アスカもナミも、そしてルフィも、サンジの拒絶に驚いていた。
思わずキングバームから降りて駆け寄ろうとしたアスカを立ち上がったルフィが手で制し、アスカは足を止めた。
その足元にはアスカについて来たミネットが甘えるようにアスカの足にすり寄り甘い声でひと鳴きした後、アスカの隣でちょこんと座ってアスカの視線に釣られるようにサンジ達を見つめた。
「おれの名はヴィンスモーク・サンジ…『ジェルマ王国』の
王子だ!」
サンジは『隠してたことは悪かった』と言っていた。
アスカとは異なり、サンジは記憶を失っていたわけではなく、事情があり家族と離れていた。
本当に王子だったのは驚きだが、アスカはサンジの言葉を静かに聞いていた。
「またあのくだらねェお前の仲間達の船へ戻るのと…ここで『四皇』ビッグ・マムの美しい娘を妻に貰い暮らすのとどっちが幸せなんて比べるまでもねェよな!!あんな手紙真に受けてんじゃねェよ!!おれは戻らねェ!!」
サンジが吐く言葉全てが棘となり刃となりルフィ達を刺していく。
サンジの言葉は全てルフィ達を全否定したものだった。
「まさかここまでやって来るとは…ご苦労さん…帰れ…名前は何だっけな…」
ナミはグッと唇を噛んで込み上げる感情を抑える。
チラリとアスカを見るも、高さのあるキングバームの上から見るアスカの表情は見えない。
その不安からギュッと両手を握り締めた。
「よし!追い払うの手伝ってやるよ!」
「手ェ出すな!!」
ヨジが納得いかない様子のルフィ達に、追い払うのを手伝おうとした。
しかし、ヨジが立ち上がろうとしたのをサンジが止める。
そして、冷たく凍えるような視線をルフィに向け――
「おれが追い払う」
サンジは女にだけ優しい男に見えるが、優しい男なのをアスカは知っている。
女しか守る気がないと宣言しても、男も含めて守るのが彼だ。
アスカは正直演技だと思った。
ペコムズが言った断った後の報復のせいで結婚を受け入れたと思った。
だが、追い払うと言ったサンジの表情を見て彼が本気なのだと気づく。
「追い払うって何だよサンジ!」
ルフィもサンジの言葉が本気だと彼の目を見て理解した。
しかし、だからと言って素直に帰るルフィではなく、それはアスカもナミも同じである。
「…何の気まぐれか知らねェが…わざわざ迎えに来てくれた事はありがてェ…だが、本当におれを想うなら行動が逆じゃねェか?」
サンジは言った、『貧乏でちっぽけなお前らといるより強大で金のビッグ・マム海賊団に属した方が幸せだ』と。
ルフィは強いのは確かだが、それでも海賊の中ではまだまだルーキーの部類から出ることはできない。
それほど海は広いし、四皇という席は安くない。
サンジは様々な冒険をしていた仲間よりも、強さと金を取ったのだ。
「お前が『海賊王』になれるかどうかも…疑わしいってのが本音だよ…乗るなら勝ち馬を選ぶのが人情だ」
「冗談やめてよサンジ君!!何言ってんの!?さっきから!!」
アスカはサンジの言葉に納得した。
しかし、納得はしたがその勝ち馬を選ぶ選択肢は持ち合わせていない。
それはアスカがそうであっただけで、サンジが異なる考えを持っていただけのことだ。
サンジはナミの止めようとする声に、ギロリと"ナミを睨んだ"。
アスカはサンジの言葉よりも、女性を大切にしているサンジがナミに睨みつけたことに目を丸くする。
「じゃあ…ずっとおれをダマしてた事になる…!」
「――ああ、そうだ!腹の中で見下してた…急なことで現実を受け入れ難ェだろ…"体現"してやるよ…構えろ!!」
サンジの言葉が心を冷やし、刺していく。
どれだけ言葉で攻撃しても信じないルフィ達に、サンジは分からせるために強行しようとした。
片足を上げたその足が真っ赤に染まり、炎が上がる。
サンジの戦闘スタイルを知らない護衛達からは驚きの声が上がり、サンジの戦闘スタイルを知っているアスカとナミからはルフィと対決しようとする彼に驚いた。
アスカとナミ達の心配や不安をよそに、サンジが先に仕掛けた。
「――!!」
ナミは驚いた。
冷たい言葉を向けられたが、まだサンジの事を信じていた。
だから、サンジがルフィに…仲間を本気で蹴りを食らわすとは思っていなかったのだろう。
サンジの蹴りはルフィの顔に当たり、ルフィはその生き緒に後ろに吹き飛んだ。
アスカの傍に止まったルフィは流石にサンジの蹴りを受け、鼻や口から血があふれ出る。
その姿を見ても、アスカは動かなかった。
動いては駄目だと分かっていた。
「構えろよ…」
「お前とは…戦わねェ!!」
「じゃあ…消えろよ!」
「それも断る…!」
「――お前はいつもわがままばっかりだ!!」
ルフィはサンジの二発目の蹴りを受けて地面を転がる様に吹き飛ばされる。
しかし、彼は決して構えることもなければ手を出す事もなかった。
ただ、彼はサンジの蹴りを受け止めるばかりだった。
受け身も取らないルフィの体はボロボロで、ナミはアスカを縋る様に見るが、アスカは何故かサンジに一方的にやられる恋人を見ているだけで動いてはくれなかった。
ルフィの血だらけの姿にナミが見ていられずサンジを止めようと叫ぶ。
「やめてよサンジ君!私達迎えに来ただけなのに!!ルフィはここへ来る為に夜通し敵の幹部と戦い続けてもう体は―――」
「やめろナミ!!」
「――!」
ここに来るまで、3将星の1人と夜通し戦っていた。
移動中に睡眠を取っていたとはいえ、疲労が完全に癒えるまでには至っていない。
サンジの強さはナミもよく知っており、そんなルフィがサンジの強い蹴りを受けたら余計に傷が悪化してしまう。
だが、それをルフィ本人が止めた。
「口出しするな…これは決闘だ」
ナミはルフィの言葉に口をつぐんだ。
決闘とルフィは言うが、そんなのルフィが勝手に行っているだけだ。
その証拠にサンジが『何が決闘だ』と蹴りを何度も入れてルフィを追い詰めていく。
男の決闘など女には関係なく、本当は間に入りたいが、彼らの気迫に体が動かなかった。
「早く消えろ!!おれの視界から!!」
容赦のない蹴りが何度も何度もルフィの体に入れられる。
地面にはルフィの赤い血が散っており、その痛々しさにナミの目には涙が浮かんでいた。
消えろと言うサンジに、ルフィからの回答は当然『断る』だ。
その苛立ちを込められた蹴りを一発入れられ吹き飛ばされてしまった。
サンジはそのまま上へ飛ぶ。
その意味をアスカもナミも知っている。
「もういい!!やめてよサンジ君!私達帰るから!!」
「―――帰らねェ!!!」
サンジはナミの言葉も、ルフィの言葉も、そしてアスカの視線も振り払うようにその足を振り下ろし―――
「――"
粗砕"!!」
ルフィの頭に叩きつけた。
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