慌ててキッチンに向かった。
しかしすでに遅し。
ルフィがキッチンのドアノブを掴む前に、ドアノブは捻られゆっくりと扉が開けられる。
出て来たのは、ナミだった。
暗い顔をした…ナミ、だった。
その顔一つでルフィは全てを察した。
「おっ!ナミ!アスカ!もうできたのか!?」
「いやー!お二人の料理!楽しみですねェ!」
「わーい!女神様の手料理を頂けるなんてラッキー!」
「女神の手料理か…楽しみだ」
「未来の夫として将来の妻の料理を見ておかなければ」
青い顔をしたルフィとナミを放置し、チョッパー達はぞろぞろとキッチンに入った。
因みに、女神に対して不敬を申したペコムズは同郷の二人に一発ずつ叩かれた。
残された二人の間には重い重い沈黙が流れる。
「な?だから言っただろ?」
「…うん…ごめん、ルフィ…」
ルフィから温かい目で見つめられ、ナミはそっと視線を逸らすしかできなかった。
今頃、キッチンでは全品真っ黒こげに変貌した食材たちにみんな絶句しているところだろう。
ナミだって絶句した。
「…なんで最終的に黒焦げになるのかしら…」
「おれも聞きてェよそれ…昔からあいつの料理って最後には焦げるんだよなァ…途中まで普通にうまそうなのによ…だからエースとサボがアスカはウサウサの実じゃなくてコゲコゲの実を食べたって言ってた」
「そう…そうかもしれないわね…」
アスカの料理は途中までは上手くいっていたのだ。
しかし、最終的に何故か全て焦げたように真っ黒になるのだ。
それはもう、某宇宙江戸物語の姉上のように。
ナミはアスカが呪われているのだと真面目に本気で思ったが、ルフィの言葉に納得した。
料理は『だから言っただろ!』というルフィに、アスカが『そんなに言うならあんたが作りなさいよ!』と言い出し、売り言葉に買い言葉とルフィが作ることになった。
手助けは必要ないと言われルフィ一人キッチンにこもってしまう。
料理が不評だったアスカは、完全に拗ねてしまい部屋に籠ってしまい、励ましやフォローは逆効果となるためナミ達は心配しながらもそっとしておくことにした。
「何よ…みんなして不味い不味いって…そこまで酷い?」
プンプンと怒るアスカを宥めたりフォローする者はいない。
いたとしても、女部屋に1人拗ねて困ったアスカは今は耳を貸すことはないだろう。
ふて寝しようとベッドにもぐりこみ、アスカは完全に寝落ちした。
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