ナミとアスカは逃げた。
アスカは顔を猫で覆われてしまっているため、ブレスレットに扮していたシュラハテンが運んでくれた。
チョッパーが庇ってくれたので、逃げる事ができたが内心、仕方ないとはいえチョッパーとキャロットを置いて逃げてしまった事には罪悪感を感じていた。
ルフィと合流したが、結局、どれだけ逃げ惑っても目印にしかならない埋まっている男の下に戻ってしまう。
男曰く、森の異変はビッグ・マムの能力らしい。
この国、トットランドの住人は半年に一度、1ヶ月分の"
魂"を支払い、その代わりにこの国は住人の安全を約束している。
魂とは、寿命のことである。
ビック・マムはソルソルの実という、あらゆる生物の魂を操ることができる悪魔の実であり、住人の魂を集めているのもその悪魔の実が関係している。
その住人の寿命を使用してこの森の木や花や地面のように動き離すことが出来る生物になる。
それを『ホーミーズ』と呼ばれるものである。
ショコラタウンでも様々な生き物が生活していたが、その正体にナミはゾッとさせる。
笑顔で話していたりすれ違っていた存在の中にビッグ・マムに支払われた人間の魂だと思うと恐ろしい能力である。
「ふぬぬぬぬ〜〜!ネコこの野郎!!いい加減アスカから離れろ〜〜!!!」
「ブニ゙ャ゙ァ゙ァ゙〜〜!!!」
「いだだだだッ!痛い痛い!痛いってば!!!爪!爪立ててるから!!ナミー!ナミ!!助けて!!!ナミー!!」
「コラァ!!何やってんのよルフィ!!!これ以上アスカの可愛い顔に傷を作るなァ!!!」
埋まっている男と話していたナミだったが、アスカの悲鳴を聞きナミは拳をルフィの頭に振り下ろした。
ゴン、と音を立ててゴム人間であるはずのルフィは、覇気も纏っていないナミの過保護の拳に負けた。
立派なタンコブを作りながらルフィは痛みで出た涙で目を濡らしながらアスカの顔にくっ付く猫を指さす。
「だってよナミ!!こいつずっとアスカにくっついたままなんだぞ!!!腹立たねえのかよ!」
「腹立つわよ!でも離れないんだから仕方ないでしょ!!」
アスカの顔にくっ付いている猫は灰色の普通の猫だったが、アスカの顔に意地でもくっついている。
力のあるルフィが剥がそうとしても爪を立てて剥がれず、爪を立てられるとアスカが痛みに悲鳴を上げるので仕方なくそのまま放置していた。
しかし、嫉妬深いルフィには許せないらしくナミに殴られたのを忘れたように再びアスカの顔から剥がそうと猫に手を伸ばす。
それをアスカの椅子となっているシュラハテンが尻尾でルフィを抑え阻まれてしまう。
諦めが悪いルフィに呆れながらナミは話を戻し、傍で騒ぐ『ソレ』を指さす。
「ねえ、あいつらもホーミーズってやつなの?」
ソレ、は大量のナミやチョッパーやキャロット、プリン、サンジ達だ。
どういう原理か分からないが、ナミは自分どころか仲間達が大量に現れて驚いていた。
逃げていた時にルフィに大量にコピーされたようなサンジ達ごと捕縛されてしまった。
おかげでルフィと合流できたが、先ほどの説明から考えれば自分達をコピーした存在もビッグ・マムの能力で生命を得たホーミーズだと思った。
だが、男は首を振る。
「あれはまた別の話…ブリュレの能力で人の姿に変身させられたただの動物よね」
自分達の分身のようなそれは、ビッグ・マムの能力ではなく、ブリュレのミラミラの実でナミ達の姿に変えられた動物達だった。
教えてくれた男にルフィは掴みかかる。
「なんで言わなかった!お前さっきからずっと見てて――」
「関わりたくないのよね!何も!!」
知っていて教えなかった男にルフィは声を荒げる。
目の前を塞がれているアスカでも分かるほどの怒りを込められたルフィの言葉を、男は更に大きな声で遮った。
「関わりたくないのに何でここに埋まってんの!?」
ナミの言葉に男は黙り込む。
関わりたくないという言葉が、どこに、誰に、向けられているのか分からないが、関わりたくないのならここに埋まっている理由が分からない。
自分達に関わりたくないのなら、そもそも何も言わないだろうし、ビッグ・マムの能力も教えないはず。
「なんでだ!お前何者だ!!言え!ジュースやるから!!」
出会った時からずっとジュースが飲みたい、ジュースを持ってきてくれと言っていた男に、何者かを問う代わりに答えたら望み通りの物を与えると条件を付ける。
しばらく黙り込んだ男だったが、ジュースの魅惑に負けたのか、それとも黙秘は有効ではないと思ったのか渋々口を開ける。
「…ウヌはずいぶん昔…"ビッグ・マム"こと海賊シャーロット・リンリンの夫だった…でも娘が二人生まれてウヌはすぐに捨てられたのよねー」
男の言葉にアスカ達全員が耳を疑い驚く。
『えェ〜〜!?』と誰もが驚く中、娘を生まれた途端に捨てられ、その上に埋まっているのに標的にされていないのはただ単純に相手にされていないだけだと軽く言う。
吹っ切れたのかは分からないが、捨てられ誰にも相手にされていないことを軽く言ってのける男にアスカはつい同情してしまう。
しかし―――
「おい…正気か、キサマ」
後ろから現れた人物に男は髪を掴まれ引っこ抜かれた。
話に夢中で気づかなかったが、後ろから現れたのは話題となっていたビッグ・マムの息子の一人、10男のシャーロット・クラッカーだった。
アスカは前が見えないので声で敵が現れたことを知り、そして、ルフィ達の声で目の前の埋まっていた男が巨人ではないことを知った。
埋まっていたため勝手に巨人だと思い込んでいたが、顔が大きいだけのただの人間だった。
「敵にペラペラと情報を与えおって!愚か者!」
「ま、待ってくれクラッカー君!シフォンに一目会わせてくれ!!結婚したと聞いたんだ!『おめでとう』と一言いいたい!!」
捨てられたにしては国内にいることに疑問に思ったが、どうやら娘が結婚したためこの国に訪れたらしい。
しかし、すでに男はビッグ・マムに捨てられた夫である。
そう簡単に会わせるわけがなく、クラッカーは相手にしなかった。
「"ローラ"も家出したと聞いた…!ウヌにはかけがえのない家族なのよ!」
「ローラ!?」
聞き慣れた名前にナミだけではなく、アスカも反応した。
ローラという名前には聞き覚えがある。
七武海の一人であるモリアに影を取られた1人がローラだった。
ローラの影はイノシシのゾンビに入れられ、アスカとナミはその際知り合い親しくなった。
ローラのビブルカードを一部貰ったのを思い出す。
「アスカ!ローラって…」
「うん…多分、そうだと思う…」
ぐぐぐ、と猫を剥がそうと必死になりつつも、ナミの問いにアスカは頷いた。
ナミと同じことを思っているのなら、そうなのだろう。
「ローラのママが"ビッグ・マム"なら…この人が…ローラのお父さん!?」
先ほど、男はローラの名前を言った。
言葉からしてローラの父親だろう。
アスカ達の口からローラの名が出たのを聞き、男…ローラの父であるパウンドもアスカ達と同じく驚いて2人を見た。
≪気をつけよ!先ほどのウサギが再び向かってきておるぞ!≫
衝撃が続くなか、アスカを乗せているシュラハテンが叫ぶ。
その声にルフィも気づき、グッと拳を握り締め立ち向かおうとした。
その時―――
「止まれランドルフ!!!」
クラッカーの怒号にも似た声にランドルフと呼ばれたウサギはルフィ達から逸れ地面に激突した。
たったそれだけ。
たったそれだけなのに、周囲にいたホーミーズ達は枯れていく。
しかし覇気は感じられず、クラッカーへの恐怖で枯れたのだ。
「な、なぜこの森に『3将星』が…!」
「来てはならんのか!?おれが!!」
ホーミーズ達の態度から、偉い立場の男らしいことが伺える。
ルフィを襲おうとしたランドルフを止めたのは、ルフィ達を庇ったのではなく、横やりを入れられそうになったことが癇に障ったからだった。
「あいつ偉いのかしら…」
「強ェのは確かだ」
ランドルフ達が焦る姿を見たナミの言葉に誰も答えることはできない。
だが、ルフィはそう断言した。
アスカは視界が塞がれて状況が把握できていないが、ルフィが強いと判断したのならそうなのだろう。
「兄さん!なんでここ!?」
ギロリと睨むとホーミーズ達が怯え、クラッカーは興味を失くしたように鼻を鳴らす。
すると、周囲の木々とは比べられないほどの大樹のホーミーズと共にブリュレが現れ、兄の姿に驚いた声を上げた。
「"麦わらのルフィ"はドフラミンゴを破った男だ…ブリュレじゃ手こずるだろうとおれをよこした」
「失礼な!別にやれと言われりゃすぐ殺るよォ!」
妹の言葉に『そうか』とだけ答えたクラッカーは静かに―――アスカへと視線を流す。
クラッカーが主人を見たのに気づき、シュラハテンは警戒を高めたが、クラッカーはシュラハテンには興味がないように気にもしていない。
「それで―――なぜミネットがいる?義父さんは今ママといるぞ」
静かな声だったが、圧を感じた。
視界が覆われているアスカでもそれは感じるほどだった。
動けないアスカの代わりになってくれているシュラハテンの体がギシリと唸ったのを感じた。
「こいつは『フレイル』だよ兄さん!!ミネットが懐いているんだから確かだ!!」
「確かにミネットが懐いているのならそうだが…ならママの元へ連れて行く必要があるな」
その言葉に、ルフィ達の空気がピリッと殺気立つ。
それは勿論気づいているが、ルフィ達を格下だと思っているため気にもしていない。
真っ直ぐアスカを射抜くように見つめ狙いを定めるクラッカーの視線から守る様に、シュラハテンがアスカを後ろへ隠し自身の体を前に出す。
大蛇であるシュラハテンが威嚇音を出してもクラッカーは動じない。
「アスカがフレイル…?何を言ってるんだお前!アスカはフレイルじゃねェぞ!!」
ナミはブリュレからフレイルだと聞いていたが、ルフィはまだ聞いていない。
フレイルの件をナミは話す機会を逃してしまったからだ。
それに、ナミもアスカも、ブリュレが言ったアスカがフレイルだという言葉を信じていない。
だから積極的に話題にしなかった。
「お前ら何も知らずに海賊王になると抜かしてたのか?とんだ愚か者だな」
ルフィの言葉にブリュレもクラッカーもバカにしたような笑いをルフィに向けた。
それにムッとさせるルフィとナミに鼻で嗤いながら、情報弱者であるルフィ達に教えてやる。
「その顔に張り付いている猫は普通の猫じゃねェ…ガスールという島でしか生まれない猫だ…ガスール島はフレイルしか住むことが許されない幻の島だ…ガスール島の生物はフレイルにしか懐かない…その猫が懐いているということはそいつがフレイルだということだ」
一見、アスカの顔に張り付いている猫は普通の猫にしか見えない。
だが、その猫はガスールというフレイルしか住むことができない島で生まれた猫だ。
ガスール島の生物だけがフレイルを見分けることができる。
クラッカーの説明を聞いても納得できるわけがなかった。
そもそも疑問ばかりが浮かぶ。
なぜ、幻と呼ばれる島の猫がここにいて、どうやってその猫をガスールの生物だと気づいたのか。
そもそも幻の島が本当にあるのかも疑わしい。
ネコマムシとイヌアラシを疑う理由がないため、フレイルという存在が海賊王のキーになるのは本当なのだろう。
だが、そのフレイルだけを見分けることが出来るという生物には眉唾物にしか聞こえない。
「お前らじゃフレイルは手に余る存在だろ…仲間だなんだと綺麗事はいいからさっさとそのフレイルを大人しく渡せ…大人しく渡してくれれば苦しませず殺してやる」
フレイルの存在は政府だけではなく、ビッグ・マムなどの実力者で本気で海賊王を目指している者なら得ている情報だ。
だからどの海賊も目の色を変えてフレイルを探している。
ビッグ・マムにはすでにフレイルが一人いるが、フレイルはいくらいてもいい。
それに、フレイルの独占はライバルの手にフレイルが渡るのを阻止する意味もある。
アスカに手を差しだすクラッカーにシュラハテンが警戒を高め、そしてシュラハテンとアスカの前にルフィが庇うように立つ。
「アスカがフレイルだろうがなんだろうが…そんなこと関係ねェ…アスカはおれ達の仲間だ!!海賊が簡単に仲間を渡すわけがねェ!」
当然、ルフィは断る。
アスカがフレイルだとか関係ない。
アスカだけではない。
アスカも、ナミも、他の仲間達も。
例え彼らが何者であろうとルフィは仲間達をそう簡単に渡すことなどするはずがない。
ルフィが仲間思いなのは知っているが、言葉にし、庇ってくれる姿を気配でも感じ取ったアスカは胸が熱くなった。
「そうか…なら、海賊らしく奪うとしよう!」
無謀にも目の前に立ち塞がるルフィを凍えるような冷めた目で見下ろしながら、クラッカーは刃をルフィに向けた。
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