(8 / 10) その後 (8)

サカズキはヒクリと顔が引きつった。


「……もう一度言え、女」


ファイルを渡して丁度一週間。
ミコトはすぐに相手を決めたが、八つ当たりに一週間ギリギリに訪れた。
5日頃から五老星直々から確認の連絡を貰いせっつかれ胃がだいぶ荒れたサカズキは、ミコトの言葉に額に浮かぶ血管がブチ切れそうになる。
しかし、ドスの利いた不機嫌な声など気にも留めず、ミコトはもう一度言った。


「ですから、わたくしの旦那様は"スモーカー"がいいのです、と先ほどから10回ほど言っておりましてよ」

「わしはファイルの中から選べと、10回ほど言うとったが?」

「だって皆様真面目そうで一緒にいても面白くなさそうなんですもの…天竜人なんて面倒くさい人を夫に持ちたくありませんし」

「面白い面白くないで選ぶな!」

「まっ!選ぶのは夫ですのよ!?長い付き合いになる夫婦になるのですから面白さを求めて何がいけないのです!?そんなに文句を仰るのでしたらワンちゃんが結婚してくださいな!」

「断る!!!誰が好き好んで貴様と一緒になるか!!わしは人生を棒に振りたくないんじゃ!!!大体わしは所帯を持っとる!!」

「だったらもうスモーカーでいいではありませんか!!!」

「だからファイルの中で選べと言うとろォが!!!」


今ので11回目のやり取りである。
ミコトの見合い話に厄介払いできるとサカズキは安堵していたのだが…ミコトが選んだ旦那はファイルの何処にも載っていない問題児であるスモーカーだった。
五老星がミコトの結婚相手を選んでサカズキの手に渡り、サカズキの手からミコトに渡った。
しかし、世界政府関係の男達も入ってはいるが五老星はミコトの夫に天竜人を所望している。
見合い相手の中に天竜人がいることは、ミコトと折り合いが悪いサカズキでも同情するしかないが、ミコトが選んだのはファイルに載っていないスモーカーだった。
どういう理由で狂犬を選んだかは分からない(というか分かりたくもない)が、五老星から文句が出そうな相手を選んだミコトに頭を抱えそうになる。
サカズキは思わず怒鳴り、対抗するようにミコトも怒鳴り、そして2人は睨み合う。
そして、12回目のやり取りになりかけたその時―――もっと面倒くさい人物が2人、入って来た。


「くォらァァァ!!サカズキーー!!!」


ミコトだけでも面倒な相手だというのに…今度は襖を力一杯開け怒鳴り込んできたガープにサカズキはついに頭を抱えてしまった。
後ろには先代の元帥がおり、本来なら宥める役割のセンゴクも自分を睨みつけながら部屋に入ってきた。


「ミコトが結婚とはどういうことじゃ!!わしは聞いとらんし認めてないぞ!!!」

「認めてないもどうも…!!五老星からの命令じゃけん、仕方ないでしょうが!!諦めてつかーさい!」

「そうか…五老星の命令……なら仕方ない…―――と、わしらが諦めると思うたかァーー!!!」

「ミコトはまだ23歳だぞ!!まだ結婚なんて早すぎる!!それに世界政府の関係者は目を瞑るとしても天竜人が入っているのはどういうことだ!!!」


ガープとセンゴクは風の噂で聞いたようで、物凄い剣幕で駆けつけてきた。
ズンズンと元帥の部屋だというのに敬礼も何もなく入ってくる2人にサカズキは咎める気力すらない。
ガープがサカズキに詰め寄り、センゴクがミコトを守る様に抱き、2人の責める視線と言葉にサカズキは頭痛が抑えきれない。
頼みのミコトはセンゴクの胸に泣き入っているが、あの女がこんなことくらいで泣くわけがないので遊んでいる事が窺える。
この3人をどうにかできる人物などもうこの世にどこにもいないだろう、とサカズキはグチグチと抗議する2人に重い重い溜息を零す。
人生でも海兵でも大先輩を目の前に溜息を零すサカズキを咎める人は誰もいないだろう。
ただ、何度も言うが天竜人が見合い相手なのはサカズキも同情する。


「23歳は立派な大人じゃけん結婚しても可笑しくはないじゃろ!23歳は確実に結婚適齢期じゃけん!!」

「いやじゃ!!!ミコトが結婚したらミコトがじいちゃんに構ってくれなくなって寂しくなるじゃろ!!!天竜人なんか選んでみろ!もっとじいちゃんに構ってくれなくなるじゃろうが!!そんなのじいちゃん寂しい!!」

「それはあんたの都合じゃろ!!!いい加減孫離れしてつかァさい!!」

「なんじゃいなんじゃい!!!自分が1番寂しいくせにのー!!ふふーんだ!!じゃあミコトが結婚してもいいのか!?ミコトが結婚したらドラゴンが来るぞ〜!あやつもミコトを目に入れても痛くないくらい可愛がっておるからのう!愛娘が天竜人なんかに嫁がされたって聞けば怒り心頭で乗り込んでお前なんて一発で地平線へと吹き飛ばされるぞ!!二年前の戦争再来じゃ!!」


『わしは引退した身じゃから自由にさせてもらうがのう!!』、と裏切る気満々で息子側に寝返る発言を隠しもしないガープにサカズキはもう頭の血管一本二本余裕でブチ切れているんじゃないかと思う。
キッと睨む力を強める2人にサカズキは何度目になるか分からない溜息をつき、立って口論していた腰を椅子に下ろす。


「…これは決定事項じゃけェ、覆すことはできん。」


人間、怒りが頂点を超えると逆に冷静を取り戻すらしい。
冷静さを取り戻したサカズキに釣られてガープたちも冷静になったのか困ったように声を零した。


「じゃがのう…いくらなんでも天竜人はないじゃろ……それにこの子はまだ子供なんじゃぞ?」

「23歳を捕まえてよゥ子供と言えるけェのォ………―――まァ、天竜人は置いとくとして…この話はわしではなく五老星の命令じゃけぇ諦めてつかァさい」


こればかりは例え元帥であるサカズキが同情して取りやめには出来ない。
すると今まで黙っていたセンゴクが睨んでいた表情から険しい表情へと変え、ゆっくりと口を開く。


「つまり……ミコトを天竜人で縛りつけ…ミコトを監視する、という事か…」

「…………」

「夫は監視役、子供は枷という事か…」

「…………」


センゴクが口を挟まないのは、センゴクが元帥の時代からミコトへの見合い話があったからだ。
だが、今回とは違い、五老星がしゃしゃり出ることはなく、天竜人との見合い話は上がらなかった。
センゴクは無言を肯定と捉える。
無言を貫き通すサカズキにセンゴクはミコト守るように抱いていた力を込める。
ガープもセンゴクの言葉の意味を理解しているからこそ口を閉ざし、その場は静まり返ってしまう。


「だからこそ、わたくしは夫を選んだのです」


静まり返っているその場を裂くようにミコトが呟いた。
センゴクは自分の胸元に顔を埋めていたミコトへと視線をやり、ガープもサカズキもミコトへと見つめる。
ミコトはゆっくりと顔をあげる。
やはりウソ泣きだったミコトのその表情ではいつも通りサカズキ曰く胡散臭い笑みを浮かべていた。


「ミコト…しかしの、好きな男と添い遂げたくはないのか?まだミコトの人生は先が長い…結婚したいと思う男もきっとできるはずじゃ」

「でもお爺様、おじ様…政府の命令…ましてや五老星の命令は無視できませんわ」

「だがな、ミコト…」

「ふふ、ご安心くださいな…わたくしだって簡単に五老星の言う通りに動く気はありませんもの」

「「…?」」


ミコトが好きな男とは、シャンクスだが、その本命であるシャンクスとは別れた。
だが、何も男はシャンクスだけではない。
ミコトほどの女ならばまた新しい恋をするかもしれない。
その時に既に結婚してしまっていては全て遅いのだ。
政府が決めた男性との離婚は容易ではなく、きっとミコトはずっとその男に、政府に、海軍に、縛られるであろう。
しかしミコトからは意外な言葉が出てきた。
ミコトはキョトンとせ首を傾げる祖父とセンゴクにクスリと笑った。

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