これから起こる未来に風呂場に籠城したいが、現実問題そうはいかない。
風邪もそうだが、籠城して無理矢理入って来られれば背中を見られる可能性がある。
これ以上時間を掛ければメイド達が様子を見に来る為、浴室を出た。
媚薬と前戯、そして手首にある海楼石のせいで起き上がるにしてもゆっくりとしか動かない。
浴槽や壁に縋りつくようにしてようやく浴室を出てアスカは震える手で体や髪の水分をタオルに吸わせる。
メイドが新しい着替えをすでに用意してくれたようだが、その服を見た瞬間アスカは固まった。
「これ……え…え??」
摘まんで持ち上げてみれば、向こう側の壁が見えた。
アスカの手にはセクシー系のランジェリーが握られており、所謂ベビードールだ。
上は花柄のレースで飾られているホルターネック、片脇にはスリットのように切れ目があり生地は肌触りの良いシースルー素材。
ショーツはなんとTバックだった。
日に焼けた褐色の肌に映えるように白色で統一されており、レースが散りばめられ可愛らしさも演出されていた。
浴室同様、時間を掛ければメイド達が様子見をしに来る為、アスカは渋々着替えるしかない。
「んっ…、」
ブラジャーはないので、ショーツに足を通した。
しかし、普通のショーツと違いTバックであるため、食い込みに違和感を感じる前に媚薬で敏感になっている体にはショーツを穿くだけで反応してしまう。
秘部に布が触れるだけでアスカはびくっと肩が揺れた。
下唇を噛んで反応が落ち着くまで待ち、ベビードールを着る。
背中は丸見えなのでタオルを羽織って背中を隠し、もうとっとと寝室に引っ込んでふて寝しようと脱衣所を出た。
当然控えていたメイド達は寝室に向かうアスカの後ろに続く。
寝室のドアノブを握ると、メイドへ振り向く。
「…寝る時くらい1人にしてほしいんだけど…」
また『主人の命令なので』と強行突破されようと思ったが、意外にも聞き分けが良く『では何かございましたらお声がけください』と引いてくれた。
引いてくれたと言っても恐らく寝室の前に控えるだけなので、引いてくれたと言っていいのか不明だが、1人の空間を得ただけでもいいだろう。
後から来るカタクリが問題だが、寝れば諦めてくれるのを期待するしかない。
心は嫌な気持ちで染まっているのに、それに反して体は熱がこもっていると言うあべこべの状態だった。
だからこそ、寝室に入って落ち着きたかった。
「はぁ…つら…」
終始監視され世話をされ1人になれる時間がない。
船だって集団生活に等しいのに、そこが家族のような仲間か、敵かでストレス度は違う。
思わず本音を零しながら寝室に入る。
寝室はメイドがあらかじめ準備してくれているおかげか、真っ暗ではなかった。
明かりがあるだけで安心感がある。
しかし明るいからこそ、アスカは先客に気づいてしまった。
壁に沿って置かれているソファには、カタクリがいた。
「い、いたんだ…」
あからさまに驚くアスカに、カタクリはアスカを待つ間に暇をつぶしていたらしい本をパタンと閉じ組んでいた足を解く。
アスカの言葉で眉を上げたが、その変化はアスカに気づかれないほど一瞬だった。
「いたら悪いのか?この部屋はおれの部屋でもあるんだが」
まるで帰って来るなと言わんばかりの言い方だ。
いや、2人はビッグ・マムが勝手に決めた関係故に信頼関係なんてあるわけがない。
ましてやアスカは無理矢理目の前の男に嫁がされそうになっているのだ。
本音で答えるなら、帰って来なくてもいいのに、だ。
アスカは男が腰を上げたのを見て『別に悪くない』と答えて慌てて寝室を出て行こうとした。
身体が火照っているからとか心が沈んでいるからとかもう関係ない。
覚悟していても実際カタクリが帰ってくると足掻きたくなるのは、きっと恋人の存在のおかげだろう。
「ベッド1つしかないしあなたがベッド使って…私は―――」
『あっちで適当に寝るから』と言いかけながらカタクリに背を向け寝室から逃げようとした。
しかし、ドアノブを握りるそのアスカの手を、大きい手が包むように重ねられた。
その瞬間、アスカは動きを止める。
背後に立たれているせいでアスカの頭は背中の焼印のことしか浮かばず、手を重ねられていない方で必死にタオルが落ちないよう掴む。
その手は微かに震えていた。
当然、アスカの手に触れているカタクリにもその震えは伝わっていた。
しかし、その震えの理由をカタクリは知らない。
アスカの事情を知らなければ、これから敵である男と帯を解くことへの恐怖や緊張だと普通は思うだろう。
「風邪を引く」
低いその声にアスカは別の意味で身体を震わせた。
メイドに塗られた媚薬入りのオイルのせいでちょっとしたことで身体が火照ってしまう。
あれだけ恐怖の方が勝っていたというのに、彼の声で体は簡単に熱を帯びる。
「ッ、大丈夫、だから…私は動物系の能力者だし…海楼石で繋がれても体は丈夫だから…それよりあなたはさっきまで仕事してたんでしょ?疲れてるだろうし明日は結婚式だし…」
カタクリの手が頬にかかる髪に触れ、撫でるように耳に掛ける。
それだけだ。
それだけなのに、アスカの口からは甘い声がこぼれ、ビクリと肩をすくめた。
背後でカタクリがクスリと笑った気配を感じ、アスカは自分の意思に反して反応してしまったことも相まって顔を赤らめた。
「おれ好みの香りだ…メイドは良い仕事をしたな」
「そ、そう…私は…別に、好きじゃ、ないんだけど…」
香りは確かに感じるし、嫌いじゃないがカタクリに同意するのは嫌だった。
とにかく逃げ出したい。
部屋から逃げ出したいわけではなく、カタクリという男から逃げたくて仕方なかった。
アスカの言葉にカタクリは『そうか』とだけ返し、髪に触れていた手を首筋へ流し、肩、そしてスリットの切れ目から手を入れてきた。
色を感じさせる触れ方にアスカの身体は更に熱くなるのを感じた。
危機感を感じたアスカはカタクリの手を振り払い、逃げるのではなく彼と向かい合う。
「私には恋人がいるから結婚なんて出来ない!」
「お前は義父に負け、捕虜となったのだろう…捕虜に選択肢があるとでも思っているのか」
「分かってる…けど…それでも私は裏切りたくない」
「…………」
カタクリはアスカの人間関係など興味はない。
元々アスカとは親子ほど離れているのだ。
アスカにさえそこまで興味はなく、母がフレイルとの血を残せと命じたから所帯を持つのを覚悟した。
こんなに早く帰ってきたのも、兄弟達が婚約者を持つカタクリを気遣って早く帰してくれたからだ。
とはいえ、だからと言ってアスカの態度に苛立ちも嫌悪もない。
カタクリを拒絶するのも、アスカからしたら当然だ。
恋人を裏切るような行為をこれからされようとしているし、恋人がいないとしても愛した人以外と結婚し子供を作らなければならないのは相当な苦痛だろう。
だが、母は絶対だ。
母は四皇の一席に長い間座り続けてきている大海賊の船長であり、大家族の長だ。
船長であり母であるビッグ・マムの命令は例え腹を痛めて産んだ子供とて拒否することは不可能だ。
カタクリは、多くいる妹の中で家を出た妹を思い出す。
彼女は母が長く願った巨人族の王子に見初められたというのに、自分の結婚相手は自分で決めるというくだらない理由で母に逆らい家を出た。
当然、母は激怒した。
だからと母に逆らうのが恐ろしいというわけではない。
母の下にいるのは自分の意思だ。
カタクリは溜息をつき、キッと睨みつけるアスカの首筋を撫でるように触れる。
その手にアスカが甘い声を零しながらピクリと体を反応させた。
「媚薬を塗られたせいで触れただけで反応するというのによく噛みつけるものだ…これも恋人のためか」
「…っ」
メイドがアスカに媚薬入りのオイルを塗って仕上げておくと母から聞かされても『そうか』としか思わなかった。
自分に課せられたのは若い腹に種を仕込むだけ。
その種が開花すれば母は満足するだろうから、その後アスカがどう過ごそうが逃げ出したり他の種を仕込もうとしない限りは好きにさせるつもりだ。
だが、少しだけ。
本当に僅かだが、恋人のために強く心を保とうとする女に興味が沸いた。
カタクリは問答無用にアスカの腕を掴み片手でアスカの身体を抱えた。
アスカは抱えられた際にタオルが落ちそうになり慌ててタオルを掴んで背中を覆った。
おかげで彼に焼印を見られなかったが、カタクリが寝台へ向かうのを見て媚薬で赤らめていた顔があっという間に青く染め上げた。
しかし、アスカが必死に抵抗するも彼の腕がアスカから解かれることもなく呆気なくベッドに放り投げられた。
「ちょっと…!嫌だって言ってるじゃん!!」
放り投げられたが、ここの客室のターゲット層はそれなりの立場にある人間なためかベッドの質は悪くはなく柔らかにアスカを受け止めてくれた。
ギ、と軋ませてベッドに上がろうとするカタクリにアスカは慌てて後ろへ下がろうと後ずさるがそれをカタクリの手で阻まれた。
押し倒されても彼の下で抵抗をして逃げ出そうとするアスカの両手首を掴み頭上でシーツに縫い付ける。
ぐっぐっと力を入れて脱出しようとするもそれさえ許されなかった。
ルフィ達に比べると強さはないが、それでもアスカだってレイリーと修業してそれなりに強くなったつもりではいた。
更に強者がいるのは分かっているが、流石に海楼石があるとはいえ簡単に拘束されるのはなんだか悲しくなる。
「んっ…!」
手首を掴む手から逃れようとするのに意識が向いていて他に注意が疎かになってしまった。
カタクリのもう一つの手がベビードールのスリットから入り胸に触れる。
火照の他にも布の擦れで微かに硬くなっていた突起がカタクリの指が触れ、アスカは媚薬のせいでそれだけでも強い刺激となった。
「体は期待しているようだが…まだ抵抗する気か?」
「ンッ…ぃ、や…!はな、して…!」
カタクリは手を止めず、快楽で落とすつもりらしい。
確かに、快楽は人間を堕落させるものの一つだし、本当の行為を知ったアスカには快楽は甘い毒だ。
「ん、ん…っ、ぁ…ッ」
こりこりと指で突起を遊ぶカタクリに、アスカは唇を噛んで声を我慢する。
相手がルフィとローならいざ知らず、敵だ。
首を振って嫌だと示してもカタクリの手はアスカの身体を甘やかす。
唇を噛んでもどかしい快楽から来る懇願しそうになる気持ちを必死に抑えながら、アスカは唯一自由に動かせる足でカタクリを蹴って抵抗する。
とはいえ、そんな抵抗も彼にとったら可愛い子猫の抵抗だ。
だが、可愛い子猫の抵抗とは言えアスカの若い身体や甘い声にカタクリだって反応していないわけではない。
彼だって男である。
「媚薬を早く抜きたいのなら快楽に身を任せればいいだけだ…なぜそれができない」
「私が…好きなのは、あんたじゃない…」
「また恋人か…どこのどいつか知らないがもう会えないんだ…諦めろ」
「いや!」
「………」
恋人恋人というが、同じ海賊のクルーなのかそれともクルー以外か分からないが、カタクリもビッグ・マムもアスカに恋仲が居ようと居まいとどうでもいい。
四皇に捕まった時点でアスカは諦める以外の選択肢は存在しない。
母は四皇だ。
その席に驕るわけではないが、老いてもその席に相応しい実力を母は持っている。
家族でありクルーでもある自分達も実力揃いの猛者と自負している。
アスカの仲間が助けに来るなどありえないのだ。
だが、それでもアスカは諦めず、貞操を守ろうとうするのは滑稽にも見える。
キッと快楽に濡れる目で睨まれても誘っているとしか見えない。
カタクリはもうアスカとの会話を諦めた。
結局心を折って現実を分からせた方が早いし手っ取り早く、楽だ。
そもそもなぜ心を折らず会話を試みようと思ったのか。
母から強く望んだ子供を産むフレイルだから特別扱いを命じたから、大切にし歩み寄ろうとした。
自分に臆さず噛みつく少女に多少なりとも気をくばってやろうと思っていた。
だが、今はそれが馬鹿馬鹿しく感じた。
「そうか…歩み寄ろうとしたおれが馬鹿だったな」
呆れるような言葉だが、その声は冷たく感じた。
それでもアスカはカタクリを受け入れるつもりはなかった。
媚薬が残っているなら、相手がいるのだからルフィとローに解決してもらいたいと思うのは当然のことだ。
だが、それがアスカの最悪な結末となるのを気づいていない。
「だが、お前は子供を産めるフレイル…せめておれの顔を見ずに済ましてやろう」
抵抗を止めないとはいえ、アスカはフレイル。
母が巨人族同様強く待ち望んだ、義父とは望めなかった『子供が産めるフレイル』だ。
母の特別扱いをしろという命令もあるが、母のお気に入りを無下には出来ない。
初夜にも等しいこの日くらいは夫として優しく気を使ってやろうとカタクリはアスカの腕を掴む。
それにアスカは嫌な予感がし顔を青ざめた。
「待って…それって…!―――やめて!!いや!!!」
また駄々か。
そうカタクリは思いアスカの言葉を無視をし…―――アスカをうつ伏せにさせた。
うつ伏せなら、カタクリの顔を見ずに与えられる快楽だけに集中できるだろうと思ったからだ。
しかし、カタクリはアスカの背中を見て硬直した。
「……天竜人の奴隷だったのか」
新世界で天竜人の紋章を知らない人間はいないだろう。
元とは言え天竜人の奴隷を見るのは初めてのカタクリでさえすぐに気づいた。
ベビードールで大胆に開いている背中にはくっきりと痛々しい天竜人の紋章が焼印されているのが見える。
シャンクスは結局アスカに別の焼印で紋章を隠すことはできなかった。
その頃にはもうアスカは愛娘となったのだ。
焼印を入れたことがないが、焼印を入れられるのがどれだけの苦痛を与えるものかは誰でも知っている。
可愛い娘にあんな地獄のような痛みと熱さをもう一度やれとは言えなかった。
(そうか…なるほど…)
焼印を見つめながら、カタクリは納得した。
なぜ着替えだけは1人にしてほしがるのか不思議でならなかったが、背中の焼印を見れば誰だって腑に落ちるだろう。
「…っ」
カタクリの耳に微かに泣く声が聞こえた。
意識を焼印からその声の主であるアスカを見れば、うつ伏せにされても分かるほど体が震えており、真っ白になるほどシーツを強く握りしめ、アスカが泣いているのが分かった。
「………」
カタクリは静かに身体を起こし、寝具を上から被せた。
ふわりと寝具を掛けられたアスカはビクリと肩を揺らす。
ギ、とベッドを軋ませながらベッドからカタクリが降りる気配を感じたが、確認する気は起きない。
ベッドから降りても身動き一つしないアスカをカタクリは見下ろしながら、声をかけた。
「メイドには明日まで別室に控えるよう伝えておく…今ならシャワーでオイルを落とせば媚薬も抜けるだろう」
同情とは違う。
憐みではなく。
興が醒めたわけでもない。
いくら海賊であっても、天竜人の奴隷という意味は知っている。
彼らが人であって人ではない悪魔であることも。
プリンの結婚式が終われば、次は自分の番だ。
妻にさえすれば子供などいつでも仕込むことができる。
今すぐ仕込む必要はない。
そう思う事にし、カタクリは部屋を出て行った。
カタクリは寝室から出た後、約束通りビッグ・マムの命令で2人が最後まで行為したのか確認するため控えていたメイドに別室に移るよう伝える。
その際、明日まで部屋に入室するのを禁じる命令までしてくれた。
「……っ」
3人の気配が部屋から離れるのを感じながら、アスカは声を抑えて泣く。
見られた。
見られてしまった。
行為をするとなれば背中を見られるのは分かっていたはずなのに、無理だった。
快楽や身体の火照りなんてもう感じない。
ただただ嫌悪が心を染める。
カタクリへの嫌悪ではなく、天竜人の奴隷だった過去への嫌悪だ。
頭では気を使ってくれたと分かってはいる。
だが、同情や憐みを向けられているようで自分が惨めに感じてしまう。
「ルフィ…ロー…っ」
今すぐ2人に抱きしめてほしい。
それが無理ならナミ達に会いたい。
でも、それさえも今は無理なのだ。
アスカはたった1人となった寝室で、静かに泣き続けた。
241 / 274
← | top | back | →
しおりを挟む