ホールケーキアイランドにあるビッグ・マムが拠点としている城。
そこには続々とシャーロット家が集まり始めていた。
明日にはヴィンスモーク家とシャーロット家の結婚式が始まるためである。
城の外は賑わっており、その中に一人だけ、フードを被った人物が紛れていた。
フード姿のその人物にビッグ・マムの子供である19男のモンドール、18女のガレット、5男のオペラが気づき声をかける。
「パパ?どうしてここに?もうすぐヴィンスモーク家との会食が始まる時間じゃないの?」
「そうなんだけどね…ミネットがいなくなってしまって探しているんだ」
フードの男、義父は、ビッグ・マムの夫としてプリンの結婚相手の家族との会食に同席することになっている。
それは、ビッグ・マムの夫となった13年前からビッグ・マム本人から同席するよう命じられている。
そのため、義父がまだ城から出てこんな所にいることに心配していた。
しかし、義父の言葉に三人は驚いた表情を浮かべる。
ミネットと言えば、義父にしか懐かない猫だ。
しかし、猫は猫でも母が奪ってでも欲しがったフレイルを見分けることが出来る特別な猫だ。
普段は義父の傍を離れず、母であるビッグ・マムですら触れることを許さないほど気難しい。
そんな義父にベッタリな猫が傍からいなくなるなんて一度としてなかった。
「ミネットがいなくなったなんてママに知られたら大変だ!」
「義父さん!おれ達が探すから義父さんはママのところに!」
ミネットは母が威嚇され牙や爪を向けられても激怒せず殺さず捨てもされない母から危害を加えられない唯一の猫だ。
そのミネットがいなくなったことは由々しき事態だが、今、最優先すべきなのはヴィンスモーク家との会食だ。
幸いにも懐かないだけで捕まえられないわけではない。
フレイルを見分けることが出来る猫なだけで、ミネットは普通の猫だ。
エサで釣れば捕まえることはできる。
「そうかい?なら、三人ともミネットを頼むね」
母は義父に対して執着的な愛情を向けている。
自分達の父でさえ子供を産んだら捨てるのに、"子供を望めない"男だというのに母リンリンは義父に熱を上げている。
最初こそ男を種としか見ていない母が傍を離さないのを見て驚いたが、子供達はすでに受け入れている。
だからモンドール達は猫よりも母を優先させようとする。
不機嫌となった母の八つ当たりは子供である自分達を含んだ周囲に向けられるのだ。
それは義父も分かっているため、義理の息子達の言葉に甘えて愛猫を頼み妻の下へと向かおうとした。
その時―――ホールケーキ城に何かが飛んでぶつかった。
煙を上げながら壁から落ちたそれに駆け寄ればモンドール達の顔は青ざめた。
「ウソだろ!?ウチの『3将星』だぞ!!」
義父も駆け寄って見れば、能力を解いたクラッカーが倒れていた。
その姿はボロボロで、珍しい義理の息子の敗北の姿に義父は思い出す。
(ああ、そういえば麦わらのルフィが来たとか言っていたっけ)
管理長の仕事をしている際に、チラっと聞いた話を思い出す。
子供達に気を付けるよう言われたし、妻のリンリンにも見かけたら殺しておけと言われた。
とはいえ、彼らが自分に期待しているのではなく『一応言う義務があるだけ』だ。
子供達はどうであれ、妻のリンリンはあまり夫が表に出ることにいい顔はしない。
それはやっと長い間想い続けていた夫を手に入れたというのに自分の傍から離れることを恐れているからだ。
(申し訳ない気持ちがないわけではないけれど…こればっかりはね…)
こればかりはビッグ・マム本人だけがビッグ・マム自身を安心させられるものだ。
執着を向けられている夫である自分がどうやったって彼女を心から安心させることは不可能だ。
愛や恋は様々な形があるが、ビッグ・マムが自分に向けている感情は複雑で簡単なものではない。
そうでなければ30年以上も1人の男に向ける恋心を貫いていないだろう。
「緊急警報を―――」
「待って、ぼくが行こう」
「え!?」
「パ、パパが!?」
3将星の1人であるクラッカーが倒された事実は疑い深いが、事実目の前で兄は倒れている。
緊急警報を出し、住人を非難させ、あとは母に報告ししかるべき対処を行おうとした時、ビッグ・マムの子供達は義父の言葉にぎょっとさせる。
義父を見れば、すでにやる気のようでモンドール達に背を向けて歩いていた。
その背中をモンドール達は慌てて青い顔を更に青くさせて追いかける。
「ま、待ってくれ!義父さん!!あんたにはヴィンスモーク家との会食があるだろ!?」
「そ、そうファ!!ママが義父さんを待ってる!!あんたが同席しないとママの機嫌が悪くなるファ!!!」
「大丈夫…この海賊団はぼくが入る前も名を轟かせていたし、ぼくがいなくてもヴィンスモーク家に舐められないでしょ」
「パ、パパ!そういう事を言ってるんじゃないの!」
母がどれだけこの義父に熱を上げて夢中になっているのか知っている子供たちは義父の勝手な行動に慌てた。
義父が負けるなど考えてはいないが、それを知った母が恐ろしいのだ。
それを許した(止める事ができなかった)自分達も何言われるか分からず、たまったものではない。
寿命を取られはしないだろうが、最悪半殺しになりかねない。
それほど母はこの男を愛している。
しかし、母同様にこの義父も穏やかに見えて話を聞かない人種である。
「プリンの大事な結婚なんだぞ!?ママの旦那のあんたが会食にいないんじゃヴィンスモーク家に自分達はビッグ・マム海賊団に舐められたんだって思われて破談になるかもしれないだろ!!」
モスカートは義父の前に出て必死に止める。
必死に義父を引き留める言葉を駆使してやっと義父の足は止まった。
ヴィンスモーク家を重要視しているわけではない。
義父が同席しないから面目丸潰れだというわけではない。
ビッグ・マムの夫である義父は表に出ることを母が許していないので義父が同席しようと欠席しようと結婚の繋がりは変わらない。
なのに、これだけ義父を引き留めるのはただただ母が恐ろしいだけだ。
母のこの男への独占欲はかつて母の恩人であるシスターと同等だと断言できるくらい強い。
その為、立ち止まってくれた義父に三人は分かってくれたと安堵の息をつく。
だが、流石30年以上も母の激重感情を拒み続けた男である…想像の斜め上をいっていた。
「リンリン?すまないけれど会食に遅れるかもしれない」
三人が『義父さーーーーん!!』と心の底から叫んだ。
義父は携帯用の電伝虫で城にいる妻に連絡を取り、事情を説明した。
当然、クラッカーが倒された+夫が妻ではなくルーキーを優先することに癇に障ったビッグ・マムから『あ゙?』と凄んだ声が零れ、子供達の間に緊張が走る。
そんな子供達を他所に、義父は呑気な声で返した。
「クラッカーくんを倒したのは十中八九麦わらのルフィ達だろう…ぼくはクラッカーくんの義父として彼にお灸をすえなきゃいけないだろう?だから、会食は遅れるか、もしかしたらいけないかもしれない」
『ごめんね』と言って妻の回答も聞かず一方的に電伝虫を切った。
当然、折り返しですぐに電伝虫が鳴ったが、義父は電伝虫を『仕舞いこんだ』。
『これでいいだろう?』と義父は子供達に振り返ったが、彼らはまさに絶句していた。
立ち尽くして反応を示さないのをいいことに、義父は『じゃあ、行ってくるね』と言って1人その場を去って行った。
「……あの人…マジかよ…」
「おれもう知らねェファ…」
「……流石ママが本気で惚れた人ね…」
母がどれほど恐ろしいのか、子供の頃から知っている三人からしたら母の怒りを買うと分かっていてその選択を選ぶ義父の背を、信じられないような目で見送った。
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