サンジの蹴りを食らいながらも、ルフィは決して反撃しなかった。
そのせいで体はボロボロになったが、ルフィはその場に仰向けになって寝転び仲間を置いて行ったサンジを待っていた。
「ルフィ…ホントに待つ気?ここは敵地のど真ん中なのよ?」
ルフィは自ら仲間を切り捨てたサンジの背中に『待つ』と言った。
腹が減ろうと槍が降ろうとここを動かない、と。
食欲旺盛のルフィがサンジが戻らなければ"餓死"してやるとはっきりと言ったのだ。
自分の船のコックはサンジだから。
サンジ以外の食べ物や料理は決して食べない、と。
アスカはその言葉を疑わなかった。
そして、止めなかった。
ナミは梃でも動かないつもりのルフィに鼻をすすりながらアスカを見る。
アスカはルフィの傍で座っており、自分が出した"ラビット・セラピー"を仰向けに寝転んでいるルフィの胸辺りに一匹乗せて傷や疲労を癒そうとしていた。
「アスカも?」
「ルフィが待つっていうなら私もサンジを待つよ」
アスカの言葉にナミはグッと言いたい言葉を飲み込んだ。
サンジのあの言葉が本心なのかなんてナミにはもうどうでもいい。
サンジのことを切り捨てたとかではないが、サンジの言葉の真偽なんて仲間だとしても分からない。
だけど、彼がもう自分達の下に戻る気がないのは分かった。
「パウンドが言ってた…将星を討ち取った者の末路…敵なら来るけど……サンジ君は…」
「サンジは来る゙…おれはここで待づ」
こういう時のルフィに何を言っても無駄なのは、長い付き合いのナミも理解してはいる。
だが、ナミも言いたくなる気持ちだってある。
アスカは倒れているルフィを見つめながら、ふと、ある光景を思い出す。
その光景は、ウォーターセブンでメリー号を巡ってウソップとルフィが決裂したあの日。
アスカはサンジとウソップが重なって見えた。
あの時も今も、胸が苦しくなる思いを抱え、時間が戻ればいいと思っていたのに、アスカの気持ちなど無視するように時間は進んでいく。
「あ、ああ…ッ!」
「どうしたの!?キングバーム!!」
静かだった。
誰も喋らず、ただただルフィがサンジを待つのを2人も寄り添っていた。
静まり返っているその場に、キングバームの声が聞こえ、アスカとナミが彼の方へ視線を向ける。
しかし、キングバームはアスカ達ではなく空を見上げ、なぜか怯えていた。
その怯えようは異常で、釣られてナミとアスカが空を見上げると二人は目を丸くする。
「えっ!急に暗雲が…」
アスカ達からも見えるカラフルな大きい山。
その天辺が見えないくらいの厚く黒い雲が集まっていた。
風も冷たく強くなり、アスカ達から日差しを奪っていく。
しかし、それは自然で起こった天候ではなかった。
「あ、あの山はママの住むホールケーキ城!ママが怒ってるジュ…!!」
「嘘でしょ…これが人一人の能力!?」
厚い雲もそれに同調するような荒れはじめた天候も、全てビッグ・マムの能力だとキングバームが言った。
その怯えように、嘘ではないのだろう。
ここに来る前にローラの父であるパウンドが言った『リンリンは天候を従える女』という言葉を思い出し、ナミはゾッとさせる。
天候は更に悪化し、ついにポツリポツリと雨が降り始め、アスカ達の体を濡らしていく。
しかし、口に入った雨にナミはふと顔を上げる。
「違う…コレ、水飴だわ」
もう一度舐めてみると、口の中に甘い味覚が広がる。
水飴の海やメレンゲの浜辺やジュースの川など見てきたためもう驚きではない。
アスカも水飴の雨に顔を上げていると、仰向けに倒れていたルフィがクルンとうつ伏せに変えた。
「水飴だって…口に入れねェ…おれはサンジのメシしか食わねェ」
どうしたのかと2人が視線で問えば、ルフィが答えた。
サンジの飯以外は食べない宣言は本気のようで、例え自然とはいえ水飴一粒も口に入れたくないらしい。
その覚悟に、ナミもアスカも何も言えずただただ沈んだ表情を浮かべるばかりだった。
アスカはルフィの背中にうつ伏せになった時にコロンと零れ落ちた"ラビット・セラピー"の兎を背中に乗せ直す。
「にゃぁ」
すると、ずっとアスカの傍を離れなかった猫のミネットが何かに気づいたように顔を上げ振り向き、鳴いた。
その鳴き声がアスカに向けるように甘えた愛らしい声だった。
アスカ達はミネットが歩き出し、それに釣られるようにミネットを目線で追っていくと――その先にフードを被った人物がこちらに向かって歩み寄ってきていた。
「て、敵!?もう来たの…!?」
パウンドから4将星の1人を倒されてビッグ・マムの怒りを買った話を聞いていたナミは、もう敵が現れたと思い焦った。
しかし、敵は敵なのだろうが、現れたのはたった1人だ。
その1人の登場に、ルフィはゆっくりと体を起こしてその人物を見つめる。
その人物はフードを深く被っているせいで口元しか隠れていないが、遠目からでも分かるほど肌が白かった。
アスカの傍を離れたミネットはそのフードを被った人物に跳ねるように近寄り、足に体を擦り付けるように甘える。
自分に甘えるミネットにぞの人物はそっと抱き上げた。
それを見てナミは『なんだ』と安堵する。
(何がフレイルしか懐かない猫よ…!ただ自分達が懐かれていなかっただけじゃない!)
クラッカーもブリュレも、ミネットはフレイルにしか懐かない猫だと言ってミネットに懐かれたアスカをフレイルだから寄越せと言いがかりを言ってきた。
だが、フードを被った人物の腕の中で顎を撫でられゴロゴロと甘えるミネットを見て、ナミはあの2人が間違っているのだと確信を持つ。
そして、アスカはフレイルではないと安堵した。
フレイルでないなら狙われる理由が減るからだ。
「も、もう…駄目だジュ…!!あの方が来てしまっては…!もう…!」
「あの方って…あのフードの人?誰なの?」
猫を可愛がる姿は敵とは思えなかったが、しかし、ここは敵地だ。
仲間以外は敵と考えなければならない。
たが、敵襲にしては1人だということに、ナミ達の油断を誘う。
あちらから仕掛けてこないのを見て、ルフィもナミもアスカも、こちらから仕掛けるわけにはいかず3人と1人はただただ向かい合うだけだった。
その中、アスカ達の後ろにいるキングバームが怯え始め、ナミの問いにキングバームは声を震わせながら答えた。
「あ、あの方はママの"夫"だジュ!!」
「えっ!?」
ママ、とはビッグ・マムの事を指す。
四皇の一角であるビッグ・マムの夫があのフードを被った人物である。
驚きのあまりキングバームからその男へ全員が視線を向けると、3人の視線に気づいたのか男は猫へ向けていた顔をルフィ達へ向ける。
しかしその後ろへ視線をやると森にいるはずのキングバームの姿があり驚いたような表情を微かに浮かべた。
「キングバームじゃないか…なぜ君がここに?」
「ワ、ワシの意思ではないジュ!!この女がママのビブルカードを持っているから逆らえないんだジュ!!」
キングバームの言葉に男は『リンリンのビブルカードを?』と驚いたようにナミを見た。
正確に言えばアスカも所持しているが、まだ彼らに気づかれていない。
視線を向けられたナミは思わず一歩後ろへ下がる。
後ろへ下がるナミなど気にも留めず、男はアスカとルフィへと視線を流し近づいてくる。
ナミは逃げ腰だったが、ルフィは一歩も動かず近づいてくる男を見つめ、アスカもルフィが動かないため男を見つめていた。
「君が麦わらのルフィ君で合っているかい?」
悪名高い麦わら海賊団の手配書や話は男の下にも届いていた。
特にビッグ・マムを怒らせたルフィの名はここで知らない者はいないだろう。
誤魔化さずまっすぐ自分を見つめて頷く素直なルフィに、男はフードの奥で愉快そうに目を細めた。
「キングバームが言っていた通り、ぼくはリンリン…ビッグ・マムの夫なんだけど…ルフィ君がクラッカー君を倒したってことでいいのかな?」
「ああ!そうだ!」
言い切るルフィに、男は愉快そうな声で笑う。
殺意など一切感じない人物に、ルフィもナミもアスカも怪訝としてしまう。
本来なら仲間を倒されて殺意を向けられても当然である。
なのに、目の前のビッグ・マムの夫と名乗った男からは怒りや苛立ちさえも感じさせない。
それが不思議だった。
「
退いてくれないか」
男の言葉に三人の答えは当然、NOだ。
退けと男は言ったが、海賊が敵に退けと言われて簡単に退くことはないと分かっていた。
そのため、即答で断られても気にも留めていない様子だった。
しかし、初めて困ったような声色に変わった。
「困ったな…できれば君たちを傷つけたくはないんだ…特に、君」
「え…わ、私?」
視線で指され、アスカは困惑した。
フードを被っているとはいえ、声からしてビッグ・マムの夫とは初めて会う人なはずだ。
そんな見知らぬ人に『傷つけたくない』と言われても戸惑う以外に反応はできない。
ルフィは庇うようにアスカの前に立つ。
アスカを飼っていた天竜人がまだ諦めていないことをシャボンディ諸島で知ったルフィはアスカを狙うような男に気が立っていた。
騎士のようにアスカの前に立ち自分を睨むルフィに、男はフードの奥で愉快そうに目を細めた。
「君のお父さんと知り合いでね…僕は今リンリンの夫ではあるけれど彼と敵対したいわけではないんだ」
「アスカのお父さんって…赤髪のシャンクス!?」
「新聞で知ったんだけどね…君達がドラゴン君とシャンクスの子供達だって知った時は驚きが隠せなかったよ」
父であるシャンクスと知り合いと言われてもビッグ・マムの夫という立場上、彼を信用できない。
それだけでなく、ルフィにはサンジを待つと決めたのだ。
決めたとなればルフィは梃でも動かない。
頑なに退かないルフィ達に、男は肩をすくめた。
「君達はプリン君と結婚するヴィンスモーク家の彼を連れ戻しにきたようだけど…その様子では彼に断られたようだね…彼が拒む以上、君達がここにいる理由もないんじゃないかな…上に挑むその心意気は買うけれど…君たちは若い…こんなところで命を散らすべきではない…それに君を見殺しにしてしまったらシャンクスに会わす顔がない」
穏やかだが、その言葉は強者だ。
まるでルフィがビッグ・マム海賊団に敗れるような言い方に、ナミもアスカもムッとさせる。
確かに、ルフィはこれまで苦戦しながらも勝ってきた。
二年前では大将やくまに叶わなかったが、みんなそれなりに修業をしてきたのだ。
だから強いと傲慢にはならないが、敵に言われて簡単に引き下がるような鍛え方はしていない。
それはルフィだって同じだ。
ルフィは何よりも男の言葉に苛立ちを覚えた。
「おれはサンジが来るまでここから動かねェ!!ビッグ・マムにもやられねェ!!それにサンジはおれ達の仲間だ!!」
サンジの事をヴィンスモーク家の人間として呼ぶことに引っかかったルフィの怒りは男に通じていた。
男は笑みを浮かべながら『それはすまなかったね』と謝りながら、バサリと上衣を払うように靡かせ。
そして、細い腰に差している剣を静かに抜いた。
その剣は漆黒のように全身黒く染まっていた。
「仕方ない、あの子には後で謝るとしよう」
「―――!」
それは一瞬だった。
漆黒のような剣を抜いて溜息をついた、その一瞬。
瞬き1つする間に間合いを詰められた。
「ル――」
アスカ達からしたらパッと消えたように感じた。
あっと言う間にルフィの間合いを超えて詰める男に気づくがすでに遅い。
一瞬にして間合いを詰めてきた男にルフィは対処しようとした。
しかしルフィが何かする前に男の手がルフィの体に触れ―――ルフィは一瞬にして箱に変わった。
「え…」
本当に一瞬だった。
何もかもがあっという間の出来事だった。
ルフィが抵抗する暇なく距離を詰められ触れられたと思えば、ルフィが手のひらサイズの箱に変わった。
なぜ、という疑問はあるが、すぐに男が能力者なのだと理解したアスカは能力で長身ウサギを出し、ウサギにナミを預けてキングバームの上に避難させる。
男はアスカの出したウサギを見て反応した様子を見せた。
「ウサウサの実…そうか…そうだね、ゴムとウサギだものね」
ポツリと呟くが、その呟きはアスカ達には届いていない。
1人で呟き、1人で納得した男はこちらを睨むアスカを見つめた。
「ルフィを返して!!」
ルフィの体が小さな箱に収まった。
収まったというよりは変わったと言っていいだろう。
グッと拳を握り地面を蹴る。
男の強さなんて分かり切っているが、それでも手の中に納まっているルフィを放ってはいけない。
ルフィの入っている箱に手を伸ばすが、体を捻っただけで避けられてしまった。
滑るように止まるのと同時に、手を男に向けて伸ばす。
「!」
その手首を飾っている蛇がデザインが突然本物の蛇に変わり男に向かって飛び掛かった。
普段ブレスレットに変化させていたシュラハテンだ。
男の背後にはポンポン作り出された『ラビット爆弾』のウサギが数羽見える。
そんなウサギたちに気づいていないような男は初めてシュラハテンを見て驚いた表情を浮かべた。
男は口を開けてこちらに飛び掛かってくるシュラハテンを軽く避けながらその長い胴体に触れる。
するとルフィの時と同じくその体は小さな箱に変わり、地面にコロンと落ちた。
それは同時に、ラビット爆弾のウサギ達も同じくウサギの数だけの箱が男の後ろに転がった。
アスカはパチンとダメ元で爆発の合図をするが、遮断しているようにウサギ達は反応しない。
「驚いた…まだ生きている"イルル"がいるだなんて」
「イルル?」
どうやら箱に入っていると外部からも内部からも当人達のアクションは不可能らしい。
それに舌打ちを打つと、男が驚いたような声を上げて地面に転がるシュラハテンの入った箱を見下ろしていた。
しかし、アスカの聞き慣れない名前に怪訝とさせる声に頷き、シュラハテンが入っている箱を目線で指す。
「イルル=エインガナ――病によって滅んだ国に存在していた堕ちた神のペットさ」
その言葉にアスカもナミも怪訝と男を見る。
どうやらシュラハテンの種族の事を知っているようで、物珍しそうに箱を見下ろしていた。
その男の隙をつき、アスカは能力を発動させた。
アスカがモーションなく能力を発動させると、地面からふわふわの背びれが現れ、再び潜っていき姿を消し――――
「うん、流石シャンクスの子だね…賢い子だ」
―――鮫を混ぜたようなウサギが男に向かって口を大きく開けて地面から現れた。
男を食おうとしたウサギサメだったが、一瞬にして縦に切られその姿を消した。
致命傷を与えるのは無理だとは分かってはいたが、まさか避けるわけでもなく切り捨てた男に、アスカは悔し気に顔を顰めた。
先ほどウサギサメを切った黒い剣を、風を切るように振るとウサギサメの血が地面に散った。
「僕は"ハコハコの実"を食べた"箱人間"…ルフィ君やイルルの子のように僕が触れるとその対象はこうして箱に変わる」
ルフィの入った箱を差し出すようにアスカに見せつける。
男はやはり能力者だった。
能力者であれば、人の入るサイズではない箱に変化させても納得はいく。
近接戦を避けたアスカの選択を褒める男だが、敵に褒められても嬉しくはない。
シュラハテンは以前に海楼石を食べてその効果を使うことが出来るため、それを利用して能力者を無効化させようとした。
そして、対処される前にラビット爆弾を仕掛けようとしたのだ。
だが、若そうに見えても潜って来た修羅場の数が違うのか、男には通用しなかった。
「この中でルフィ君がどんな風に入っているのか、君たちは分かるかな」
「知らないわよ!そんなことよりルフィを返して!!」
「そう殺気立たなくても返してあげるよ…この中に入れられると体格がどうであれ四方から圧迫感を感じて窮屈らしいからね」
呑気に質問をする男から感じる余裕が腹立たしい。
アスカの苛立った声に男は余裕そうに笑って『それは流石に可哀想だ』と言い持っていたルフィを入れた箱を放り捨てる。
重力に従って投げ捨てられた箱が落下するのを見て、アスカはルフィの入った箱へ手を伸ばした。
しかし―――…アスカの手が届く前に男のサーベルがルフィの入った箱を真っ二つに斬った。
それと同時にルフィが現れたが、衝撃を食らったかのように血を吐き地面に倒れてしまう。
「ルフィ!!」
アスカは倒れるルフィに駆け寄る。
男はそんなアスカを阻むわけでもなく、ただアスカがのそりと起き上がるルフィの傍に駆け寄るのを見届けるだけだった。
「ハコハコと言うだけあって箱に閉じ込める単純な能力だろう?でもね、箱に閉じ込めることが出来るのは何も人間だけではないんだ」
ピリ、と静電気がアスカの肌を刺激する。
それと同時に頭上の雲がピカっと光り――
「"サンダーブリード=テンポ"!!」
男の頭上に雷が落ちた。
キングバームの方へ見れば、ナミがビッグ・マムの作った雲を利用して雷を男に向けて落としたのだ。
ナミはアスカとルフィにばかり気を取られている男に気づかれないよう雷を落としたつもりだった。
しかし―――男に雷は当たらず、男の傍にはコロンと箱が転がる。
「う、うそ…!!私の雷が箱になった…!?」
ナミも、アスカも、この目で見た。
男に当たるはずの雷が、男に当たる前に一瞬にして触れず箱に変わり男の足元に落ちたのだ。
絶句させるナミ達を他所に、男は手元に収まっているシュラハテンの箱を放るように手放したが、その箱は男の傍で落下せず宙に浮いていた。
これも、男の能力なのだろうか。
手が空いた男は足元に転がる雷が入った箱を拾う。
「そう、僕が箱に入れることができるのは何も有機物や無機物ばかりではないんだ…"天候"も対象となる…それどころか周囲に漂っている空気さえも僕は箱に入れることができるし、僕たち能力者の天敵である海水もね…」
本来、敵対している相手に自身の能力をベラベラと話さない。
弱点に気づかれるからだ。
それでも話すのは、能力に頼っているばかりの敵ではないという事だろう。
男はルフィを見て目を細める。
「やっぱりここまで来れるだけあるね…普通ならこれでダウンするんだけど…うん、丈夫でいいね」
手加減はしたつもりはなかった。
相手を殺すつもりで切りつけた。
しかし、ルフィは血を流しながらも立ち上がって男を睨みつけている。
それは威勢だけではなく、男に立ち向かえるほどの実力があったからだ。
たかが2年で名を挙げたルーキー。
そんなルーキーがこうして名高い海賊団に喧嘩を売り、実力差を見せつけられてもなお心の折れない瞳を見せられては男も心が躍るものだ。
しかし、シャンクスの娘であるアスカの仲間をそう簡単に潰すのも良心が痛むというもの。
それこそ彼と再会した時どんな顔で会えばいいのか、男は分からない。
「僕と君達の力の差は分かっただろう?―――いい子だから帰りなさい…君達に怪我を負わすのは忍びない」
剣で帰りを示す男に三人はムッとさせるが、それさえも可愛く見える。
当然、ルフィはギロリと男を睨みつけ―――
「断る!!出て行くならサンジも一緒にだ!!そのためにここに来たんだからな!!!」
ルフィはどうしてもコックはサンジでなければ嫌だ。
というよりは、仲間を『見捨てて』置いて行きたくはない。
ルフィはサンジの言葉が本心でないのは気づいている。
だからこそここまで頑固にサンジを待つのだ。
男はルフィを眩しそうに目を細めた。
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