ルフィがもう一人の自分と戦っている時―――ナミ達の前には新たな障害物が立ちふさがっていた。
「キャ〜〜!!」
「ギャ〜〜!!」
「で…!でっかい人が埋まってるーー!」
「ほんとに埋まってる…」
アスカ達の目の前には巨人族のように大きな顔をした男が何故か顔を手だけを出して埋まっていた。
サンジを追いかけていて突然現れたように見えたが、それはただ単純にナミ達が気づいていなかっただけである。
「わーーびっくりした〜〜」
「こっちのセリフだよ!!」
驚くナミ達に男も一歩置いて驚いた言葉を呑気な声色に乗せて出した。
緊張感のないその声にアスカは警戒をついといてしまう。
「お前大丈夫か!?誰にやられたんだ!?」
「え?」
「埋められてるじゃねェか!体!」
「好きで埋まってるんだよね〜」
「えー!?バカなのかコイツ!心配して損した!」
埋められていると思った男だったが、どうやら好きで埋まっているらしいことが発覚する。
好きで埋まっているのなら助ける必要ない、と判断し、呑気にも『ジュースが飲みたい』と言ってきた男に心配した反動で激怒したチョッパーをナミが抱えながらその場を去ろうとする。
だが――
「危ない!ナミ!」
何者かが草むらから襲い掛かってきた。
その者は人ではなく、鶴のような鳥に乗っている服を着ているウサギだった。
そのウサギの手に持っている武器でナミが襲われたが、キャロットがチョッパーを抱くナミを庇い回避する。
「ぎゃあーー!」
「え!?え!!?」
「えっ…木が喋った…!?」
アスカも飛び退いたが、ナミの代わりのように切られた木が叫んだのを見て驚く。
しかし、驚いている暇はなく、襲ってきたウサギが再びこちらに刃を向けると思い構える。
「え…どっか行っちゃった…」
グッと拳を握り締める。
能力を使用するとどうしてもウサギの耳と尻尾が出てしまうが、そんな異変に興味がないようにウサギはそのまま鳥に乗って走ってどこかへと消えてしまう。
それにアスカは呆気とするが、我に返りナミ達の下へと駆け寄る。
「ナミ!チョッパー!キャロット!大丈夫!?」
駆け寄って怪我がないか確認すると、キャロットが庇ってくれたおかげで2人に怪我はなかった。
『大丈夫』と体の確認後に答えるナミとチョッパーにアスカはホッと安堵の息を着いた後、お礼を言おうとキャロットへ振り向いた。
しかし…
「はわわ…!女神さまに名前を呼ばれた…!女神さまが私の名前を憶えてくださったなんて!!!ワンダどうしよォ!頭が沸騰しそうだよォ!!!」
目をキラキラとさせるキャロットは感激の涙を流し、頬を赤らめていた。
ミンク族にとってアスカは女神のごとく美しく見えるらしいのは分かっているが、ここまでくると狂った宗教のようで本人であるアスカも流石に怖くなってしまう。
お礼を言いたいのだが、お礼を言ったら言ったで失神しかねないので心の中だけで留めておくことにした。
「木もワニも喋る…今のウサギも私達を殺す気だわ!すぐルフィの所へ!」
「でもサンジは!?」
「もう本物かどうかも分からない!」
サンジの心配をするチョッパーだが、ナミの言う通りあのサンジが本物なら自分達を助けないわけがない。
何か事情があれどそんな素振りは見せなかった。
それはチョッパーも分かっているのか、ナミの言葉に反論することはなかった。
「それに時間も方角も!何から何まで変よこの森!!」
先ほどからログポースの針がグルグルと回転しており、森の中にある謎の時計も進む速さが異なっておりバラバラだ。
明らかに今いるこの森は普通の森でないことが伺える。
とはいえ、サンジも気になるチョッパーが『うぅ』と悩むように唸っているとアスカはハッと何かに気づく。
「やば…あのウサギが戻ってきた!逃げるよ!」
「えっ!なんで!?」
「分からないわよ!でも絶対に味方じゃないのは確かね!」
水あめの海、わたあめの雪、お菓子の家など、常識を超えているのはまさに新世界だが、この森は別の次元だとしか思えなかった。
森でコンパスが狂うことはよくあるが、ナミの手首にあるログポースは新世界のためのものなためそう簡単に狂うことはないはずである。
ログが溜まってしまったのなら別だが、三つとも狂うことはありえない。
なぜか森の中にある時計も時間が全てあっておらず、明らかに異質だ。
アスカ達はルフィと合流しこの森から撤退しようとした。
「いた!ルフィ!」
「まだやってる!」
「ルフィ!海岸へ戻るわよ!!」
追いかけて来るウサギとツルを何とか交わしながら目立つ埋まっている男を目印にアスカ達はルフィと合流した。
しかし、ルフィはまだ自分と争っているところだった。
そんなルフィなどお構いないに森から出ようとルフィに声をかけながら走る。
「あれ?お前ら何で…」
「話は後!この森は怪しい罠だらけよ!!」
説明している暇はないとナミはチョッパーに乗りながら急いで海岸へと向かう。
そんなアスカ達の焦り様に、詳しいことは後にしてアスカ達に続く。
「待てお前ら!そっちはおれじゃ―――」
ルフィがナミ達については知れば、もう一人のルフィが逆方向に向かって走って行く。
向かう方向も鏡のようだった。
ルフィが何か言いかけたが、アスカ達には届かなかった。
何か言ったのかと問えば『なんでもない』と言われたため、アスカ達も気に留めることはなかった。
まだ入り口付近だったため、引き返せる地点にいたことに安堵していたが―――目の前にはあの埋まっている男がいた。
「え〜〜!?なんで!?」
「また来たな己ら!おい、さっき頭に刺さったものを抜いてほしいのよね〜〜」
思わず立ち止まる。
目の前には抜いたはずの埋まった男が立ちふさがる様にいた。
男は再び現れたアスカ達に驚きながらも、アスカ達に向けられて放たれた武器が後ろに刺さっており、それを抜いてくれと言ってきた。
「私達来た道をまっすぐ戻ったハズなのに!!何であんたがここにいるのよ!」
「『なんでここに』って…ウヌはずっとここにいるよね〜〜己らが勝手に行って戻って来ただけよね〜〜」
「なにそれ…迷子ってこと?」
確かに真っ直ぐ走ったはず。
迷子のプロであるゾロでないかぎりはこの距離の道を間違えるはずがない。
それは自信を持って言える。
「もう一度出口へ走るわよ!!」
ナミの声にアスカ達はもう一度埋まっている男を背に戻っていく。
男が『頭に刺さったやつー』と言っていたが、気にする暇はない。
一刻も早くこの森を抜けなければならないのだ。
しかし―――
「きゃ〜〜!」
「また…戻って来ちゃった…」
「わーびっくりした〜〜!何度来るんだ己達!」
目の前に埋まっている男が再び現れた。
今度こそ疑うまでもなく、男を背に走ったはずなのだ。
なら、本来だったら男が目の前に現れることなどありえない。
ナミはログポースを見る。
やはりログポースはグルグルと回っておかしいままである。
「方向なんて分からなくても単純な一本道なのに…この道をまっすぐ戻…―――」
ログポースが壊れたように針が回転していたとしても、真っ直ぐ進めばとっくの昔に船に戻れたはず。
なのになぜかたどり着けない。
もう一度道を確認するためナミが顔を上げたその時―――目の前で木がそろりと忍び足でひとりでに動いているのが見えた。
それはアスカ達も見えた光景で、木どころか花や地面さえも自らの意思で動いていた。
「どういう事!?何コイツら!何この森!道なんて最初からなかったんだ…!!」
「意図的に迷子にされていたってことか…最悪だ…戻れないじゃん…」
地面にも、花にも、木にも、顔があった。
アスカは一瞬モリアと戦った時のことを思い出す。
あの時も影を入れられた木や動物達は人間のように過ごしていた。
今回もそうなのかと疑っていると―――ナミの悲鳴が聞こえ、アスカはハッと我に返る。
「ようやく気付いたかい?この森の怖さに…ここは"誘惑の森"さ!」
そちらに視線を向ければ、ルフィが後ろからナミを抱きしめているのが見えた。
しかし、すぐに相手がルフィではないことに気づく。
それは、声だ。
姿はルフィなのに、その口から出される声は女性の声だった。
「お前誰だ!」
アスカはナミを羽交い絞めする偽ルフィに『ラビット爆弾』を後ろから仕掛けようと思ったが、手を止めた。
今のラビット爆弾の威力なら、捕まっているナミも食らいかねないからだ。
チョッパーの問いに偽ルフィは笑いながらその姿を変える。
「誰だって?ずっと一緒にいたじゃないか」
ルフィに扮していたその女性は背が高く、鼻が長く、まさに魔女のような風貌だった。
女はブリュレと名乗った。
見上げるほど長身のブリュレは腕の中で暴れるナミに、グッと拘束の力を強くする。
「ねー見て…アタシの顔の傷…!ひどいでしょ?カワイイウサギさんにカワイイ女の子達…いいわね…そんな美しい顔見るとアタシ…切り裂きたくなるのよね!!」
ブリュレの顔には大きな傷跡が残っており、ひどいとはその傷跡の事を指しているのだろう。
だが、アスカには傷跡がなんだと思う。
不幸自慢ではないがアスカの背中には消えない烙印が押されている。
「ナミ!!」
顔を抑えられ危機を感じたナミから悲鳴が上がった。
ブリュレの爪がナミの顔の皮膚に食い込んで痛みで声を上げてしまう。
その声にアスカが飛び掛かってナミを助けようとした。
しかし、その時―――
「フニャァ〜〜〜ッ!!!」
「―――!?」
アスカの視界が一瞬にして暗闇に包まれてしまう。
口や鼻も塞がっているように息もしずらく、しかし、暖かさを感じた。
飛び掛かろうとしたアスカは、前方から何者かの攻撃を受け、受け身をするにもできずそのまま後ろへと倒れてしまう。
「ミネット!?」
チョッパー達の驚く声が聞こえる中、聞き慣れない声…ブリュレの驚く声が聞こえる。
聞いたことのない名前を叫ぶ彼女にアスカは顔を覆うソレに触れて何となくソレの正体に気づく。
ミイミイ鳴くそれを剥がそうと首根っこ掴むが、ピッタリくっ付いて離れない。
爪を立てないようしているのにどうやって吸盤のようにくっ付いているのか不明だが、何が何でも離すものかという意思を感じた。
「ミネット!あんたどうしてこんなところに!?もしかしてパパがいるのかい!?」
ブリュレは辺りを見渡す。
ナミは突然のソレの登場に驚いたものの、顔を掴むブリュレの力が弱まったのに気づいて脱出した。
ナミを逃がしたことに気づいたブリュレは走って仲間の元へと向かうナミに手を伸ばすが、キャロットに邪魔されてしまった。
しかし、キャロットの"エレ爪"はブリュレの悪魔の実であるミラミラの実で弾かれてしまった。
ブリュレはソレの登場にナミ達侵入者どころではなくなってしまう。
「アスカ!大丈夫!?」
「ナ、ナミ…剥がしてこれ…息しずらい…」
「わ、分かったわ…ちょっと待っててね…」
アスカも参戦したいが、ソレが視界を塞いでしまっているので立つのもできない。
動物系の実を食べているので多少は動物の勘で対処できるのだが、流石に命のかかっている戦いで視界を塞がれては逆にキャロット達の足手まといとなる。
とりあえずずっと倒れているのもチョッパー達に悪いので、体を起こす。
しかし、肌を刺すような殺気は感じても視界は真っ黒なアスカは何もできず、ただその場に座り込むだけ。
駆け寄ってくれたナミに顔のソレを指さして剥がすのを手伝ってもらおうとし、ナミも頷てソレを掴んでアスカの顔から剥がそうとしてくれた。
しかし―――
「フニャーーーーッッ!!!」
「い、痛い痛い痛い!!爪!!爪食い込んでる!!!」
「えっ!ご、ごめん!」
今まで爪を立てずに吸盤のようにくっ付いていたのに、ナミに剥がされそうになったと気づいたソレは爪を立てて抵抗した。
流石に痛すぎて悲鳴を上げるアスカにナミは慌てて手を離した。
妹のように可愛がっているアスカにくっつくソレに、ナミはムッとさせながら飼い主であろうブリュレに振り向き苦情を言った。
「ちょっと!!あんたこの子の飼い主でしょ!!とっとと回収しなさいよ!アスカの可愛い顔に傷がつくでしょ!!」
「う、煩いよ!確かにミネットは元々ママが奪ってまで欲しがっていた猫だけどね!今はパパの飼い猫さ!!パパにしか懐かない子だからアタシ達の言う事なんか聞きやしないよ!」
猫。
そう、アスカの顔にくっ付いているのは猫である。
アスカはその猫の姿は(近すぎて)見れないが、その猫はゴロゴロ喉を鳴らしながらアスカの顔に腹をくっつけるように抱きついている。
「じゃあその『パパ』を呼んできなさいよ!!文句言ってアスカの可愛い顔に傷をつけた賠償金をふんだくってやるんだから!!」
「さっきからアタシも探してるんだけどね、パパの姿がないんだよ!!ミネットはパパの傍から絶対に離れないからパパもここにいると思ってたん…―――」
どんな状況でもお金をふんだくろうとするナミに、猫を顔にくっ付けながら『流石ナミ』と明後日の方向へと感想を述べる。
ナミに言われるまでもなく、ブリュレは辺りを見渡して義父を探したが気配すらない。
元々、義父は家族の中でも実力者なので自分が気配を探ってもあちらが気配を消しているなら探し当てるのは無理だ。
ブリュレは辺りを見渡していたが、はたと口を閉ざした。
そしてゆっくり驚いたような表情でアスカを見た。
「あんた…もしかしてフレイルかい?」
そう問うブリュレに答える者はいなかった。
あえて答えなかったのではなく、答えられなかった。
何のことか分からなかったのだ。
フレイル、という言葉に既視感を感じたナミ達は怪訝とした目でブリュレを見たが、はたと思い出す。
そして、全員がアスカを見た。
顔に猫が張り付き視界を塞がれても、全員が自分を見ている気配は感じ取った。
アスカは猫が張り付かせながら眉を顰めた。
「いや…違うけど」
『フレイル』、とは『神の子』と言われる種族のことだ。
しかし、アスカは正真正銘『人間』という種族から生まれた。
幼かったが、兄からも自分達が『フレイル』だと言われたことはなかった。
否定するが、ブリュレからは信じられなかった。
「いや!ミネットがパパ以外に懐く理由がそれ以外にありえない!!ウィーウィウィウィ!!なんてことだい!!まさかパパ以外のフレイルがママの元に現れるだなんて!!!やっぱり海賊王になるのはママなんだねェ!!!―――さァ!こっちにおいで!!」
アスカに向けて手を伸ばすブリュレに、ナミ達がアスカを庇うように前に出る。
連れて行こうとするのを阻まれたブリュレは忌々しそうにナミ達を睨む。
「邪魔をするんじゃないよ!!そこをお退き!」
「アスカは渡さない!」
「そうだ!アスカはフレイルじゃない!!勝手に勘違いして俺達の仲間に手を出すな!!!」
「女神さまは渡さないんだから!!」
「ヒヨッコ海賊のくせになんて強欲な…!そのフレイルをお渡し!フレイルはお前達みたいなヒヨッコじゃ手に余る存在だ!パパも!そのフレイルも!ママこそ相応しい!!!」
ヒヨッコと見下すのも、アスカを奪おうとするのも、ナミ達は許せなかった。
当人であるはずのアスカといえば、視界が塞がっているため会話で自分を巡って争いが起きているのは分かるが何が何だか分からず下手に動けない状況だった。
先に動いたのはキャロットだった。
しかし――
「鏡なんか割ってやる!!」
攻撃は鏡で跳ね返されてしまう。
なら、その鏡を割ればいい。
そう思い先手を打ったが――
「"ミロワールド"!」
キャロットが鏡に吸い込まれてしまった。
しかも叩いてもキャロットが鏡の向こう側から出る気配はない。
キャロットが鏡の中に入ったのを見てナミ達は唖然とする。
「まず1人―――さァ…そのフレイルを渡してもらうよ」
アスカはナミ達が息を呑むのを感じた。
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