ミコトは藤虎と別れ、時間も余ったため祖父とセンゴクの下へと向かった。
新聞でセンゴクと祖父は海軍を辞めた書かれていたが、2人は引き続き海軍で若い海兵達の育成の為留まっている。
元帥と中将の座を降りた2人には別の部屋が与えられ、ミコトはまず先に向かったのは祖父の部屋だった。
しかし祖父はその部屋にはおらず、丁度傍を通っていたボガードに会い再会に花を咲かせつつ祖父の居場所を聞く。
祖父はやはりセンゴクの所にいるらしく、ミコトは自然と速足にセンゴクの部屋へと向かう。
「………」
速足でセンゴクの部屋へ向かったのは良いが、ミコトはノックする寸前で手を止めてしまう。
本当なら本部に戻った際、真っ先に2人に会いたいと思ったが、まずは元帥に就任したサカズキに会いに行った方がいいだろうと考え2人を後回しにした。
しかし、いざ2人のいるであろう部屋の前に到着すれば、勇気が出なかった。
たかがノック、されどノック。
自分は五老星を警戒していたとはいえ、祖父やセンゴクにさえ1年も連絡をしなかった不肖の孫娘である。
らしくもない緊張で扉を叩こうとした手を寸前で止める。
だが、いつまで部屋の前にいても仕方ない。
この後仕事もあるため、時間は有限だ。
勇気を出してミコトはノックするが、その手は少し震えていた。
「誰だ」
部屋の主であるセンゴクの声にミコトの緊張は頂点に達した。
返事を返さない相手にセンゴクは再び怪訝そうに声をかけ、ミコトは返事を返さずドアノブに手をかけ、重い足を1歩踏み出した。
「―――っミコト!?」
まず、目が合ったのはセンゴクだった。
そして次にミコトに背を向けて座っていたセンゴクの向かい合わせに座るガープ。
2人共ミコトの姿を見て信じられないと言わんばかりに目を丸くさせていた。
まるで死んだ人が目の前に現れたのではないかと言わんばかりの驚きようにミコトは思わず笑みを零し、緊張が少し和らぐのを感じた。
まだ帰ってきて半日も経っていないため2人には情報が届いてないようだ。
センゴクとガープはミコトの姿に立ち上がり、ミコトはゆっくりと部屋に入り2人の前に立ち敬礼を見せた。
「お久しぶりです、お爺様、おじ様……モンキー・D・ミコト、只今を持ちまして黒蝶として復帰させていただきます」
ミコトはボルサリーノにしたように、長い間任務に出ていたように帰還したことを報告する。
ちゃんと足を揃え片腕を後ろで組み、もう片腕を挙げ手の平を見せる海兵としての敬礼をする。
ミコトの敬礼姿にセンゴクとガープは我に返った。
「ミコト…!お前…ッ!!」
「ミコト!どこにおったんじゃ!!――いや!それより…!よく帰って来てくれた…!!」
言いたい事は山ほどある。
しかし何よりも無事に自分達の所に帰って来てくれた事に2人は全てに感謝した。
ミコトはガープに手を引かれ祖父の席の隣に案内され、素直に腰を下ろした。
ミコトが座ると、センゴクは残していたミコト用の湯飲みにお茶を注ぎ、ガープは煎餅を追加する。
その光景はいつものやり取りだった。
前も任務から帰って来て元帥のもとに報告兼遊びに来た自分にセンゴクもガープも歓迎してくれて、2人はそれぞれ自分のお茶や煎餅を用意してくれる…それは1年経っても変わらなかった。
それがミコトにとって懐かしく、涙が出そうだったが、何とか我慢しお茶を置いてくれた前に座るセンゴクに『ありがとうございます』と微笑みお礼をする。
センゴクが淹れてくれたお茶は相変わらず美味しく、世界一ではないかと思うほどミコトはセンゴクの淹れたお茶が好きだった。
煎餅もそうだ。
市販で売っている何気ない煎餅だが祖父が出してくれる煎餅は美味しく、長期の任務の際祖父とセンゴクと食べて呑んできたお茶と煎餅が恋しくなった時立ち寄った島で同じ物を買ったことがあったが、やはり美味しいと思うが何かが足りないと思ってしまう。
祖父やセンゴクと共にこうして煎餅を食べて淹れてくれたお茶を飲みゆったりした部屋で過ごし、やっとミコトは帰ってこれた実感が湧いた。
「ミコト…怪我はないか?」
「はい、お爺様…もう怪我は能力で治しておりますので傷1つありませんわ」
「そうか…なら良かったが…その……」
「エースのことですか?」
「!――あ、ああ…大丈夫か、ミコト…」
隣に座る孫娘をガープは心配そうに見つめる。
何から話せばいいのか、ガープは分からなかった。
孫娘とは1年しか離れていないのに何年も会っていない離れているようで、何を言えばいいか分からなかった。
本当はもっと色々と話したい事があるのに。
だから最初は何気ない会話をしようと怪我の事を聞く。
怪我など見れば分かり、ミコトの能力に治癒があるのも知っているため聞かなくていい事だが、最後に見た孫娘の姿を今でも鮮明に覚えているガープはそれでも心配だった。
まだミコトの腹が血で濡れていくのをガープは思い出すことが出来る。
それはセンゴクも同じだった。
センゴクもガープも怪我がなく傷も残っていないと知りホッと安堵の息をつく。
しかし1番心配だったのは外見の傷の事ではなかった。
ガープが言いよどむその言葉の先をミコトは察し小さく笑って見せる。
「勿論見ました……近くであの子を見送ってあげることはできませんでしたがあの子の帽子を返すことができました」
「帽子を…?」
「わたくしを拾ったのは赤髪です」
「「――!」」
エースが赤犬に殺された時、ミコトは白ひげに本部に叩きつけられ、弟が死ぬ姿を見ていなかった。
その後黒ひげによって行方不明になっていたため『帽子を返した』という言葉が分からなかった。
しかし次の言葉に全てを察した。
何となく、2人は気付いていた。
ミコトが行方不明だった間…その間、ミコトは確実にシャンクスのもとにいると…――2人はすぐにそう理解した。
あの場にミコトを助け出せたのはシャンクスしかいないからである。
しかし政府がシャンクスに目を付けなかったのはミコトとシャンクスとの間に深い縁があると知らなかったからであり、ミコトとシャンクスとの関係を知っているのは自分達とクザンなどごく一部しか知らない。
ボルサリーノやサカズキなどは何となく察してはいたようだが。
ミコトは驚きながらも納得した2人に話した。
シャンクスに拾われた事、そしてマルコにエースの帽子を渡した事、シャンクスのもとで1年療養していた事…全てを。
ただシャンクスが自分を殺す気だということはどうしても2人には話せなかった。
余計な心配をもうこれ以上掛けたくはなかったのだ。
2人はミコトの話を聞き、取り合えず辛い生活を送っていなかったことに安堵し、シャンクスに感謝する。
「では、クザンの事も」
「はい、おじ様……クザンさんとサカズキの決闘、そして、その結果を新聞で知りました…わたくしも行方不明を伏せられていた事も…全て…」
「そうか………すまない、ミコト…わしではクザンを引き止めることが出来なかった…」
「何を仰るのです、おじ様……クザンさんの選択は間違いではありませんわ…あの方にもプライドがあり、考えがあるのです…何も海兵として生きるだけが正義ではありませんもの…どんな形であれ…わたくしはあの方が生きてさえいてくださればそれでいいと思っています…」
ミコトがクザンに懐き、クザンも懐くミコトを可愛がっているのを傍から見ても分かり、ガープもセンゴクも微笑ましく見守ってきた。
クザンは頼る術を知らないミコトが唯一頼りにしている人物だったため、クザンを引き留められなかったことを悔やむ。
それに謝るもミコトは首を振る。
ミコトはクザンの考えを知っているわけではないが、彼が生きているのならそれでよかった。
生きてさえいれば、立場はどうであれまた会える。
脳裏に亡くなった弟を2人を思い浮かべ、ミコトはクザンの選択が間違っているとは思わなかった。
そんなミコトの言葉にガープとセンゴクは『そうか…そうだな…』と強張っていた表情を和らげ笑みを浮かべる。
やっといつもの懐かしい祖父とセンゴクに戻り、ミコトも暗い話は終わりだと切り替える。
「そういえばワンちゃんったら酷いのですよ!せっかくお部屋に来たのにお茶も出してくださらなかったの!それに午後から任務を与えられて休ませてもくれないのですよ!!!」
「なんじゃと!?あやつそんな事言ってたのか!!!ふぬーっ!許せェーん!!」
「普通は元帥の部屋に行っても煎餅やお茶で歓迎されないんだがな…だがミコトを休ませず任務とは…あいつめ、ミコトを過労死させるつもりか?」
ミコトは話題を変え、サカズキの事を早速チクった。
煎餅とお茶っ葉はまあ置いておき、1年も行方不明だったミコトにすぐに任務につけというサカズキにガープは怒り、センゴクも咎めていた。
取り合えず、過労死も何も過労するほどミコトはまだ働いていないのはここに記入しておこう。
ミコトはいつも通りのやり取りに楽しげに笑った。
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