(242 / 274) ラビットガール2 (242)

ルフィはサンジを取り戻すことが出来た。
プリンには裏の顔があり、優しい少女を演じているだけで裏ではサンジ達を嘲笑い、それをサンジは見てしまった。
更にはビッグ・マムと交わしたプリンと結婚すればルフィ達を見逃してくれるという約束も意味がないと知ったのだ。
姉であるレイジュの後押しもあって、サンジはルフィ達の下へと戻った。
だが、問題はまだ解決していないとサンジは合流した後に知る。


「アスカちゃんがビッグ・マムの息子と結婚だとォォォォ!!?」


ルフィとナミはビッグ・マムの夫と名乗った男に敗れ、気づいたら牢に閉じ込められた。
その際にビッグ・マムと電伝虫越しで話す機会がありそこでアスカとは引き離された挙句にアスカがフレイルだと断言され、自分の息子に嫁がせ子供を作らせると言ってきた。
それには当然2人は激怒した。
特にルフィはローと共にアスカの彼氏だ。
恋人が自分達以外の男と結婚するだけではなく子供も産ませると聞いて激怒しない彼氏はいない。
だが、怒りの波は今は潜んでおり、今はサンジが怒り狂っていた。
スリラーバークの時のように全身を燃え滾らせ怒りをあらわにするサンジに、『おっ、燃えてるサンジ久々に見た』とルフィは呑気に笑っていた。
そんなルフィにサンジはギロリと睨みつけ胸ぐらを掴み揺さぶる。


「おいルフィ!!てめェ!せっかくおれとナミさんがアスカちゃんの彼氏だと認めてやったのになにさっそく横取りされそうになってんだワレェ!!おれがァ!どれだけェ!血反吐をォ!吐く思いでェ!認めてやったとォ!思ってんだゴルアァァ!!!」

「おれだって怒ってるんだぞ!アスカの彼氏はおれとトラ男だって言ってんのに聞かねェんだ!!」

「当たり前だろうがよォ!相手は敵だぞ!!ふざけんなよ!!!ぜってェアスカちゃんの結婚を阻止してやる!!!」

「当たり前だ!!っていうかその前にお前の結婚があるんだぞ」

「その前にアスカちゃんの結婚阻止じゃボケェ!!待っててね〜アスカちゃ〜〜ん!!おれが絶対救ってあげるからね〜〜!」


サンジは女が絡むと、天然のルフィもツッコミに回らずを得なくなるほど暴走してしまう。
特に、過保護対象となってしまっているアスカの場合はより暴走が酷くなり、厄介なヤンキー化する。
とりあえず、牢に入れられていたルフィとナミを助け仲間になってくれたジンベエの指示で2人は組むことになったベッジのアジトへと向かった。
ルフィがサンジを引っ張るという珍しい構図で向かった先には―――見上げるほど大きな城のようなアジトがあった。


「おー!おれのヒーロー『ジェルマ』!!ヴィンスモーク・サンジ!!また会えて嬉しいレロ!ニョロロ」


ベッジのアジトへと向かうと、2人をベッジの部下であるヴィトが出迎えてくれた。
サンジは散々この国に来るまで見飽きた顔だが、ルフィはベッジの顔は見たことがない。
ヴィトがベッジだと誤解する定番ネタをしながらも、ヴィトに案内されアジトに入る。


「わー!ルフィ!サンジ〜〜!」

「チョッパー!」


すると早速ルフィ達の下に仲間であるチョッパーと会った。
ルフィも鏡越しでしか会っていなかったため久々の再会に喜びの声が上がった。
しかし、


「お前達もひとつ風呂浴びて来いよ!!」

「何くつろいでんだ!時間がねェんだぞ!?風呂嫌いのクセに!」


チョッパーは明らかに風呂上りスタイルだった。
チョッパーはヒトヒトの実を食べた動物というのもあって、濡れるのが苦手だ。
ルフィ同様、風呂嫌いなのに今のチョッパーは『ほかほか』と効果音が聞こえるほど風呂で暖まって牛乳で喉を潤していた。
それに思わずルフィがツッコミを入れると、『いやいやあんたらもレロ!』とヴィトに言われた。


「ファーザーは汚ェのとはお会いにならねェ!」


確かに、色々あってルフィ達はボロボロで血や泥だらけだった。
綺麗好きでなくても顔を顰めるほど汚れている2人を、ヴィトは素早く風呂場へと放り込む。
するとブルックが先客としてすでに浸かっており、ルフィとサンジは大人しく汚れを落とすことにした。
お茶会開園までまだ時間はあれど、余裕のあるわけではない。
全員揃ったところへベッジも現れ、話し合いが始まった。


「さて…決めようか、まず…手を組むかどうかから!ウチとしちゃあお前らはただの邪魔者…ここで全員消すってのが一番世話がねェが…」

「おれが死んだらビッグ・マム暗殺のチャンスはゼロだ…『式』自体がなくなるからな」

「ああ…残念ながらその通り…お前だけは殺せねェ」

「おいお前さんら…威嚇しあっとる時間はないぞ」


敵の敵は味方とはいうものの、同盟相手ではない海賊など敵同然。
同盟相手だって海賊ならば裏切られるのは前提として結ぶものだ。
更にはライバルなら余計にバチバチと火花が飛ぶ。
一触即発状態のルーキーたちに、ジンベエは元とは言え七武海の一角の余裕を見せながら溜息をつく。
とりあえず、船長であるルフィに手を組めそうかと問うとしたその時―――


「面白そうな話をしているね」


全員が聞き慣れない声に散っていた火花が消えた。
その場は静まり返ったが、ルフィの耳に革製特有の触れた音と、聞き慣れないが聞いた事のある声に気づき弾かれたように振り返る。


「!――――お前ェ!!」


ルフィに少し遅れてナミとチョッパーもソファから立ち上がり後ろにいる人物へ振り返る。
その場にいる全員がその人物へ注目していた。


「やあ、昨日ぶりだね」


誰もが侵入者に向けて警戒心と殺気や武器を向ける中、その侵入者は呑気そのものでニコニコと笑っていた。
対峙した時と変わらない顔を隠す深いフードに、身体を隠すマント。
腰には暗闇を形にしたようなサーベルを差しており、声からして人違いとは考えられなかった。


「と、義父さん!?」


誰もが男を警戒し、それぞれの武器を抜き向ける。
ルフィとナミとジンベエの3人以外はその人物が誰か分からないものの3人やベッジ達の反応からして味方ではないと察しているのか警戒しながら男を見ていた。
すると、シフォンの驚きの声でその男の正体を知ることになる。


「義父さん!?」

「ということは…ビッグ・マムの夫ォ!?」

「な、なんでそんな人がここにいるの!?っていうかいつの間に来たの!?」


シフォンの母はビッグ・マムである。
そのシフォンが父と呼ぶのだから、侵入者はビッグ・マムの夫となる男だ。
全員、特にベッジ側はシフォンとその息子以外全員が男に向けてそれぞれの獲物を向け殺意を高める。


「と、義父さん!!私達捕まってるの!助けて!!」


義父の姿にチョッパー達に捕虜にされているビッグ・マムの娘の1人、ブリュレが男に向けて助けを求めた。
男が視線をブリュレに向けると、より緊張が高まった。
誰もが男はブリュレを助けると思っていた。
しかし、男は笑みをそのままにブリュレの下へ向かい――


「悪いね、ブリュレ君…ぼくはルフィ君達の味方なんだ」


そう言って男はブリュレとディーゼルに触れて箱に仕舞った。
その瞬間、その場は水を打ったように静まり返った。
殺気さえも散り、誰もが目を丸くして男を見るなか、男は静かにルフィ達へ振り返る。
男の視線がルフィとぶつかると、ルフィはハッと我に返り声を上げた。


「何勝手に言ってんだお前!敵だろ!?」


静まり返ったその場に、ルフィの驚きと怒りの声が響く。
ギロリと睨みつけるルフィを気にも留めず『そうだね』と頷く。


「あの時は君達を傷つけてすまない…シャンクスの娘がいる海賊団をみすみす見殺しにはできなかったからね…まさか彼女が僕と同じフレイルだったのは驚いたが…」

「フレイル!?アスカが!?」


この場でアスカがフレイルだと言われたのを知っているのは、ルフィとナミ、そして気づいたブリュレのみ。
その場にいなかったチョッパー達にはまだ言っていなかった。
そのため、チョッパー達の驚きの声が静まり返っていたその場に響く。
反応からして2人は知っていると察したチョッパー達は『どういうことだ』とルフィとナミを見る。
ナミは動揺が隠せず視線を泳がせたが、ルフィはジッと男を見ているだけだった。


「…隠してたのはごめんなさい…でも…私達も確信が持てなかったから話すなら落ち着いてからって思って…」

「ではアスカさんがフレイルということは本当なんですね?」

「それは…分からないわ…敵は猫に懐かれただけでフレイルだって言ってたけど…到底信じられないし…」


ブルックの問いにナミは首を振って答える。
ナミどころか当の本人であるアスカだってフレイルだと自覚がないどころか信じていない。
ナミはチラリとルフィを見るが、ルフィは何も反応を起こさなかった。


「彼女はフレイルだよ…それは本当だ」


ナミ達の疑心を、男が晴らしてしまった。
本当なら否定してほしい疑念だ。


「…わしはお前さんの事をあまり知らんが…お前さんがくだらない嘘をつくとは思っておらん…そんなお前さんがはっきりと言うのだから当然証拠があるのだろう?」


ジンベエはビッグ・マムの夫と呼ばれる目の前の男と対話したことはないし、面識もない。
男は子供を作れないというのにビッグ・マムに捨てられることはない、唯一の男だ。
遠目でしか見たことはなく、なぜか人前に出る前はフードを被りコートを羽織って容姿も体格も不明だが、それでも彼がくだらない嘘を言う人間ではないと印象を何故か持った。
そして、今、その印象は確かだと確信した。
真剣な視線を向けるジンベエに、男は『おや』と驚いた様子を見せる。


「ジンベエ君にそこまで信頼されていたとは驚いたな…残念だけど君達が納得する証拠はないよ…でも彼女はフレイルだ」

「だからその証拠を見せてくれよ!証拠もないのにアスカはフレイルだ、だからビッグ・マムの息子と結婚させるなんて許されるわけがない!!」


チョッパーだけではなく麦わら海賊団全員が同じ気持ちだ。
証拠がないけどアスカはフレイルだと言われて納得できるわけがない。


「君達が信じるも信じないも自由だ…だが彼女がフレイルだというのは事実…本当なら説明してやりたいが今は時間がない…とにかく、僕はルフィ君の船に乗せてほしいだけなんだ」

「おれ達の船に乗りたい!?お前ビッグ・マムの夫なんだろ…おれ達の船に乗るってことはビッグ・マムを裏切るっていう意味だぞ」

「そうだね、そういう事になる」

「簡単に言うけどあなたビッグ・マムを裏切ることが出来るの!?ビッグ・マムの実力は知ってるんでしょ!?」

「彼女とは幾度も戦った事あるから彼女の力はこの場では誰よりも知っているよ」


何を言うかと思えば、男は麦わらの海賊団の船に乗らせてくれと頼んできた。
敵対している男が突然現れ船に乗せろと言って簡単に乗せれないのは当然だ。
それは男も分かっているが、彼らの船でなければならない理由がある。


「だ、大体!素性の知れない男を私達の船に乗せるなんてできませんよ!」

「そ、そうよ!頼むならまず顔を見せなさい!!」


ブルックに続き、ナミが叫ぶ。
顔も見せれない敵対していた男を船に乗せるのは絶対に反対だった。
敵であり素性を知れない相手なら、ロビンやビビだって該当するが、『それはそれこれはこれ』だ。
ビシッと指を指すナミに男は『ああ、そうだった』と顔を隠しているのを忘れていたように返す。


「すまないね、結婚してからリンリンに自分以外の前ではフードで顔を隠せと言われていたものだから忘れていたよ」


男は13年前にビッグ・マムと結婚してから、妻となったビッグ・マムから命じられた。
それが、妻である自分以外の前で素顔を見せるのを禁止する…というものだ。
細かなものも足せば、子供達以外とは極力必要最低限の接触しろという命令も含まれている。
特に、女との接触は気を付けなければビッグ・マムの機嫌を損ねる。
妻は他の男は愛さなかったが、自分は"あの頃からずっと"想いを寄せてくれていたらしい。
男はビッグ・マムが周囲に八つ当たりしないよう顔を隠して過ごしてきたため顔を隠していることを忘れてしまっていた。
ナミに指摘され思い出し、男は顔を隠すほど深く被ったフードを後ろに流した。


「改めて、初めまして―――僕はアムラス…もしよろしければ途中まで乗せてくれるとありがたいかな」


ふわりと落ちたフードの下には、女と見間違うほどの美男子が現れた。
誰もが見惚れるほどの容姿が現れて言葉を失う中…麦わらの海賊団たちは別の意味で言葉を失った。

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