(4 / 10) その後 (4)

元帥の部屋。
新しいその椅子にはセンゴクの跡を継いだサカズキが座っていた。
その部屋にはサカズキ以外には誰もおらず、静まり返っていた。
しかし――


「だーれだ」


黙々と仕事をしていると、突然後ろから手が現れサカズキの目を塞ぐ。
自分にこんなふざけた行為をするのは1人しか思い浮かばない。
サカズキは懐かしみや驚きよりも、聞きたくもない1年ぶりに聞く女の声にうんざりとさせた。


「…離れんか、女」

「あら、バレちゃいました」


ぱっと手を離し、女――ミコトはサカズキの前に姿を現し、誰も座っていない椅子に腰を下ろし足を組む。
上官を目の前にしてもそのふてぶてしくも図太い姿はまさしく気に入らない女である。
サカズキはまるで自宅のように寛ぐミコトに眉間にシワを寄せながら、無意識に片眉を上げた。
ミコトは1年前と何も変わっていない。
美しさも、サカズキにとって気に入らない態度も、何も。
ただ、ただ1つ…長く美しかった髪がバッサリと切られ短くなっていたのだ。
肩までしかないほどの髪の長さとなって帰って来たミコトにサカズキは何も言わずしても眉間にシワを寄せた。


「今までどこに行っとった」

「ひ・み・つ、ですわ」

「誰がおのれを助けた」

「ひ・み・つ、ですわ」

「……ふざけとんのか」

「あら、乙女は秘密が多い方が魅力的でございましょう?」

「……変わらんな、おのれは」


何故か髪を短くしたミコトが気に入らなかった。
特段、ミコト自身もその長い髪を気に入っていたわけではないが、なんとなく気に入らない。
それを悟られないようサカズキは行方不明だった事で機嫌を悪くしていると言わんばかりに声を低く呟く。
しかしミコトは唇に人差し指を立て小首を傾げるばかり。
これ以上聞いても同じように秘密にされるのは目に見えているので、聞くのがバカバカしくなり溜息をつく。


「まァ、おのれがどこにいたかなんてどがぁでもええ」

「あら、そっけないのですね」

「おのれが戻ってくればそれでいい」


サカズキの言葉に、ミコトは目を瞬かせた後、『まあ』と微笑む。
サカズキはミコトがどこにいて誰に助けられたのか、分からない。
だが、何となく察していた。
あの場所で、あの戦場で、海軍以外の人間がミコトを救出し匿うことができたのは――赤髪のシャンクスのみ。
三大将やミコトと深い関りを持つセンゴク達は、世界政府からミコトの居場所について聞かれたが、全員『知らない』や『ミコトから連絡は来ていない』の一点張りだった。
当然、それは事実である。
恐らく全員が同じ人間の姿を思い浮かべていただろうが、全員が知らないと報告した。
それに関してはサカズキは自分自身に驚いていた。
サカズキにとってミコトはただの『女』であり、ただの『同僚』であり、警戒すべき人物にしかないはずだった。
気が合わない、というのもあるが、ミコトの海賊贔屓とモンキー家を感じさせる性格が反りが合わない原因だろう。
ただ、サカズキはミコト自身は気に入らないが、ミコトの実力は買っていた。
ミコトを庇う義理も親密さもないというのに、サカズキは本部に『連絡なし』と報告していた。
何故かなどサカズキ本人も分からない。


「そういえば、まだ言っておりませんでしたわね」

「あ?」

「元帥就任、おめでとうございます」


一年もの間、軍に一言も連絡を入れなかった割には態度の大きさに、サカズキは前元帥のセンゴク時代でもこんなにもふんぞり返っていたのだろうかと呆れてしまう。
サカズキとしてはミコトの態度を注意すべきだと思うが、ミコトが言って聞くような人間ではないのを知っているため何も言わずもう一度溜息をつき、相手にするのも馬鹿馬鹿しくなって書きかけの書類に意識を向ける。
特別反応のないサカズキに目を細めながら、ミコトは祝いの言葉をサカズキに送る。


「おのれに言われると嫌味に聞こえてならんわ」


サカズキは動かしていた手を止めゆっくりと顔を上げる。
ミコトへ向けたその表情はとてつもなく嫌そうでミコトは予想していた反応と嫌味にコロコロと笑った。
部屋にはミコトの愉快そうな声が響くも、ミコトの声のみで他の声がミコトの耳に届く事はなかった。
それが堪らず寂しいとミコトは思う。
センゴクの時ならばセンゴクや祖父がいたから寂しいと思うことはなかった。
足を組み返しながら寂しさを誤魔化しているとサカズキが『そういやァ』と不意に呟く。
部屋を見渡していたミコトはサカズキの呟きに視線をサカズキへと戻すと、彼と目が合う。


「新しい大将が2人、就任したんじゃが…会ったか」

「いいえ、お会いしたのはお猿さんだけですわ」

「そうか…新しい大将は藤虎と緑牛じゃ…緑牛は任務に出ていないが、藤虎は本部におる…顔を見せるくらいせェ」


新しい大将…それも2人も埋まっているのにミコトは本当に驚いた。
新大将が決まったのだから、当然新聞に書かれていただろう。
だが、青雉VS赤犬の決闘と、青雉が海軍を去ったことが衝撃的だったせいか気付かなかったようだ。
ミコトはサカズキの素っ気無い口調も気にせず『新しい大将は藤虎さんと緑牛さんと仰るのね』と呑気に頬に手を当て、さも驚いたように呟いた。
わざとらしく驚くミコトにサカズキは眉間にシワを無意識に寄せ、『用件は済んだじゃろ…とっとと出て行け』と冷たくあしらう。
しかし…


「ねェ、ワンちゃん…お煎餅はどこにありまして?」

「…わしの話聞ィてたんか」

「あらやだ…お茶っ葉もありませんわ……ワンちゃんったら美味しいから全部食べてしまわれたの?ワンちゃんの食いしん坊!」

「なんでじゃ!わしは仕事部屋に煎餅もお茶も置かん主義じゃ!!」

「まあ!なんて枯れているのかしら!!仕事中に食べるお煎餅とお茶が美味しいとお爺様が仰っていたのですよ!ないならお爺様とおじ様セレクトのお煎餅やおかきを持ってきますわ!」

「いわんわ!!大体ここはわしの部屋じゃ!勝手におどれが食べる煎餅を持ってきて寛ごうとしんさんな!!!!用件が済んだのならとっとと出て行け!!」


ミコトはセンゴクが元帥だった時から任務が終わり暇があれば祖父やセンゴクとお茶をしていたため、煎餅やおかきとお茶を探すが、この部屋にそんなものは存在しなかった。
呆れたような目で見て来る女に、サカズキは堪忍袋の緒が切れ怒鳴りながら追い払う。
ぶーたれるミコトにサカズキは更に怒鳴りたい気持ちを抑え、もう諦めが入っているのか溜息を深く重くつく。


「…いいか、女……わしはお前を甘やかす気はさらさらない…センゴクさんとわしは違うと思え」


ミコト相手に律儀に相手をする方が悪い気がした。
外見は絶世の美女でモンキー家の血を感じなくても中身は立派に英雄ガープの血を受け継いでいるミコトの対応に疲れたサカズキは片手で目を覆いそう呟いた。
ミコトはムッとさせていた表情を一瞬きょとんとさせ…―――何も言わずただただ微笑んだだけだった。

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