アスカ達サンジ奪還組はここ数日で壊滅しかけていた。
特に、瀕死なのはルフィだった。
「もー!だからエース達にあれほど何でも口に入れるなって言われてたじゃん!!」
アスカは泡を吹いて倒れているルフィに留めと言わんばかりにチョップを送る。
勿論、本気ではない。
罰である。
――ここ数日、アスカ達は食料を失い餓死寸前となった。
それもこれもルフィが料理に使うはずの食材を全てぶち込んだからだ。
しかもそれで美味しいならまだしも、アスカと同レベルの料理下手だったことが発覚した。
『私のこと言えないじゃない!!』とアスカに頬を引っ張られるまでが様式美である。
食材が一瞬にして無駄になったため、食材が一日経たずしてついてしまい餓死寸前となった。
しかし、幸いなのはここが海だという事だ。
新世界特有のありえない天気で、煮えたぎっるような海に入ったため、釣りは困難だったがようやくルフィが大きな魚を釣り上げた。
しかし、色が紫色と深い緑色をしており完全に『自分毒ありますから』な魚だった。
その魚も、サンジの残してあったメモや魚の図鑑で調理法があったが、空腹のあまり生のままガブリついたルフィが案の定毒にやられた。
アスカ達はその調理方法で無事食べ物にありつけたが、その傍らにはブクブクと泡を吹くルフィが横たわっていた。
基本小食なアスカはすぐに食べ終わると無限に出て来る泡を拭いながらルフィを介抱する。
幸い、この船には船医であるチョッパーがいるし、ルフィはマゼランの毒で抗体ができており、元々ルフィは殺しても死なない体を有している。
危ない状況ではあるが、焦るにはまだ早い。
そうこうしている内にアスカ達はビッグ・マムの縄張りに入った。
これからはいつビッグ・マム海賊団に見つかってもおかしくない状況と言うわけだ。
しかし、アスカ達が警戒して変装又は隠れるかのどちらかを行う前に、それは現れた。
「何か見えるぞペコムズ!」
「ウチの『偵察船』だガオ!おれがうまくやるからみんな黙ってろ」
甘い雪が降る中、霧に写る一隻の船。
影でしか映っておらずはっきりと見えないが、この場所がビッグ・マムの縄張りということから、こちらに向かってくる船はビッグ・マム海賊団の船だと思い込んでいた。
しかし―――
≪こちら『ジェルマ』――…麦わらの一味の船と見受ける≫
その船はビッグ・マム海賊団の船ではなく…ジェルマの船だった。
ジェルマと聞き驚くなか、アスカだけは目を輝かせてサニーよりも大きいジェルマの船を見上げていた。
≪なぜお前達がここにいる?≫
ジェルマの船は、大きな電伝虫の上にある。
この巨大な電伝虫が集結すれば、ジェルマの国となる。
サニー号よりも何倍も大きな電伝虫がサニーを避けずまっすぐ進んでくるので、アスカ達が避けるしかなかった。
こちらを見下ろす男性を見て、アスカはサンジだと思った。
それはナミ達も同じだったらしく、ナミとキャロットが嬉しそうに声を張り上げた。
「サンジ君!」
「サンジー!」
ブルック達もサンジと会えたことが嬉しくそれぞれ声をかけるが、アスカはサンジの姿に違和感を感じた。
(おかしい…いつもなら私達を見てハートを飛ばすのに…)
その違和感とは、サンジの反応である。
サンジは女性に優しい。
だらしないと言っても過言ではないくらい、重度なレディーファースト思考をしている。
女性が敵として立ちふさがっても、その女性と戦う事が出来ず一方的に攻撃されるほど彼は女性に優しい…優しすぎるのだ。
なのに、こちらを見下ろすフードを深く被った男性は無反応だった。
「おいサンジ!大変なんだ!ルフィが魚の毒に当たって死にそうだ!その船に解毒剤はないか!?」
毒に耐性があり生命力が強いルフィと言えど、毒を抜かないといつかその太すぎる生命線がブチリと切れるだろう。
それに死なないからと言って手を尽くさない医師など医師ではない。
サンジにそちらの船にある解毒剤を分けてもらおうとチョッパーは頼むが、サンジは静かに口を開き言った。
「さっきからサンジサンジと…人違いだ…似ていて当然だがな―――私はヨンジ!お前達のよく知るサンジとの関係性は秘中だがな」
フードを脱いだその男は、サンジではなくサンジの弟だった。
フードから覗いていた左目の部分が、サンジに似ていた。
サンジとの関係を秘密と言うものの、その容姿と名前によってサンジの弟だと誰もが気づいた。
「秘中って言ってるけど…あの人サンジの兄弟だよね」
「ええ…サンジ君、弟もいたんだ…」
「え!?何で弟だって分かったの!?」
ただ、キャロットはサンジの弟だと気づいていなかった。
なぜ、と言われても彼の名前の『ヨンジ』…すなわち、
サンの次である
ヨンだから弟と考えてもいいだろう。
しかし、その血は確実に繋がっていた。
「ワーオ!カワイ子さんたちーー!!」
「お前やっぱりサンジだろ!!」
ヨンジはナミとアスカを見て目をハートにした。
周囲にハートが散っており、女性を見れば目をハートにしているところがサンジの兄弟だと強く認識させられる。
しかし、サンジほど人は良くないらしい。
「おい頼むよ!解毒剤くらい積んであるだろ!?ウチのは使い切ったのに…まだ効かなくて!」
「サンジさんの弟さんなら!頼みます!どうかルフィさんを助けて!!」
「悪いな…私に人助けの趣味はない――それとも薬を略奪してみるか?"海賊"らしくな…!」
ルフィは生命線がものすごく太い。
そして、毒にも強い耐性がある。
毒に侵されている証拠でもある湿疹が少しずつ広がっていき、抵抗力がなくなっていっていた。
それだけあの魚の毒は強力で、マゼランが食べたドクドクの実よりも強いのだろう。
助けを求めたが、サンジの弟であるはずのヨンジはアスカ達を見捨てた。
それにナミ達は腹を立てていたが、アスカは特に反応することはなかった。
それは彼女が海の戦士ソラを愛読していたからだろう。
彼らは悪役として描かれている。
現実と創作物を同一として見ているつもりはないが、物語通りの悪役ぶりに感激すらしていた。
しかし、流石にルフィの図太さを知っているアスカも心配となった。
サンジに似ている女に弱いのならちょっと甘えればコロッと落ちそうな気配を感じたアスカは、ナミに頼んで色仕掛けでもしてもらおうかと考え実行しようとした。
自分で思いついたのだから自分でやればいいと思うが、それをやって恋人2人に怒られたのはまだ記憶に新しい。
というより昨日の話である。
ナミに頼もうと思ったその時―――
「ヨンジ!ケチくさい事言ってんじゃないよ!!」
後ろからヨンジが蹴られて海に落ちてしまった。
それに驚いていると、ジェルマの船からサニー号へ飛び乗った人影があった。
その人影を見てアスカは目を丸くし唖然とさせた。
その人影は警戒し迎撃しようとするキャロット達にまずは弟の非礼を詫びた。
「こんにちは、ごめんなさいね…弟は人情の欠片もない人でなしなの」
その人影は女性だった。
美女だが、ぐるん、と渦を巻く眉にサンジと同じ血を感じた。
「レイジュ〜!おのれ!よくも私に恥をかかせたな!!」
「お黙り!恥知らずはどっちよ!!」
海に落とされたサンジとレイジュと呼ばれた目の前の女性の弟、ヨンジが海から飛び出すように現れた。
しかも彼は宙に浮かんでいる。
「え…!浮いてませんか!?あの人…!」
この世界では、能力者でなければ人が浮いたり飛んだりすることはない。
飛行機などのない世界に、ヨンジは宙に浮いていた。
だからみんな驚く。
ブルックの驚いた言葉に反応したのは彼らを知っているペコムズではなく、アスカだった。
「当たり前でしょ!ジェルマ66は悪の軍団でありながらもその技術力は最高レベル!その技術力と高い戦闘能力によって幾度も戦士ソラを苦しめてきたのよ!!空中に浮くくらいジェルマなら赤子だってできるんだから!!!」
「アッハイ」
グッと拳を握り締めて力説するアスカに、ブルックは押されていた。
アスカは北の海出身であるため、目の前に空中に浮かんでいる男がいても、その男がジェルマならば当然として受け入れていた。
「あら、私達に詳しいのね」
力説するアスカに、サニー号に飛び乗ったレイジュが声をかけた。
声を掛けられたアスカは『はひっ』と今までに聞いたことのない声が漏れ、勢いよく腰を折りレイジュに向けて手を差しだす。
「フ、ファファファファ…ファンですっ!!応援しています!戦士ソラに負けないでください!!!」
「そうなの?ありがとう」
「はわわ…顔が良い…!」
アスカはポイズンピンクのガチ勢だった。
握手を求められたレイジュは、自分が演じていないのにアスカの手を取って握手してくれた。
はわわ、と体を震わせ感涙の涙を浮かべるアスカに、流石のナミもドン引きしていた。
現実と作品を混同してはいないが、最推しであるポイズンピンクのモデルとなった女性が、目の前にいれば誰だって限界オタク化するだろう。
アスカはあまりの顔の良さに、ついに顔を手で覆って見れなくなってしまう。
そんなアスカを気にも留めず、ブルックはふと思い出す。
「ですが…『ビンスモーク家』って確か"王族"の名じゃありませんでしたか?大昔…"北の海"を武力で制圧した一族…」
「あらガイコツさん…歴史に詳しいのね」
自分の国の過去を知っているブルックにレイジュは関心した声をかけ、褒められたブルックは照れた。
しかし、レイジュの影でギロリとブルックを睨むアスカと目が合い、ブルックは無い目をそっと逸らす。
過激派オタクは面倒くさい。
「でも過去の話じゃない…今もまだ"王族"よ…『ジェルマ』は国土を持たない国…治める土地はないけど『世界会議』への参加も認められているわ」
「それは失礼!ではパンツを……」
ジェルマは国土はないが、世界政府に国として認められている珍しい国だった。
世界会議の参加も認められるくらいの大国であった。
それを謝罪し、ブルックは美女には必ず聞くパンツの挨拶をしようとした。
しかし、その口を開いたがそっと閉じた。
レイジュの影にいるアスカの背後に修羅の顔をしたウサギを見たからだ。
その主であるアスカの顔もまさに修羅。
同担拒否オタクは本当に面倒くさい。
そんなアスカに気づかず、レイジュは早速ルフィに歩み寄る。
その背後でブルックが強面ウサギに胸ぐら捕まれ、アスカに『おい兄ちゃん今わいの推しにセクハラしようとしてたよな??』と絡まれていた。
ブルックは青い顔で必死に頭を振る。
「この症状は熱々海の"ヨロイオコゼ"食べちゃった?」
「え!?何で分かるんだ!?」
「この毒は効き方が特殊なのよ…食いしん坊ね、普通巨人族でも即死よ」
どうやらレイジュはルフィが侵されている毒を知っているようで、ナミ達はホッとする。
まだ解決していないが、どんな毒に侵されているか分かっただけでありがたい。
毒の種類さえ分かれば対処できるし、急いでどこかの街に向かい解毒剤を貰うこともできる。
「この子、運がいいわ…私、この毒が大好物なの」
ルフィの顎に手をやり、レイジュはゆっくりと口を開ける。
レイジュの言葉にアスカ達が疑問に思ったその時―――レイジュの唇とルフィの唇が触れた。
その瞬間、その場の空気凍りつく。
「え〜〜!そんな毒吸ったらお前が死んじゃうぞ〜〜!!」
ルフィに触れていると毒が移ってしまう。
しかも、唾液などの接触でレイジュも感染し、レイジュの美しい顔にルフィと同じ湿疹が現れた。
それなのにレイジュは変わらずルフィに口づけをし続ける。
毒を吸い込むようなレイジュに、チョッパー達は唖然とし何もできなかった。
「ええ!?ルフィの湿疹が全部消えた!?お前が吸ったのか!?大丈夫か!?」
レイジュの体に湿疹が増えるのと同時に、ルフィの体から湿疹が消える。
しばらくしない内にルフィの毒は完全に消えていく。
吸い終えたのか、立ち上がるレイジュにチョッパーが心配そうに慌てて声をかけるが、レイジュは平然そうに頷く。
「ええ、勿論…私は"ポイズンピンク"…毒は平気なの」
レイジュは毒が効かない体質を持っており、毒に免疫を持っているルフィですら体を侵す猛毒を体内に入れても平然としている。
レイジュの体に浮かび上がっていた湿疹も少しずつ消えていき、今では痕すらなく綺麗な美しい肌に戻っていた。
「ぶっはァ〜〜!」
湿疹はルフィの体からも消えていき、ルフィの体からも湿疹が消えてすぐにルフィは目を覚ました。
あれほど苦しそうにし、口から泡まで出していたのに、彼の元々の体力なのかすぐに体を起こしいつもの様子に戻っていた。
「あれ!?おれ魚食ってたら…寝ちまったかな!?皮がうめェのなんのって!まだあるか!?」
「ないっ!!」
あんなにも苦しんでいたというのに、ルフィは全く記憶にないようにあの毒の魚をまた食べたいと言い出した。
ナミは死ぬ可能性があったルフィの呑気な言葉思わず涙が出てしまう。
ルフィは自分が死にかけたなど危機感を感じず、呑気なままでいたが、傍にいた女性に気づき驚いた表情を浮かべた。
「サン―――」
傍にいたのは、レイジュだった。
サンジの姉である彼女はとても女性らしく美人。
髪の色だって金髪ではなく愛らしい桃色だ。
男性要素は一切ないのだが、相手はルフィ。
眉の特徴が同じだという理由だけだが、ルフィにはそれで十分同一人物になる。
サンジ!?とサンジの名をいいかけたルフィの口をアスカの手が塞いだ。
口を塞がれたルフィは視線をアスカに向けると、ギロリとアスカの金色の瞳に睨まれてしまう。
「レイジュさん」
「…………」
「レイジュ、さん」
ポイズンピンクガチ勢であるアスカにとって、例え恋人であり船長とはいえ、推しとサンジを一緒にしてほしくないらしい。
ギロリと睨むアスカに、ルフィはコクコクと頷いた。
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