(3 / 10) その後 (3)

ミコトは今日、1人の女から1人の海兵と戻る。
ミコトの船には海軍には秘密にしてある電伝虫が変われている。
その電伝虫は対となる電伝虫で掛ければ盗聴されず、その電伝虫に対になる電伝虫で部下に連絡し移動できる能力の範囲内まで迎えに来てもらった。
アルダ達が来るまでの間、ミコトは1人浜辺に立っていた。


≪ミコトさまっ…到着しました≫


二回目の連絡だが、まだ涙があふれてしまうのか声を詰まらせていた。
それだけでも自分がどれだけ彼女達に心配をかけたのか分かる。
いつも支えてくれていた彼女達に罪悪感を感じた。
合図の言葉に、ミコトは振り返り――


「―――」


声には出来ない別れの言葉を彼に向けた。



◇◇◇◇◇◇◇



海軍本部は戦争で崩壊し、新世界に腰を下ろした。
海軍本部に戻ることはできたが、そこはすでにミコトの知る場所はなくなっていた。


「こ…っ!黒蝶さん!?」


ミコトがコツコツとヒールを鳴らして廊下を歩けば、傍にいる海兵達が毎回驚きの表情を浮かべ、慌てて敬礼をした。
ミコトは1年もその姿を表には出ていなかったため、無理もないだろう。
分かってはいるが彼らが毎回自分の姿を見て驚くので、ミコトは思わず愉快そうに笑みを零した。


「そこにいるのは…ミコトちゃんじゃないかい?」


目的の部屋へと向かっていると、後ろから懐かしい声に引き留められた。
振り返れば、そこには黄猿であるボルサリーノがおり、懐かしい姿の同僚にミコトは『あら、お猿さん』と笑みを向けた。


「やっぱりミコトちゃんだったんだねェ…1年振りだねェ…」

「ええ、お久しぶりですわ…――本日付を持ちまして黒蝶、モンキー・D・ミコトは任務より帰還いたしました!」

「そう、お帰り〜」

「はい、ただいまです」


いつものように任務から帰って来たと言わんばかりのミコトに、ボルサリーノは懐かしそうにサングラスの奥で目を細めた。
お互い1年ぶりの再会というしんみりとした空気もなく、なんとも素っ気無い。
ミコトの『任務からの帰還ゴッコ』に付き合うように手を軽く振る。
そんなボルサリーノにミコトはおかしそうにクスクスと笑い、楽しそうに笑うミコトにボルサリーノは彼女の髪に触れた。


「髪、切ったんだねェ…似合っていたのに勿体ない」

「あら、短い髪は似合っていないのかしら?」

「いいや、可愛いよ」


ミコトの髪は、再会する今日まで長かった記憶がある。
長くて、手入れされている美しく、少しばかり癖毛が入った黒髪。
それが、肩まで短く切られている。
見た目や様子は変わらないのに、髪型だけは変わってしまった。
いや、恰好も変わった。


「その姿も似合っているねェ」


2年前のミコトは大胆に胸元が開いて肌を見せるスーツに短いスリットの入ったタイトスカートだった。
だが、今は胸元は変わらず開けてはいるが中はキャミソールを着て肌を隠しており、スカートからパンツ姿に変わっていた。
褒められたミコトは嬉しそうにはにかみ、その表情がいつも作っているものと違って本当に嬉しそうにはにかむものだからつい無意識に頭を撫でてしまった。
ボルサリーノとの距離は遠くもなければ短くもない、『ただの同僚』という言葉が合う距離感だ。
クザンのように親しくもなければ、サカズキのように遠すぎてもいない。
だから、頭を撫でられたことも、頭を撫でたこともない。
だから両者驚いたように目を丸くしてお互いを見つめ合った。


「あー……ミコトちゃんはこれからサカズキのとこへ?」


お互い驚いた顔のまま固まったままだった。
ボルサリーノは気まずげに手を引っ込め、話題を変える。
ミコトもあえて触れず、ボルサリーノの問いに頷く。


「遅ればせながら新元帥にご挨拶を兼ねて帰還したことをご報告をと思いまして」

「クザンのことは…」

「知っておりますよ…海軍を辞めた事も」


ミコトとつかず離れずの関係とは言え、ボルサリーノもクザン関係の話題は慎重になってしまう。
それでも聞かざるを得ない。
クザンがあれだけ可愛がっている子を放ってはおけなかった。
何か言いたげだったが、ボルサリーノは結局何も言わず『そう』と呟くだけだった。


「では、もう行きますね…ワンちゃんをお待たせするのは悪いもの」

「そうだねェ…サカズキもミコトちゃんのこと心配してたから早く会ってやってあげた方がいいかもねェ」


ボルサリーノの言葉にミコトは『まあ』と口元を桃色の羽衣で隠しながら笑みを浮かべる。
そりが合わないサカズキがミコトを心配するわけがないとミコトも知っているし、それを前提にボルサリーノが言ったのも知っている。


「では心配性なワンちゃんのもとへ行かなくてはなりませんね」


ミコトはそう言いながら元帥の部屋へ向かう。
その姿をボルサリーノはただ無言で見送った。

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