今日、スモーカーは朝から嫌な予感がしていた。
朝食を食べていると何故かフォークが折れ、上司であるヴェルゴには何故か同情と怒りのような視線を向けられ(しかも理由を尋ねても何も言わないため本当に訳が分からない)、船へと乗り込もうとすれば黒猫が前を素通りし、尚且つ靴紐が切れる始末…
たしぎですら心配するほど不吉な前兆が起こりすぎていた。
そして、その不吉なことが起こり続ける原因をスモーカーは理解する。
それは―――…
「これからも末永くよろしくお願いいたしますわ、あ・な・た?」
黒蝶の嫁入りだった。
スモーカーは葉巻を咥えているのも忘れ、目の前にいる女に低く呟く。
「…話が見えんのだが」
「わたくし、モンキー・D・ミコトは先ほどを持ちましてあなたの妻となりました」
「……ふざけてんのか」
目の前にはこの世で唯一女帝ハンコックと張り合えるであろう美女がにっこりと微笑んでいた。
ただ微笑んだだけでこの世の男性の殆どは目の前にいる美女に心を鷲掴みにされ夢中になるだろう。
その証拠に、自分の背後にいる部下達は目をハートにさせミコトにデロンデロンに骨抜きにされていた。
しかしミコトが夫と呼んだスモーカーはそんな絶世の美女を目の前にしても頬を染めるわけもなく骨抜きにされでもなく、ただただ怪訝そうにし不機嫌になるだけだった。
信じようとしないスモーカーにミコトは笑みを浮かべ、1封の『封筒』を取り出した。
「それは?」
すぐに後ろにいたたしぎもミコトが取り出した封筒をスモーカーの後ろから覗き込むように見る。
たしぎの問いにミコトは笑みを深めるだけで何も言わず、そっと取り出した封筒をスモーカーに差し出した。
その差し出された封筒を手に取り、中身を開けて見れば途端にスモーカーの眉間のシワは深くなる。
「なんだこれは」
「婚姻届ですが?」
「「婚姻届ェ!!?」」
その封筒の中身には可愛らしい花でデザインされている『婚姻届』と書かれた一枚の紙だった。
それだけでもスモーカーは機嫌を降下していくのだが、それ以上に機嫌を損ねるものがあった。
上官の機嫌が悪くなっていくのをたしぎもG−5の海兵達も感じ、たしぎ達は思わず一歩二歩と後ろへ下がる。
しかし、勿論ミコトもスモーカーの機嫌の悪さを感じていたが、同僚にサカズキを持ち、わざわざ絡みに行くようなミコトが怯えるわけもない。
ニッコリと絶やさず微笑を浮べたまま彼の反応を待った。
「…なんで夫の欄におれの名前があるのか、聞いていいか」
「夫だからです」
「誰の」
「わたくしの」
「誰が」
「あなたが」
無言が痛いほど続いた。
その沈黙を破ったのは当事者らしいスモーカーで、一言目が『ふざけてんのか?』だった。
信じようとしない夫(仮)をミコトは本気かおふざけか、『そんなに照れなくてもよろしいのに』と呟き、もれなくミコトは夫(仮)に睨まれてしまう。
後ろではざわざわと部下達がざわついており、小さいが『羨ましい!』『スモーカーさんそこ変わって欲しい!』という言葉が聞こえ、スモーカーはミコトに向けた以上の睨みを部下達に向け、部下達は全員バッと一斉に口を手で塞ぐ。
「誰がお前の夫だって?」
「ですから、あなたが、わたくしの、夫です、と言っております」
コテン、と傾げるミコトはとても可愛い。
同性のたしぎでさえそんな仕草を見せるミコトを可愛いと思うのだから、異性であるG−5の海兵達はメロメロである。
ふにゃりとさせる部下達をよそにたしぎは唖然とさせながらスモーカーが怒りでふるふると震えてるのに気付き慌てて2人の間に入る。
「こ、黒蝶さん!あの…何故スモーカーさんがあなたの夫になってるんですか?」
「何故って…結婚したからですが」
「黒蝶さんとスモーカーさんってそういう仲だったんですか!?」
「いいえ?」
「違う!!」
「????」
とりあえず2人の間に誰かが入らないと1年前の戦争以上の争いが繰り広げられると察したたしぎは、慌てて間に入る。
結婚というキーワードにたしぎは驚いた。
海軍の最高戦力の1人である大将のミコトと、自分の上司である中将のスモーカー。
2人の地位は離れているが、ありえない話ではない。
だが、直属の上司にそんな女の影など見たことがないと断言できるくらい上司は女ッ気がない。
ギリ同期のヒナが女という理由であり得るが、2人の間に甘い雰囲気は一切感じたことはなかった。
結婚したとミコトは言うが、式に呼ばれていないし、スモーカー本人も式に出た覚えはない。
結婚式しない夫婦がいるのは知っているが、流石に男性人気も高く大将であるミコトが結婚となれば新聞屋が黙っていないはず。
なのに、当事者とその周囲はミコト本人から聞くまで知らなかった。
そこに首を傾げてしまう。
「ど、どういう事ですか?黒蝶さんとスモーカーさんはそういう仲だから"結婚"という話が出たんじゃないですか???」
「それがね、政府がいい加減結婚しろって煩いんですの」
どうやらミコトの結婚は恋愛を経て到着したものではないらしい。
どういう理由で政府がミコトに結婚を求めたかはたしぎには分からないが、ミコトは何故かスモーカーを選んだ。
それがたしぎは引っかかっていた。
「政府がスモーカーさんと結婚しろと言ったんですか?」
「いいえ?見合い写真は沢山ありましたわ…残念ながらケムリンの名前がなかったけれど」
「ないのにおれを選ぶな!そしておれをその名で呼ぶな!!――で、なんでそいつらを選ばなかった。」
「だって揶揄い甲斐がないし皆さま生真面目そうで面白くないじゃないですか」
「面白い面白くないで選ぶな!!!」
ミコトはサカズキとの会話を思い出した。
ミコトは面白い面白くないで結婚相手をスモーカーに決めた。
スモーカー本人は面白そうと言われて嬉しくもない。
ミコトが面白そうと思うそれは、イコール、相手側はものすっっっごく迷惑極まりないからだ。
揶揄いにも限度がある。
見合いを強制的にさせられた点には同情するが、それはあくまで自分が関わらなければの話だ。
巻き込まれたスモーカーは溜息をつく。
そんなスモーカーにミコトはムッとさせ頬を膨らませた。
「どうせ結婚しなきゃいけいのなら(揶揄い甲斐がある)好きな人と結婚したっていいじゃないですか!」
「えっ……、こ、ここ…黒蝶さんって…!!スモーカーさんをす、すすすす…好きだったんですか!?」
「いいえ?」
「「「ええええ〜〜!!?」」」
副音声が届かず(当たり前)、『好きな人』という言葉にたしぎはミコトが本当はスモーカーが好きだったと勘違いしたが、ミコトには首を振られてしまった。
もう何をしたいのか当人以外分からない。
『あの…本当にどういうことか説明してくれませんか?』、ともう我関せずを突き通す事に決めた上司の代わりにたしぎが聞くとミコトは口を開く。
「政府ったら酷いのよ!せっかく帰ってきたっていうのに夫を選べてって言うの!しかもこォ〜〜んなに分厚いプロフィールを渡されたのよ!それにワンちゃんったら何て言ったと思います!?『一週間で決めろ』ですって!!一週間よ!一週間!!一週間で生涯を共に過ごす夫を決めろと言うのですよ!!他人事だと思って簡単に!酷いと思いません!?そもそも結婚する男性を決めるのに一週間なんて短いと思いません!?だから小さな反抗としてプロフィール以外の男性を選んだのです!!」
「だからっておれに決めるな!!おれの意志はどうなるんだ!!」
「だってェ〜!上が結婚しろってェ〜!」
「可愛い子ぶるな!!!おれは絶対判子は押さないからな!!!」
「あ、それは別にいいです…もう役所に届け終えたので」
「はあああ!!?」
頬を膨らませて愚痴るミコトはとても愛らしく、G−5の海兵は骨抜きの状態から更にメロメロとなり立っていられないほど骨が抜かれていく。
たしぎさえ頬を染めるほどだが、スモーカーはたまったものではない。
部下達が目の前の女に骨抜きで孤立しつつあるスモーカーは、ミコトの言葉に思わず声を上げて驚いてしまった。
「役所に出した!?おれは判子を押した覚えもサインをした覚えもねェぞ!!!」
「判子もサインもお義母さまに押していただきました」
「おか…!?はあああああ!!?お前お袋に会ったのか!?いつ!どこで!!!」
「あなたのご実家で、一昨日」
「あの…本当にスモーカーのご両親がサインしたんですか?歳の差もそうですけど行き成り本人不在でそれは怪しすぎて誰もサインしないんじゃ…」
「あら、案外呆気なくしてくださいましたわ…『やっと結婚する気になったのか!あのバカ息子は!!』って喜ばれてましたわよ?」
(あんのクソババァァァァ!!!)
すでに結婚届は役所に届け済らしく、すでに処理済みだ。
どうやら今手元にあるのはそのコピーらしく、わざわざスモーカーに見せるためにコピーしたらしい。
当然ながら当の本人(被害者)はサインや判子をした覚えもなければ、結婚届を見たことも触ったことも初めてである。
と、いうことは破っても無駄ということだ。
スモーカーはとりあえず警戒心なく息子の嫁になるという若すぎる怪しい女の言う通りホイホイサインと判子を押した母親に思わず悪態付いてしまうが……スモーカーを責める者は誰もいない。
スモーカーはニコニコと笑う目の前の女を前に頭を抱えた。
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