(232 / 274) ラビットガール2 (232)

アスカはまだ顔から猫が剥がれないため見れないが、ナミの勝利を喜ぶ声に戦いの終わりを知ることができた。
そして、もう一つの問題である猫。


「やっぱり取れないわね…この子、猫じゃなくてタコなんじゃないかしら…」


キングバームに乗りながら、ナミはアスカの顔に張り続ける猫を再度取ろうとするが、結果は同じだった。
爪を立てられていると痛がる割には血が流れないので、猫も加減はしているのだろう。
そこまで気遣ってくれるなら剥がれてほしいものだとアスカは思うが、アスカ心知らずの猫はゴロゴロと甘え鳴きしてアスカに甘えている。


「ナミ、もういいよ…」

「そうは言っても剥がさないと食べ物どころか水だって口に入れることできないのよ…昨日からくっついているし…アスカだってお腹が減ったでしょう?」


昨日からついさきほどまで、ルフィはクラッカーと夜通し戦っていた。
ブリュレからのクラッカーとの連戦。
ブリュレならまだしも、クラッカーはルフィが感じた通り強敵だった。
クラッカーはビスビスの実のビスケット人間だった。
最初に見せた姿は、その能力で作ったビスケットの鎧だったらしい。
あの暴食王であるルフィさえも『もう食べれない』と言わせるほどの量のビスケットをクラッカーは量産させ窮地に追い込んだ。
そしてそんなルフィを更に追い込んだのはナミであることをここに記する。
視界を奪われて戦う姿が見えていなかったアスカでさえルフィの食欲は無限だと疑わないナミの鬼のような言葉に、アスカはルフィに同情したほどだ。
そのルフィは満腹を超えて夜通し胃にビスケットを入れていたからか、肥満体型に変わってしまい、今は眠っている。
肥満体型ではあるが、クラッカーを吹き飛ばした技である"ギア4"はエネルギーを使うため最初よりも体は縮んでいた。
ナミは黙り込むアスカに『ほら』と突っついた後、隠しているビッグ・マムのビブルカードを取り出す。


「でもまさかローラから貰ったこのビブルカードがビッグ・マムのだったなんて思わなかったわ!ラッキー!」

「ラッキーではないジュ!わしらホーミーズはママのビブルカードに絶対逆らえないのを分かってわしらをいいように使いおって…!」


ホーミーズは、元々住人の魂とはいえ、能力者はビッグ・マムである。
その為、ホーミーズはビッグ・マムに逆らえない。
それがビブルカードだとしても同じで、ローラから貰ったビブルカードがビッグ・マムの物だったため、ホーミーズ達はナミに逆らえなかったのだ。
ビッグ・マムのビブルカードを持つ者は、例えビッグ・マムの子供達でもビブルカードを持つ事を禁じられている。
それはビッグ・マムの夫も同じだ。
グチグチと文句を言うキングバームを無視しながらナミは猫剥がしを再開する。


「ねえ、お願いよ…アスカから離れてくれないかしら?」

「ミ゙ァ゙」

「うんうん、いやよね、そうよね…でもこのままじゃアスカは何も食べれないのよ…顔から離れてってだけでアスカから引き離さないって約束するから…ね?」


ルフィの腕力でさえも剥がれない猫の執念に、ナミはダメ元に説得をしようと優しく話しかける。
しかし意外と説得が有効だったのか、アスカと引き離さないという約束に猫が少しずつ力を抜くのを感じ、ナミは恐る恐るアスカから猫を剥がした。


「はあ…やっと剥がれた…」


やっと猫から解放され、アスカはまるで数か月もの間、猫が顔に張り付いているような気がして解放感にアスカはホッと息を吐く。
まだ一日も経っていないのに、吸う空気が新鮮でおいしい気がした。


「あら、ブサカワ猫ちゃん」


気づいたらアスカの顔に猫が張り付いていたため猫がどんな顔をしているのか分からなかったが、やっと猫の顔が拝めた。
手の中にいる猫を後ろから覗き込むと、所謂ブサイクな猫だった。
ナミの呟きにアスカも視線を猫の方へとやると、不機嫌そうなブサイク猫がいた。
エキゾチックショートヘアという種類の猫であるが、ナミの説得で自らの意思で離れたとはいえ不服なのかブサイクな顔が不機嫌なブサイク猫ちゃんに変わっていた。
アスカに向けてミィミィ鳴く猫に、ナミはそっと降ろすと真っ直ぐアスカに向かって歩み寄り座るアスカの膝の上に乗ってクルクル回りベストポジションを探し当てたのかリラックスしはじめた。
くぁ、と欠伸をした後、猫は丸まって眠りにつき始める。
それをアスカは困ったようにナミを見るが、可愛い猫ちゃんと可愛い可愛い妹のツーショットは姉にとって眼福であった。
ナミが助けてくれそうになく、猫も寝てしまったため、とりあえず放っておくことにした。
ナミは眠る猫の背中を撫でるアスカを見つめていると、ふとクラッカーやブリュレの言葉を思い出し、微笑ましそうにしていたその笑みを不安そうな表情へと変えた。


「あいつらが言ってたことって本当なのかしら…」

「なにが?」

「アスカがフレイルだってことよ…その猫が懐いたからフレイルだって言われても信じられないわ…」

「………」


ルフィが眠っているためナミとアスカの声は小さい。
ナミの言葉にアスカは黙り込んでしまう。
ブリュレにもそうだったが、アスカだって分からないのだから何も返す言葉がないのだ。


「イヌちゃん達にもっと聞いておいた方がよかったわね…」

「でもあの人達も知らない感じだったじゃん…フレイルの事だってフレイル本人に聞いたって言ってたし…そのフレイル本人だって政府に言われて自分がフレイルだって知ったって言ってたし…」


敵の言葉を鵜呑みにしたくはないが、その可能性がゼロというわけではないのも確かだ。
動物に好かれる人間は確かにいるが、ここまで好かれている人間も珍しい。
それにこれまでアスカと暮らしている中で顔に張りついて剥がれないほど動物が懐いた光景は見たことがない。


「……情報って…強いわね…」

「…うん」


ルフィやゾロ達のように実力があろうと、ナミの航海術やロビンの考古学の知識などの技術力も当然必要だろう。
だが、やはり情報を前にすると自分達の技術などちっぽけに変わってしまう。
今だってミラミラの実を持つ能力者がいると知らなかったから、チョッパーとキャロットが鏡に飲み込まれて別行動となっている。
不安しか残らない最後のやり取りだったが、鏡があれば再会できるのでそこは安心した。
ナミのどうしようもない壁を目の前にして力尽きたような呟きに、アスカもゆっくりと頷く。
いつもの様子ではあるが、膝の上に乗って眠る猫を撫でる姿がなんだか気落ちしているような気がしてそっと彼女の手の上に自分の手を重ねて触れる。
ナミに触れられ、アスカはナミの方へ顔を上げる。


「ナミ?」


ナミからは返事がなかったが、ナミが不安そうな表情を浮かべていた。
アスカもブリュレ達の言葉に不安に感じていたが、ナミの方が不安が強いのだと気づく。


「…大丈夫だよ…私は麦わらの海賊団のクルーなんだから…」

「……うん…」


ナミの不安は、アスカの不安でもある。
ナミはアスカが本当にフレイルだということを知るのが怖いのだ。
イヌアラシとネコマムシ曰く、フレイルとは海賊王となる鍵の1つだ。
巨大なポーネグリフですら争いの元になったのに、それが攫いやすい小柄の少女なんていつ誰がアスカを自分達から奪おうとするのか分からない。
それに、アスカは能力者だ。
それも、海に人一倍弱い体質を持っており、海楼石を付けられたら抵抗らしい抵抗どころか逃げ出す事だって不可能となる。
妹のように可愛がっているアスカが誰かに奪われるのが怖くて、ナミは不安に思い、そしてアスカもそれは同じだった。
奪われる心配というよりは、みんなから離される事への恐怖が強いのだろう。


「それに、もし連れて行かれたって助けに来てくれるんでしょ?頼りにしてるんだからね?」

「!――絶対!絶対助けにいくから!」


天竜人の奴隷だったと知られた時、ルフィ達はアスカを守ってくれると言ってくれた。
奪われたって奪い返してくれると言ってくれた。
心に傷を負ったアスカにとって、その言葉は嬉しかった。
ルフィ達が言葉で終わらせないのを分かっているから、アスカは昔よりも前向きに考えることができるようになったのだろう。
ナミはアスカの言葉に目を瞬かせたが、すぐに声を張り上げて頷いた。
ひと時の休息だったが、それもすぐに終わった。
キングバームがアスカ達に声をかけたのだ。


「おい娘達!お前達は運がいいぞ」

「え、何?」

「いたぞ…!『ジェルマ66』だ!」


その言葉に眠っていたルフィも目を覚ます。
起き上がり見てみれば、言葉通りサンジの姿が見えた。
この頃にはすでに体型が戻ったルフィが、嬉しさのあまりキングバームから降りてサンジの下へ駆け寄ろうとした。


「お〜い!サンジィ〜〜!!」


ルフィ達の登場に、誰もが驚いた表情を浮かべる。
ビッグ・マムの縄張りから抜けてここまで来るなど誰が思うだろうか。


「サンジくーん!良かった間に合って!もう会えないかと!!」


飛び降りたルフィと違い、ナミとアスカはキングバームに乗っており、その上からナミがルフィ同様嬉しそうにサンジとの再会に手を振っていた。
アスカも性格ではないが、サンジと再会できたことが嬉しくて手を振った。
女2人の姿に、イチジ達が目をハートにさせサンジの血を感じさせた。


「迎えに来たぞサンジ〜〜!」


キングバームから降りたルフィはそのままサンジ達が乗っている大きな猫が引く猫車へと飛び乗った。


「帰ろう!サンジ!『戻る』って手紙に書いてあったけど待つのイヤだし!」


ルフィはイチジ達など見向きもせず、サンジを真っ直ぐ捉える。
サンジは自分を迎えに来たルフィに言葉さえなかった。
脳裏には彼らと過ごした記憶がよぎる。
その記憶を消そうとぎゅっと目を瞑る。
そんなサンジの耳にはルフィの声や、護衛の声が入り混じって届いていた。


「ホントはおれ1人で来ようと思ったんだけど…まあ確かに1人じゃおれ―――」


護衛達がルフィに銃を向けているのを見て、アスカがウサギの能力を使い、護衛達を伸していく。
そのフォローもありルフィはサンジに話しかけることが出来たが…ルフィが突然降り飛んだ。


「サンジ!?」

「ちょっと!何してんの!?サンジ君!!」


扉ごと吹き飛んだルフィに驚いてビクリと肩を揺らしたが、サンジがルフィを蹴り飛ばしたのだと気づくとアスカとナミは驚きが隠せず思わず声を上げてしまう。
ナミとアスカの悲鳴など気にも留めず――


「帰れ…下級海賊共」


サンジは冷たい眼差しでルフィを見下ろした。

232 / 274
| top | back |
しおりを挟む